(1)広汎性発達障害とその近縁群
1) 自閉的な子ども
自閉的な子どもはかなり広く漠然とつかわれている。自閉症は
行動で定義される症候群であるので、当然のことながら境目の症
状を持った子どもがいる。そのような場合に、ICD-10では、「非
定型自閉症」と呼んでいる。今後のために、自閉的な子どもと言
ったらどの範囲を指すかを、はっきりさせておいたほうがよい。
2) 古典的症候群
自閉的精神病質は、現在では記載者にちなんでAsperger症候群
と呼ばれ、認知能力の高い自閉症の軽症型と考えられている。
ICD-10では、広汎性発達障害の下位群と分類されているが、自閉
症との異同について議論がある。
共生幼児精神病は、Mahlerにより記載され、母親との強い共生
関係を示すのが特徴とされた。現在では、自閉症の経過型の1つ
とされている。
3) レット症候群
女児にのみ起こる進行性の疾患である。2歳頃に、手の目的的使
用の喪失や手もみ様の常同運動、知的機能の退行で始まり、運動
障害も顕著になっていく。発症初期にはほぼ80%が自閉症あるいは
自閉的傾向を示す。
4) 折れ線型自閉症
自閉症のうち、早い時期の経過において、発達に退行が認めら
れる場合に折れ線型自閉症と言われる。現段階では、非折れ線型
の自閉症とあえて分ける必然性はない。著しい発達の退行が認め
られるならば、脳器質性障害を考えて医学的検査を十分に行うべ
きである。
(2)発達障害という観点からの近縁群
1) 精神遅滞
精神遅滞とは知的能力の明確な標準からの遅れと適応行動の障
害で定義される。知能テストでみると、自閉症児の80%ぐらいに精
神遅滞を認め、残りは正常の知能を示す。しかし、圧倒的多数の
精神遅滞児は自閉症状を示さない。
2) 微細脳機能不全 (Minimal brain dysfuntion: MBD)
MBDの概念は、子どもの行動的異常は、脳機能の微細な偏倚によ
り起こるとの観点から付けられた診断である。広い意味でMBDの概
念を用いる人は、精神遅滞、学習障害、行動障害などで、明白な
粗大な神経学的症状がなければMBDと診断する。もう少し狭く使う
人の場合には、MBDは、多動症候群(多動性障害あるいは注意欠陥
多動障害)と特異的発達障害あるいは学習障害に分けられる。い
ずれにしろMBDは、分類的にも治療的にも極めて不適切な使い方で
ある。
3) 多動症候群
多動症候群は、多動と注意散漫と衝動性で定義される行動的症
候群である。自閉症には多動がともなうことが多いが、治療や予
後が異なっており、多動症候群から分けられている。
4) 特異的発達障害あるいは学習障害
特異的発達障害は、言葉や言語、学科学習の能力および随意運
動に関する認知機能に視点をおいて定義された発達障害である。
従って、この障害は、認知的症候群と言える。
自閉症などの広汎性発達障害は、行動的症候群であるが、知的
能力は不均衡であり、認知の特異的な障害がある。このため、診
断の際に認知の次元に焦点を当てれば、自閉症と学習障害とは区
別ができなくなることがある。
(3)病因論から見た近縁群
1) 分裂病
自閉症は大人の分裂病の最早期型であると考えられたことがあ
る。しかし、実際にはこの2つの障害ではいろいろな違いがあり、
異なった疾患である。
主な相違点をあげる。
2) ホスピタリズムと被虐待症候群
ホスピタリズムあるいは社会的遮断などの障害は、施設に入所
などして、刺激が少なかったり、不適切な扱いをかなりの長期に
渡って受けた時に起こる。その臨床症状は自閉症と違っているの
みならず、一般的に早くに発見し、良好な環境にもどせばよく治
療に反応する。
被虐待症候群は、乳幼児期において、親に身体的、性的、精神
的な虐待を、意図的に繰り返し行われた時に生ずる症候群である。
一般には、自閉症の典型的な症状を示すことはなく、治療的にも
自閉症と大きく異なる。