■ ■ ■ ■ ■ ■ 唯一のプレゼント by yukito ■ ■ ■ ■ ■ ■
肌寒く感じるようになった十月。ツォンは、やっと仕事を終えて家路へと急ぐ。九時だというのに、街はまだ活気に溢れている。いつもの様にオートロックを外し、エレベータへと乗り込む。きっちりと結んであるネクタイを緩める。部屋がある十階で停まると鍵を右手に持ち、部屋へとゆっくり歩いていく。鍵を差し込むと、開ける方には手応えがない。不審に思い、左胸のポケットから銃を取り出しドアノブを静かに開ける。
(誰か居る)
慎重に部屋へと、入っていく。でも、殺気はしない。不審に思いながらも気配を消しテレビの音が、聞こえてくるリビングの扉を開ける。ゆっくりと開いていく扉に、真っ先に目に飛び込んできたのは、金色の髪。
「ルッ、ルーファウス様?」
体中の力が抜けそうなのを必死に耐えると、よく見慣れた金髪の持ち主の名前を呼ぶ。
「遅かったな」
くるっと、顔をこっちに向けると何も気にしていない様な口調で答える。
「どうしたんですか。何か用事があったのでは、ないのですか?」
確か私用で、早く帰って行ったはずだ。
「これが、用事だ」
「……は?」
ルーファウスは、シャワーを浴びたのだろう。バスローブだけしか、羽織っていなかった。
「私に用事でしたら、会社の方でもよろしかったのに」
「迷惑だったか?」
「とんでもありません。迷惑だなんて……」
この二人は、会社では上司と部下という関係だが、恋人同士なのだ。ツォンは訳が判らなかったが、取りあえず、私服に着替えるために寝室に行く。
「ツォン、何か食べて来たか?」
「いいえ、何も」
リビングから聞こえてきた声に答えると、着替えを終え、ルーファウスのいるリビングへと、戻って来るとそこには、テーブルの上に料理が並べられていた。
「どうしたんですか、これは」
「いいから、食え」
「はぁ……」
ここに来る途中、マーケットにでも寄って来たであろう、見慣れたパッケージが散乱している。
「ルーファウス様は、食べないのですか?」
「俺は食べた」
そう言っただけで、食事をしているツォンを見ているだけだった。ルーファウスの真意が判らなかったが、取りあえず黙々と食事を進めて行く。食べ終わるのを見届けると、ルーファウスは冷蔵庫から深紅の液体をグラスに入れ、ツォンに差し出す。
「ワインですか?」
「いいから飲め」
液体とルーファウスを交互に見ると、諦めたかの様に、液体を一気に飲み干す。味は、果実酒の様にフルーティーで、少し甘目だった。しかし、かなりきつめの酒で割ったのだろう、食道がカッと熱くなる。ツォンが飲んだ事を確認すると、満足気に微笑む。
「一体何ですか、これは」
「……媚薬」
ルーファウスは、いつもより早目に会社を来ると、幹部専用のエレベーターに乗るため、廊下を一人歩いていた。ちょうど角を曲がろうとした時、エレベーターの前にある喫煙場所でレノとイリーナの声が聞こえてくる。
「確か、今月の13日って、ツォンさんの誕生日だぞ、と」
「私、もうプレゼント用意してありますよ」
「何を用意したんだ?」
「私にしかあげられない物。折角あげるんだから、印象に残るものじゃないとね」
「いいよなぁ。また机の上がプレゼントで一杯になるんだよな、と」
二人の会話を影から聞いていたルーファウスは、それから4時間後には、会社を早退していた。
眉間を寄せて、じっとルーファウスを見る。ルーファウスは椅子に軽く腰掛けると、組んでいた脚を解くと、ツォンに見せ付ける様に開いてみせる。じっと、ルーファウスの行動を見ていたツォンは、体の奥がカッと熱くなるのを感じ始めていた。それでも、ルーファウスの真意を掴むため、必死に理性を保とうとしている。
