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ainsel(エインセル)
 エインセルは元々、ノーサバーランド地方から伝わり、それが変化して、
ユリシーズや巨人ポリフェーモス等の逸話にもなっています。
 日本では、なまはげのように「夜更かしする子は〜」と躾けをしたのと同じ
ように、北欧においては、「遅くまでおきていると、妖精につれていかれます
よ」が常套句でした。
 エインセルには、これにまつわる民話が有名です。
  
 ノーサバーランドのニューキャッスル北西にあるロースリー村近くのある農
家に、一人の未亡人と男の子とが住んでいました。ある晩のこと、男の子は、
いつものように早く寝るのを嫌がり、余り騒いでいるので、母親は自分だけ寝
床に入ると、男の子をそのまま遊ばせておきました。「余り遅くまで起きてい
ると、妖精に連れていかれてしまいますよ」母親が言い聞かせても、男の子
は笑うだけだったので、母親は諦めてローソクを吹き消しましたが、男の子は
暖炉の光のそばで遊んでいました。すると、可愛らしい小さな妖精の女の子
が、煙突からふわりと降りてきました。男の子が嬉しくなって「君はだあれ?」
と聞くと、妖精は「エインセルよ」と答えました。「じゃ、あなたは?」と聞かれた
男の子は「僕だって、僕のエインセル(自分ということ)さ」と答えると、二人は
楽しくいっしょに遊び始めました。やがて暖炉の火が小さくなったので、男の子
が慌てて火をかきまわすと、燃え殻が飛び散り、エインセルは足に焼けどをし
てしまいました。エインセルが、もの凄い悲鳴をあげたので、男の子は驚いて、
薪の後ろに逃げ込みました。途端に、凄まじい音を立てながら、凄い勢いで、
年とったいかめしい妖精が、煙突から飛び込んできて「どうしたっていうの?」
と喚きました。「焼けどしたの、母さん、私焼けどしたの!」と小さな妖精が訴
えると、母さん妖精は「誰がやったの?やっつけてやるから」と答えました。
「僕のエインセル(自分)よ」「あんたのエインセル(自分)ですって!」年寄り
妖精はそう言うと「なんだって、あんたそんなことで喚いてんの!さっさと行っ
ちまいな!」と言うなり、怒って小さなエインセルを、目の前の煙突の奥へとけ
りあげてしまいました。男の子は母親の寝ているベッドに飛び込むと、ふとん
を頭までかぶりました。それから随分長いこと、男の子が夜更かしすることは
ありませんでした。

alfar(アールヴ)
 トールキンの「指輪物語」で有名になったエルフのことです。
 エルフは元々古代ノルウェー語のアールヴからきたもので、その意味はずば
り、「妖精」です。北欧神話によると、アールヴには太陽よりも美しいリョースア
−ルヴ(ljosalfar−白い光のエルフ)と黒いデックアールヴ(dokkalfar−黒き
闇のエルフ)がいます。単にエルフと言った場合はリョースアールヴをさします。
 リョースアールヴは天にあると思われるアールヴヘイム(alfheimrーエルフの
国)に住み、神々と同様にあがめられていました。北欧の人々はエルフに豊作
を祈願したようです。性質は善良かつ高尚で、大抵人間に対して友好的です。
 デンマークでは少し違いエルフの男は老人のような姿をしていて、背の低い帽
子を被っています。女の方は若く美しく魅力的で、人間の男は誘惑されてしまい
ます。
 デックアールヴは地中に住み、しばしばドヴェルク(ドワーフ)と同一視されまし
た。こちらはリョースアールヴに比べると醜く小さく、頭は不恰好で猫背です。邪
悪なものは人間に怪我を負わせたり、病気をもたらしたりします。それほどでも
ないものは人家の下に住み、いたずら好きで、良く人間のことをまねるといいま
す(ホブゴブリン、パック、ボギー、ブラウニー等の欄を参照)。

alseides(アルセイデス)
 ニンフの欄を参照。
 森のニンフのことをアルセイデスと呼びます。
 ギリシア神話系の森のニンフで有名なのはエコー(echo)です。
 ゼウスの浮気のアリバイ工作をしたためにヘラによって、誰かが話さなければ話
せないようにされてしまいました。

