「昆虫学」Q&A(2024年後期)
12/18授業後の質問から
[質問]「試験の問題はどのような形式で出されるのでしょうか?勉強の仕方に困っています」
[回答] 問題については最後の授業で説明しようと思ったのですが、ここでも少し書いておきます。昆虫学の試験では、専門用語の解説が出来るかどうかを中心に問題を出します。重要事項が理解されているかどうかは、専門用語の説明が出来るかどうかでほぼ把握できると思っています。授業中に、スライドの中で赤字で記されている場所は重要な専門用語ですので、それについての説明が出来るようになれば、試験準備は十分かと思います。たまに計算問題も出しますが、これはめったにない項目です。一問当たりの解答スペースは、A4の答案用紙で、4-5行です。持ち込み不可ですので、そのつもりで準備してください。
12/4〆切のレポートの質問から
[質問]「トンボは戦国時代には縁起のいい虫と言われたと聞いています。このように縁起がいいとされた昆虫は他にいるのでしょうか。」
[回答] トンボがそのように言われたというのは初耳です。私が小さい頃から聞いていたのは、クモは家の守り神だからそっとしておくように、というのはありました。クモが害虫を捕って食べてくれるのが見るからに益虫として残しておくことにつながったのだと思います。ヤモリなども「家守」というように害虫を食べて家を守るところから来ていると聞いたことがあります。そのようなそのような文化昆虫学的な内容の書物があるので、調べてみましょう。
レポートの内容から
[質問]「前回の授業の終わりに先生にお話ししたカメムシの話ですが、種類を調べたところ緑のカメムシもいますがマルカメムシという種類のカメムシが大量発生しています。網戸などあわせて50匹ほどいて洗濯物にもついているし飛び回っていて本当に困っています。私の家は木が多いためしょうがない気もするのですが洗濯物などから家に入ってきてしまうため対処したいです。対処法やカメムシ、マルカメムシで知っていることがあれば何でもいいので教えてほしいです。なぜここまで繁殖しているのかや、カメムシの研究室のことなども教えていただけたら幸いです。」
[回答] 50匹のカメムシは多いですね。カメムシは集合性があるので、よく木の洞(うろ)や外壁や軒下など雨風のこない越冬しやすい場所に集まる傾向があります。なぜよく繁殖しているかの答えは、前回の冬が暖冬で多くの個体が今春に出てきたことからきています。それがさらに餌を食べて繁殖するわけですから、例年よりも多い個体数になります。マルカメムシは成虫越冬なので、この時期は越冬場所を探しているのだと思います。この種類は、マメ科植物が寄主植物なので、クズ(最近雑草として猛威を振るっています)があるとよく発生するようです。寒くなって活動性が落ちるまでは我慢するほかないように思います。(今回は、筑波大の藏滿先生のお話を参考にしました)。一時的には、スプレー式の殺虫剤などは追い払ったり殺すには有効でしょうが、長持ちはしないでしょうね。カの忌避剤(忌避成分はDET)も忌避効果はあるでしょうが、これも長くは持たないと思います。(これは私の意見です)
[質問]「文献によると桑には植物エクジステロイドが含まれているようなのですが、カイコはそれを利用しているのでしょうか?」
[回答] 桑に含まれるのは事実のようですね。桑は植食性昆虫に対抗するためにエクジステロイドやJH活性のある物質を体内に持っているようです。しかし、カイコをはじめとして桑を寄主植物とする昆虫は多くいます。ということはそれらの昆虫にはホルモンの効果が無いわけで、体に取り込むことなく解毒しているものと思われます。それでは、外部から与えたエクジステロイドはカイコでは全く取り込まれないかというとそうではなく、取り込むことが過去の研究で調べられています。高濃度のエクジステロイドを餌に混ぜた場合、カイコは異常に多くの回数幼虫脱皮を繰り返したそうです。その仕組みに関しては想像するしかないですが、体内に取り込まれて異常脱皮をすることは間違いないようです。カイコはステロイドを体内で合成できないので、植物から取り込んでエクジステロイドを生合成しているわけでその辺りの選択的な取り込みは興味深いところです。シダ類は植物エクジステロイドを持っていることで有名な植物ですが、この植物にも特化したハバチがいるようで、どんな強力な植物毒も一部の植食者には克服されると言ってもいいでしょう。(今回は、農研機構の小滝さんに伺った説明を参考にしています)
