システムレビュー
同人TRPG雑誌「TRPG120%」に寄稿・掲載された、「パイレーツ!」のシステムレビューをご紹介します。HPへの転載を快く許可していただいた、TRPG120%編集部の方々に心よりお礼を申し上げます。
 
■TRPG120% 
2003年春発行 5号・6号合併号より

果てしなく広がる大海原。
高く掲げた海賊旗。
愛する我が艦、そして気のいい仲間たち。
そこには、語り尽くせぬロマンがある。
色あせぬ男の夢がある。

大航海時代、七つの海を駆け抜けた海の男達・・・。
彼らの熱い生き様を描く、海洋冒険TRPG!!
■著者 ワンコロ
■イラスト グリコ まーさん 外裏和司


■いざ、冒険の海へ
歴史海洋アクション パイレーツ!」(以下「パイレーツ!」)は読んで字の通り、歴史上の大航海時代を舞台にした、国産初の本格海洋冒険TRPGです。

デザインコンセプトは、三つのS!!
Sword
 スピーディーかつ緊張感あふれる戦闘システム。
Ship
 分かりやすく海戦の雰囲気を伝える艦船ルール
Soul
 ドラマティックな演出を可能にする意志力システム

このコンセプトだけでも、熱く激しい海の冒険が予想されますね。

海洋冒険といえば、ジャンプで連載中の「ワンピース」を筆頭に、最近人気のジャンル。
あなたのお好みは、往年のハリウッド海賊映画?
それとも厳しい海軍士官を描いた翻訳小説?
それともロマンあふれる海洋冒険マンガ?
今まで、やりたくても出来なかった海洋冒険をおもいっきり楽しめる「パイレーツ!」、その魅力をご紹介します。

■百聞は一見に如かず
 と言う事で、ご託を並べるより、キャラクターシートを見ていただきましょう。
大きすぎないB5一枚に、必要な情報がきっちり詰まっている、そんな感じのシートです。
重要なポイントには★マークで解説をつけましたが・・・、
基本能力値に技能値そして武器、ここまではオーソドックスなシステムのようです。
けど、意志力背景負傷段階なんて初めて聞く項目もありますね。
分かりやすく堅実な基本システムに、さらに工夫を凝らしたシステムのようです。

■キャラクターを作ってみよう

 さて、キャラクター作成は、@イメージ作り、A基本能力値の割り振り、B属性値の計算、C技能値の割り振り、D装備選択、E意志力背景の決定と6段階です。

@イメージ作り
 海洋冒険物と言われても、どんなキャラが出来るのかよく分からない方も多いのではないでしょうか?
そんな方のために、「パイレーツ!」では船長斬込隊長などお馴染みのキャラに加え、船医修道女まで、実に16人分のサンプルキャラクターがイラスト付きで用意されています。
上のバネッサ艦長もその一人。
キャラクターシートに記入したまま載っているので、自分で作るときの参考にしやすく、便利ですね。

A基本能力値の割り振りとB属性値の計算
 基本能力値はSTR・CON・DEX・INT・APP・WILの6種類です。
いずれもTRPGに慣れた方なら一目瞭然の能力値。
これにGMから指示された点数(普通80点)を、プレイヤーが好きに割り振って決めるのです。
ダイスを振って決めないので、イメージ通りのキャラクターが作れそうです。

 属性値は、STRならダメージ修正、CONならヒットポイントというように、能力値から求められ、戦闘や技能判定を大きく左右します。
ルールブックの表と照らし合わせたり、シートに書いてある式で計算するので、手間いらずです。

 この属性値の中で気になるのは、「技能上限」と「意志力ポイント」の二つ。
技能上限」はその名のとおり、そのキャラクターが持てる技能値の上限ですし、「意志力ポイント」はヒーローポイント。
どちらもWILを元に求められるので、WILは結構重要な能力値のようです。

C技能値の割り振り
 これも基本能力値と同じく、GMから指示された点数(100〜500点:経験の度合いによる)をプレイヤーが好きに割り振って決めます
職業ごとに決まった技能がない代わりに、サンプルキャラクターや推奨技能一覧などが用意されていますので、それを参考に、イメージ優先でキャラクターを作れます。
技能=成功率で、成功の確率が一目瞭然なのも分かりやすくて良いところです。

特徴的な技能は、やはり砲術航海術。まさに海洋冒険という感じの技能です。
外国語会話や読み書きなどもしっかり技能分けされてる辺り、結構重要そうですね。

D装備選択
 普通なら、所持金を決めて買いそろえるところですが、「パイレーツ!」のキャラクターシートには所持金を書く場所がありません。
そう、船乗り達はそんなみみっちいこと気にしないのです! 
一攫千金→バカ騒ぎ→宵越しの金は持たない、ってのが基本。
だから、それを持っていられるかどうかは、GMの一存です。
 武器もかんたんで、おおまかな大きさと使い方を言えば、ダメージと特殊効果をGMが決めてくれます。
レイピアで一撃必殺の貫通効果を狙うもよし、カトラスでぶった斬るのもまたよしでしょう。
そうそう、ピストルやマスケット銃、果ては散弾のラッパ銃など、大航海時代に使われた銃器も充実しています。

