「昆虫学」Q&A(2025年後期)
12/17の授業後の質問から
[質問] 「単寄生の寄生蜂の場合に、複数の寄生蜂の卵が産み込まれることはあるのでしょうか?その時に複数の寄生蜂が出てきたりするのでしょうか?」
[回答] 授業中の単寄生の説明では、1頭の寄主に1頭の寄生蜂のみが発育するとしか説明しなかったように思いますが、説明不足でした。単寄生バチは寄主には1卵しか産み付けませんが、蜂成虫蜜度が高かったり、無理に産ませると、1寄主に数卵が共存することがあります。その時にはどうなるかですが、ハチ幼虫同士の競争が起こり、大顎で咬みあって、1頭の幼虫が生き残ります。その幼虫が単独で大きくなって寄主から脱出します。ですから成虫として出てくるのは必ず1頭です。ハチの1令幼虫には鋭い大顎が発達していて、これで咬みあうようです。この大顎は、2令に脱皮すると無くなりますから、同種との競争のための大顎と言えます。
[質問] 「寄生蜂には内部寄生と外部寄生があると聞きましたが、どのように違うのでしょうか?」
[回答] この説明にはもう少し時間をかければよかったようです。普通、寄生蜂というと、幼虫に産卵管を突き刺して産卵し、内部で発育する内部寄生蜂を思い浮かべますが、寄主の体表に卵を産み付け、そこで孵化したハチ幼虫は寄主の体表に穴を開けて体液を吸って大きくなります。この場合には、寄主幼虫が動くと困るので、産卵する前に産卵管で麻酔液(venom)を注入します。動けなくなったところで、メス蜂は産卵するわけです。同じコマユバチ科の寄生蜂でも、外部寄生する種と内部寄生する種がありますから、寄生の仕方も多様です。
12/10の授業後の質問から
[質問] 「残留の項目の「1日最大摂取量」のところで、安全係数をかけるとありますが、具体的にはLD50の値に1/100をかけるのでしょうか?」
[回答] 確かにこの単位はヒトの体重kgあたりの1日の薬量(mg)で表すので、LD50と似ていますが、各種の実験結果から判断し、その食品を一生摂取しても障害が認められない量と言いますから、LD50の値からはるかに少なくなるでしょう。その値に1/100をかけるというのですから、かなり慎重に安全性を確保していることがわかります。
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12/3の授業後の質問から
[質問] 「⑫の表にある「物理的防除:重金属、不活性物質」というのは具体的に何を指しているのでしょうか?」
[回答] 確かにこの部分は説明が必要です。この表を引用した教科書によれば、「化学的に毒性を持たない不活性物質、例えば珪藻土、ベントナイト、タルク、無水珪酸などの微粉末を貯蔵穀物に混ぜておけば、コクゾウムシなどの貯穀害虫に対して殺虫作用が現れる。(中略)この作用機構は、微粉による表皮、特に環節間膜での擦過傷により体水分が減少して死亡すると考えられており、不活性物質が細かいほど、とがった形状のものほど、あるいは吸湿性の強いものほど効果が高いことが知られている。(「新応用昆虫学」(1998))とあるので、実際に利用されているのではないが、可能性としての殺虫剤効果を書いているのだと思います。
11/26の授業後の質問から
[質問] 「行動には生得的行動と獲得的行動がありますが、獲得的行動とは具体的にはどのような行動でしょうか?」
[回答] 通常、昆虫が成虫になり、活動する過程で学習する行動が主なものになると思います。授業中に話したミツバチの餌探索における色やにおいの学習は有名ですが、寄生蜂の寄主探索における関連植物のにおいや色学習も知られています。昆虫の場合には、生得的行動が中心であると思いがちですが、餌探索において、餌という報酬があることでにおいや色を関連付ける(連合学習)行動が多くの種類で知られています。
11/19の授業後の質問から
[質問] 「昆虫ではないですが、カラスが道路などで動物の死体をつついているのはアニュモンのせいでしょうか?」
