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都会の天使達 第一夜
1999年。東京都千代田区の一角。21時00分。
どこにでもあるような、昼は、レストラン、夜はバーに変わる何の変哲もない店・・・”SONG”。
だが、ここには天使が集まる。天使と云うには語弊があるかもしれない。天使の卵が集まる・・・店。
ここのマスターも天使である。普通の人間には見えないが、立派な羽根を持つ穏やかな笑みを絶やさない、
天使の卵達にとっては、先輩にあたり、頼れる人物。
そう。天使には羽根がある。上羽根、中羽根、下羽根と・・・。
上羽根の大きい者は攻撃力が強く、中羽根は防御、下羽根は精神的、感覚的能力が強い。
そして色。黒き羽根は”黒天使”、白き羽根は”白天使”。
黒天使は「裁き」を司り、攻撃が強い。白天使は「治癒」を司り、癒しを学んだ天使。
蒼天使は「結界」を司る救いを学んだ天使。紅天使は憑依能力・・・融合を学んだ奇跡の天使。
緑天使・・・・自然の力を借りることの天使。
それと・・・・・もう1つ・・・・・
天使の卵たちは、人間界おいて、通常の人間社会の身分を持ち、人間として溶け込んでいる。
天使同士であれば、背中に人間には見えない羽根が見えるであろう。
何故、天使の卵たちが人間界居るのか?
エデン・・・・楽園より、地上に降り立ち、”修行”した後、卵から天使になり”楽園”へ帰る。
と云う、規律が天界にはある。最も、天使達ではなく、”神”が決めたことだが・・・
同じく、地上界での修行中に”神”によって定められた規律がある。
1.その天使の力を自分の私利私欲のために用いてはならない。
2.自分が天使であることを人間に話してはならない。
3.人間と恋をする事は出来ます。が、子供を作る事はならない。
4.人間社会を天子の力で崩壊させるような事があってはならない。
此れ等を破ると”堕天使”として、天使から追われる立場になる。
天使の卵達の”役目”の1つに、この”堕天使”達の駆除というのがあるのだが・・・・
”堕天使”と云う身分になるには、是等が起因の者ばかりではない。
今回の話は、それに直面した、天使の卵たちの話である。
某月某日”SONG” 21時。
新しく、生まれた天使の卵達が、人間界(日本・東京都千代田区担当)にやってきた。
「や?酒や酒や~呑むで~~」と陽気な声を上げたのはセーラー服を着た、人間で言えば、高校生の少女
である。関西には行ったことないはずなのに、何故か関西弁を喋る。付け加えたように
「うちは、神巫水面や!よろしゅう」と声を上げる。そして、更に付け加えたように・・・
「マスター!ハイボールね~後あさりバター♪」
神巫水面(かんなぎ みなも) 第一属黒天使 PL:黒うさぎ
「水面ちゃん、それじゃあちょっと・・・」と近くに居た少女が声をかけた。大人しそうな少女である。
「なああんで?ちょっと?あやちゃ」と既に、旧くから友達のような感じで水面が問いかける。
その声を無視して、「私は、紅茶で」と、紅茶好きの彼女が注文をする。
水面はと云うとマイペースで「紅茶にブランディーたらそうね!」とブランディのビンを傾ける。
「にゃあっ、たらすのはミルクです!」と彩がカップを退避させた。
伊吹彩(いぶきあや) 第二属紅天使 PL:KOUITIROU
そんな二人を横目に、小さく「みずきじゅんやです」とつぶやき、その後さらに小さな声で「よろしくです~♪」と云った、男。
20歳位で、男に見える。天使に性別があれば・・・だが。
そして、人事のように、「そうですね。僕のことは純とでも、お呼びください」と付け加える。
それから、「冷酒下さい」とマスターに頼む。雰囲気とは別に、中々渋いようだ。
水城純也(みずきじゅんや) 第一属蒼天使 PL:シン
「コーヒー。ブラックで」と渋い飲み物を頼んだのは、一見インテリ教師風の男である。天使が目が悪いはずないので、当然
