「昆虫学」Q&A(2023年後期)
12/13の授業後の質問から
[質問]侵入害虫のクビアカツヤカミキリの原産国はどこでしょうか?」
[回答] この害虫は2018年に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」による特定外来生物に指定されました。これにより、飼育や生きたままの運搬・保管・野外への放飼などが禁止されています。現在、モモ、ウメ、サクラなどの樹木に被害を与えて分布を拡大しているようです。原産国は、中国、モンゴル、ベトナムなどと言われていますが、この害虫の情報に関しては随時追加して行きたいと思います。

12/6の授業後の質問から
[質問]昆虫が海外から侵入したときにはどのような対策が立てられるのでしょうか?」
[回答] このテーマは、今最も注意すべき害虫の問題の一つです。現在のように、国内だけでなく国際的にも行き来が盛んになり、人や物の移動が多くなると、それにくっついて害虫が移動することも多くなります。皆さん、アルゼンチンアリのニュースなどは見たことがあるでしょうか?1993年頃に日本では最初に確認され、分布を拡大しているようです。在来種のアリを攻撃して絶滅させたり、民家にも入って人を噛んだり、生態系を撹乱することが言われて居ます。防除方法も、色々試みていますが、絶滅までは行きません。最初に見つかった場所で、隔離して徹底的に防除するのがいいとは思いますが、ここまで世界的な分布拡大をすると防除は追いつくことが出来ません。この、すでに侵入したアルゼンチンアリに限らず、まだ多くの海外の害虫が侵入の恐れがあり、神経をとがらせています。農業害虫ですと、日本の農作物が大変な被害にあいますがら、農水省の植物防疫関連組織が対応します。皆さん、海外から日本に到着したときに荷物を調べられたり、果物を持ち込まないように注意書きがあったりしますね。その時には、今何が侵入警戒されているのか注意して見ておいて下さい。

11/29の授業後の質問から
[質問]今年の夏、夜の間に、ノコギリクワガタが飛んできて、自宅の玄関に数頭が集まっていました。また、別の日にはベランダの方に集まっており、何らかの要因が彼ら(雄雌混合)を引き付けているように思います。近くの林から飛んでくると思われますが、なぜ集まって来るのでしょうか?
[回答] まさしく今日の「走性」のテーマにピッタリの質問ですね。においに飛んでくるのか、光に飛んでくるのか、あるいは仲間のフェロモンに飛んでくるのか、いくつか考えられますが、雌雄共に来ることを考えると、雌が飛んで来て、そのにおいに雄が飛んでくることは考えにくいですね。樹液に飛んでくる場合もありますが、そのにおいが家から出ているのはあり得ないですね。とすると、光でしょうか?玄関もベランダも明るいので、夜の間に飛んできて朝集まっているのを見ることは考えられます。クワガタの飛び回る方向によって玄関に来たりベランダに来たりするのでしょうか。もし、来年度以降に飛んでくることがあれば、電灯を付けたり消したりすることで、ちょっとした実験をすることが出来ます。ファーブル昆虫記の「オオクジャクガの夕べ」を思い出します。そういう素朴な実験から新たな現象が発見できるかも知れませんので、挑戦してみてください。

11/22の授業後の質問から
[質問]寄生蜂の雌雄の見分け方はどのようにするのでしょうか?
[回答] 私も多くの寄生蜂を扱ったわけではないですが、大体は、メスは特徴的な産卵管を持っているので、すぐにメスだと分かります。しかし、今でも私が飼育しているハマキコウラコマユバチは、このやり方では見分けが付きにくいのです。仕方ないので、小さい試験管に成虫を入れて(実際には繭を入れて羽化させます)、腹側から実体顕微鏡で観察します。すると、メスは産卵管がはっきり見え、オスは把握器が見えるのですぐに分かります。それに比べ、同じコマユバチ科でもカリヤコマユバチは、産卵管が体から突き出しているので見分けは付きやすいです。ハマキコウラコマユバチは、その他の特徴として、オスはメスよりやや小型で動きが素早い。また、メスの腹部に白いバンドが見えることがある、などの特徴があり、肉眼で区別するときの手がかりになります。触角の節数が雌雄で異なる場合もあるようですが、実際には数えるのが面倒なので使うことはありません。

