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「あ、ん……ふぅ……」

 薄暗い部屋の中、押し殺したような喘ぎ声と、粘り気を伴った水音が響き渡る。それが否応もなく、私が自慰行為にふけっている事を自覚させる。

 就寝のためベッドに入ったのが三十分ほど前。その時はこんな事をするつもりは本当になかった。いや、それどころか、今晩こそは何もせずに眠ろうと思ったはずだ。

 しかし眠るため瞼を閉じた私の瞳に、ある光景が映し出される。

 それは一週間ほど前に路上で見た異常としか思えない光景。一人の変わった服装をした少女が真昼の街中で犯されている姿だった。

                    ※

 あれは大学の講義を終えての帰り道の事だった。週末の予定や今日の講義の内容など、いつもと変わらない取りとめもない事を考えながら歩いていた私の耳に、不意に喧騒が飛び込んできた。

 その通りはほとんど毎日使っていたが、あれほど人が集まっているのを見たのは初めてだった。

 特に急ぐ理由もない私は、好奇心に駆られ人混みの方へと足を進める。集団のほとんどが男性で占められていた事に一抹の不安を感じながらも、まさか真昼の街中で危険な目に遭う事もないだろうという思い込みから、少し強引に割り込むようにして集団の中へと入っていく。

 その頃には、既に周囲のざわめきに混じって甘い喘ぎ声が私の耳には届いていた。

 それなのに、私は歩みを止めない。

 理屈ではなく、本能から生まれる自分でも理解できない怪しげな感情に押されて、ここで何が行われているのか知りたいと強く願った。私の手足はその意思に従い、密集した男性を掻き分けて、ある人物を中心に円を描くように作られている人混みの最前列まで進み出る。

 果たしてそこでは、私の想像どおりの――いや、想像以上の狂宴が繰り広げられていた。

 宴の参加者は二人。

 一人は赤い服を纏った銀髪の青年で、冷たさを感じさせる切れ長の目が特徴的だった。街を歩けば女性の目を間違いなく引き付けるであろう相貌の持ち主だったが、それでも彼は主役ではない。

 この場で最も視線を集めているのは、女として大切なところを何一つ隠せないほどに衣装を引き裂かれ、衆人環視の中、男性に背後から貫かれている儚げな少女だった。

 少女は愛らしいという表現がこれ以上ないほどあてはまる、そこらのアイドルよりも数段かわいらしい美少女で、とてもこんないやらしい姿を晒すとは思えなかった。だが、犯されている少女は最初こそ嫌がっていたものの、次第にその声は色を帯び、男性のモノを咥え込んでいる股間からは彼女が悦楽を感じている証である愛液を垂れ流していた。誰が見ても彼女が悦んでいたのは明らかで、私もその犯されている姿こそ、彼女の本当の姿だとすら思うほどだった。身に着けている衣服の切れ端も、もしも破られていなければ神聖さを醸し出していたかもしれないが、惨めなまでに蹂躙された結果、少女が裸よりもいやらしい姿である事を演出する役割しか果たさない。

 まるで彼女を構成する全てが、少女の淫らさを強調しているようだ。

 その光景は、私を含め多数の人が目撃していた。しかし最後まで見ていたのは、当然ながらほとんどが男性。女性も何事かと思い見に来る人もいたが、大半は嫌そうに顔をしかめながら、足早にその場を去って行っていた。

 だが私は違った。

 視界に飛び込んだその光景に、一瞬で心を奪われた。自分でも分かるほど頬を熱く朱に染めながらも、魅入られた様に彼女の痴態を見続ける。

 柔らかそうな唇から漏れるはしたない嬌声、ほとんど触られていないのに真っ赤に色づいた小さめの乳首、男性の剛直をしっかりと包み込む秘裂。

 かわいらしい顔からは想像もできないほどいやらしい反応を見せる彼女を見ているうち、周囲の男性たちの表情も変わってきた。

 最初は真昼の往来である事を考慮してか、露骨な視線を向ける者は少なかったが、次第にニタニタと卑猥な笑みを浮かべながら少女を凝視し始める。中には人前であるにも関わらず、股間を擦っている人までいた。

