りんごのわい化栽培とは


最近、何かの折にりんご畑を直接見かけたり、あるいは写真などで見てみると、昔よりもりんごの木が小さくなったのではないだろうか、と思ったことはありませんか。
これらの木は秋になるとちゃんと実をつけているので、決して苗木ではありません。これは、接ぎ木した穂木の成長を押さえる性質を持ったわい性台木を利用して、わざと木の高さを小さく栽培しているわい化栽培のりんごなのです。

果樹を増やすのには接ぎ木が昔から行われている最も簡単な方法です。そのため、りんごでも古くから穂木を接ぐためのよりよい台木の研究がなされてきました。
優れた台木には、接いだ穂木との相性がよく、穂木を長く立派に育てることができるもの、その果樹が栽培されている土地に合うもの、増えやすく、根が病害虫に強いことなどが求められてきました。
つまり、穂木をひ弱で小さく育てるわい性台木などは、この条件からは明らかに外れた落第生だったということになります。

しかし、欧米における果樹園労働者の賃金の高騰や、日本の生産者の高齢化といった現実的な背景によって、このわい性台木は注目を集めるようになりました。
わい化栽培とは、このわい性台木を用いて果樹の高さを低くし、植え付けの密度を密にして栽培する方法です。
イギリスのイーストモーリングにある試験場が真っ先に開発したわい性台木による栽培は、日本では昭和37年(1962)に園芸試験場盛岡支場で始められ、昭和40年代半ば頃から、長野県や岩手県で行われるようになります。
当初はさまざまな障害の発生がありましたが、研究が進むことでこの問題は解決され、台木の品種改良などもあって、日本式わい化栽培が確立しました。今ではりんご以外にもなしやさくらんぼ用など、世界中に広まっています。

わい化栽培の長所をあげるとすると、何より作業が省力化できるという点があげられるでしょう。果樹園ではりんごの木を剪定して巨木にならないよう管理していますが、それでも木はかなり大きく広がり、作業には脚立が必要です。これの移動や上り下りを繰り返しながらの作業はかなり大変です。また、高齢者には危険が伴います。
わい性台木を使うと、作業に脚立が必要ないくらい小さく、また並列に木を育てることができます。当果樹園の場合は、脚立が不必要とまではいきませんが、わい性の木を並べて植えることで、脚立を必要以上に動かしたり、高いところまで上がる必要はなくなりました。また機械を導入することができ(これも木が大きいと操作がやはり大変です)、作業効率は格段に向上しました。
更にわい化栽培では、一本の木からの収量は少なくなるものの、同じ面積に大木の場合の約6倍の木を植えることができるので、果樹園全体の収穫量は増すことになります。また、通常の木より3年ほど早く実をつけるようになったりするので、新品種への切り替えも早く行うことができます。
反対にわい化栽培の短所をあげてみると、木自身の持っている力が弱いため、木の寿命が大木より短いこと、災害にはあまり強くないこと、病気への耐性が弱いことなどがあります。また、実が1年おきになったりならなかったりすることなどもあります。
とはいえ、省力化の利点には勝てず、わい化栽培は増加しつづけているのです。

果樹の成長を押さえ、木を小さくできるのは何故かはまだはっきりとはわかっていません。しかし、植物の成長を促進するジベレリンというホルモンの生合成反応が乱されると、根や枝の伸びが抑制されるらしいということまでは解明されているそうです。


<参考文献>
「日本大百科全書24」 小学館(1988)
「果物はどうして創られたか」梅谷献二・梶浦一郎著、筑摩書房(1994)
「果物の博物学」渡辺俊三著、講談社(1990)
「昭和農業技術発達史第5巻 果樹作編/野菜作編」農林水産省農林水産技術会議事務局 社団法人農産漁村文化協会(1996)