ADHDとアスペルガー症候群
(2001.2.12作成/2001.2.13追加/3.2加筆)
(2002.5.15対応の要点を追加/2003.9『のび太・ジャイアン症候群4』の案内を加筆)
このページの前半部分は、『のび太・ジャイアン症候群3』の要約という形をとっています。
しかし、これらのことは、私があちらこちらの掲示板やメールで答えてきたことです。というのは、
- 私自身の40年間のアスペルガー症候群と「世の中」との闘いの経験。(私自身は高機能で、他の発達障害は合併していない。)
- 同じ症状を併せ持つ長男に、ADHDの診断しか下らなかったことから始まった、医療機関との闘い。(長男は、IQ=80の知的ボーダー児で、アスペルガー障害にADHDが合併。学習障害もある。)
- 行動特徴は非常に似通っているけれど、典型的なADHDの次男との比較。(次男は、IQ=95ですが、ADHDに読字障害が合併している。)
という、3人の異なるタイプの軽度発達障害者と、身近なところにいる様々な「広汎性発達障害」児を実際に知っているからです。そして、日本でのこの分野の先進地域の児童精神科の先生方に出会って、確認をとってきたことでもあります。
実は、そろそろ自分でまとめてみようかと思っていたところです。でも、ちゃんとした肩書きを持った人の言うことしか信用されないのが、「世」の常というものです。まさに、"虎の威を借るキツネ"そのものですが、少しでも「ADHDとアスペルガー症候群の違い」を巡る全国的な迷いが晴れてくれればと思って使わせていただきます。後半には、「広汎性発達障害(自閉症スペクトル障害)」の解説を加えました。
なお、『のび太・ジャイアン症候群4』(2003.10)では、ADHDに見えて実はアスペルガー症候群である子どもたちについて、詳しく書かれています。
−『のび太・ジャイアン症候群3:ADHD 子どもが輝く親と教師の接し方』(司馬理英子著/P60〜70)より−
ADHD | 広汎性発達障害(自閉症スペクトル障害) | |
落ち着きがない | 興味をひくものが次々に変わるので、手当たりしだいに動き回っているような印象を与える。 | 他人への関心が乏しく、自分本位に動き、同じ動作をしきりに繰り返したり、注意されても何度も執拗にやりたがる。 |
目が合わない | 忙しく動き回っていれば呼ばれたことを聞いていなかったり、ほかに興味があるのでそちらを見ていて、相手と目が合わない印象を与える。 | 幼児期には、他者の存在に関心がない、あるいは気づいていないためで、会話をするとき作為的に相手の視線から目をそらせたり、焦点をずらせたりする。そのため一見こちらを見ているようでも、話を聞いていないような空虚な印象を受ける。 |
言葉がおそい | 言葉を話すのが遅れるのはよくある。一度単語が出るようになると、二語文や三語文にあっという間に発達する例も多い。ただ、あわててしゃべる感じで舌足らずであったり、何を言っているのかはっきりと聞き取りにくいこともある。 「てにおは」の使い方がうまくない子どももいる。 順を追って相手にわかるように話すのが苦手で、相手にうまく伝わらないので、話す本人も聞くほうもいらいらしてしまう。単語だけぽつぽつと並べるような話し方だったり、前後関係がわからないので、全体像をつかむのがむずかしい。 |
単語が出るのがおそく、単語の数もなかなかふえにくい傾向がある。二語文に発展するのに1年から2年かかり、幼稚園に行くころになっても意思の伝達がむずかしいケースもある。 また、いったん言葉が出て、それが消えてしまうこともある。そして数年してまた言葉を話すようになる場合もある。 相手の話した文章をそっくりそのまま真似る、「オウム返し」もよく見られる。 ビデオのせりふや本の内容を、一字もまちがえることなくそのまま繰り返す。また、平坦なイントネーションで話したり、せりふの棒読みのような話し方をする子どももいる。 多くの言葉の意味を知っているように見えても、自分の意思を相手に伝えるという実地のコミュニケーションをとることがむずかしい。 アスペルガー症候群だと、一見、言葉の発達は良好に見える。 言葉がおくれているのに、文字を読むのがとても早いハイパーレキシアの子どももいる。 言葉が話せても、なんとなく質問に合わないことを答えたり、冗談や慣用句を文字通りの意味に受け止めてしまったり、話していて不自然で奇妙な印象を与える子どももいる。 気持ちが伝わりにくいという感じがする。 |
