小児自閉症評定尺度

小児自閉症評定尺度(CARS)とは、E・ショプラーによって提唱されたアメリカ・ノース・カロライナ州の自閉症治療教育プログラム(TEACCH:Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Children)で用いられている、「自閉症診断」方法です。

◎「自閉症」についておさらいします。「自閉症」は以下の三組で現わされる「社会性の障害」です。

  1. かかわりの障害:相互的な社会関係の質的な障害がある。
  2. コミュニケーションの障害:言葉のあるなしにかかわらず、その社会的使用が欠如している。
  3. こだわりの障害:狭小で反復性のある常同的な行動・関心・活動がある。

ウイング博士のような熟練した観察者なら、パッと見て「自閉症」の診断が下せるでしょう。でも、それをカンに頼らず、きちんと数値化して評価しようというのが、CARSの狙いです。その詳細についてここで述べてしまうわけにはいかないので、さしあたってその項目を紹介します。

  1. 人との関係:人に関心があるかどうか、対人接触を拒否するかどうか。
  2. 模倣:言語性・動作性ともに、人の真似をするかどうか。
  3. 感情:場面に適切な感情反応が見られるかどうか。
  4. 身体の使い方:年齢相応の身体の使い方が出来ているかどうか、身体意識は正常かどうか。
  5. 物との関係:物に関心を示すかどうか、適切な使い方が出来ているかどうか。
  6. 環境変化に対する適応:環境や状況や活動の変化に対応できるかどうか。
  7. 視覚による反応性:人や物を見るかどうか、中空を凝視したりおかしな見方をしないかどうか。
  8. 聴覚による反応性:音や言葉に対する反応はどうか、敏感なのか無関心なのかどうか。
  9. 近受容器による反応性:触覚・痛覚・臭覚の反応は正常かどうか。
  10. 不安反応:愛着対象との分離に対する不安の有無、重力不安があるかどうか。
  11. 言語性のコミュニケーション:発語の有無、オウム返しや奇妙な話し方があるかどうか。
  12. 非言語性のコミュニケーション:顔の表情・身振りなどへの反応・表出があるかどうか。
  13. 活動水準:多動あるいは寡動か、行動抑制ができるかどうか。
  14. 知的機能:知的機能に遅れがあるかどうか、また、アンバランスがあるかどうか。
  15. 全体的な印象:自閉症〜軽度の自閉症〜中度の自閉症〜重度・極度の自閉症。

熟練したディレクターがかなりの時間をかけて子どもを観察し、この15項目のそれぞれについて、(1)正常範囲内〜(2)軽度の異常〜(3)中度の異常〜(4)重度の異常という評点をつけます。そして、総得点が30点以上が「自閉症」と診断されます。しかし、30点未満であっても、アスペルガー症候群や広汎性発達障害である可能性は否定しません。ただ、「自閉性障害」の中で「自閉症」という診断名がつくかどうかの判定をするものです。この場合でも、その子にはその子の為の特別なプログラムが必要であり、その子にふさわしいアプローチの仕方があることを教えてくれます。つまり、CARSは、誰が「自閉症」で誰が「非・自閉」かを弁別する為だけのものではなく、一人一人に合った指針を見出す為の方法なのです。

それからもう一つ、「自閉症」の診断に不可欠ではないけれど療育の為のプログラムが必要とされる事柄について評定する検査法、PEP(心理教育診断検査)も合わせて施行します。参考までに項目だけ羅列すると、「模倣」「知覚」「微細運動」「粗大運動」「目と手の協応」「言語理解」「言語表出」の7つとなっています。

基本的に、これは小児期の「自閉症児」を診断する為のものです。その時大切なことは、親が子どもを治療する"共同治療者"になるべきだということです。それから、更に、学校教育や就労支援の為のアドバイスをするものでもあります。そして、最も大切なことは、この診断を基に、「自閉症」という「障害」を無くしてしまおうというのではないということです。「自閉症」の特徴を「文化」として捉え、「自閉症」の人には、「自閉症」者としての教育を受け・「自閉症」者として社会参加する権利があるという、ノーマライゼーションを推し進めて行こうということです。

そして、TEACCHでは、一人一人の「自閉症」者にふさわしい「構造化」の方法を提示します。「構造化」については、ここでは触れません。が、それは視覚障害者における「メガネ」のようなものだと、よく言われます。

さすが、先進国アメリカといった感じです。それから、こういう風に数値化するところも、アメリカらしい発想です。(ちなみに、ウイング博士はイギリス。結果的には同じことですが、「診断」を下すのにこういう方法で評価しません。)とにもかくにも、この方法の優れているところは、よく「自閉症」の症状として挙げられがちな派手な「神経症状」や「行動障害」に惑わされずに、「社会性=人との係わり・社会的な場面での様子」を見抜くということに重点が置かれているということです。そして、それが終生続くからこそ「障害」なのだということです。

確かに、成長と共に「自閉症」→「アスペルガー障害」→「広汎性発達障害」というように、診断名が変わって行くケースが多く、一生に渡って「自閉症」という診断が付けられる人は少ないかもしれません。知力が高ければ、学習能力の高さで補って行くことができるでしょう。知覚過敏が重かった人は、それが緩和されると適応が良くなるでしょう。或いは、「自閉症」らしい行動の為に人と係われなかっただけで、本当は人との疎外感を感じていたとか、友達が欲しかったというタイプの人もいるでしょう。中には、コミュニケーション能力がきわめて高いという人もいるでしょう。このように、三つ組の揃い方にも違いがあり、一様ではないのです。(ただ、「自閉症」の度合いが重度になるほど、重度の「精神遅滞」を合併しやすいという統計があります。知能指数が高くなるにつれ、「自閉症」度が軽度になりやすいという傾向は、確かにあるようです。でも、知的に優れていても重度の「自閉症」であるという組み合わせも、あるのです。)

しかし、「自閉症」らしさが残存するしないにかかわらず、「自閉性障害」という「社会性の障害」は一生涯続く「障害」なのです。「自閉症」は治るのではなく、「自閉症」に見えなくなるだけ。そして、「自閉症」らしければ"らしい"なりに、「自閉症」らしくなければ"らしくない"なりに、「困難」と「楽しみ」を抱えて生きていくということを、お忘れなく!

 

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