 同じ女性として、いかに彼女が快楽に喘ごうとも言葉に出来ないほどの恥辱を受けているのはよく分かった。

 まだ私よりも若い、いや、幼いとすら言っていい少女。そんな彼女が人前で肌を露にし、決して他人に見られてはいけない姿を晒している。しかもまだ肉付きの薄い彼女の身体は、その心に反して刻々と高ぶっていっているのだ。多感な時期の彼女の心が、どれほどの羞恥に苛まれているかは想像に難くない。

 しかしそう思いながらも、同時に別の考えも私の中に浸透していく。

 それは、実は彼女は恥ずかしい思いをするほど感じてしまう、マゾヒスティックな快楽を味わっているのではないかという思いである。

 周囲の男性は既にその可能性に思い至っていたらしく、わざと彼女に聞こえる様、少女の羞恥心を煽る言葉を投げかけている。その度に少女は恥ずかしそうに、そして悲しそうに顔を歪ませるが、すぐにそれを上回る快感に襲われるのか、今度は快楽に蕩けた顔を皆に向ける。それは少女を貶める言葉を吐く男たちの言葉を、一々肯定しているようにも見えた。

 そのため、もはや観客たちは、彼女がこの状況を悦んで受け入れていると決め付け、より卑猥な言葉を投げかける。

 同性として唯一の観客である私も、本当は彼女はこのような辱められるシチュエーションを望んでいるのだろうと思い始めていた。

 私はまだ男性経験がなく、オナニーも一月に一回程度しかやっていない。特殊な性癖やセックスの方法も聞いた事はあったが、本当にそんな事をして悦ぶ女性がいるのか疑問に思っていた。

 だが、目の前の少女の乱れ様を見て本能的に理解できた。

 女の身体は、文字通り身を焼く様な羞恥によっても激しく燃え上がるのだと。

 もちろん全ての女性が、少女の受けている様な辱めを望んでいるとは言わない。だが、それは自分でも気付いていないだけ、あるいは押し込めているだけで、本当は誰かに見られたい、そしてもっと気持ちよくなりたいという、はしたない願望を持っている。

 その時の私は、そんな異常とも思える考えを当然の様に思い描いた。

 そんな考えが私の頭を走り、そして思考の大半を占めた瞬間、まるで私の中でスイッチが入れ替わったかのように身体が熱く火照り始めた。

 全身からしっとりとした汗が滲み、肌が桜色に染まっていく。一見すると、生まれて初めて見たセックスに恥じらいを覚えているようにも映るかもしれないが、そうではない事は私が一番よく分かっている。

 なぜなら、この時私の中で一番熱くなっている部分は、女性が女性であるために最も必要な部分、そして私にとってはまだ本当の使い方をしていない女性器だったからだ。

 ジンジンともどかしい欲求が脚の付け根から全身を侵し、思わず太腿をよじり合わせてしまう。そのため割れ目からは熱い液体が漏れ出て、一日中はいていたために既に汗で湿っている下着に、それでも分かってしまうほど熱い湿り気が広がっていく。

 間違えるはずもない。

 これは私が月に一度、どうしても身体の疼きを押さえきれずに、オナニーにふけってしまう時と同じであった。

 湿り気を帯びたショーツに包まれた秘部の疼きは増す一方で、それを少しでも解消するため、脚の動きはより大きくなっていき、いつしか腰までも動き始めていた。見ようによっては、何もされていないのに感じているようにも、オシッコを我慢しているようにも見えてしまう、恥ずかしすぎる行為だ。

 ブラの中でも、一切触れられていないにも関わらず、乳首が硬く尖り始めた。勃った乳首は、その存在を皆に見てもらいたいかのように、ブラを押し上げ衣服の上に浮かび上がろうとする。もちろん、実際に乳首が大きくなっている事がばれるほどではないが、ブラに押し付けられた胸の先端からは甘い痺れが湧き起こる。