11/15の授業後の質問から
[質問]嗅覚感覚器のところで錐状感覚子がミツバチやイエバエの幼虫など見られるとありますが、成虫になるとこのような感覚子はどのように変化するのでしょうか?
[回答] 幼虫の感覚子というと、口器の周辺にある物と考えられます。それは、幼虫のステージがほとんど摂食に特化した生活になることから、餌に対する嗅覚反応であるとが想像できます。とすると、ある特定のにおい、例えばミツバチの幼虫だと花粉かハチミツにたいする嗅覚が発達すると思われます。とすれば、感覚子もそれに特化したシンプルな物でしょう。研究対象としても、そのあたりの情報が分かっての研究になるので、形態学や生理学がより進みやすくなります。それが、蛹を経て成虫になると、嗅覚の中心は触角になり、ありとあらゆる必要なにおいをカバーしなくてはなりません。ですから、触角上には、毛状感覚子や錐状感覚子、摂食化学刺激の感覚子など様々な感覚子が存在します。幼虫から成虫に変化することで生活はダイナミックに変化するわけですから、嗅覚感覚もそれに応じて複雑に多様になるでしょう。

[質問]海外の昆虫であるとか侵入の恐れのある昆虫類などは飼育できるのでしょうか?
[回答] これに関しては、私も飼育経験があります。海外からの研修生が、その母国の天敵の研究をするために、ある農業害虫を飼育する必要が生じました。国の管轄であるその部署に問い合わせると、研究用であればいくつかの条件を満たせば可能である、ということで、飼育設備(扉が二重であること)であるとか、昆虫を生きたまま出さないためのオートクレーブ設備などを完備して、準備しました。大学とか公的機関では、ある目的を持った研究用として許可が下りるでしょうが、一般の人が趣味で飼いたいというのは問題があると思います。そういった昆虫が農業害虫ではないという理由から飼育を許可されている場合があるかも知れませんが、しっかりとした管理が保証されていないことを考えると感心しません。

知り合いの植物防疫関連研究機関の方に聞いてみました。以下も参考にしてください。
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まず、農作物の保護を目的とする植物防疫法上は、植物防疫法施行規則別表1に掲げられる検疫有害動植物は全て生きたままでの輸入が禁止されております。そのため、基本的には輸入ができません。

一方、植物防疫法上は規制のない昆虫であっても、外来生物法(環境省所管)、ワシントン条約(経済産業省所管)、家畜伝染病予防法(動物検疫所(農水省)所管)等の規制対象となるものもあります。それらについては、各所管省庁のHP等で情報が得られます。

最後に、植物防疫法上規制されている昆虫を飼育する場合は、農林水産大臣の許可を受ける必要があります。農林水産大臣の許可を受けられるのは、「試験研究を行う場合」等に限られ、ペットとして飼育する場合は含まれません。

以下に、植物防疫所HPの参考となるページのリンクを載せておきますので、ご参照ください。

植物防疫法で規制されている昆虫を検索することができます(他の関係機関へのリンクもあります)。

昆虫・微生物類等の植物防疫法における規制の有無に関するデータベース (pps.go.jp)

農林水産大臣の許可に関する手続きが記載されています。

輸入禁止品の輸入許可:植物防疫所 (maff.go.jp)

植物防疫法施行規則(かなり読みにくいと思いますが、ずーっと下のほうに別表1が載っています)

植物防疫法施行規則:植物防疫所 (maff.go.jp)
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[質問]⑪の模式図のところで、2個の虹彩色素細胞、数個の網膜色素細胞のところがよく分かりませんでした?
[回答] cは確かに虹彩色素細胞のところを指しているのですが、dがどこを指しているか紛らわしいために理解しにくいことが分かりました。ABの図でdは違うところを指していると思われます。Aのdの指している位置は正しいのですが、Bのdの位置はその白い場所ではなく、その上の顆粒が散らばっている狭い場所です。右の断面図にあるようにこの二つの細胞は同心円状になっており、虹彩色素細胞を網膜色素細胞が包むようになっており、eの白い部分が網膜細胞になっています。網膜細胞は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を持っており重要な部分です。