かけているのは伊達である。事実、彼は人間界では教師ではないが、進学塾の講師をやっている。
マスターが穏やかな微笑を浮かべ、コーヒーを入れ始める。観察力の鋭い叶には、このマスターが口数は少なく、穏やかな
微笑の中にも力強い天使の誇りが見て取れた。
柳川叶(やなぎかわきょう) 第二属紅天使 PL:葛葉
「ジンジャエールとパスタを頼みます。」とマスターに注文してから、店内をふりむいて、「薙だ。よろしく」と云ったのは、22歳
位の男である。漆黒の羽根・・・・黒天使であることは、天使の目には見えるが、性格もこれぞ黒天使と云う感じのようだ。
だが、勢いにまかせて、攻撃をすると云うタイプではなく、非常に論理的理知的な行動をする。
これは、この場にいる天使全員がすぐに分かることになる。
薙(なぎ) 第一属黒天使 PL:山岳
「優です。皆様よろしくお願いします」とおじぎしたのは、いかにも良いとこで育った人間の少女と云った感じの天使だった。
「18歳です。人間界では高校生をしています」と自己紹介を付け加えた。”卵”の間は天使は不老不死なので、18歳と云っても
人間界の身分の話である。
灰原優(はいばらゆう) 第一属白天使 PL:さくら
最後に入ってきたのは、妙齢の美人である。物腰も落ち着いていて、リーダーこの面子の中ならシップを取れるであろう。
「こんばんわ」と見た目通りの鈴の鳴るような・・・そして、人を落ち着かせる声で挨拶する。
「遥香よ。よろしくね」彼女の人間界での職業はOLである。
緑月遥香「りょくげつはるか」 第一属緑天使 PL:雪玉
天使の卵達の仕事の殆どは、”堕天使狩り”である。
卵達は”堕天使”の情報を得ると自己組織的にチームが組まれ、任務に入るわけであるが、当然、チームが組まれる
溜まり場がある。路上で天使を見かけたら「チーム組もう!」と声をかける分けでは無い。
そう云った、溜まり場の1つがこの”SONG”であり、マスターはそう云った情報を仕入れる役目もしているのである。
SONG内には今のところ、人間の客はおらず、全て天使だった。天使が集まって来たところで、店内に穏やかな
曲がながれはじめ、ウエイトレス~当然天使である~が料理を運んだり、注文をとったりしはじめた。
「みんなあ???なんでや?アルコールはああ??」とハイボールを飲みながら、居酒屋と勘違いしているのでは?
と云った感じの場違いな台詞を張り上げたのは、当然水面である。
ここは親睦の為にお酒でも注文した方がいいかな?と考えた純也が「じゃ、冷酒下さい」とマスターに頼む。
「おおお?冷酒やるやん!天狗舞?越の寒梅?何何何?」と純也につめよる。実は冷酒を頼んだものの、どんなのがあるのか
知らない純也は返事に窮した。この辺の嗅覚は鋭いのか、「じゃうちがついだる。天狗舞ね!いっけ~」とどばどばと純也のグラス
に透明な幸せの水を注ぎ込む。
「大体なんで、お酒呑んでるのよ~?」と隣から、紅茶にブランディを垂らされた彩がじと目で水面に言う。
この辺の喧騒はまだ、人間っぽく、天使としての自覚の少ない、彼等・・・・特に新人であるからに過ぎない。
TVでは丁度ニュースをやっていた。
「先ほど入ったニュースです。東京都の私立高校に通う女子生徒が校舎から飛び降り、間もなく死亡しました・・・」
と、いささか暗いニュースを女性キャスターが神妙な顔で報道しているところだった。
「あ?うちの通う学校や???・・うそぶ~」と、水面が人間にとって生死と云う物がどういうことなのかを知らないらしく、明るい声で
茶化した。
「また自殺?物騒ね」と、軽率な発言を咎めるように一瞬、水面を睨んでから、ため息を遙香ついた。”また”と云うのは遙香の方が
水面達よりも、数日早く人間界に来ており、最近理由不明の自殺者が多いこと知っていたからである。
「何故こうも簡単に命を捨てるのでしょう?」と優が遙香に問う。当然、遙香にも人間の心は分からない。