ariel(エアリアル)
 シルフ(シルフの欄を参照)と同じく、地水火風の四大元素からなりたっているとい
う考え方の中の風を司る精霊です。
 本来は聖書に出てくる言葉で(「イザヤ書」29、1−7、「エゼキエル書」43、15)
「神の祭壇の炉」という意味でしたが、空気を表すairやaerialとの連想もあいまって
大気の精とされたようです。

awd goggie(オウド・ゴッギー)
 オウド・ゴッギーは、子供部屋のデーモンで(子供部屋のボギーの項を参照)、子
供が果物を盗まないようにと、頭をひねった母親たちが生み出したものであると思わ
れています。母親たちは子供たちに、果物の木や、果実の茂みに近づかないよう「そ
んなことをすると、オウド・ゴッギーにつかまっちゃいますよ」と言い聞かせました。
 オウド・ゴッギーは、大きくて毛むくじゃらな芋虫に似た姿で、子供たちを食べてしま
うくらいの大きさをしています。

banshee(バンシー)
 バンシーは、ゲール(アイルランド)語で女の妖精という意味です。男の妖精のこと
はファー・シーといいますが、余り使われることはありません。
 アイルランド語ではbean siと綴ります。
 アイルランドのバンシーは、ケルトの死の預言者で、自分の家族の誰かが死ぬ前
になると泣き叫びます。一般に天寿をまっとうする前に死んでしまった、その家の美
しい乙女の魂であるといわれています。バンシーが幾人か一緒になって泣き叫ぶ時
は、とくにと偉い人か、徳の高い人の死を告げ知らせていると言われています。
 家にバンシーがいることは、旧家出であることを示しているとして、人々は誇りに思
っていました。スコットランドの高地地方では、ベン・ニーと呼ばれ「水辺の小さな濯き
女」と言う意味で、死にかけている人の死衣を川辺で洗いながら、泣き叫び、悲しみ
ました。

bendiyh y mamau(母親の祝福)
 ウェールズのグラモーガンシャーでは、妖精を「母親の祝福」と呼びます。これは妖
精の機嫌をとるためで、妖精たちは死に瀕した子供たちを誘拐し、かわりに取替え子
を残すのが大好きだと考えられているからです。ベンディス・ア・ママイは発育不全の
醜い姿をしていると言われ、その為に自分たちの血統をよくしようと、死にかけている
美しい子供たちを、一生懸命になってさらいます。

 とてもかわいらしい赤ん坊に恵まれた若い未亡人がいて、その赤ん坊を注意に注意
を重ねて守っていた。近所の人たちは、きっとベンディス・ア・ママイがさらおうと狙って
いると囁いていた。子供が3歳になったある日のこと、家畜が大騒ぎを耳にした母親は、
何事かと外に走りでた。戻ってみるとゆりかごを空っぽで、ちいちゃな発育不全の男の
子がひとり、ドアの所にたっていて「ママ」と呼びかけてきた。母親はその子が全く成長
しないので、クリンビルに違いないと考えた。一年の後、未亡人がもの知り男の所へ相
談に行くと、男は、その子をまず試験みるようにと教えた。そこで母親は生卵をひとつ用
意すると台所に入り、その先端を切り取って、注意深くかきまぜた。クリンビルが何をし
ているのと聞いたので、母親は「刈り入れをする人のために、ミート・パイを作っているの
よ」と答えた。すると、「へええ!お父ちゃんから聞いたけど、お父ちゃんお父ちゃんのお
父ちゃんから聞いて、お父ちゃんのお父ちゃんはそのまたお父ちゃんから聞いたんだけど
どんぐりって言うのは、樫の木になるんだろう。けど、卵の空の中で、刈り入れする人に
食べさせるミート・パイを作るなんて、今まで見たこと、聞いたこともないや」母親は何も答
えず、その晩、物知り男の所へ行き、話をした。男は、「そりゃ、良かった。けどあんたの
子供が、ベンディス・ア・ママイと一緒だってことを確かめなきゃいけない」と答え、満月か
ら四日目にリード・ア・グローホの先の四辻に行って、真夜中まで見張っているようにと言
った。ベンディス・ア・ママイの行列がそれまでに通ることになっていたが、母親は、例え
自分の子供その中に見つけても、じっと動かず無言でいなければならなかった。母親は
出かけて行き、男が言った通りにしていた。けれども、妖精の子供たちの中に、愛する我
が無ズ子をみつけた時は、胸が張り裂けそうになった。翌朝、男の元へ行くと、白い羽が
一本も混じっていない真っ黒なオンドリを、手に入れてくるようにと言われた。必死で探し
まわり、やっとのことで鶏を手に入れると、母親は、その首をひねり、羽をむしらずに、焼
いた。羽が皆落ちてしまうまではゆりかおを見なかった。そしてふりむくと、ゆりかごはか
らっぽで、ドアの外側から、可愛い我が息子の声が聞こえてきた。息子はやせて疲れき
っており、自分の身に起こったことは、楽しい音楽を聞いたことの他、何一つ覚えていな
かった。息子はすぐに元気になって、元のように健康にんった。それ以後、その親子が再
び妖精に苦労することはなかった。

