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DARK CONSPIRACY
第1話:混沌の魔女
2.見知らぬ恋人
「誰?それ?新しい女の名前?」
10畳程度のアパートの一室で、幼馴染の槇耶美が目の端をつりあげて
つめよってきた。
ここは数ヶ月前にあたしが開設したばかりのミニオンハンター事務所だ。
依頼を受けては、ミニオン退治にでかける・・・・・・と言いたいけど、現実
は厳しく、依頼はまだ3件しかない。
槇耶美が目の端をつりあげたのは、単にあたしがさっき「智恵子」と高校時
代の後輩の名前を呟いただけで、別に何があったと言うわけではない。
まあ、高校の頃、”何”があったことも確かだけど・・・
「いや。依頼の話だよ。」
あたしは、へらへらと愛想笑いを浮かべ、その”依頼”をとってきた馨織を
振り向き、
「な!馨織!」とパナソニッキューの蛍光灯よりも明るく声をかけた。
「何が、『な!』なんです?。そういえば、智恵子ちゃん・・・私も覚えてます。
確か、可愛かったですね」
にべもなく、応えやがる。
可愛くないなー、もう。顔は男にしておくのはもったいないほど、可愛いのだ
けど。それもそのはず、 『馨織』なんて女みたいな名前の通り、こいつはあた
しが”女子校”生だった頃の”同級生”で元々女だった。
表向きには、”キメラ”として処理されている。
キメラとは、現代の出生時の男女の判別法の落とし穴で、勘違いされた不幸
な子のことだ。出生時、男の子か女の子かを判別するのは、勿論外見なわけで、
”その部分”が奇形だったりすると、天文学的確率で男と女を間違われる場合
がある。つまり、染色体は男だったのだが・・・○×△が未発達で女として出生
届けを出されてしまったのが馨織だ・・・というわけだ。
勿論、逆もあるわけで、男の子だったのに、ある日突然、生理がはじまり・・・
朝起きたら血まみれで・・「俺、何か悪い病気か・・・もしかして死ぬのか・・・」と
目の前が暗くなった人もいる。
勿論、本当の性が分かった時点で民事裁判所にいけば、本人の意思を尊重し
て、本来の性に戻るか、今のままかを選択して、出生届けの変更をできる。
本来の染色体の性に戻る場合は、外科的整形手術が必要なわけだが・・・
言うまでもなく”何”のである。その為に性を間違われてしまったので。
表向きには・・と言ったのは、その時に、あたしも居合わせたわけで~槇耶美
もいたね~、馨織の場合は実は、何処から現れたのかも知れないダークミニオン
が突然出没したこととも何か関係のある・・と思う・・現代科学では解明できない
ような事態があったからだ。
「それは関係ないだろ~~~で、依頼内容は?」
槇耶美の今にも氷のつぶてが飛んできそうな視線を右頬あたりにうけつつ馨織に
聞く。
槇耶美とは家が隣同士だったこともあり、おしめをしていた頃からのつきあいだ。
あたしは何故か、男には興味がなく、「いいな~」と思うのは女ばかりで、青春ま
っさかりの頃、「どこか欠陥があるのだろうか?」と悩んでいた頃、告白してきたの
が槇耶美だった。その頃からの”つきあい”でもある。
槇耶美も子供の頃から、女のあたしからみても魅力的だったのだけど、その分、
男の子にからかわれたり~好きな子はいぢめたくなるというやつですか?分からな
いけど・・~して、本来の潔癖症も手伝って、すっかり男嫌いになってしまっていた
らしい。
「智恵子ちゃんのフィアンセからです。数日間、智恵子ちゃんが行方不明になってい
たらしいのですが・・・戻ってきてから、どうも様子がおかしいそうです。」
「ふーん。」
あたしは考えこむふりをした。それだけの話で何がどうしたのかわかるほど、頭も
良くないし、ESP能力もない。
「どう、様子がおかしいのかな?」
と聞いたのはなぎさだ。凄い美形の男だ。前回の依頼の時に感じたのだけど、多分
凄腕のミニオンハンターだと思う。何故、新米ハンターである、あたしの事務所に雇
われたのか、謎だったりする。履歴書には経歴がかいてあるけど、そんなのどうでも
良いし、本当かどうか調べようなんて酔狂な趣味はない。
とりあえず、あたしを含め、この4人がHMHSS(HIMEMI’s MINION HUNTER
SECRETARY SERVICE)の面子である。
そのフィアンセ・・・弘の話によると、数日行方不明になりひょっこり戻ってきた時に
何となく、彼女に絹のベールを被ったような、半透明感があったそうな。しかも、行方
不明の数日の記憶が全くなく、別にほっといても良いのだけど、まあ、憂いのないよう
に、何があったのか一応調べてくれというらしい。
まあ、”一応”は調べますわ。
その日の夜、20時にあたし達は、弘と智恵子が同居していると言うマンションに向か
った。5階に部屋はある。とりあえず、呼び鈴を押す。
「えーと、HMHSSの者ですが・・・・・・」
反応がない。TVドラマなら、「何があった~?!」と蹴破って入るところだけど、現実に
そんなことやったら、手錠をかけられてしまう。
暫く待つと、インターホンから反応があり
「・・・・・・待ってました・・とにかく、入ってください。」
と、恐らく弘のものであろう声がして、ロックの解除される音がした。かなり、取り乱した
声音だ。
部屋の中に入り、あたし達が見たのは、必死の形相の弘と、呆然と立ちすくむ智恵子
・・・・そして、多分、女性のものであろう、首のない死体だった。