 幸い周囲の人たちは全て、より扇情的な姿を晒している少女に目を向けているため、私の変化に気付いた人はいなかった。しかしこのままでは人前であるにも関わらず、股間を弄りだしてしまいかねない。本気でそんな心配をしてしまうほどに私の身体は欲情していた。

 いつもの私なら、どうしてこんな事になったのか驚き戸惑っただろう。

 今月はもう十日ほど前の夜にこの状態に陥り、その時にちゃんと抑えようとしても溢れ出る性欲を処理して眠りに付いている。それなのに今日もまた火照りを押さえきれないなど、今までに一度もなかった事だ。しかもこの時は人が大勢いる真昼の街中。こんな所で快楽を求めようとするなど、想像すらできなかっただろう。

 だが、私は自然と理解できていた。

 きっかけは、犯されている少女を見た事による生理的な興奮だったのかもしれない。しかし私がここまで身悶えてしまったのは、ある想像に捕らわれてしまったからだと。

 それは、今の私の状況に周囲が気付いたら……という、背徳的な興奮をもたらす想像だ。

 実際にそんな事になれば、今少女に向けられている視線の幾分かは、私にも注がれる事になるだろう。

 しかもここは、私の通う大学からもそう遠くはない。ひょっとすると、知り合いの男子がこの場にいてもおかしくないのだ。もしそんな人物に、私がこの場で欲情していた事を知られればどうなるか。

 大学内で一気に噂が広まるかもしれないし、脅されて肉体関係を結ばされるかもしれない。

 そう理解しているのに、私の身体はどんどんと熱く高ぶっていく。

 両手は自分を抱きしめるように胸の下に回され、膨らみを強調するように持ち上げる。スカートの中には私が生み出した熱と匂いがこもり、余計に股間を熱く潤ませていく。太腿を汗とは明らかに違う粘ついた液体が伝わる感覚すら、誰かに舌先で舐められているように感じられ、全身が軽く震えてしまう。流れ出る吐息は色っぽく染まり、かすかに喘ぎ声さえ漏れ始めていた。まるで私の身体が、早く気付いて欲しいと皆にアピールしているようだ。

 そう。ここに至って、私はようやく自分の本心に気付いた。

 私は恥ずかしい姿に気付かれるかもしれないと思って興奮していたのではない。

 恥ずかしい姿を見られたいがために、ここまで興奮したのだ。

 それなのに男性の視線は犯されている少女に集中し、私に気付く者は誰もいない。その事に少女に対する悔しさと嫉妬を覚えもしたが、すぐにそれも仕方ないと思い直す。

 彼女の様子を見るに、この様な辱めを受けるのは今日が初めてではない事は瞭然だ。

 あの未成熟な身体は、幾度となく耐え切れない恥辱に晒され、その度に決して抗えない快楽を刻み込まれてきたのだろう。純粋な年齢ならば私の方が上だろうが、女としての経験は彼女の足元にも及ばない事を自然と察した。

 今の私には、これほどの男性を引き付ける魅力も資格もない。でも、いつかは……。

 そんなふしだらな期待を心に秘めつつ、私はその艶劇を最後まで見守った。

 可憐な少女は精液をその華奢な身の奥に吐き出され、誰の目にも明らかなほどイってしまった。それでも彼女はまだ快楽に溺れる事を拒んでいるようだったが、それも長くは続くまい。

 そんな確信を抱きながら、私はゆっくりと人混みから抜け出していく。男性たちは、少女の痴態を目に焼き付けるかのようにまだその場に残っていたが、とっくに限界を感じていた私は急いで自宅であるマンションへと向かった。

 扉を開けて部屋に入るや否や、靴を揃えもせずにベッドに向かう。

 飛び乗るようにしてベッドに横になった私の手は、すぐさまスカートの中へと進んでいく。下着越しに触れたソコは今まで感じた事がないほど熱く潤んでおり、軽く二、三回擦っただけで簡単に昇りつめてしまった。