[回答] 化学生態学に含まれる質問ですね。カラスが、動物の死体に近づくのは「におい」ではなく、視覚的な刺激でしょう。近づいていって、どこかの時点ではにおいを感じて肉であると認識するかもしれませんが、まず視覚的な手がかりで近づいて行き、つついてみて、舐めてみて、食べられる肉かどうかを確認しているような気がします。どこかの時点でにおいとして肉を感じて、それが食べようとする刺激になっているとすれば、これはアニュモンと言っていいと思います。
11/19の授業後の質問から
[質問] 「トビコバチでの多胚生殖の写真がありますが、寄主幼虫がここまで寄生されるとハチ幼虫同士の共食いが起きないのでしょうか?」
[回答] いい質問だと思います。多胚生殖ではないですが、内部多寄生の寄生蜂の場合、母蜂が産卵するときにたくさんの卵を寄主に産み混むと、餌資源の取り合いになり、共倒れになる場合があるので、産卵数を調節しています。この仕組みが働かない場合もたまにあるので、その場合にはサイズの小さい蜂が出てくることもあります。多胚生殖の場合には、卵が分裂して多くの胚が育つことになるので、母蜂が産卵数をコントロールしている訳ではありません。卵が分裂していくときに何らかの制御があるのでしょう。たくさんのハチ幼虫が寄主体内で発育する場合には、幼虫同士の競争がないと思われます。寄生蜂の幼虫間で競争があるのは、単寄生バチ(寄主当たり寄生数は1匹のみ)の場合には、1令幼虫での競争が見られます。そのために、1令幼虫には鋭い大顎が見られます。この大顎は、2令に脱皮したときには無くなります。つまり、幼虫同士が戦うための武器だったのです。
11/12の授業後の質問から
[質問] 「個眼の構造に置いて、ヒトの虹彩の働きをするのは色素細胞でしょうか?」
[回答] 絞りの役目をするのは色素細胞です。図⑪でははっきりしませんが、暗い場所の「暗順応」の時には、色素細胞が外側に寄って光を通すとある教科書には書いてあります。これに関しては、他の文献も当たってみますので、分かり次第追記していきます。
11/12の授業後の質問から
[質問] 「化学生態学の中で防御物質の話が出てきましたが、バッタをつまんだときに出てくる液体はそれでしょうか?」
[回答] 確かに、べとっとした黒い液体を出すのを思い出します。これは防御物質の役目をしています。食べたものを吐き戻した液体でしょうが、体内のある部分から出した忌避成分のようなものが含まれているのかもしれません。この物質が付着することで捕食者は一瞬ひるんだり、まずい食べ物と思うのではないでしょうか。
11/5の授業後の質問から
[質問]「休眠した昆虫は寿命は長いのでしょうか?」
[回答] これは簡単なようで意外と難しいと思うのですが、どう答えようかと悩みました。ちょっと考えれば、休眠する昆虫あるいはその昆虫のある世代は、長い冬を休眠状態で過ごしますから、夏世代に比べれば当然寿命は長くなります。通常、我々が昆虫の寿命は?と言ったときには成虫の寿命のことを言います。そして、25℃の部屋で成虫に水や餌を与えて死ぬまでの日数を調べます。この質問をした学生君は、どのような状況を考えて
寿命のことが気になったかを考えたのですが、例えば、同じ種類の昆虫を2グループに分け、1つは休眠状態にしてもう一つは非休眠状態にして25℃に置いた場合には、2グループの寿命はどうなるか、というような状況を想定したのかと思います。この場合で考えると、温度は一定で日長を短日条件にして休眠状態になった個体は、生長は止まり繁殖行動もなくなるでしょうから当然活動が低調になり、エネルギー消費も少なくなります。その分長く生きると思います。ただ、休眠から覚めるには低温処理が必要で、そのあとしばらく生きていると思います。
[質問]「昆虫に睡眠はあるのでしょうか?」
