彼の星は夜空に在りて光明を放ち、黎明において曙光を誘うものなり。
皓く気高き其の光は、熾しき陽の下にても尚けして喪わるる事はなし。
導きたるもの――其の名は暁の星。
 


Tindomiel



 探索の旅を成就した指輪所持者は語る。
 あの人は、そうですね、とても不思議な人でした。
 知っていましたか?指輪をはめた者の視界は何もかも朧に翳んで、幽界に囚われるのです。
 でも、風見が丘で指輪の幽鬼に襲われた時、あの人ははっきりと人の形をとってわたしの前に現れました。
 あの人の周りだけは、闇に呑み込まれずに確かに其処に在ったのです。
 わたしは、あの人の纏う光を標に、現の世に戻って来ました。
 そう、まるでエアレンディルの光に導かれた船が西方の地を見出すように。
 

Elendilmir


 エルフの友と呼ばれたドワーフは語る。
 彼のような男は見た事がないな。
 ドワーフのように頑強で、エルフの魔法の言葉に通じ、時には魔法使いのように謎めいているのに、確かに人間の王なのだから。
 「夜明けというものはいつの世も人間の希望だ」
 あの夜、戦いの最中の角笛城で彼はそう言ったそうじゃないか。
 だが、朝が来るまでの間、他ならぬ彼の振るう剣の煌めきに、何より彼自身の存在に、わたし達がどれほど励まされた事か!
 ガンダルフが太陽の焔なら、彼は夜明けを導く明星に違いない。
 

Elendilmir


 緑葉の森の王子は語る。
 エルフというのはね、徒に名前を付けたりはしないんですよ。
 彼の為に選ばれた希望という名も、彼の齎す光り輝く世を待ち望む願いばかりでなく、彼その人を表していると思いませんか?
 あの危急の時に、星明りを頼りに夜道を行く旅人のように、わたし達は彼の胸に萌した僅かな望みに導かれて昏き道を駆け抜けました。
 彼が手にした炬火はドゥネダインだけでなく人間の亡霊さえも従え、冥王に与する輩を尽く討ち払ったのです。
 その後、彼は、誓言を果たした死者達を長く苦しい呪縛から解き放ち、彼等が希い続けてきた安らかな眠りを与えました。
 死人さえも救う望みの子――そうして人々が希望を愛するように、彼を知れば誰もが彼を愛するようになるのです。
 

Elendilmir


 今は白となった灰色の魔法使いは語る。
 彼が王位に就いたのは、その血筋の為だけだと思うかね?偶々彼の時代に指輪が現れ、運命が巡ってきたのだと?
 だとしたら、まだまだ彼の事を解っとらんな。
 例えば、広い世界を自らの足で巡り歩いて得た知識と伝承の学、旅先で知り合った様々な種族の人々を矛盾なく受け入れる寛容さ、他者の為に自らを犠牲にする事を厭わぬ高潔さ、過ちを懼れて慎重に振舞う一方で、必要とあらば思い切った行動に出る事の出来る決断力と意志力――これについては、パランティアを使ってかの冥王に挑んだ行為によって充分証明されるのではないかな?――過ぎ行く時の記憶を留めつつ新たな世界を築く王として、彼ほど相応しい人間はそうはおらんよ。
 

Elendilmir


 草原の国の若き騎馬王は語る。
 初めてお逢いした時から、あの方はどこか特別な方だった。
 ひっそりと緑の大地に溶け込むようなエルフのマントに身を包んでいてさえ、あの方の身の内からは意志の輝きが零れてはいなかったろうか。
 そして、大いなる戦いの日に、期せずしてハルロンドの波止場に現れたあの方の姿を目にして、わたしの畏敬と親愛の念は確固たるものとなったのだ。
 衣の裾を翻して海賊船から降り立ったあの方の額には白い星が宿り、閃く剣には冒し難い光が灯っていた。
 古の王の旗印を背に先陣を駆けるあの方を前に、わたしは思った。
 わたしとわたしの国の救い主は、滅びに瀕したこの世界に望みを齎す王に違いない、と。
 

Elendilmir


 再び王を戴いた執政は語る。
 目が醒めて、お顔を一目見た瞬間に、わたしはあの方がわたしの王だという事を識りました。
 それは、わたしにとって非常に喜ばしい事でした。
 黒い息に侵され悲嘆にうちひしがれた眠りの中、あの方は闇の深淵を彷徨うわたしの手を取って光の方へと導いてくださった。
 時折わたしの名前を呼ぶ声の、力強くもなんと慈しみに満ちていた事か。
 わたしは幸福な執政です。
 今の世で最も偉大で英明な癒しの力持つ君主に仕え、共に新たな世の礎を築く事ができるのですから。
 

Elendilmir


 夕星の名を持つ王妃は語る。
 初めて出逢った時の彼は、望みの名に相応しい澄んだ瞳をした、萌え出たばかりの若木のように真直ぐな若者でした。
 わたくしの彼への愛情は、最初は慈しみに似たものでした。
 やがてわたくし達にとってはほんの僅かな…けれど定命の人間にとってはけして短くはない放浪の時を経て、新たな名の如く魂に星を宿した彼に再会した時、わたくしの運命は定まりました。
 エルフは星を愛するもの。どうして彼に惹かれずにおれましょう。
 宵の明星と呼ばれたわたくしは、暁の明星にすべてを捧げたのです。
 

Elendilmir


 死を識る黄金のエルフは語る。
 知っていたよ。彼がわたし達の時に幕を下ろすと。
 皮肉にも、彼自身が終わり逝く時代の最後の証となる事も。
 哀しくはないよ。彼の中には、すべての美しいものが息づいているのだから。
 ただ、会えなくなるのは寂しいね。
 定命の人の子の魂は、何処に向かうのだろう。
 捜しに行こうか?闇の中でも光の下でも、けして消える事のない希望の星を。