 少女の痴態を見始めた時から感じていた情欲をようやく解放できた悦びに、背中を仰け反らせ、隣の部屋にまで聞こえてしまうのではないかと思えるほどの叫びを上げる。今までに感じた事のない絶頂間に満たされ、コレが本当の『イく』という感覚なのだと理解した。

 舌を垂らし、ハァハアと荒く息をつく。粘ついた涎が口端から零れ落ちてくる。一度絶頂に達しただけだというのに、体力は激しく消耗されていた。

 しかし心は全く満足していない。

 目覚めてしまった淫らな意思の命ずるまま、私の指は先程以上の快楽を得るため下着の中に侵入し、より激しく弄り始める。

 そういえば、ドアに鍵をかけていなかった事を思いだしたが、桃色の靄がかかった頭ではそれすらも興奮を煽る一因にしかならない。まず開かれる事はないであろう扉に被虐の期待を込めながら、あっけなく二回目の法悦を迎えた。

 ほんの刹那の急速の後、再三指が蠢きだす。

 この日、私は気を失うまで淫戯を続けた。

                    ※

「ハァッ、ん……くぅん!」

 あの時の事を思い出し、指の動きが激しさを増す。さすがに自分で処女を失うつもりはないため、刺激を与えるのはクリトリス中心となるが、身体の求める動きをする指は自分の理性でも予測がつかず、与えられる予想外の刺激に激しく身をくねらせる。

「やっ、んぅ、あぁぁあ!!」

 自分でも知らなかった欲求を知らされたあの日の翌日、気だるい意識の中でもはっきりと感じていたのは自己嫌悪だった。一晩経った事で落ち着いたのか、それとも限界まで快楽を貪った事で餓えた心も一応の満足を得たのか。理性を蘇らせた私は、女性として願ってはならない事を望んだ自分を強く恥じた。

 下着やシーツどころか、ベッドのマットすらぐっしょりと愛液で濡れそぼっている。しかもそこには、黄色い染みすら広がっていた。トイレに行く事さえできないほど悦楽を求めたのか、それともお漏らしという恥辱すら快感に変わったのか。いずれにせよ、私がオナニーの最中にオシッコを漏らしたのは間違いなかった。

 アレは一時の気の迷い。あまりに現実離れした光景を目にしたために起こった錯覚だと。あまりの惨めさに瞳に涙を浮かべながら、そう自分を納得させる。

 それが認めたくない現実から逃げているだけだという事は、すぐに思い知らされた。

 あれほど情欲を満たし、いつもであれば優に一月は身体の疼きを抑えられるほどに自分を慰めたというのに、私の身体は涙も乾かぬうちから淫らに疼き始めた。

 大学に着くなり一度。その後は講義が終わる度にトイレに駆け込み、熱く濡れそぼったアソコをいじめ続けた。

 誰かに声を聞かれるかもしれないという構内でのオナニーは、刺激こそ自制するものの、達した時の満足感は自宅での行為とは比べ物にならないほどに与えられた。それはすなわち、私が真に求めているのは肉体的な快楽ではなく、辱められる事でしか与えられない精神的な充足だと、心の奥底で理解させるに足るものだった。

「あ、あぁ……イ……イくぅっ! 私、またエッチな事考えてイっちゃうの……オナニーしてるとこ、みんなに見られたいって……そんな変態みたいな事考えながらイっちゃうぅううぅうう!!」

 クリトリスを押しつぶされ、私が本当に望むシチュエーションを叫びながら今夜六回目の絶頂を味わう。

 息はマラソンを走りきったかのように乱れ、下着はクロッチどころかお尻の布地までびしょ濡れになっている。一月前の私であれば、どれほど身体が火照ろうととっくに性欲は満たされているだろう。

 しかし今私の身体を支配しているのは、動物なら全てが持っている子孫を残すための性欲ではない。ただ己のため、浅ましいまでに悦びを求める淫欲だ。

 そしてソレは、どれほど肉体的な刺激を得ようとも満たされる事はない。

 この渇きが癒されるのは、私があの名も知らぬ少女と同じように、身を焦がすほどに恥辱に染められた時だけなのだろう……。



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