注意の転動が激しい子どもへの対処法
「注意の転動」、いわゆる「不注意」の障害の診断基準〔DSM−4による〕
- 学業、仕事、またはその他の活動において、しばしば綿密に注意することができない。または、不注意な過ちをおかす。
- 課題または遊びの活動で、注意を持続することがしばしば困難である。
- 直接話しかけられた時に、しばしば聞いていないように見える。
- しばしば指示に従えず、学業、用事、または職場での義務をやり遂げることができない(反抗的な行動、または指示を理解できないためではなく。)
- 課題や活動を順序立てることがしばしば困難である。
- (学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
- (例えばおもちゃ、学校の宿題、鉛筆、本、道具など)課題や活動に必要なものをしばしばなくす。
- しばしば外からの刺激によって、容易に注意をそらされる。
- しばしば毎日の活動を忘れてしまう。
「注意欠陥多動性障害(ADHD)」の診断基準のうち、上記の「不注意」だけが該当する子ども。いわゆる、多動のない「注意欠陥障害(ADD)」のこどもというのは、どのクラスにも必ずいます。更に、症状が軽い、「症候群」の範囲だともっと多いし、たいていの親は「うちの子は集中力がない」と嘆いています。
「不注意」の「障害」は、必ずしもADHDだけに見られるものではありませんが、ADHDを中心に考えると、だいたい、下のような順序で重症度が増して行きます。(必ずしも、厳密な順番ではありません。)
- 「注意欠陥症候群」:「不注意」項目のいくつかだけがある。
- 「注意欠陥症候群」:「不注意」項目が全般的に見られるが、程度が軽い。
- 「注意欠陥障害」:「不注意」項目が全般的に見られ、しかも症状が顕著。
- 「注意欠陥多動性症候群」:「不注意」項目に多動−衝動性が加わるので、目立ちやすい。
- 「注意欠陥多動性障害」:理屈は解かっているが、実行能力障害が重い。
- 「注意欠陥多動性障害」に「学習障害」が合併:更に、認知障害が加わるので、秩序がない。
- 「注意欠陥多動性障害」に「自閉症」が合併:更に、身体知覚障害が加わるので、遂行しようとする活動そのものを忘れてしまう。
また、「自閉症」にも「注意」の障害があって、表面的には上記の項目が当てはまっていても、「理由」が異なります。しかし、明確に区別がつけられないケースもあります。
- 「注意」ができないというよりも、方法が解からない。または、或る一つのやり方に固執して、切り替えができない。
- 何か他の事(多くは、現実的でないファンタジー)に「注意」が集中していて、自分が今置かれている現場に「注意」が向かない。
- 自分に話かけられていることそのものが判らない。或いは、話しかけられていることは解かっているが、何かの反応を求められていることが解からない。或いは、興味が向いていない事柄を、意図的に無視する。
- 指示そのものを理解できない。或いは、本人の理解度や作業能力に合わせて動素分解し、構造化した「手順」を与えられないと、作業そのものができない。
- 作業の流れが一本線でないと、混乱する。
- 興味の向いていることだけに「注意」が集中しすぎて、他のことを一切やろうとしない。興味のない事柄に「注意」を向けていられる時間が短い。
- "目の前に無い物は存在しないに等しい"ので、自分の持ち物に対する「注意」を意識して持続する必要がある。そうすると、活動ができなくなってしまう。活動に「注意」が集中すると、持ち物に「注意」を向けられない。
- 身体知覚の障害のために、今現在 遂行しようとしている課題そのものを忘れてしまう。(例:着替えの最中に、着替えしていることを忘れてしまう。着替えしていることを意識して、手順を守ることに「注意」を集中していないと、その作業そのものができない。途中で中断させられると、どこから始めていいか分からなくなってしまう。)
- 本人自身の独自の日常活動のルーチンへの「こだわり」があると、ごく普通の生活リズムにそれを合わせて実行するのが困難。
合併している症状が重ければ、「不注意」の度合いも強くなります。しかし、症状が軽いほど医療機関を受診する確率が低くなり、本人の怠惰(だらしない、なまけている)や反抗(できるのにわざとやらない)と見られ、二次的な情緒障害になりやすい傾向があるので、「障害」の軽重の程度と問題の深刻さは、必ずしも比例していません。