[回答] これは素朴な疑問ですが、古くから誰もが気になる課題になっており、最近の研究も種々あるようです。ここでは私の見解を述べたいと思います。まず、昆虫には夜行性と昼行性の昆虫がいて、夜行性の昆虫は昼間が休憩(睡眠)時間で、夜が活動時間です。昼行性の昆虫は我々と同じで、夜が休憩(睡眠)時間です。実験室で飼育している昼行性の昆虫について言えば、周囲が暗くなるとほとんど動かなくなり、明るくなると少しずつ動き出します。そして、明期の後半になると活動のピークがあり、明期の終わりに近づくに従って徐々に活動は低下してきます。夜間、静かにしているときは休憩~睡眠中だと思います。睡眠中か休憩中かは眠りの深さだと思うのですが、これに関しては最近の研究があるのでそちら(ネット検索)を参考にしてください。
10/29の授業後の質問から
[質問]「ホシカメムシにジュバビオンというJHホルモン様物質が処理されると過剰脱皮するという内容でしたが、過剰に脱皮してその後はどうなるのでしょうか?」
[回答] ホシカメムシの場合は、ジュバビオンというホルモン様物質が飼育容器に敷いたペーパータオルに含まれていたために過剰脱皮をして成虫になれないのですが、その後の運命はどうなのでしょうか?これは類推ではありますが、成虫になれないままで生きて、幼虫で寿命が来るのだと思います。より長く生きるのか、短命なのかは分かりません。一般的に、JHホルモンの濃度が相対的に低くなると幼虫から蛹への脱皮へと進み、低くならないとさらに過剰に脱皮するのは事実です。チョウ目のカイコでの実験では、幼若ホルモンを終齢幼虫に処理すると過剰脱皮をしてサイズの大きい幼虫に脱皮します。研究者は、ここに目を付けて、大きなカイコを作り、大きな繭を作ろうとしました。養蚕業にとっては大きな繭は確かに収量が上がるわけです。しかしこの方法は、幼虫が時間を掛けて餌をたくさん食べることにつながり、繭生産効率アップにはつながらなかったそうです。昆虫の脱皮のステージの数も色々ですが、その種にとってちょうどいい脱皮回数なり、幼虫や成虫のサイズが決まって来たのでしょう。やたら大きい成虫になっても餌効率などを考えるとちょうどいいサイズがあるのでしょうね。
10/22の授業後の質問から
[質問]「誘引因子、噛みつき因子、飲み込み因子が揃っていればカイコが餌を食べ続けることは理解できました。そこが関門であるなら、消化管の中にクワ以外の葉を入れてやるとどうなるでしょうか?」
[回答] 確かに、消化管の入口で食べるかどうかを決めているなら、それ以降の消化管では機械的に消化できそうです。しかし、カイコはクワを食べながら唾液腺から酵素を含んだ消化液を出しながら咀嚼しているわけで、それはラテックスなどの消化阻害物質を分解するのに重要なプロセスです。それができてやっと中腸で吸収できる状態になるわけです。クワ以外の植物には、カイコには分解できない消化阻害物質なども含まれているでしょうから、それが分解されないままで中腸に入ることでカイコは消化不良を起こして下痢するか死んでしまうでしょう。摂食の3要素が存在して、これを食物(クワ)が通過すれば食べ続けることで、ほぼクワ以外の植物は排除できると考えていいでしょう。ある昆虫が食べ続ける植物=その昆虫にとって安全な植物ということが言えます。もちろん例外はあるわけで、うっかり食べた植物に毒が含まれていた、というのも自然界では結構あるのでしょうね。
10/22の授業後の質問から
[質問]「資料の⑤の図には、腹節と神経節が書かれていますが何を意味した図でしょうか?」
[回答] この図は何となく貼り付けたのですが、説明が必要な図ですね。まず、左の神経節(1,2,3,I,II,III,IV,......)は、胸部神経節(神経節と神経球は同義)、腹部神経節のナンバリングです。融合しているところは+で表しています。元々は、各腹節にそれぞれ神経節があったことを考えると、進化の過程で癒合していったのだろうと考えると面白いですね。コガネムシやハエ幼虫の神経系を考えるとバッタは融合が少ない方だと言えます。
10/15の授業後の質問から
[質問]「寄生蜂の卵のような大きな異物が昆虫体内に入ったときには包囲化作用が起きると聞きましたが、包囲化されたものはどうなるのでしょうか?」
