6.のどちんこ

 恥も外聞もなく…いや、そんなものが今さらあっても気持ち悪いが、それにしたってあくびをするときは口を手で覆えと教わらなかっただろうか。
 あまりにも大口を開けるから、歯や舌どころかその奥にぶら下がっている口蓋垂(いわゆるのどち○こだが、私がそんな下世話な言葉は使わない)までがまる見えだ。
「ふぁ? ふぁんだ? ろうした?」
 むっとしたように睨み付けていたのに気が付いたやつが、伸びもあくびもやめないままに顔だけを少しこちらに向ける。
 あくびをするならする、喋るなら喋るのどっちかにしろ。いっぺんにやるからやつの声は情けなく、しかも不明瞭だ。
 わざわざ口にしていうのもおっくうで、横を向けば、拗ねたのだと思ったのだろう、やつは急に猫撫で声になった。
「や、ロイさんてばそんなに睨まなくても…」
 結局、自分で悪さをしたという自覚があるから、機嫌をとろうとするのだ。その基本的な構造をこの男は本当に理解しているんだろうか。
 夜半になって飛び込んできて、単に泊まるだけならまだしも明け方までセックスにつきあわせ、こっちが目が冴えて眠れなくなった傍らでぐうすか高いびきをかき…。
 思い出したらまた腹がたってきたな。
 とはいえ、さっき声をだしたら情けなく嗄れていて、それがまたやつを増長させるから無言のまま睨み付ける。
「あ〜、朝飯はおまえの好きなもんそろえるから、な? ほら、オレ、今すぐ起きて準備するし!」
 言うなりそそくさとベッドから出ていった。
 脱兎のように、という表現があるがまさにそれだ。
 そんなに私が恐いならそんなことをしなければいいのに。
 やっと本来の広さを取り戻したベッドの中心にごそごそと移動する。やつの寝ていたあたりにはまだ十分にぬくもりが残っていて、それが心地よいような気がして、それがまた腹立たしく機嫌は急降下する。
 今さら、ただのオトモダチに戻れないというのはわかっている。戻ろうとしていないのも事実だ。
 けれどときどき、一線を越えなければどうなっていただろうと思うことはある。
 たとえば、たまに一緒に食事をするとか、酒を飲むとか、その程度の。
 いや、でも、どうなんだろうな。そうでない関係と言うのはいまさら想像もつかない。
 そういえば。
 食事をともにするというのは、セクシャルなニュアンスを含むのだというのを聞いたことがある。
 食べるという行為は、口を開けて、身体の内側を相手に見せることだから。
 その説でいくのなら、喉の奥に性器の名を持った器官があるのもあながち間違いとはいえないのだろう。
 しかし、だとしたら、一緒に食事を楽しんだ時点で、関係の方向性は決まってしまうな。

 我ながら、すばらしい暴論に思わずくすりと笑った。
 この飛躍した論理は、もしかしたらヒューズとつきあった結果の賜物だろうか。
 毛布にくるまり忍び笑いをしている間に、身体から力が抜け、今頃になって睡魔が扉を叩いてきた。
 朝食のメニュー伺いに来たヒューズが、眠りに落ちはじめた私に気付いて文句をいっているのが聞こえたが、知るものか。
 誰のせいか、よく考えてみろ。
 そのかわり、一緒に食事はしてやろう。
 口蓋垂が見えるほど大口をあけてでもな。