■「奔流」田中芳樹著

●ストーリー
明末期、正史に載る唯一の女将軍として有名な「秦良玉」。四川の内乱平定から対汝真族・金(後の清」など、国家のために戦いぬいた一生を描く。
●感想

作者の重この本と出会ったのは、近所のスーパーでたまたまやっていた古本市。何気なしに覗くと、「女将軍伝」というタイトルに目を引かれた。中国の歴史物であり一冊100円という安さで、何気なく購入して、読み始め、その世界に引き込まれていった。それが只一人女性の将軍として高位に上り、正史に列伝を立てられた巾幗英雄(女性武人)たる秦良玉を描いた「女将軍伝」なのである。小説は彼女が客人と対話しながら回想するという形で展開していく。
 彼女はまさに名将という名にふさわしい働きをしている。明末、朝廷が腐敗し国家の力が失われようとしている時に勇猛な白桿兵と呼ばれる軍団を率い、北で女真族(後の清)という強力な北方民族の侵略をしりぞけ、一方国内では四川でたびたび発生する反乱を平定するのに活躍している。明が滅亡した後は根拠地たる四川・石柱を守り、清も彼女が没するまでは石柱に手を出すことが出来なかったという。
 軍団経営にも優れ、配下に一切の略奪をさせなかった。略奪が当たり前の当時としては希有なことである。また、兵士の家族にまで気を配り、配下や民に非常に慕われた。普通なら万々歳というところであるが、彼女の一生はその栄光の陰に暗い部分をどうしても拭えない。夫は無実の罪で殺され、自分の兄弟は戦死。自分の息子夫婦すら戦死。一方、彼女が忠誠をつくした明王朝は腐敗し疲弊し最後は李自成に倒されてしまう。いかに名声を得たとしても彼女の一生は一体幸せだったのだろうか?彼女の生き方は報われるものだったのであろうか。胸が痛む。
 読みやすく、女将軍という視点が今までなかった視点で非常に面白かった。今、世の中に乱発されている中国ものの本とは比べものにならないほど整然とした質の高い小説とおもう。お勧めできます