11/13の授業後の質問から
[質問]「性フェロモンに誘引される他の生物はいるのでしょうか?」
[回答] 性フェロモンは同種他個体での交信手段ですから他の種類は入る余地はほぼありません。例えば夜行性のガの類は多くが性フェロモンで雌雄の出会いと配偶行動を可能にしていますが、他種と交わることはほぼないと言ってもいいくらいいわゆる生殖隔離が成り立っています。しかし、そのにおいを嗅ぎつけて近づいて来る生物がいるのです。寄生者や捕食者達です。そのような生物にとっては、性フェロモンのにおいは格好の餌探しの手がかりです。確実に自分の餌や寄主にたどり着けます。多くの夜行性のガなどは天敵の少ない夜に配偶行動を行い、捕食や寄生から逃れていますが、敵も然る者で、フェロモンの付着した体の部分に昼間誘引されたりして、何とか寄主を見つけ出します。そのような研究分野は、eavesdrop(盗み聞き)と読んでこの現象を説明しています。日本の研究では、新垣則雄さんのタイワンキドクガとドクガタマゴクロバチの研究が有名です。この現象は、寄生蜂がドクガタマゴクロバチの体にくっついて産卵場所まで付いていくので、phoresy(便乗)としての要素も含まれており、化学生態学の興味深い現象の一つです。
11/6の授業後の質問から
[質問]「臨界日長とは具体的に何を指すのでしょうか?」
[回答] 臨界日長とは、教科書的には、50%の個体が休眠に入る日長、ということですが、具体的にどのことを言っているのかは説明しなかったように思います。④の図で説明しましょう。Iの場合は長日反応ですので、日長が短くなるにしたがって休眠に入る率が高くなります。実験する場合は、明暗条件の異なる暗箱(例えば、明-暗が10-14,
11-13, 12-12, 13-11, 14-10, 15-9, 16-8というふうに1時間単位で日長をずらした条件)に昆虫を入れて飼育します。(温度は25度で一定)この条件で蛹になったら休眠に入ったかどうかを調べます。(蛹休眠の場合には、羽化してこない)このデータから、休眠率を出します。その結果、④Ⅰのようなデータが得られたとすると、プロットを線で結び、ちょうど50%の休眠率になる点を見つけ、その点より垂直に線を下した点が臨界日長となります。供試する昆虫の数は多いほどいいですが、最低でも10頭はほしいところです。変換点が見つけにくいときは、再度、明暗条件を30分単位で区切って実験して結果を出します。幼虫時期に日長を感じ取り、蛹休眠に入るモンシロチョウを想定して書きましたが、わかりましたでしょうか?
[質問]「最近、カメムシが部屋に入ってきて困るのですが、なぜでしょうか?」
[回答] どんなカメムシでしょうか?種類が気になります。チャバネアオカメムシ、クサギカメムシ、ミナミアオカメムシなどが考えられますが、調べて見てください。今日のテーマでもありましたが、カメムシたちも寒さや日長を感じ取って冬越しの準備に入りますが、彼らもあまり寒いと越冬できず死んでしまうので、多少とも暖かい場所を選んで冬越しします。そういう意味では、人が住んでいる家の中や軒下などは絶好の越冬場所といえます。今年はカメムシの数も相当増えているようですから、たくさん集まるのも無理もないですね。部屋に入ってほしくない場合は、網戸を閉めるしかないでしょう。入ってきた場合は、空き瓶などで捕まえて外に逃がしてやってください。害虫と思える場合には、、、、お任せします。
10/30の授業後の質問から
[質問]「昆虫の排泄物がもたらすメリットについて以前やりましたが、アブラムシの排泄物は煤病などを引き起こし光合成効率が低下するなど農作物に大きな被害をもたらします。それはなぜなのでしょうか?」
[回答] なるほど、アブラムシの排泄物は甘露(honeydew)と言って多くの昆虫の餌になることを説明しました。この甘露には、アリがやってきてアブラムシとアリの共生関係が成り立つ話は有名ですが、アリという捕食者が来ることによって植物にはそれ以外の昆虫が来られなくなります。すると植物にもメリットはあるわけです。しかし、場合によってはこの甘露がすす病の原因となるのは植物にとってはマイナスです。ですから、アブラムシが甘露を出すのは植物にとっていい面悪い面の両方があるわけです。このあたりは生態系の複雑さとしか言えませんね。