こだわり・興味の限定 | 気分が移りやすく、気持ちの切りかえは比較的楽にできる。 | 行動様式にこだわりを持ちやすく、急な予定変更や環境の変化に対応するのが苦手で、ときにパニックという感情の暴走を起こす。 |
人との関係 | 怒ったり、喜んだりという感情表現がストレートで、年齢に比べて非常に幼い印象を受ける。 | 周囲の雰囲気を理解して感情を共有することが苦手で、人とのかかわりに無関心だったり、冷淡だったりして、大人っぽい印象を与えることがある。 冗談を本気にして怒ったり、逆に普通なら怒りだすような場面でヘラヘラ笑っていたりと、感情表現そのものが下手で不自然だったりする。 親でさえも、「かわいくない」とか「宇宙人みたい」と感じたり、うまく愛着をつくれなくて子どもとの間に疎外感を感じる場合がある。 |
項目 | あった | なし | 不明 | |
1 | あやしても、顔を見たり笑ったりしない。 | |||
2 | 小さな音にも過敏である。 | |||
3 | 大きな音に驚かない。 | |||
4 | なん語が少ない。 | |||
5 | 人見知りしない。 | |||
6 | 家族(主に母親)がいなくても平気で一人でいる。 | |||
7 | 親のあと追いをしない。 | |||
8 | 名前を呼んでも、声をかけてもふり向かない。 | |||
9 | 表情の動きが少ない。 | |||
10 | イナイイナイバーをしても、喜んだり笑ったりしない。 | |||
11 | 抱こうとしても、抱かれる姿勢をとらない。 | |||
12 | 視線が合わない。 | |||
13 | 指さしをしない。 | |||
14 | 2才を過ぎても言葉がほとんど出ないか、2〜3語出たあと、会話に発展しない。 | |||
15 | 1〜2才ごろまでに出現していた有意味語が消失する。 | |||
16 | 人やテレビの動作のまねをしない。 | |||
17 | 手をヒラヒラさせたり、指を動かして、それをじっとながめる。 | |||
18 | 周囲にほとんど関心を示さないで、ひとり遊びにふけっている。 | |||
19 | 遊びに介入されることをいやがる。 | |||
20 | ごっこ遊びをしない。 | |||
21 | ある動作・順序・遊びなどを繰り返したり、著しく執着したりする。 | |||
22 | 落ち着きがなく、手をはなすと、どこに行くかわからない。 | |||
23 | わけもなく突然笑いだしたり、泣き叫んだりする。 | |||
24 | 夜寝る時間、覚醒時間が不規則である。 |
- 判断に迷った時には?
- あるところ(または、ある人)からはADHDと言われ、別のところ(または、別の人)からはアスペルガー症候群と言われてしまって、迷ってしまうこともありうる。そういう場合は、どちらが子どもの特徴をよく説明できるか、またどちらが問題解決の役に立ちそうかを考えて、親が判断する必要があるかもしれない。
- しかし、病名はあくまで子どもの成長の助けのためにつけられるものだということを忘れないこと。
- 幼児期から小学校低学年の間では、落ち着かない・多動・不注意・衝動的というような行動特性が共通しているので、一見区別がつきにくい。が、乳児期には、ADHDの子は夜泣きやぐずりがあり、要求が多くて手がかかるのにくらべて、「自閉症スペクトル」の赤ちゃんは、放っておいてもおとなしく手がかからないことが多いという特徴があることを参考にすると良い。
何故、「自閉症」の診断が必要か?
