低木の茂みを飛び越えると、其処はちょっとした空き地になっていた。
 急いで視線を動かすと、夜目にも鮮やかな黄色のマントを纏った男女が、青い花の咲く茂みを背に身を寄せ合っているのが目に入る。
 察するに、彼等こそフォレスト王国の王と王妃なのだろう。
 2人は、腕の中に草の葉を編んだ籠を庇っていた。
 そして、彼等の眼前には、今まさに蛇王の魔手が迫っている!
 別ルートを通って来たメンバーも合流して、壮絶な戦いが始まった。
 蛇王は、3つの頭を持つ巨大な蛇の姿をしていた。
 かっと開いた口からは先の二股になった舌と瘴気を吐き出し、長大な胴は近づく者を絞め殺そうと不気味にうねっている。
 更に、取り巻きの蝙蝠の群れがキイキイと耳障りな声を上げて君達に襲い掛かる。
 最初に動いたのは、剣を持った戦士だった。
 無数に群がる蝙蝠をものともせずに、彼は一直線に蛇王に斬りかかって行く。
 君は、戦士を援護する為にパチンコを取り出すと狙いを定めて蝙蝠を打ち落としにかかった。
 普段から使い慣れてるだけあってかなりの精度で命中するが、如何せん相手は素早い上に数が多い。
 弾をかいくぐった何匹かの翼や爪が君の膚を掠め、傷口に血が滲み出す。
 蛇王に操られた蝙蝠は血に惹かれる性質があるのか、一斉に君の傷口を目指して飛んで来た。
 こうなると1匹ずつ倒していたのでは間に合わない。
 パチンコをライトセーバーに持ち替えて頭上の敵を追い払おうとした君は、突然頭の中に響いたキーンという耳鳴りにも似た音に思わず武器を取り落としてその場に蹲った。
 ――マズイっ!!
 気力を振り絞って顔を上げた君の目前に、蝙蝠の牙が迫る。
 だが、次の瞬間、見えない刃が蝙蝠の羽をスパッと切り落とした。
 「立って!」
 声がした方を振り仰げば、王と王妃を護るように茂みの前に立ち塞がった魔法使いの少女が杖をこちらに向けている。
 彼女の背後では、歌唄いの少年が蝙蝠達の発する超音波を相殺し戦意を殺ぐ宥めの歌を歌っていた。
 君は、視線で感謝の意を伝えると、混乱してふらふらと無意味に宙を彷徨う蝙蝠の群れの間を縫って蛇王に走り寄る。
 1つ目の頭を剣で斬り落とされ、2つ目の頭を魔法で灼かれた蛇王は、その状態でも未だ健在だった。
 太い胴で戦士の身体を絡めとり、長い尾を鋭く打ち振って魔法使いの足を払う。
 王達に向けられた邪悪な瞳の一瞥は、歌唄いの少年のたったひとつの武器である声を奪い去った。
 唯一自由に動ける君は、為す術もなく蛇王を見上げて立ち尽くす。
 最後に残った真ん中の首こそが蛇王の本体だった。
 ぎらぎらと蠢く禍々しい色の鱗には戦士の剣も魔法使いの操る風の刃でも歯が立たないのか、傷ひとつついていない。
 ――一体どうすれば――っ!?
 そうしている間にも、次の獲物を求める蛇王の視線がじわじわと君を追い詰める。
 その時、蛇王の呪縛を打ち破って、歌唄いの少年が高い声を張り上げた。
 「眼を!蛇王の弱点は眼なんです!」
 次の瞬間、彼の小柄な身体は蛇王の尾に勢い良く跳ね飛ばされた。
 怒り狂った蛇王は、衝撃に身動きひとつとれずにいる歌唄いの少年に毒の息を吐きかける。
 だが、片足を引き摺って立つ魔法使いの少女の杖の一振りが、危ういところで彼を救った。
 同時に、戦士が囚われの身のまま、蛇王の胴を渾身の力で斬りつけて叫ぶ。
 「今だ!!」
 君は、聖剣エクスカリバーの姿を映したペーパーナイフを鞘から引き抜くと、濁った金色の蛇王の眼に力一杯突き刺した。
 「ぎゃああああっ!!」
 蛇王の口から、耳にするだけで発狂しそうな悲鳴が上がる。
 木々を薙ぎ倒し、大地を削って苦痛にのたうつ蛇王から、君はただ自分の身を護る事しか出来なかった。
 その間にも、魔法使いの少女は王達を庇って障壁を張り、歌唄いの少年は闘いに散った生命の為のレクイエムを謳い上げる。
 最期に、締め上げから解放された戦士が蛇王の喉許に剣を貫き通して、止めを刺した。
 「…終わ…った…?」
 まだ信じられないような思いで呟いて、君はふらふらと立ち上がる。
 だが、気が抜けた所為だろう。
 ぐらりと世界が回るような感覚と共に急激に視界が暗転して、君の身体は再び大きく傾いだ。
 「――っ!?」
 仲間達が呼ぶ声も、もう君の耳には届かない。
 ただ、地面に倒れ込む直前、君の瞳は王と王妃が手にした籠の中で輝く生命の宝珠を捉える。
 ――あぁ、宝珠は無事なんだ…。
 良かった、と唇だけで呟いて、君は意識を手放した。
 

そして、夜明けが訪れる。