1.すね毛
「いいかげんにしないか!」
ざりざりと脛毛の生えた足を擦り寄せて、ヒューズはぐだぐだと甘えかかる。
私のパジャマの裾を足の指だけでめくりあげてそんなことをしているのだから、器用といえば器用だ。
だが、セックスの最中ならまだしも(というかそれだって鬱陶しいときは鬱陶しいが)、後はもうぐっすり眠るだけ、という段になんて絡まれては鬱陶しいったらありゃしない。
「だから、なんだっていうんだ」
向けていた背中を仕方なく彼の方にむけて、うんざりしながらも問いかけてやれば、
「ロイが遊んでくれない…」
この言い種だ。
「何が遊んでくれない、だ。さんざん相手をしてやっただろう! 一眠りする前に本の一冊くらい読ませてくれたっていいだろう?!」
正当な主張だと思って叫んでいるのに、ヒューズは半分も聞かないうちに、視線を逸らせた。
「そうか。面白さに欠けるのか?」
何を言っているんだ、この男は。
そう思って眉を寄せれば、ヒューズは起き上がると片膝をたてて自分のパジャマの裾をぐいと思いきり上まで持ち上げた。
それから、脛を撫でるように何度か手を動かしたかと思うと、
「それじゃ面白いもの見せてやろう。ほーらアリさん!」
無駄に嬉しそうなヒューズを、私は無言でベッドから蹴り落とした。
思いのほかいいところにケリが入ったらしく、落ちた音はすごいのに、ヒューズは声もなく息を飲んでいる。自業自得だ、馬鹿め。
「そんなものは貴様の溺愛する娘とやるんだな!」
強い口調で言い切って、それから本を抱え込むと毛布を身体にまいてやつに背中を向けた。
「…ロ、ロイさん、今、オレ、呼吸が止まった…」
肩ごしにちらりと見れば、溺れかけの人間のように青い顔でベッドのふちに手をかけて、ヒューズは暖かな場所に戻ろうとしていた。
だれがさせるか。
足を後ろに伸ばして、シーツをつかむ奴の指を踵でがしがしと叩く。
「ロイ! ちょっとしたおちゃめじゃねえかよう! そんな本気で怒らなくても…。そりゃ、薄いおまえさんには酷な…げふ!」
踵、顔面にヒット。
「ヒューズ。おまえのアリさんが焼死バージョンになるまえに、居間のソファに移動しろ」
背中を向けたまま冷たく宣言すれば、さすがにヒューズも態度を改める。
「……ロイさん、居間は寒いです」
「かもな。でも火傷とどっちがいい?」
「やけど…っていいたいけど」
「言うのか?」
「………居間のソファを貸して下さい」
「許可する」
すごすごと去る背中を見遣って、私は小さく笑った。
明日の朝食は私の好物が並ぶことだろう。
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