bogie(ボギー)
 ボギー、ボーグル、パック・ア・ブー、ボギー・ビースト等は、いたずらで人間を脅かし、
危険な目にあわせる生き物全体に与えられた名称です。大抵は、アンシーリー・コート
の仲間になります。

 昔、ひとりのボギーがいて、ある農夫の畑を自分のものだと言い張っていました。長
いこと言い争った結果、畑を耕すのは農夫だが、その収穫はボギーと半分ずつにする
ということで折り合いがつきました。
 そして、はじめての年の春、農夫が「お前さん、どっちをとるんだい、上かい下かい?」
と尋ねると、ボギーは「下だ」と答えました。
 そこで農夫は小麦を植え、ボギーが手にしたのは、刈り株と根っ子だけでした。次の
年、ボギーは上を欲しいと言ったので、農夫はカブを植えました。ボギーの取り分は前
と同じで全くよくなりませんでした。これじゃひどいことになるぞと考えたボギーは次の
年「小麦を植えろよ、でもって刈り入れ競争さ、勝ったやつがもらえることにするんだ」と
提案しました。「よしきた」農夫はそう答えると、ふたりは畑をきっちり半分にわけました。
けれども、小麦が穂をたれる直前になった時、農夫は鍛冶屋に行くと、細い鉄の棒を何
百本も注文し、それをボギーの分の畑いちめんに突き刺しておきました。刈り入れの競
争が始まると、農夫の勢いはものすごかったが、ボギーの方はかわいそうに「なんて固
い茎だ、なんだってこんな固いんだよ!」とぶつぶつ言いどおしで、そのうちボギーの鎌
はぼろぼろになり、バターも切れないほどになってしまいました。一時間ほどしたところで
ボギーは農夫に「おい、いつ休むんだい?」と声をかけました。刈り入れ競争の最中は、
一緒に鎌を研ぐことになっていたからです。「休み?ああ、昼頃でいいんじゃねえか」と、
農夫が答えるおボギーは「昼だて!そいじゃあ、おいらの負けだあ」そういうと退散してし
まい、もう二度と農夫の邪魔をすることはありませんでした。

bogles(ボーグル)
 ボギーに対するスコットランドの名称です。こちらでは、非常に恐ろしいことをしますが、
中にはボーグルが恐ろしいことをするのは、だいたいが悪い人間に対してであり、弱い人
間に対しては、面倒をみてくれる・・・という考え方もあります。

 隣の家の男に、ローソクを盗まれていた気の毒な未亡人を助けた、という話があります。
 男はローソクがしまってある小屋に忍び込んでいた。そこでボーグルが男に向かい、大
声であざけりの言葉をあびせたところ、男は重い棒を手に取ると振り回しはじめた。けれど
もボーグルは恐ろしい声を出しこう言った。「おれ様にゃあ、骨も肉もなけりゃ、血もないんだ
ぞ、お前なんかにやられるか。さあ、ローソクを返せ!」すると男はローソクを落とし、跪いて
わびを言った。ボーグルは「お前からいただいてくものがあるんだ」そう言うと、男のまぶたの
片側から、まつげを一本ひっこぬいた。その目はそれからずっと「チカチカ」光り続けたという
ことである。

brownie(ブラウニー)
 ブラウニーは、無骨で毛深い小人で、家に住みつくホッブゴブリンの中でも、有名な妖
精です。
 夜の間に家のことを手伝い、決まりが守られている限りは、毎日少しの食べ物を欲し
がるだけで、喜んで働きます。しかし、他の妖精と同じく、見られるのを嫌がり、その仕事
をとやかく言われるのを許しません。贈ったものが何であれ、ブラウニーの反応を見るのは
失礼にあたります。衣類を贈られると、殆どの場合、いなくなってしまいます。この理由には
諸説あって、新しい服を自慢したいので、妖精の国に帰ってしまうという人もいれば、人間
が報酬を出そうと認めるまで、働かなければいけない運命なのだという人もいます。
 