- 症状が全てそろっていなかったり軽かったりして、「自閉傾向」と呼ばれていた子どもでも、実際には「自閉症」の人とかなり共通する部分で困難さを持ち、対処法も同じである。
- 言葉の遅れは、少しずつ追いついていけても、人とのかかわり方は年齢が高くなるにつれて、むしろだんだん難しくなっていく(一人も友達がいなかったり、どうして自分はみんなと違うのだろうと悩んだりする)。
- できるだけ早期に発見してソーシャルスキル・トレーニングをすることで、困難さはかなり改善する。さまざまな状況でのふるまい方を、パターンとして教えていくことが必要になる。
- ADHDの子どもも、まわりの状況が見えなくて対人関係が苦手なことはよくみられるが、それとは困難さが質的に違う。
ADHD | 広汎性発達障害(自閉症スペクトル障害) |
学校での問題より、家庭内で手こずることが多い。 | 長年の経験で家族が子どもに合わせたかかわり方を体得していることが多く、家庭内よりも学校での問題が多く見られる。 |
日常生活のルーティンをこなしていくのに苦労する。 | 先の見通しが立つ日常生活に少しずつ慣らすことが、大事なやり方。 「毎日、決められたとおりにやらないといやだ」というこだわりから、非常にきちんと行えるようになる。 一度獲得した技能や習慣は、定着する。むしろ、ちょっとした予定の変更や応用が困難。 |
<〜/以上、引用終わり。>
広汎性発達障害(自閉症スペクトル障害)の解説〔2001.2.13追加〕
ここで、改めて「診断基準」の説明をします。
「広汎性発達障害(自閉症スペクトル障害)」とは、以下の三つが組になっている障害です。
- 人とのかかわり(社会的相互作用)の障害
- 言葉の有無には関係のない、コミュニケーションの質的な障害
- こだわり(興味の特異性/感情の特異性)の障害
もともと「知覚」や「認知」の歪みがあって、物事の部分や感覚的な要素に「注意」が向いています。従って、たとえ〈人〉に興味を持っても全人的なものにはならないため、「共通認識」が持てません。
また、自己の身体知覚の歪みや身体操作の困難があったり自我境界が曖昧なために、自分自身の内部感覚や内的な思考が優先して、自己の外界に「注意」を向けることが困難です。従って、常に、〈人〉に「注意」が向きにくい状態にあります。また、たとえ〈人〉に「注意」を向けることができても、「公的(社会的)自意識」がないので、「社会的な欲求」が持てません。
人と違う感じ方をし〈人〉と違う認知をしているので、個人としての「感情」は持てても〈人〉と違って当然です。更に、「社会的な感情」が生起しにくく、たとえ持てても〈人〉と違っています。
以上が複合した状態にあれば、社会的に妥当な方法で〈人〉と「かかわる」こと・「コミュニケーションする」こと・「こだわる」ことができません。総じて、「人の気持ちにかなう言動をする」ができません。或いは、「人の気持ちにかなう言動をしているかどうかをモニターする」ことができません。
それに対して、「ADHD(注意欠陥多動性障害)」は、以下の三つの領域の組合せの障害です。
- 1、注意の転動性
- 注意の持続の困難・精神的努力の持続の困難・順序立てた思考の困難・日常の生活習慣の習得と実行の困難
- 2、多動性
- 落ち着きがない・まるでエンジンで動かされるような行動をする・じっとしていない・多弁
- 3、衝動性
- 考える前に行動する・全体的な状況を判断せずに部分的な情報に対して即座に行動する
組合せによって、「注意欠陥−多動性障害(ADHD)」は、[混合型][不注意優勢型][多動・衝動性優勢型]に分類されます。また、多動性のない「注意欠陥障害(ADD)」ということもあります。
次に、両方に見られる紛らわしい行動特徴で、[表1]には述べられていないことを補足します。
過集中
- どちらにも「自分の好きなことに熱中して、時間を忘れる・基本的な日常生活習慣が身に付かない」ということがあります。ゲームに夢中になったり、何かを分解しては組みたてたり、オタク的な知識を習得したりします。
- しかし、「注意欠陥多動性障害(以下、ADHDとする)」では、「広汎性発達障害(以下、PDDとする)」に見られるような、常同運動や特定の感覚刺激への固執がありません。何かに魅入って(何かを凝視する・聴き入るなどの行動をして)、対象に同化してその世界にぶっ飛んでしまい、「心ここにあらず」の状態になることはありません。