11/1の授業後の質問から
[質問]エゾゼミなどの高地に住むセミを実際に見たいのですが方法はあるでしょうか?
[回答] 私には分かりませんが、筑波大の藏滿先生に聞いてみると、「日本セミの会」という同好会があり、この会に入会するなどして情報交換するのはどうでしょう。どういうセミがどこで捕れるとか鳴いているとかの情報は、すぐに分かりそうな気がします。藏滿先生情報ですが、エゾゼミ、アカエゾゼミなどは、こちらの近くの筑波山、東京の高尾山などでも見られるそうです。下の写真は藏滿先生が採集された標本を撮影したものです。


11/1の授業後の質問から
[質問]スズメガの卵にはJH0があると言う話しをされましたが、卵から幼虫が孵化するときにはホルモンの関与はあるのでしょうか?
[回答] 私には分からないので、知り合いの昆虫ホルモン研究の専門家に聞いたところ、昆虫によっては卵内で脱皮する種や孵化と同時に脱皮する種類もいるので、卵ステージでのホルモンの関与は十分に考えられるとのことです。また、カイコの卵休眠では卵ステージで次世代の休眠卵か非休眠卵かが決まるわけで、そのあたりの制御もホルモンを介しての現象ですから、あらゆるところでホルモンの作用があると言ってもおかしくないでしょう、とのことです。以下はその参考文献と詳細な解説です。

JH Zero: New Naturally Occurring Insect Juvenile Hormone from Developing Embryos of the Tobacco Hornworm. Science 210: 336-338 Bergot et al.(1980) doi:10.1126/science.210.4467.336
 その中で、studies of the temporal fluctuation of these hormones in M. sexta eggs (5) reveal that neither JH I nor JHO is present in newly laid eggs, but a high titer of each is observed after 2 to 3 days of development, with a precipitous drop at eclosion (3.5 to 4 days from oviposition). Thus, JH 0 appears to satisfy criteria permitting its classification as a hormone. と書かれていますので、卵内でJHの消長があって生理的な機能を果たしていると考えられます。ホルモンの基準を満たしているかと言えば、??ですが。他の虫での知見がこれに続くパラグラフに書かれています。
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 胚が発育してアラタ体や前胸腺が分化してくればそれらの内分泌腺はそれなりに機能し始めるはずですから、卵内でホルモン量が変動します。ふ化前に胚子の脱皮が起きますが、その場面では当然ホルモンは関与しています。バッタやカマキリはふ化しながら脱皮します。確かその前段階でも脱皮するのだったと思います。
 また、ヤママユのように卵内でふ化直前の幼虫が休眠するというタイプの「卵休眠」は、anti-JH処理によって休眠が打破されることが知られています。つまり卵内での幼虫休眠の維持にJHが機能していると考えられます。ただ、卵内に母親由来のエクダイソンがとり込まれる例も知られていますので、産下直後の卵は必ずしもホルモンフリーというわけではありません。

10/25の授業後の質問から
[質問]ジャイアントミールワームを飼育するときのコツはあるのでしょうか?
[回答] 私は、「ミールワーム」は魚釣りの餌として売られていること、チャイロコメノゴミムシダマシというコウチュウ目の幼虫であることは知っていましたし、見たこともありますが、ジャイアントと付く昆虫の存在は知りませんでした。ネットで見ると、は虫類の餌になったり、鳥の餌にしたり、動物を飼育する人にとっては便利な餌になるんですね。餌として簡単に手に入るし、飼育も簡単で世話も要らないところから、重宝されるのだと思います。ところで、質問した君は何かは虫類でも飼っているのかな?私の知り合いの研究者に聞いてみましたら、ミールワームは飼育しているが、ジャイアント-は飼っていないので、何とも言えないとのことでした。ちなみに、ミールワームは小麦粉の全粒粉で何世代でも飼えるそうです。ネット検索すると、ジャイアントミールワームは、ウサギ用の固形飼料などで飼育可能と書いてあります。ある程度の緑黄野菜成分が入るといいのでしょうか?例えば、「ジャイアントミールワームの飼育と繁殖方法まとめ」などというタイトルのサイトを見るとかなり丁寧に解説してあります。飼育方法で分からないことがあれば、このサイトの管理者に聞いて見るといいかもしれません。製品として、かなり大量の購入にも対応できるようですので、どこかで大規模に飼っているんでしょうね。一度、見てみたいものです。