 そうしたことを示す逸話があります。
 昔、リンカンシャーにブラウニーがいましたが、いつも穀物の粉やカラシをひき、台所を掃
除し、はんぱな仕事も全て引き受けていたので、そこの農夫はそのお礼に、毎日の食事の
ほかに、毎年正月になると、上等な麻のシャツを置きました。その年寄りの農夫が亡くなる
と、けちで汚い息子は、あんなブラウニーのやつに、上等な麻をやるなんてもったいないと
言って、縫い目の粗いズック地のシャツを外に出しておきました。ブラウニーはそのシャツを
身につけると、怒り狂い、家中に聞こえる声で喚きました。
 「ごわごわ、ごわごわ、働けやしない! ひくも、つぶすも、もうやめだ、
  麻の服をくれればな、 いつまでだって、世話したさ
  運はおさらば、残るは不幸、 おいらは、遠くに、出て行くさ」
 そして、ブラウニーは出て行き、その農場には二度と帰りませんでした。

changelings(取替えっ子)
 善良なタイプの妖精(フェアリー)が唯一、人間に害をなす癖がチェンジリングです。
 取替え子というのは、妖精が人間の赤ん坊や乳母を盗み、その代わりにおいて行くもの
のことです。取替え子は三種類あります。1つは、だいたい人間に見える形をした丸太ん棒
で、これはグラマー(魔力)によって生命があるように見えるため、それがだんだんと衰え、
死んだようになると、嘆き悲しみ家族の手で葬られます。この丸太は、大人が盗まれた場合
に使うことが多く、その大人とは妖精の赤ん坊を養うのに必要な乳母であったり、また妖精
の幼子がせがんだ若い美女であったりしました。2番目に、成長しない妖精の赤ん坊があり
ます。人間の乳が良い効果をあげられるかもしれないということから、その母親が納得し、ま
た周りの妖精にしてみれば、美しい人間の赤ん坊が、妖精の国に新鮮な血をもたらしてくれ
るのは大歓迎でありました。3つめは、一番有名ものですが、年をとってくたびれてしまった
妖精です。終わることのない生活にあきあきして、世話をしてくれる母親の腕の中で休むこと
だけが嬉しく、食べさせてもらい、甘え、いつまでも可愛がってもらおうというものです。
 取替え子が信じられていた時代には、突然病気に襲われた子供は、取り替えられたと疑
われたり、妖精が子供をまた取り戻しに来るだろうからと虐待されもしました。

 取替え子が妖精の赤ん坊であった場合、時々その妖精の母親が子供を返してもらおうと
助けに来るケースがあります。「アイルランドの古伝説とまじないと迷信」より。
  妖精たちが、生まれたばかりの赤ん坊を取ろうと、とても大胆な襲撃をかけた。両親が
眠っていると、戸が勢い良く開き、背の高い色黒の男が家の中に入ってきた。その後から
年老いたハッグ(hag)が、しわくちゃで毛むくじゃらの子供を腕に抱えて入ってきた。母親
は目を覚まして夫を起こすと、夫は飛び起きて、侵入者に向かっていった。手にしたローソク
が2度吹き消されたが、夫は、火箸をつかみ、年老いたハッグを家の外に追い出した。夫婦
がローソクに再び火をつけると、赤ん坊はいなくなっており、そこには毛むくじゃらの取替え子
の姿があった。夫婦が悲嘆にくれていた時、戸が開いて、頭に赤いハンカチを着けた、まだ若
い女性が入ってきた。何故泣いているのかと尋ねられた夫婦が、女に取替え子を見せたところ、
女は嬉しそうに笑って言った。「これはわたしの子よ。今晩、あなたたちの美しい赤ん坊をさらっ
た仲間が、わたしから盗んだのよ。けれど、わたしは自分の子供の方がいいもの。もしこの子を
返してくれるなら、子供を取り戻す方法を教えてあげるわ」
 夫婦はすぐに取替え子を女に渡すと、女は麦の束を3つ持って妖精丘に行き、それを1つずつ
燃やして、赤ん坊をちゃんと無事に帰さないと、丘の生き物を全部燃やすぞ、と脅かせばよいと
教えてくれた。夫婦が教えられたとおりにすると、子供はすぐに二人のもとに返された。妖精た
ちにとって、丘の茨を焼かれてしまうのは、我慢できないことなのである。

