三文オペラ

「で、此方も予算が潤沢な訳ではないので、後の調査は中央に引き渡したいのだが」

「………………」

「数字に明るい奴を2、3人今週中に寄越してくれ。それから送られて来た決済書のことなんだが」

「………………」

「…ヒューズ」

「………………」

「お前が怒ってるのは分かった。だがな、仕事に差し障るのはどうなんだ。お前は公私を分けられないのか」

「……、………」

「それにあれは私に非があるのか?不可抗力だろう?私だって好きで」

「はァッ?!好きでじゃないだと?!」

「いや、落ち着け」

「落ち着けるか、お前は、お前は一生取りかえしのつかねえことをしちまったんだぞ?!分かってんのか?!」

「そんなに怒るな」

「人生にはなあ、謝って許されることと許されねえことがあるんだぜ」

「じゃあ、どうしろと言うんだ」

「どうしようもねえがな、今更」

「だろう」

「…………」

「黙るな。決済書のことなんだが、一つ予算で間違えてるんじゃないかと思われる箇所が」

「俺ぐらい不幸な父親がいるか、ロイ」

「安心しろ、星の数ほどいる」

「エリシアちゃんが最初に口にするのは『パパ』だって産まれる前から俺がどんなに楽しみに」

「お前が私をロイロイロイロイ呼ぶから悪いんだろう」

「たまたま遊びにきたお前なんかをどうして」

「なんかって何だ」

「簡単な名前しやがって」

「大きなお世話だ、いいかヒューズ、概算の3頁目を」

「これからマスタングって呼んでやる」

「お前、いい加減し つ こ い ぞ」

「お〜。出たね逆ギレ」

「分かった、もうお前の家に顔を出さなきゃいいんだろう」

「そんな事は言ってねえだろうが」

「中央に出頭命令があっても、お前の部署には顔も出さない」

「おいおい、ローイ…」

「俺なんかの顔、お前も見たくないんだろう」

「わーるかったって、言い過ぎたってえ…」

「いいか、最初に何て言ったかなんて本人はちっとも覚えちゃいないしたいしたことじゃない」

「俺が覚えてるじゃねえか」

「嘘つけ」

「何が嘘だよ」

「じゃ、俺が…」

「俺が何?」

「いや、いい」

「言いかけて止めんなよ、俺が?」

「…俺が、お前に初めて会ったとき何て言ったか覚えてるか?」

「……………」

「だろう、そんな物だ」

「待て待て、『ロイ・マスタングです!お友達からお願いします!』じゃねえか?」

「……ふーん…」

「……本気で怒るなよ、笑うとこなんだからよ」

「別に怒ってなんかいない」

「だいたい、そんな10年も前の話お前だって覚えてねえだろが」

「……俺は」

「あ?」

「俺は覚え」





激しい通話切断音。思わずビクっとして顔を上げると、抱え切れないほどの書類を片手にした我が副官が、電話のフックに指を掛けて薔薇のように微笑む。



「御承知とは思いますが、緊縮財政につき私用のお電話は外線でお願いします、大佐」













オフィスラブっぽさを目指してみました…。(2004.03.06)