E意志力背景の決定
 キャラクターの信念などを表す、ロールプレイ支援の項目ですね。
おもしろいのは、その中身をプレイヤーが自分の言葉で自由に決められること。
例えば「艦長の責任:4」も、違う人が書けば「遂に艦長に!:4」になるかもしれません。
また、同じ「艦長の責任」でも、誇りと支えになっていれば(+4)ですが、重圧になっていれば(−4)という感じで変えられます。
 重要な能力値のWILと関連しているのも、おもしろいところで、「大事な物」「ゆずれない信念」がある人物は強い、というコンセプトが伺えます。
ただし、「背景に沿ってロールプレイすればポイントがもらえる」というようなセコイ強制は無し
プレイヤーがキャラクターの行動指針として使うためのものです。

■分かりやすい判定
 めっちゃ簡単。
十面ダイスを二個振り、一方を十の位、もう一方を一の位にして出目を出す、1D100を使い、成功率以下が出れば成功という、極めて分かりやすいシステムです。

しかも、成功と失敗だけでなく、出目によって・・・
クリティカル(3) ・・・成功率の1/10以下
効果的成功(2) ・・・成功率の4/10以下
成功(1)    ・・・成功率以下
失敗(0) ・・・成功率を超過
ファンブル(−1) ・・・96〜100
・・・と成功の度合いも決められ、相手と何かを競う場合の「対抗ロール」では、どれくらいの差で勝ったのか、拮抗し合っているのかなど、その様子がすぐに分かります。

試しに、マスト登りを競争してみましょう!
 キャプテン・バネッサ 登はん 28%
 見習い水夫のボウイ 登はん 40%
用意ドン! 
バネッサの出目は11、成功率の4/10以下なので、効果的成功(2)。
一方のボウイは97でファンブル(−1)。その差は2−(−1)=3。
しっかり登ったバネッサに対し、ボウイは手がすべってすってんころりん。
そんな様子まで見えてきそうな判定です。

■スピーディーな戦闘
 海賊アクションに欠かせないのが、素早い剣戟!
フェンシングのような一撃必殺の感覚です。
ところが、たいていのTRPGはファンタジーが舞台で、鎧を着込んだ戦士が重い武器を振り回し、ガツンガツン削り合うのが普通・・・。
そうでなくても、攻撃! 回避! とそれぞれサイコロを振って成功や失敗を決めるのが精一杯。
これでは、技と技が一瞬でひらめき、勝敗が決するフェンシングの雰囲気は伝えきれません。
 さて、この重大なポイントを「パイレーツ!」は、あっさり解決しています。
なんと、戦闘の判定を1回の対抗ロールで決めるのです。

試しにやってみましょう。
 キャプテン・バネッサ 白兵戦70%
 守備兵         白兵戦30%
戦闘開始! 
バネッサの出目は23で、効果的成功(2)。
守備兵は48で失敗(0)。
その差は2−0=2。
ダメージは1D6+1D4で8、命中部位は1D20で13の胴体。
2段階の差がついているので、レイピアの特殊効果「貫通」でダメージ2倍!!
胴体に8×2=16ダメージ、これを守備兵の胴体HP3で割ると、16÷3=5あまり1。
5段階の負傷といっても、3段階の重体よりひどい状態はないので、一気に重体です。
一瞬で守備兵を倒しました。

まさに一撃必殺!! 
たった一回の判定で、勝敗を決するのです。
しかも、レイピアの対応人数を見ると、3人と書いています。
ということは・・・そう、3人がかりでも、たった1回の判定で倒せるのです。

だからといって、PCとザコNPCに決定的な差があるわけではありません。
ザコNPCだって、クリティカルは出せるのです。
その時は、PCが一撃で倒れる可能性も高いでしょう。
こんな緊張感あふれる戦闘システム、そうそうありません。

一撃必殺の刃が一瞬で交錯しあう鋭く激しい戦闘、それが「パイレーツ!」です。

■ドラマティックな意志力ポイント
 戦闘が一撃必殺で緊張感いっぱいなのはよく分かりました。
でも・・・こんな戦闘システムではPCが何人いても足りません。
死屍累々ですね。
そこで、意志力ポイントが役立ちます。
意志力ポイントはいわゆるヒーローポイントで、これを消費して成功率を上げたり、サイコロの出目を変えることが出来るのです。
失敗できないときに失敗しない、クリティカルしたいときにクリティカルできる。
プレイヤーの好きに使って良いのです。
 しかも、この意志力ポイントはPCほど多くないものの、敵NPCも持っていて、まったく同じように使えます
だから、重要NPCの出番で、失敗が許されないときにも役立ちますし、ライバル同士の一騎打ちなど重要なシーンでは、ギリギリのせめぎ合う感じが表現できます。

