「昆虫学」Q&A


7/19の授業後の質問から
[質問]「後半出てきたカイコノウジバエの寄生の仕方が今ひとつ分かりません。再度説明をしてください?
[回答] これは大事なところが十分に説明できていなかったようで失礼しました。カイコノウジバエ、最後に少し説明したカイコノクロウジバエはタイプで言うと「微小卵型」です。0.1~0.2mmくらいの小さな卵を桑の葉に産み付けます。その桑の葉を与えられたカイコは普通の葉と共に卵を食べてしまうので、ハエの卵は消化管の中に入ります。飲み込まれたカイコノウジバエの卵は30分くらいで孵化し、消化管を食い破って体腔内に出て、すぐに神経節に入り込みます。8日後にはハエの幼虫は神経節から気門の内側に移動し、ロート状のソケットを作って腹部先端をくっつけて呼吸路を確保します。そこで、老熟幼虫になって脱出し土に潜って蛹化します。脱出したときに、カイコがすでに繭を作っていたら、仕方なくそこで蛹化します。カイコノクロウジバエの場合は、消化管の中で孵化した後、体腔に出て絹糸腺に潜り込みます。そこで、しばらく過ごした後、カイコの皮フ直下に腹部先端をくっつけて穴を開けて呼吸路を確保します。そこで老熟幼虫になるまで過ごし、脱出した後はカイコノウジバエ同様、土に潜ります。両種の違いは、寄生場所もそうですが、1頭のカイコに寄生できる数も異なります。カイコノウジバエはほぼ1頭のみ、カイコノクロウジバエは数頭が寄生可能です。明治時代にこの寄生様式が分からなかった頃は、「キョウソ病」と呼ばれ、病気として扱われていました。桑葉に産み付けられた卵が原因であることがわかると、そのようなハエの卵が産まれていない桑がよい桑とされ、その対策が取られました。

7/12の授業後の質問から
[質問]「脱皮ホルモンと幼若ホルモンの作用する図(⑥B)に関して、右のアラタ体からはPTTH、左からはJHが出ていますが、何故ですか?
[回答] これは模式図ですから、このように書かれていますが、アラタ体は左右に一対あります。どちらもPTTHの分泌、幼若ホルモン(JH)の分泌の両方を行います。脱皮ホルモンの分泌を行う前胸腺も同様に左右一対あります。模式図は、得てして、わかりやすくするために簡略化して書くことがあるのでこういうことになります。注意が必要ですね。答案でも、模式的に書きなさいと言うところを、あまりリアルに書く必要はありません。つながり具合とかポイントを落とさなければ大丈夫です。

7/12の授業後の質問から
[質問]「カイロモンは受け取った昆虫がメリットがあり、出した昆虫はデメリットと言うことでしたが、何故そのような出し手が損になる物質を出すようになったのですか?
[回答] これは、大変いいところに気がつきました。確かに、植物が昆虫の産卵刺激になるような物質を身につけなければ、幼虫に食べられることも無いわけですよね。実は、植物がその物質を出すようになったのは多くの昆虫にとってはマイナスになる物質だからです。そういう意味では、植物が防御物質としてその物質を身につけるようになり、多くの昆虫に対する防衛手段として有効に働いているのですが、それを逆手にとって利用する昆虫が(進化の過程で)出てきたんでしょうね。その昆虫は、その物質があるから産卵したり食べたりするようになり、自分の生命維持のために依存するようになったわけです。植物にとっては、それは不利になるのですが、わずかな種類であれば許して仕方ないと言うことになったのでしょう。そのために新たな防御物質を(進化の過程で)出すのも厄介なので、仕方なく許している、ということでしょう。ですから、正解は、「植物は、その昆虫には仕方なく摂食・産卵を許しているが、多くの植食者に対してはその物質による防御に成功しているから」とでも答えておきましょうか。

7/5の授業後の質問から
[質問]「化性という意味が今ひとつよく分かりません。また部分化性というのはどのようなものでしょうか?
[回答] これはよくある質問です。昆虫はいくつかのステージがあるのに、どのステージで数えたらいいのか迷ってしまいます。しかし、簡単です。成虫の出てきた回数です。今はマイナーとも言えるイネ害虫の一つですが、ニカメイガという害虫がいます。蛾の一種で、漢字で書くと、「二化螟蛾」です。年に2回発生することからこの名前が付きました。ニカメイガは幼虫越冬ですから、春先にその幼虫が成長して、5月頃に成虫が出てきます。その成虫が産卵して出てきた幼虫が育って夏頃に2世代目の成虫が出てきます。この成虫が産卵して、卵から孵化して育った幼虫は休眠に入ります。ということで、成虫が2回発生する2化性の昆虫です。ニカメイガも地域によれば3化する場合もあるようです。「部分化性」というのは、数年に成虫が一回出るとか、13年ゼミのように13年に一回だけ成虫が出てくる昆虫のことです。1年の成虫世代数が1に満たないと言うことで、「部分化性」という名が付いています。