不注意
- ADHDは、文字通り「注意」の障害なので、「注意の転動性」や「多動性」に行動の衝動性が結びついた「注意の欠陥」による「不注意症状」があります。
- しかし、PDDにも上のPDDの説明のところに書いたような、独自の「注意の障害」があります。
- PDDでも、場面や場所の変化による意識の連続性の障害が重かったり、短期記憶や記憶の保持に障害があると容易に「注意」が転動して、ADHDの「注意の転動性」に非常に似通った症状を示します。また、身体知覚障害が重い場合は、身体の末梢部分の知覚がなかったり、行為の結果に意識が及ばなかったりという、「注意」以前の認知障害があります。そのため、日常生活に支障をきたすような深刻な「不注意」症状を持っていることがあります。
- PDDの「診断基準」を満たし、上項の「不注意」症状や多動などの症状があって、全体としてADHDの「診断基準」を満たしていれば、PDDとADHDを合併しているということになります。が、診断としては、PDDが優先します。というのは、PDDには「共通認識や感情の共感性の欠如による対人関係の障害」という、早急に対処しなければならない大問題があるからです。この場合、ADHDの注意の欠陥とPDDの不注意との識別はほぼ不可能で、その必要もありません。(行動療法を行う場合には両方の対応が必要なので、実効があるのなら、PDDに用いられる方法とADHDに対する対策を取り入れても構いません。ただ、薬物療法を併用する場合は、選択する薬が違ってくるので、はっきりとした医学的な診断が必要です。)
衝動性
- どちらにも、周りの状況にふさわしくない衝動的な行動が見られます。突然 走り出したり、人を叩いてしまったり、順番を無視したり、「待つこと」ができなかったり、問い掛けが終わる前に答えたり・「はい」と言って手を挙げたり、人が嫌がるような言葉を連発して面白がったり、何かを見ると同時に手を出して触ってしまっていたりします。
- ADHDの場合は、周りの人に「注意」が向かないがための自己中心的な行動だったり、その場にそぐわない自分の「感情」をストレートに噴出させる行動です。
- しかし、PDDの場合は、何かの部分的な要素に反応して、パターン化した行動を盲目的にとってしまいます。単純に、キーとなる何かに触発されて何らかの行動を起こしたり、何らかのパターン化された感情〔主に不安・恐怖/面白さを笑うetc.〕が起きてしまいます。(自傷や他害といった、衝動抑制障害があることが多い。)
癇癪とパニック
- どちらも、自分の行動や意図を妨害されると混乱しやすく、癇癪を起こしたりパニック状態になったりします。
- ADHDの場合は、やはり、周りに人がいようといまいと、自分の「感情」をストレートに噴出して怒ります。また、思慮分別のなさから、情報を読み違えて混乱します。
- PDDの場合は、知覚や認知の歪みによる物事の要素に瞬間的に反応したり、急な予定変更や予想外の出来事に対処できなくて、癇癪やパニックを起こします。
対応の要点
項目 | どちらにもみられること | PDDに特異なこと |
注意のスパンの短さ・多動 | 神経学的・生理的な根拠がある。 | 合併していると重篤になりやすい。 |
言葉の遅れ | 視覚・聴覚などの弁別の障害がある。字句の意味よりも、表面的な形の類似性や音の組み合わせに興味を持ってしまう。 | 意味が理解できても、言葉の使い方が杓子定規。単語や文法的な整合性を求めるので、堅苦しい表現を多用する。省略されると、意味が分からなくなる。 |
対人認知の誤り。 | 部分情報や、思い込みで判断してしまうことが多い。相手の立場や心情が自分とは違っていることを、意識して学習する必要がある。 | 人との係わり方や感情の持ち方の違いがあるため、表面上落ち着いて見えていても、全く違う解釈をしていることがある。 |
コミュニケーションの問題。 | 自分の気持ちを表現したり、人の気持ちを受け取ることが下手。人の気を引こうとして、人を怒らせてしまうことがある。 | 言語表現やマナーなどを学習することはできるが、使用法に誤りがあることが多く、気持ちを通じ合う手段として活用できない。また、一般的な応対を強要すると、反発してしまう。 |