どちらにしても、「注意」する機能や実行能力に「障害」があるのに、「不注意」を指摘されることが、最大の過ちです。
以下、項目別に「対策」をあげます。
不注意な過ちを、よくする。
- もともと、注意力が弱いことを自覚させる。
- どういう不注意ミスや間違いを多くしやすいか、教えてあげる。
- 注意ができずに間違えたり失敗することを、予め予測しておく。そうすれば、キチンとできた時に、誉めてあげることができる。
課題遂行中に、他のことをしてしまう。
- 主な課題を「忘れている」ことを教えてあげる。
- 今、「何をしているか」「何をすべきなのか」問いかけて、思い出させる。
注意の持続ができない。
- 本人の持続力に合わせて、課題の量を減らす。(注意のスパンが秒単位ということもあります。また、一つのまとまった課題なら完遂できるが、それ以上の要求に応じられないということもあります。)
- 本人がやりやすいように、課題の順番を変える。
- 注意が集中しやすい時間帯に、課題を行う。
- 課題遂行中に、他のことに注意を逸らさないように環境を整備する。
話しかけても、答えない。
- 話す前に、肩を叩くなどして「注意」を向けさせる。
- 合図なしに話しかけたことは、まず聞いていないことを知っておく。
順序立てた行動ができない。
- 目を引くもの、興味の向いたことからやっていくことを、容認する。
- マナーとして守るべきことだけは、必ず守らせる。
持ち物をよくなくす。忘れ物が多い。
- 持ち物を少なくする。
- なくしたこと・わすれたことを叱らない。逆に、なくしたり忘れたりしなかったことを誉める。
- なくすことを予め前提としておき、なくしてもいいような使い捨ての商品・安物をたくさん買っておく。
- 重点目標を決め、「今日は・これだけ・覚えておく」ように指示する。
- 一つでもキチンとできたら、誉める。
片付けができない・常に物が散乱する。
- まず第一に、環境を整備して、「物」を増やさないことがあげられる。
- が、目新しい物を見ると衝動を抑制できずに欲しくなってしまい、「物」がどんどん増えていく傾向があるので、買い物のルールを決めておく。
- 一つ一つの動作を、両手で確実に行うように指示する。
- 一連の動作をまとめて行うように、指示する。(例:引き出しを開ける→必要な物を取り出す→引き出しをもどす。/決して、出した物をしまうことまでを引き続き要求しない。それは、別のまとまりとする。)
- 片付けることを「忘れている」と教えてあげる。
- 片付けは、単純に「物を移動すること」として教える。決して、途中で見たり・読んだり・遊んだりさせない。
- 片付けはできないことを前提にしておき、片付けができたことを誉める。
- 散乱した物を片付ける手順を、監視しながら指示する。
T、散乱した物を片付ける方法を教示する手順の第一段階。
- ゴミだけを拾って捨てるように指示する。
- 床に落ちている物を、拾ってどこかに上げることを指示する。残ったゴミを捨てさせる。
- 大きなカゴや箱を用意して、その部屋に散乱している物はそこに入れるように指示する。
- 最初は、カゴはその部屋に置いたままにしておく。次第に、部屋ごとに使用目的を構造化し、関係のないものは置かないようにする。(例:遊んでいい部屋や時間帯を限定する。)
U、一日、一部屋ずつ以下の指示を付け加える。
- 中くらいの箱を用意し、おおまかな分類をさせる。この時、分類不可能な物を入れる箱も作ること。
- 私物は、自分の部屋や机に持っていくように指示する。
- 分類した箱から、元あった収納場所に戻すように指示する。
- 片付ける箱の数をだんだんに増やしていく。
V、同時に片付ける部屋や箇所を、だんだん増やしていく。
W、監視なしでできるようにする。最終確認だけする。
- 次のことを始める前に、今使っている物を片付けることを義務付ける。そのためには、次の活動をしようとしていることに気づかせる必要がある。(注意の転動が激しいと、そのこと自体も気づいていない。言ってあげないと、わからない。)
- 「片付けはできるようになる」と思わない。「言われた時にできればいい」と思っておく。そうすれば、片付いていることを誉めることができる。