優に「どうしてでしょうね」と返答したのは、彩だった。彼女も、不思議に思っていたのである。
「こうすると、美味しいで~試してみい」とわざと小声で云い、彩が目を離した隙にティーカップに水面がブランディを垂らしたことには
気づいていない。
マスターは寂しそうな表情をして、ニュースを聞いている。
「だらしのない、自殺する理由に太刀向かないのか?近頃の人間は」と痛烈な発言は薙である。
「あ~っ、また黙ってブランディいれてる!」と、水面の蛮行にようやく気づいた彩が声をあげた時、からんとドアのベルが鳴り独りの
少女がぼろぼろと涙をこぼしながら飛び込んできた。14歳位に見えるが、天使達には人間には見えない羽根が見えるので、その少
女も天使だと分かる。但し、羽根の色は黒ずんでぼろぼろになった赤である。
普段なら、綺麗な萌える様な緋色であることはすぐに分かる。天使の羽根がこうなるには、よほどの・・・・自分の生命力を削って迄・・・
天使力を酷使した時である。
「どうしたんですか?」と純。
「なんや????どーした?まずはブランディ入り紅茶でおちつくんやで~」と水面。
「どうしたのですか?おちついて下さい」と名前通り優しく、優。
「天使が理性を失ったら失格だな」と薙。
「あら、女の子?」と云ってから、薙をなだめる様に「天使っていってもそれぞれじゃない」と遙香。
反応にそれぞれ、性格を表わしつつ、声をかける面々。
其れが聞こえているのいないのか・・・「あたしがっ、死んじゃ駄目って、って、・・あれほど言ったの・・にぃっ・・・うぇええんっ」と泣きじゃくる。
今迄黙って様子を見ていた叶が「マスター、彼女に何か落ち着く飲み物を」と、とても話を聞ける状態じゃ無いことを見て悟りT理、マスターに
云った。
マスターはこくりと頷いて、少女にジャスミンティを差し出した。
少女が落ち着くのを待ってから純也が、「そうか。君はそのニュースの自殺した人の知り合いかい?」と話かけた。
返答は「なんで、なんでニンゲンって死んじゃうの・・っ・・・」である。優が優しく「どうしたのですか、詳しく話してください」と付け加える。
「私は・・・・あの子を・・・助けたかったのに・・っ・・・っく、っくぅ・・」
「彼女を止めようとしてたんだな。でも、とめられなかった。それで、泣いているんだね・・・・・」と純也が同情するように言う。
こくっと少女がうなずき。どうやら、さっきのニュースの自殺した女子高生の知り合いであることがわかった。
「そうなの・・・・助けられなかったのね・・」と優が呟く。
そんな少女天使を冷たく見つつ「それもそうだが、俺はあまり人間に優しくしないタチでね、人間の事で理性は失いたくないな」と薙が遙香に云う。
彼は人間は断罪すべき者と思っているので、少々きつい発言になる。裁きを司ることに誇りを持った黒天使の美学でもある。
「そう?まあ、好きにするといいわ」と云ってから、「でも、自殺の原因って何かしら?」と遙香が聞く。
これは、 「でも、その子は何が原因で死んだりしたのかしら?」云った彩と重なった。
「私はっ・・・ご覧の通り紅天使です。ある日、あの子の心の声を聞いて、それから間接的にいろいろ接触を試みたんですっ・・・」
恐らく、夢に現れた
りして話しかけたのかもしれない。
「がんばったんだね」と彩が女の子を抱きしめて頭なでる。
それを見咎めて、水面が「う?あやちゃ、あやしい・・・」と疑惑の眼差しを向ける。当然冗談だが、根が純粋な彩は真っ赤になって、「そ・・そんな”ケ”
なひでしょ?」・・・・・そんな”ケ”って、どんな”ケ”?
そんな間も少女は彩にだきついて、泣き声をあげる。
「じゃ、うちの頭もなでなでして~~」
「怪我したら考えるね(笑)」それから、女の子に「ほら、泣かないで、それからどうしたの?」
「それで?君とその子の間に何があったんだい?」
「心の声を聞いたの?じゃあ、原因って分かるのかしら」と叶と遙香も続きを促す。
工事中・・・