「昆虫学」Q&A(2024年前期)


5/8の授業後の質問から
[質問]シナプス空隙」とあるのは「シナプス間隙」ではないですか?」
[回答] 私の授業スライドのテキストの記述はどこかの教科書から写した物ですが、ネットでも調べてみると「間隙」が普通で一般的に使われているようでした。「空隙」はあることはありましたが、ごく少数でした。ということで、皆さんは「間隙」を使って下さい。

[質問]昆虫にとって水が欠乏すると神経系にどのように影響するでしょうか?」
[回答] 昆虫にとって水分が重要であることは何度も話しましたが、神経系への影響については特に考えていませんでした。解放血管系の昆虫にとっては消化管、脂肪体その他の器官が体液に浮かんでいる状態ですので、この体液が水分欠乏のために粘性が高まり循環しないとなれば、全ての機能が働かなくなり、死に至るでしょう。前にも言いましたが、飼育容器から水をなくした昆虫は2日と持たないほど短命です。これは、実際にあったことで、寄生蜂の飼育においては通常は水を脱脂綿に含ませて与えるところですが、その時うっかり水を与えるのを忘れてしまい、次の日に見ると全部が死んでいたように思います。それほど水は重要です。この寄生蜂(Ascogaster)は、日本に元々居る土着の種類ですが、Chelonus inanitusという乾燥地域に住んでいる寄生蜂を飼育したことがありますが、これは正反対です。いつものように容器に入れ、ハチミツを壁面に、脱脂綿に水をしみこませて与えると、2ー3日して死んでしまいました。もしやと思い、湿脱脂綿を入れないで、ハチミツだけで飼うと2ー3週間平気で生きているではないですか。このときはびっくりしました。多分、日本のような高湿度の地域に適応した種類と乾燥地帯に適応した種類で生存戦略が全く異なるのでしょう。容器に湿脱脂綿を入れて25℃におくと、容器内の湿度は90%を超えるでしょう。日本土着の天敵はこれが当然として生きていくのに対し、乾燥地耐性の種類はこの湿度中では何らかの理由で生きていけないものと思われます。 

4/24の授業後の質問から
[質問]昆虫は水の摂取をどのように行っているのですか?」
[回答] 昆虫にとって水分の保持は非常に重要であることはどこかで述べたと思いますが、質問は確か、水がなくて弱った昆虫が水を与えることで元気になるか、と言う内容の質問だったかと思います。私の研究室で飼育している昆虫たちは、水は与えていますが、それを飲んでいる様子はありません。チョウ目昆虫(ハマキガの一種)は、成虫になって湿度があればいいと言うことで、脱脂綿を湿らせて容器内に置いておきます。これで十分です。ちなみに、この蛾の成虫は口器が退化して水も餌も摂取できません。でも、交尾して産卵してしばらく生きています。もう一つのハチ目昆虫(コマユバチ)は、餌としてハチミツを容器壁面に塗りつけて置きますが、同時に湿った脱脂綿も入れておきます。ハチミツは時々舐めているようですが、水を吸いに来てはいないようです。ハチミツは吸湿して希釈されますから、それを舐めることで水分摂取も出来ます。消化と排泄のところでも述べましたが、植物質を咀嚼して食べる昆虫は、それに含まれた水分をできるだけ逃がさないように保持して消化・吸収していますが、セミやウンカ、ヨコバイのように植物の汁を吸うタイプの昆虫は、餌自体が水分過剰なので、それを如何に濃縮して効率よく水分を減らすかという工夫をしています。濾過室(濾過胃)などが発達しているのはそのためです。ですから、昆虫が水を飲んでいる姿は余り見かけないのではないでしょうか?夏になるとチョウが水溜まりなどで吸っているのは見かけますが、花蜜を吸っているばかりでは水分が少ないか、あるいは花にありつけないで水分が必要になっているのでしょう。

[質問]昆虫はどこで血液を作っていますか?」
[回答] この質問は難しかったので、その場では答えることが出来ませんでした。ネットでも検索すると出てきますが、チョウ目幼虫(多分ここではカイコ)では幼虫の胸部に翅芽(wing disc)と言う将来の翅になる組織が出来ておりその付近に造血器官が存在することが調べられています。これらの造血器官は血球を作るわけですが、それ以外の成分や水は餌から取り込むことで構成されています。他の昆虫では余り調べられていないようですが、もう少し私の方でも調べてみます。

4/17の授業後の質問から
[質問]スライドのコピーと配付資料はあるのですが、どのように学習したらよいか分からないのですが」
[回答]  一つの勉強法としては、授業中に話しを聞きながらキーワードをマーカーなどでチェックする。追加情報などをメモする。復習としては、マーカーで印をした専門用語を意味がすらすら言えるかどうかを自分でチェックする。出来れば、専門用語を書いたカードを作り、そらんじて言えるまで練習する。試験前には、これらの用語を覚えているかどうかをチェックしておく。というのは模範的な勉強ぶりと言えそうですが、基本は専門用語を含めた授業内容を頭に入れておくのが大事で、ある程度繰り返し覚えることは必要と思います。毎回、10~20個ほどの専門用語を抜き出して、資料を見ながらノートに説明文をまとめてみてはどうでしょう。不正確であれば昆虫学の教科書を見たり、ネット検索などをしてより正確な解説を加えていくといいと思います。高校までは、文章の中にちょうど当てはまる単語(キーワード)を入れるだけでよかったですが、大学では「何とかについて述べなさい」という質問に対して文章で説明できないといけないのです。その違いを理解して学習してください。

4/10の授業後の質問から
[質問]昆虫の出てくる映画が他にあれば紹介してください?」
[回答]  授業の中で法医昆虫学の話と共に「羊たちの沈黙」という映画の紹介をしました。その映画で法医昆虫学者が数人出てきて、その描き方が偏屈で変わり者の研究者として登場するので、これは如何な物かという印象を話しました。この映画では、確かに昆虫、それも確かメンガタスズメというスズメガの蛹が出てくるのでよく記憶にあります。DVDのケースカバーやポスターなどにもこの蛾が出てきました。また、最近のジュラシックパークのシリーズの最新作で、巨大バッタが出てきますが、これも一つですね。さて他にあげるとすれば、私が見た中では、「The Fly」でしょうか?これも古い映画になりますが、ちょっと気味が悪い映画です。アイデア的にはDNAレベルの話が出てきて面白いと思います。もう一つ、これは私は見たことがなくて、見ようと思いながらチャンスがなかった物ですが、黒澤明監督の「八月の狂詩曲」と言う映画で、蟻の行列が最後に出てきます。このシーンのメイキングに関しては、私の知っている昆虫学者が関わっているのでいつかお話ししたいと思います。ネットで「映画、昆虫」と入れるとたくさんの昆虫映画(多くは恐怖物)が出てきますが、私はほとんど見てないと言っていいですね。ということで、少しばかり紹介しました。