cauld lad of hilton(ヒルトンの血無し少年)
 半分ブラウニー、半分幽霊の家事好きの妖精です。昔、怒ったヒルトン領主の手で発作的に
殺されてしまったヒルトン城の馬小屋番の少年の幽霊と思われています。
 この妖精はひねくれたところがあり、きちんと片付いているものは、何でも放り出し、散らかっ
たり汚れたままになっているものは、手当たり次第に片付け、綺麗にするという習性がありまし
た。

 働きながら悲しそうに歌をうたった。
「ああ 悲しいよ 悲しいよ! どんぐりの実は まだもって
 木から落ちてきやしない、 その実が芽を出し、 木になって、
 その木で揺り籠こしらえて、 赤ん坊 ゆすって 眠らせて、
 赤ん坊 育って 大人になれば、 そうすりゃ、 おいらは帰るんだ」
 けれども、ヒルトンの血無し少年は、自分が考えたよりはやく、自由になることができた。召使
たちが気の抜けない台所に疲れてしまい、これまで手伝ってもらったお礼にと、彼用のパンとミ
ルクの鉢のわきに、マントとフードを出しておいてくれたからであった。十二時、ヒルトンの血無し
少年は、マントとフードを身につけると、歌いながら台所をはしゃいでまわった。
「マントがあるぞ、フードがあるぞ、
 ヒルトンの血無し少年は、いい事なんてもうしない!」
そして夜が明けると、永遠に姿を消してしまった。

cu sith(クー・シー)
 妖精動物(fairy animals)の中の1つでクー・シーは、スコットランド高地地方の「平和好きの
人々」の妖精犬です。
 妖精動物は大きく二種類に分けられます。ひとつは、どこにも属さず、主人を持たない野性の
妖精動物。もうひとつは、妖精たちに訓練されて使われる動物たちで、こちらは妖精に仕える家
畜になります。

daoine sidhe(ディナ・シー)
 アイルランドの一般的な妖精で、元々は長身で美しく、神々とほぼ同じ存在の英雄妖精でした
が、民間で伝承されるうちに、縮小していき、時に「小さい人たち」とか「おちびさんたち」と呼ば
れるようになりました。ですが、人々はディナ・シーを恐れていて、「お歴々」「良い人たち」「あち
らの町の人たち」と言った呼び方をします。本当の名前で呼ぶと不吉だからです。

dragon(ドラゴン)
 イングランドのドラゴンの多くは、一般的なドラゴンの姿と違い、体は細長く、翼はなく、毒のあ
る息をします。これはスカンジナビアのワームと同じで、イングランドには昔ワームがまき付いた
と言われる、人工の塚と同じような、ワームの丘と呼ばれる場所がいくつか存在しています。

 ウォントリーのドラゴンは、山野の恐怖の種でした。あごには鉄の歯が44本生えていて、大き
な翼を持ち、尻尾には長い毒の針があり、火の息を吐きました。木や牛や子供を食べ、その息
のせいで、誰も近寄ろうとしませんでした。そのドラゴンの棲家のすぐ近くに、ひとりの猛烈に勇
ましい騎士が住んでいました。モア館のモアと呼ばれていて、巨人のように強く、短気でした。
恐れるものなどなかった彼のもとへ、ついに人々がやってきて、ドラゴンを退治してくれるように
頼みました。もしドラゴンを殺してくれたら、自分たちに残っているお金を全て差し上げると言われ
ましたが、モアは、戦いの前の晩に、自分に油を注ぎ浄めてくれ、朝になって鎧を着せてくれる、
16歳の黒髪の乙女を貸してくれれば、後は何もいらないと答えました。人々がこれを約束すると
モアは、鍛冶屋へ行き、鎧を一揃いあつらえ、表面全体を鉄の大釘でおおわせました。こうして
準備が整い、乙女が鎧を着せてとめると、モアは、早朝、ドラゴンがいつも水を飲みやってくる泉
に行き、身を隠しました。ドラゴンが泉に頭をつっこんだとたん、モアは凄い叫び声をあげて飛び
出すと、鎖かたびらでかためた拳で、ドラゴンの鼻を殴った。凄まじい戦いが始まり、戦いは二日
二晩続きましたが、どちらも相手の守りを破ることが出来ませんでした。ついにドラゴンが一旦と
びのき、それから前に突進してきて、モアを捕まえ空中に投げようとしましたが、モアは横に飛び
のき、ドラゴンが横をかすめたとたん、大釘をうちつけたかかとをドラゴンの背中にうちおろしまし
た。これがドラゴンの弱点に命中し、ドラゴンは体をまるめ、ぐるぐるとまわり、ついに倒れて死ん
でしまいました。これがウォントリーのドラゴンの最後です。