10/23の授業後の質問から
[質問]「昆虫(カイコ)の摂食が、誘引因子、かみつき因子、飲み込み因子からなることが説明されましたが、かみつき因子があるとひたすらかみつき続けるということでしょうか?」
[回答] この話は少し補足説明が必要です。かみつき因子の検定にはろ紙にサンプルを処理し、そのろ紙に対するカイコ幼虫のかみつき跡(歯形?)を定量化して物質を同定しています。この物質があれば、かみつき行動をしばらく継続するでしょうが、その後から飲み込み因子(報酬?)が出てくることはないのでそのうち離れると思います。寒天の中にかみつき因子と飲み込み因子が含まれていて初めて食べ続けるものと思われます。昆虫の行動パターンとしては、「かみつき→飲み込み」が連続したものになっているように思います。それによって、カイコは桑を食べ続けるのでしょう。実際、桑の葉を食べるカイコはひたすら食べ続けているように見えます。
10/16の授業後の質問から
[質問]「昆虫の血球であるプラズマ細胞、顆粒細胞が集まり、大型の異物である寄生蜂の卵を取り囲む包囲化作用があることを聞きました。アオムシコマユバチの卵がカイコの体内では包囲化作用を受け、アオムシ(モンシロチョウ幼虫)の体内では包囲化作用を受けないのはなぜでしょうか?」
[回答] そこのところは大変重要なところで、寄生蜂の寄生が成功するかどうかのカギとなる部分です。寄生蜂が寄主に産卵するときには、ただ卵を産み込むだけでなく、いくつかの要素が注入されます。毒液(venom)、ポリドナウイルス(PDV)、ウイルス様粒子(VLP)、などです。これらの働きで包囲化作用が抑制されることがわかっています。これらの働き方については、細かくは種によっても異なり、その分子機構なども研究があります。
[質問]「昆虫は気管から酸素を取り込んでいるとのことですが、ウイルスのような害のあるものが気門から体内に侵入してくることはあるのでしょうか?また、ヒトの粘膜に相当するようなものはあるのでしょうか?」
[回答] よいところに目を付けたと思います。ヒトだと、呼吸によって色々な病原菌が気管や肺に入り込みます。そのために繊毛や粘膜が排除に役立っているのはご存知の通りです。昆虫の気門も病原菌の侵入口になっているようです。以下は文献からの引用です。「昆虫は病原体の侵入口となる表皮、中腸、気管などで、溶菌活性や殺菌活性を示すリボゾーム、抗微生物タンパク質、活性酸素種などが産生され、上皮性免疫応答によって病原体の侵入を防いでいる。これを突破して血体腔に侵入した病原体は、体液中に浮遊する免疫担当細胞(プラズマ細胞や顆粒細胞)の表面に存在する認識分子によって認識され、細胞性免疫と液性免疫により排除される。」
10/9の授業後の質問から
[質問]「昆虫の背脈管は心門から血液(体液)が入り込み、頭部方向に流れるのは逆流防止弁があるからという説明でしたが、図にはそれらしい物が見当たりません。どこにあるのでしょうか?」
[回答] おっしゃるとおり、配付資料には弁のような器官は見当たりません。強いて言えば、⑤の心門の部分に内側に出っ張ったものが見えますが、これがそれです。次回の授業の最初に、昆虫学のテキストからコピーしたより明確な図をお見せして、説明したいと思います。
[疑問]「気管鰓と気管腮と二通りの漢字が出てきますがどちらが正しいのでしょうか?」
[回答] 鰓と腮と顋は全て「えら」という漢字のようです。我々がよく知っている魚のえらに関しての説明ですが、昆虫の呼吸器官もそれにならったネーミングで英語でもgillを使っています。ここでは魚の鰓と区別するつもりで「腮」を使おうかと思います。
10/2の授業後の疑問点から
[質問]「シロアリの消化系には中腸と後腸の間にこぶ胃(paunch)という器官があり、ここで共生微生物を宿しているようですが、消化の役目を担っているのなら前腸と中腸の間にあるべきではないでしょうか?」
[回答] 確かに、後腸では通常は透過性がなくレクタムパッドで水、塩類、糖、アミノ酸などの吸収を行うとあります。シロアリの場合はやや特殊で、中腸が非常に単純に出来ており、むしろ後腸が吸収の役目を担っていると思われます。形態から言ってもこぶ胃と後腸の容積はかなりを占めています。シロアリに詳しい専門家に問い合わせていますので、後で説明を加えます。