[回答] 寄生蜂の卵が非寄主昆虫体内に入ったときは、異物であると認識をして顆粒細胞やプラズマ細胞が集合して包囲化作用が起き、寄生蜂の卵は殺されてしまいます。こうなれば無害なので体内に浮かんでいてもどういうことは無いのでしょうが、そのうち何らかの方法で分解される可能性もあります。この点は調べておきます。包囲化作用は、寄生蜂の卵を血球が異物と認識したわけで、一度血球で取り囲んでしまうと、異物ではなくなります。これ以上の攻撃はしなくなるでしょう。この分野で研究されている、皇學館大学の中松先生のコメントを下に記します。「現在のところ、メラニン化して包囲化された異物は、その後包囲血球や脂肪体によって消化され、メラニンだけが寄主体腔中に残るという理解をしています。メラニンは体外に放出されることなく成虫まで保持されますが、アワヨトウの成長・発育・産卵等には問題がないようです。」
10/8の授業前の質問から
[質問]「鳥類は口器を小型化することで頭を小型化し飛ぶようになったと言われていますが、昆虫はそのような進化をしていますか?」
[回答] 確かに鳥は頭のでっかいものはいないように思います。たまにいても、飛ばない鳥が多いですね。長距離の渡りをする鳥は、確かに頭が小さく翼が大きい。昆虫は、大きな大顎を持った種類が多いですが、特に頭部を小さくするような進化はないように思うのですが、どうでしょうか?チョウ目昆虫などは、幼虫時期には大きな大顎を持っていますが、変態して成虫になったときには頭は小さく大きな翅を持つ体制に変化します。成虫は、花蜜を吸うくらいでたくさんの餌を食べたりする必要がないので、頭部を小型化することに成功しています。昆虫の場合、変態によって食べるのに特化した幼虫の形態から飛ぶことに特化した形態に変わることでうまく使い分けていると言えるでしょうか。
10/1の授業後の質問から
[質問]「ミツバチは花の蜜を吸っているので液体食かと思いますが、濾過室のようなものは持っているのでしょうか?」
[回答] 確かにミツバチは花蜜を集めて回り、巣に持ち帰ります。花蜜を食べる(飲む?)こともあると思います。しかし、ウンカ、ヨコバイ、アワフキムシのような濾過室は持っていません。一つには、'そのう'に蜜を溜めて持ち帰り、巣では吐き出して餌のストックとするからでしょう。それに、花蜜は蜂蜜よりは糖濃度が薄い(20%程度)ものの、植物の汁液よりは濃いのではないでしょうか。花蜜くらいの糖濃度であればそれほど濃縮しなくてもそのまま吸収すればいいのだと思います。働き蜂が持ち帰った花蜜は口移しで内勤蜂に渡され、内勤蜂はα-グルコシダーゼという酵素を使って花蜜のショ糖から果糖とブドウ糖に分解してストックします。その過程でも風を送って水を蒸発させて濃縮していきます。最終的に蜂蜜の糖濃度は80%程度になるそうです。花蜜からかなりの水を蒸発させて濃縮したことが分かると思います。(注)ミツバチの働きについては、筑波大学の松山茂先生にお尋ねしました。
9/24 授業後の質問から
[質問]「授業を聞いた後でどのような勉強をすればいいでしょうか?」
[回答] 勉強の仕方は大切ではありますが、大学の授業ではこの質問に答えるような内容は普通はないかと思います。皆さん、高校でノートを取りながら授業を受けて試験勉強してきたわけですから、その延長でいいかと思います。しかし、大学では内容も多くなり、それなりに違った方法を考えてもいいかも知れません。私が、当の学生に言ったのは、今から予習復習をがっちりやって、というやりかたよりも、関連の教科書や参考書、専門書、ネット検索などで幅広い知識を身につける、と言うやり方です。授業以外の幅広い事項を身につけることで、より深い勉強ができると思います。もしその中で興味を持てばさらに深く進めて行けばいいと思います。ただ読むだけでは無くて、メモを取りながら、或いは線を引きながら、後で重要なことが分かるようにしておくといいかもしれません。もし、授業中に配った資料とタイアップして盛り込んだ情報を整理すれば、素晴らしいノートができますね。これ全科目でやっていると体が持たないかも知れませんから、自分が力を入れて勉強したい(この方向へ進みたい)分野の授業に関してこの方法を実行すればいいと思います。