試しにやってみましょう。
 キャプテン・バネッサ 白兵戦70% 意志力残6
 キャプテン・ドミンゴ  白兵戦90% 意志力残3
戦闘開始! 
バネッサの出目は23で効果的成功。
ドミンゴも19で効果的成功。
バネッサは意志力を2点使って、出目を20下げ、出目が3でクリティカル。
ドミンゴも1点使って、出目9でクリティカル!
すさまじい剣戟に火花が散る!! 
見交わす視線・・・「こいつ出来る!」

こんな手に汗握る激しい決闘シーンが、自然に表現できるのです。
ドラマティックな展開が予想されますね。

■初心者も分かりやすい海戦ルール
 さて、海洋冒険物と銘打つからには、一番重視したいところが、海戦ルールです。
だけど、「帆船同士の戦いってどうやってやるの?」という方も多いのではないでしょうか?
そこで、「パイレーツ!」では、帆船の能力を速力や耐久値、砲撃ダメージなどの必要最低限の種類に抑え、ヘックスを用いず、人間同士の戦闘とほぼ同じ手順の対抗ロールで海戦を解決します。

具体的には、艦長の航海術技能による対抗ロールで行動順序や位置の有利を決め、掌砲長の砲撃技能による対抗ロールで砲撃結果を出します。
接舷しての斬り込みでさえ、斬込隊長の白兵戦による対抗ロールで結果を出すのです。

単純な基本ルールに加え、砲弾によって特殊効果が変わったり、狙撃ルールもあるので、海戦に詳しい方も楽しめます。
さらに被弾時の災害ルールなど個人行動のルールも用意されているので、艦長以外のプレイヤーが退屈することもありません。

■舞台はどんなところ?
 ルールの雰囲気を掴んだところで、舞台をご紹介しましょう。
最初に書いたとおり、舞台は歴史上の大航海時代
コロンブスの様な航海者がつぎつぎと冒険航海を行った15世紀末から、海の主役を帆船が蒸気船にゆずる19世紀はじめまでの時代です。
だから、魔法はないし、超能力もありません。
知恵と勇気だけを頼りに海を渡った時代です。

実際にあった歴史が舞台なので、様々な時代があり、たくさんの事件が起こっています。
コロンブスと一緒に新大陸を探検しても良いし、エリザベス女王の元でスペイン無敵艦隊と戦うも良し、一匹狼の海賊船だってできます。
とにかく、間口が広く、いろんなネタが転がっています。
これほど深いワールドはないのではないでしょうか?

歴史が舞台と書くと、尻込みする方もいると思いますが、難しいことはそうありません。
ルールブックにはイラスト付きでおおまかな時代背景や船乗り達の生活が分かりやすく解説されています。
プレイヤーならさっと目を通すだけで十分ですし、GMだからといって歴史を勉強する必要はありません
所詮、教科書に書かれていること、歴史として残っていることは、本当に起こったことのほんの一部です。
まずは、思いついた海洋冒険を思いっきりやってみて、詳しいことを知りたくなったら、本を読めば良いのです。
インターネットも利用すれば、知りたい情報はすぐ見つかりますね。

■開発者より
 以上が「パイレーツ!」の紹介です。つたない文章ですが、雰囲気を掴んでもらえれば幸いです。
 さて、この「パイレーツ!」はご承知のとおり同人オリジナルシステムです。
こんなにたくさんのシステムがあるのにいまさらオリジナルなんて・・・、実は私もそう思っていました。
けれど、自分が好きな海洋冒険モノをいざやろうとすると、いいシステムがないんです。
海洋冒険モノといえば、「トレイダーズ!」や「7thSEA」が使えそうですが、なんとなく自分がやりたい表現とちがうんです。
 じゃあ、作っちゃえ! 
ということで作り始めたのですが、一番悩んだのは「激しい剣戟アクションがしたい」という欲求と、「魔法みたいな手軽な治療手段は無い」という現実的な問題をいかに両立させるかでした。
そこで思いついたのが、「意志力ポイント」です。
怪我を負う代わりに意志力ポイントを失って、心理的に追いつめられる感覚を表現できました。
 実際、血みどろになりながら何度も立ち上がり、熱いセリフとともに敵を倒すというような少年漫画的な表現に違和感を感じていたので、張りつめた緊張感の中、一瞬で勝負を決する劇画的な表現がしたかったという事もあります。
 それからも、意志力背景による押しつけでないロールプレイ支援や、負傷段階による状況の視覚化など、様々な点で改良を加えてきました。
 構想からこの同人出版にこぎ着けるまで、実に4年。
コンベンションを中心に、7人以上のGMが延べ100セッション以上のテストプレイを繰り返して、やっとここまでたどり着きました。
「ものを作る」ということの大変さを知るとともに、やり遂げた仕事に満足を感じてもいます。
 「パイレーツ!」はありがちな自己満足で終わらない骨太なシステムです。
どうか、手に取って見てみてください。実際に遊んでみてください。
 何と言っても、未知の世界に飛び出す海洋冒険です。
きっと新しい発見があることは間違いありません。
どうか、良い航海を。

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