7/4のメールから
[質問]「蚊は、O型の血液を好むということを聞いたのですがどのようにして血液型を識別しているのでしょうか?」
[回答]そのような噂が出回っていますか?私は知らない話しですので、どこかネット情報として出回っているのでしょうね。この問題は、私には答えようがないので、分からないで済ますことも出来ますが、科学的に証明するにはどうしたらいいでしょう?という課題解決の練習にはいい質問です。まず、蚊は人の血液の味を血液型によって区別できるか?、と言う問題と、蚊は人の血液型の違いをにおいか何かで区別できるか?という問題に分けることが出来ると思います。可能性があるとすれば、後者だと思うのですが、これを科学的な手法で証明しようとすると、大変な実験になるでしょう。それぞれの血液型の人を100人ずつ集めて(これも大変ですが)、それぞれの年齢構成、性別、体重など差が無いようにしなくては成りません。それで、蚊を放したケージに入ってもらい、近づいた虫数と刺された数を記録することになります。この辺まで考えて、あとはくじけそうですね。もしこのような実験をやった例があれば、教えてください。

7/5のレポート課題の解説
[質問]「ハマキコウラコマユバチのメスは何故交尾後もフェロモンを作り続けるのか?」
[回答]この質問は、私の研究から派生してきた課題なのですが、まだ未解明です。色々仮設を立てて、それぞれを検証していかないといけない段階です。それを課題にするとは不謹慎と言われるかも知れませんが、答えが決まっていないから、自由に色々と考えるのも面白いと思い、課題にしました。植物の2次植物成分のところでも説明しましたが、植物にとって防御物質を作ることは結構なコストを伴います。できれば作りたくない。その証拠に、その植物を食べる植食者がいないところでは、作る個体の割合は減ってきます。つまり、環境の中で生き残るために仕方なく作るのです。これは、昆虫も同様で、フェロモンのようの揮発性の油を作るのはコストがかかるので、余程の目的がないと作りません。交尾のために必要であれば、交尾が終われば作るのを止めるべきで、その後も作っているとすれば他にも目的があるだろうと考えられます。果たして、何のために?

6/21の授業から
[質問]「卵原細胞の説明がありましたが、図④にはそれが見当たりません。どの細胞が卵原細胞にあたるのでしょうか?」
[回答] 図②で精原細胞の用語は入っていましたが、確かに図④には卵原細胞の文字が見当たりませんでした。これは形成細胞巣(④A)の中に隠れているからで、この中にある細胞と理解してください。この点は精原細胞が形成細胞巣の中にあるのと同様です。精巣、卵巣ともにこれらの細胞が最も上流にあり、これから細胞分裂が進み、精子形成、卵形成が始まるということです。

教室からの質問
[質問] 「コンビニなどで見る丸型蛍光灯のような物に昆虫が吸い込まれると、バチッとなり殺害しますが、あの丸型蛍光灯のような物の名前と、あの蛍光灯は昆虫のどのような生態を利用した駆除方法でしょうか。」
[回答] 確かに夏になるとコンビニでよく見ますね。電撃殺虫器とか電撃トラップと呼ばれる装置ですね。あの装置に虫が集まるのは、昆虫を誘引する紫外線波長を出す蛍光灯を付けているからです。中に入った昆虫は、電撃グリッドと呼ばれる電極に触ると瞬間的に高電圧が流れて、それによって昆虫は瞬間的に死んでしまいます。私自身は、死んだ昆虫をまじまじと見たことはないのですが、体がバラバラになるくらいの衝撃ではないでしょうか。今度、コンビニへ行ったら落ちている虫たちを観察したいと思います。

6/14の授業から
[質問] 「感桿は---6角形の微絨毛の束から構成されており、この膜上に感光物質であるロドプシンの分子が配列されている」とはどういうことですか?」
[回答] この部分は、具体的に図のどの部分を指しているのかわかりにくいので、授業中の説明に困りました。他の参考になる文献をあたると、網膜細胞から出ている微絨毛を表した図が見つかり、この図からは網膜細胞から内側に微絨毛が出ていることが分かりました。個眼の中心に位置する感桿はそれが束になって集まった器官と言うことで、ちょうど⑪図の左端に変形した鉛筆のような図がありますが、この中心の黒っぽい部分が感桿で周囲が網膜細胞です。光が入って、網膜細胞から感桿へそこでロドプシン(光受容タンパク質)で光を受け電気信号に変換する、ということだと思います。この説明で分かりましたでしょうか?