10/18の授業後の質問から
[質問]寄生蜂に固有種というのはいるのでしょうか?
[回答] 固有種というのは、その国とか地域にしかいない種類という意味だと思いますが、当然寄生蜂にもそのような種類は調べられているものだけでも相当種いると思います。寄生蜂はその生活を寄主昆虫に依存していますから、寄主昆虫が固有種ならその寄生蜂も固有種になる場合が多いと思います。寄生蜂の寄主範囲にもよるので全てとは言えないと思いますが。また、固有種と思われていた種類が、その後他の地域や国でも見つかる場合はあると思います。かなり調査してからでないと、固有種とは言えないのではないでしょうか。逆に、以前はどこにでもいた種類が、生息域が狭められて最近ではある場所にしかいない、という例もあると思います。私の研究対象のハマキコウラコマユバチという寄生蜂は、以前は静岡県やつくば市でも採集出来たのですが、最近数年をみると、それらの地域では採集出来ないことが分かりました。この種類は、寄主であるチャノコカクモンハマキに依存した生活をしていて、この種が茶樹の害虫であることを考えると、殺虫剤の利用が寄生蜂個体群に影響して居なくなっていることが考えられます。日本でもある地域にしかいない固有種になっている可能性もあります。

10/18の授業後の質問から
[質問]先生の経験で、ある昆虫を見て感動したことはあるのでしょうか?
[回答] 思い出すのに時間がかかりますが、その昔、昆虫少年だった頃、ある山(多分、松山市の福見山)の麓あたりでオオムラサキの雌を見つけました。国蝶であることは知っていたので、雌ではありましたがすぐに分かりました。興奮して捕虫網で捕獲したことがあります。ちょうど朝の涼しい時間帯でしたので、静かに翅を休めていたところだったので、逃げる様子もなく簡単に捕まりました。もう一つの経験は、石鎚山(四国の最高峰)の中腹でアサギマダラの群れを見たことがあります。数百はいたように思います。アメリカ大陸で渡りをするオオカバマダラの群れは、テレビや写真で見ることがありますが、実際に自分で蝶の群れを見ることはそれほどないですね。

10/11の授業後の質問から
[質問]「菌細胞のところで、微生物が次世代に経卵感染すると聞きましたが、その結果未受精卵が産まれたりしますか?
[回答] なるほど、卵が未受精になるような病的な因子が経卵感染して次の代を産まれなくすると言う現象ですね。その病原菌は感染して宿主を殺してしまう場合ですが、この項目で扱ったのは「共生微生物」で、宿主を殺してしまったのでは意味がありません。この項目では、昆虫が共生微生物の力を借りて適応度を上げることに絞って話しを進めたいと思います。実例としては、微生物からの助けで栄養を得るとか、天敵から身を守るとか、交尾相手を探すのに役立つとかが知られているようです。そのような働きを持つ微生物を相利共生微生物と呼びます。もう一つに、宿主の生殖システムを自分の都合のいいように操作するという微生物が居ることが分かってきました。このグループは、生殖操作因子と呼んでいるようです。共生微生物に関しては、書籍や論文もたくさん出ているようですから、調べてみてはどうでしょうか。

10/4の授業後の質問から
[質問]この(スマホ)の写真に出ている幼虫からウジのような幼虫がたくさん出てきましたが、この両者の種類は何ですか?
[回答] この幼虫の写真からは種類が分かりませんが、体表からウジが出ている様子は、コマユバチの寄主からの脱出の様子に似ていますね。私のラボでも飼育しているコマユバチ科の寄生蜂幼虫に似ていますね。脱出した後、白い繭を作ると思います。その後、1週間くらいで蜂の成虫が出てくるでしょう。どんな蜂が羽化してくるか観察してみてください。