
夢解き夢占夢違え、夢見合わせに夢詣で。
凡そ夢に纏わる万象に於いて右に出る者はないと評判の店、夢商いの御伽屋「綴」。
板塀に囲まれた広大な敷地に建つ木造平屋建ての古風な佇まいのその屋敷は、とかく珍事には事欠かぬ迷宮都市カイロの魔法街キリエにあって1、2を争う風変わりさを誇る謎の館として知られていた。
※※※
「いらせられませ」
檜の総板張りの間の中央に置かれた帳台に座した乙女が、床に揃えた手をつき、深々と面を伏せて客人を出迎える。
「夢商いの御伽屋「綴」へようこそ。主の綴《ツヅリ》でございます」
白小袖に緋袴の巫女装束の上から薄物の袿を羽織り、長い緑の黒髪を背に流す綴の姿は、不思議と清雅さよりも色香が勝る。
「当店では、新年祭の間、斎子《イムコ》達に初夢を占じさせております」
見れば、綴が背にした御簾の向こうに白い狩衣姿の少女が4名控えていた。
綴は、深く見透かせない黒瞳を細めて小首を傾げる。
「よろしければ、貴方様もお試しになられませぬか?」
さて、あなたの見た夢は?
木洩れ日の射す森を散策
眩しいイルミネーションの下で待ち合わせ
月光の降る窓辺で転寝
星のない夜の旅路
「如何でしたか?」
呼びかけられて我に返ったあなたに、綴がにこやかに問いかける。
「もしも望まぬ夢ならば、どうぞこの御伽屋「綴」におまかせくださいませ」
添えられた一言は、さすが商売人というところか。
「貴方様の迎える新たな1年が幸多きものでありますよう、お祈り申し上げます」
聖魔の判別し難い魅惑的な笑顔で言祝ぎを告げ、綴は再び深く頭を垂れた。
|