6/7の授業から
[質問] 「過冷却点(supercooling point)とは何をさしている用語ですか?」
[回答] これ以上昆虫の体を冷やすと凍ってしまう温度を指します。耐凍性を持っている昆虫は、この温度を超えて体液が凍ってもある温度までは生きています。それに対して、耐寒性を持っている昆虫は体液が凍ると死んでしまいますが、過冷却点を低く維持できるので、ある低温まで耐えることが出来ます。真冬にでも飛んでいるフユシャクなどの昆虫はいますから、それらの昆虫の耐寒戦略を調べてみると面白いですね。 

5/31の授業から
[質問] 完全変態の昆虫と不完全変態の昆虫を比較して、完全変態のほうが幼虫と成虫の生活空間が大きく異なるとはどういうことでしょうか?
[回答] 完全変態の昆虫の代表としてチョウ、不完全変態の代表としてバッタを選んでみましょう。チョウの幼虫は食草を食べるのに特化した体をしており、口器も咀嚼型をしています。しかし、成虫は口器は口吻となり花蜜を求めて飛び回ります。食草とは異なる花を目指して飛ぶこともあるので、生息環境はガラッと違うでしょう。ただ、産卵するときは食草を求めて飛びますので、幼虫時代の生息場所に戻る可能性もあります。バッタの場合はどうでしょうか?イネ科雑草の好きなバッタなら幼虫時代、成虫時代ともイネ科雑草上で過ごします。成虫になると飛びますので、捕食者に狙われたとき、餌が無くなったときは飛んで新たな餌場へ移動しますが、基本的に幼虫も成虫も同じイネ科雑草で生活しています。産卵もその付近の土中にします。というように、幼虫と成虫で生活環境が一致するのが不完全変態、生活環境が異なるのが完全変態の昆虫と言っていいと思います。昨日、例外として上げましたように、トンボは不完全変態ですが、幼虫は水中で過ごし成虫は陸上を飛び回るので環境は大きく異なります。

5/24の授業から
[質問] ヤブ蚊ジェットと言う殺虫剤を他の昆虫にかけても効果は期待できるでしょうか?
[回答] 効果はあると思いますが、ヤブ蚊ジェットのような速効性を目的にしている殺虫剤はピレスロイド剤が多いようです。その薬剤を例えばイモムシ(チョウ目幼虫)のような害虫にかけても効果は今ひとつかも知れません。虫体もそうですが、植物にも散布してその植物を食べたイモムシが死ぬる様な薬剤(例えば有機リン剤)のほうが効果があるかも知れません。飛んでいる、蚊とかハエの類はその場でストンと落下することが重要で、いわゆるノックダウン効果を期待する薬剤です。ホームセンターで売られている種々の薬剤も目的によって様々な薬剤が使われています。どのような系統の薬剤か調べてみるのも面白いと思います。化学的防除については、後半の講義で説明すると思いますのでその時まで待ってください。

5/17の授業から
 昆虫の血液循環は消極的な循環ではありますが、盛んに活動する昆虫(飛び回るハチなど)では、腹部の収縮(③の状態)と伸張(④の状態)を繰り返すことで積極的に心臓を動かし胸部との血流を盛んに促します。これは、ちょうど呼吸のところで説明した、ハチ類での腹部の気のう(air sacs)と似た効果で、腹部の収縮・弛緩が積極的なガス交換を促すのと似ています。

 ひとつお尋ねがあります。昆虫の呼吸に関するレポートを出してもらいましたが、「オオスカシバ幼虫の気門の位置」を図解してくれた方は誰でしょうか?レポートに名前がないので困っています。戒能までメールを下さい。

5/10の授業から
資料の④⑤での印刷が不鮮明な部分を下に記します。
気門輪 Peritreme
気門室 Atrium
閉鎖筋 Occlusor muscle
気管 Trachea
らせん糸 Taenidia
真皮 Epidermis

4/26の授業から
1.図⑦g)のオオサシガメの場合、大きく肥大した部分(anterior midgut)の名称は何ですか?
[回答] この場合は、前腸が短く、食べたものがすぐに中腸にたまる構造になっています。これは、授業中にも言いましたが、オオサシガメ(吸血性昆虫)の食性と関係しています。哺乳動物の血液を一度に大量に摂食するので、それを貯めておいて少しずつ消化する訳ですが、血液自体が栄養豊富な液体ですので、消化をほとんど必要としません。ですから、中腸ですぐに吸収できるわけです。普通の昆虫ですと、a)~d)のように前腸の素のうで貯めて置いて少しずつ消化していく方式ですから、器官の名前は、前腸の場合は素のうですが、中腸の場合は、それを指す名前は付いていません。強いて言えば、「中腸前部」とでも言いましょうか。
2.「中腸の構造」のところで、円柱細胞(columnar cell)というのがありますが、図⑨のどれを指していますか?
[回答] 私が説明していて分からなくなったので、調べてみました。円柱細胞または円筒細胞とも言います。図⑨a)の微絨毛の下に位置する細胞全体を指すようです。横断面で見ると円柱のような形をした組織であるところからこの名前が付いたようです。左端にある縦の波線(septate desmosome)が隣の細胞との隔壁に当たります。