dryad(ドライアド)
 ギリシア神話にも登場する樹の妖精で、ハマドリアドと呼ばれることもあります。
 彼女たちは、樹にすみ、樹と運命をともにします。外見は、小柄で緑の髪をした美女とされて
います。彼女たちと英雄のロマンス話も多くありますが、樹を切ること、約束を破ることを許さな
いので、彼女たちにひどい目にあわされる結末が殆どです。屈強な戦士であろうと、彼女たちの
言うことを聞く、ミツバチの群れにはかないません。
 また、彼女たちには2つの弱点があります。1つは自分の樹が枯れてしまたり、切り倒されてし
まった時、彼女たちも死ぬということ。もう1つは自分の樹からあまり離れると、やはり生きていけ
ないと言うことです。すなわち、不注意にも彼女たちを怒らせてしまった場合は、全力ダッシュで
逃げなさい・・・ということです。

dryades(ドリュアデス)
 前項のドライアドを参照して下さい。
 こちらには、木のニンフという意味もあります。

dullahan(デュラハン)
 デュラハンはバンシーと同様に不吉な妖精で、誰かが死ぬ前に町中を走り回ります。ただし、
バンシーとは違って死者の貴賎は問いません。彼女らは首がないか、首をこわきに抱えた不気
味な姿をしています。
 しばしば、コシュタ・バワー(coiteーbodhar)、すなわち首なし馬に引かれて棺を運ぶ黒い二
輪馬車(チャリオットー戦車とも訳します)に乗って現れます。このことから、よく騎士の姿をして
いるものと勘違いされますが、実際の伝承では女の姿をしています。

dwarf(ドワーフ)
 ドワーフは、北欧のドヴェルグ(dvergr−小人)という言葉が英語化したものです。現在の一
般的な姿形は、やはりトールキンによって、確定されました。
 しかし、鉱山に宝石や金を掘りに行った、白雪姫に登場するような、小さくて働き者のドワーフ
は、ブリテン諸島の民話では、あまり見られません。

elf(エルフ)
 アールヴの欄を参照。
 北欧スカンジナビアの人々は、エルフ、またはハルダー・フォルク(隠れた人たち)と呼んで、そ
の存在を信じ続けてきました。ハルダーの娘たちは美しく魅惑的で、灰色のドレスに白いヴェール
をまとっていましたが、他の妖精のように、身体の欠陥(長い牛の尾をもっている)があったので、
人間には見分けがつきました。
 スコットランドでは、人間と同じサイズの妖精がしばしばエルフと呼ばれ、フェアリーランドでは「
エルフェイム」と呼ばれたとされています。イングランドでは、エルフは、もっと小さな群れをなす妖
精で、その名前は、とくに小さな妖精の男の子たちを指すのにつかわれました。

 「フェアリー」も「エルフ」も妖精たちの間では、そう呼ばれることに好ましく思っていなかった・・・・
とされています。
  「インプ」か「エルフ」とお呼びなら、
  よくよく気をつけて下さいな、
  「フェアリー」とわたしをお呼びなら、
  いろいろじゃましてあげましょう、
  「良いお嬢さん」とお呼びなら、
  あなたの良いお嬢さんになりましょう、
  だけど「すてきなシーリー」とお呼びなら、
  昼も夜も、良い友だちになりましょう。