「昆虫学」Q&A(2024年後期)

10/30の授業後の質問から

[質問]「昆虫の排泄物がもたらすメリットについて以前やりましたが、アブラムシの排泄物は煤病などを引き起こし光合成効率が低下するなど農作物に大きな被害をもたらします。それはなぜなのでしょうか?」
[回答] なるほど、アブラムシの排泄物は甘露(honeydew)と言って多くの昆虫の餌になることを説明しました。この甘露には、アリがやってきてアブラムシとアリの共生関係が成り立つ話は有名ですが、アリという捕食者が来ることによって植物にはそれ以外の昆虫が来られなくなります。すると植物にもメリットはあるわけです。しかし、場合によってはこの甘露がすす病の原因となるのは植物にとってはマイナスです。ですから、アブラムシが甘露を出すのは植物にとっていい面悪い面の両方があるわけです。このあたりは生態系の複雑さとしか言えませんね。

10/23の授業後の質問から

[質問]「昆虫(カイコ)の摂食が、誘引因子、かみつき因子、飲み込み因子からなることが説明されましたが、かみつき因子があるとひたすらかみつき続けるということでしょうか?」
[回答] この話は少し補足説明が必要です。かみつき因子の検定にはろ紙にサンプルを処理し、そのろ紙に対するカイコ幼虫のかみつき跡(歯形?)を定量化して物質を同定しています。この物質があれば、かみつき行動をしばらく継続するでしょうが、その後から飲み込み因子(報酬?)が出てくることはないのでそのうち離れると思います。寒天の中にかみつき因子と飲み込み因子が含まれていて初めて食べ続けるものと思われます。昆虫の行動パターンとしては、「かみつき→飲み込み」が連続したものになっているように思います。それによって、カイコは桑を食べ続けるのでしょう。実際、桑の葉を食べるカイコはひたすら食べ続けているように見えます。

10/16の授業後の質問から

[質問]「昆虫の血球であるプラズマ細胞、顆粒細胞が集まり、大型の異物である寄生蜂の卵を取り囲む包囲化作用があることを聞きました。アオムシコマユバチの卵がカイコの体内では包囲化作用を受け、アオムシ(モンシロチョウ幼虫)の体内では包囲化作用を受けないのはなぜでしょうか?
[回答] そこのところは大変重要なところで、寄生蜂の寄生が成功するかどうかのカギとなる部分です。寄生蜂が寄主に産卵するときには、ただ卵を産み込むだけでなく、いくつかの要素が注入されます。毒液(venom)、ポリドナウイルス(PDV)、ウイルス様粒子(VLP)、などです。これらの働きで包囲化作用が抑制されることがわかっています。これらの働き方については、細かくは種によっても異なり、その分子機構なども研究があります。

[質問]「昆虫は気管から酸素を取り込んでいるとのことですが、ウイルスのような害のあるものが気門から体内に侵入してくることはあるのでしょうか?また、ヒトの粘膜に相当するようなものはあるのでしょうか?」
[回答] よいところに目を付けたと思います。ヒトだと、呼吸によって色々な病原菌が気管や肺に入り込みます。そのために繊毛や粘膜が排除に役立っているのはご存知の通りです。昆虫の気門も病原菌の侵入口になっているようです。以下は文献からの引用です。「昆虫は病原体の侵入口となる表皮、中腸、気管などで、溶菌活性や殺菌活性を示すリボゾーム、抗微生物タンパク質、活性酸素種などが産生され、上皮性免疫応答によって病原体の侵入を防いでいる。これを突破して血体腔に侵入した病原体は、体液中に浮遊する免疫担当細胞(プラズマ細胞や顆粒細胞)の表面に存在する認識分子によって認識され、細胞性免疫と液性免疫により排除される。」

10/9の授業後の質問から

[質問]「昆虫の背脈管は心門から血液(体液)が入り込み、頭部方向に流れるのは逆流防止弁があるからという説明でしたが、図にはそれらしい物が見当たりません。どこにあるのでしょうか?
[回答] おっしゃるとおり、配付資料には弁のような器官は見当たりません。強いて言えば、⑤の心門の部分に内側に出っ張ったものが見えますが、これがそれです。次回の授業の最初に、昆虫学のテキストからコピーしたより明確な図をお見せして、説明したいと思います。

[疑問]「気管鰓と気管腮と二通りの漢字が出てきますがどちらが正しいのでしょうか?
[回答] 鰓と腮と顋は全て「えら」という漢字のようです。我々がよく知っている魚のえらに関しての説明ですが、昆虫の呼吸器官もそれにならったネーミングで英語でもgillを使っています。ここでは魚の鰓と区別するつもりで「腮」を使おうかと思います。

10/2の授業後の疑問点から

[質問]「シロアリの消化系には中腸と後腸の間にこぶ胃(paunch)という器官があり、ここで共生微生物を宿しているようですが、消化の役目を担っているのなら前腸と中腸の間にあるべきではないでしょうか?

[回答] 確かに、後腸では通常は透過性がなくレクタムパッドで水、塩類、糖、アミノ酸などの吸収を行うとあります。シロアリの場合はやや特殊で、中腸が非常に単純に出来ており、むしろ後腸が吸収の役目を担っていると思われます。形態から言ってもこぶ胃と後腸の容積はかなりを占めています。シロアリに詳しい専門家に問い合わせていますので、後で説明を加えます。