「無駄だそ。それは、本当は五倍に水で薄めて飲むものらしいが、薬に慣れているお前には、酒で二倍にしか薄めていないからな」
「何故、この様な事を?」
ツォンの問いには答えず、開いていた脚の片方を椅子に乗せ、スッと右手をツォンに差し出す。酒と媚薬が回って来たのか、全身が心臓になったの様に、ドクドクと脈を打っている。その右手に誘われるかの様に、ふらふらと近付き足元に跪く。体を近付けるため、ツォンの手をく引き、軽く唇を合わせる。少し顔を離し、ルーファウスは目を細めてツォンの顔を見る。困惑してはいるが、確実に欲情しているのが判る。額に脂汗をかき、焦点が定まらなくなって来ている。ルーファウスは徐々に、ツォンの中心を脚で軽く押しつけ、熱を持っている事に満足するかの様に、妖しげに微笑む。そして、手を取ると、ベッドルームへと誘導して行った。
ベッドルームに入ると、ルーファウスはツォンの手を離すと、一人でベッドに上がり、まだドアの前で立っているツォンを見つめる。
「……したくなったか?」
ルーファウスは、誘惑するように唇を舌で舐めてみる。ツォンは、浅く呼吸を繰り返し、完全に欲情し、理性が飛んでいるようだ。
「なら、来い」
ルーファウスの声をきっかけに、ツォンは服を素早く脱ぎ捨てる。ツォンの中心は、もう天を向いていた。それを確認すると、ルーファウスは体を後ろに移動させる。その時、バスローブの裾を踵で踏み、肩が露になった。白い肌から薄くピンクに色付く。乳首が外気に触れる。ゆっくりとした動作で、バスローブの紐を解き、下着も何も付けていない体を、ツォンの目に曝す。ツォンは、ベッドにダイブし、ルーファウスに覆い被さる。
「もう、どうなっても知りませんよ」
耳元で、吐息と一緒に吐かれた言葉は、とても熱い。
「構わん、好きな様にしろ」
バスローブから腕を抜くと、ツォンの首に回し、引き寄せる。目を合わせた途端、噛み付く様な口付けが始まった。いつもなら、ゆっくりともどかしい様な、優しいキスなのに、今は激しく口の中を舌が動き回る。唇や舌を軽く噛まれ、それだけで体中に電流が走る。
ルーファウスの下に丸まっているバスローブを、さっと引抜くとベッドの下へ放り投げた。唇を合わせたまま、手は忙しなく動き回る。角度を変え繰り返される口付けは、熱く、それだけでイッてしまいそうだ。口の端からは、飲み切れなかった唾液が流れ出る。それを追う様に舌が這う。頬にキスをし、耳たぶを噛んだり、耳の穴に舌が行き来する。
「……ふっん、あぁぁんっっ」
ピチャピチャと、直接耳から聞こえてくる卑猥な音に犯される。
耳を犯していた舌は、首筋に移動し、赤く印を付けて行く。時には、キツく噛みながら。
「いっ……ふあん…ああっっ」
指は、胸の突起を玩ぶ。摘んでみたり、手の平で転がす様に……。左手は右の乳首を愛撫し、左側は唇と舌が刺激を与える。右腕を背中に回すと、ゆっくり下へ降ろし、双丘に辿り付いた。ツォンは、体をルーファウスの足の間に移動させると、大きく開かせる。
左手をそのままに、舌は印を付ける様に、時折きつく吸うと、下へと移動していく。
「ああっぁぁ……はぁはぁっ…」
歯を食いしばって声を抑えていたルーファウスは、今はもう快楽の波へと押し流されている。そして、下を追い掛ける様に、左手が降りて来た。もっとも触れて欲しい部分を通り越して、腰から股へ、股から爪先へと優しく撫でて行く。焦れったい快感に、少し苛立ちを感じながら、ルーファウスはツォンを睨む。気にした風もなく、足首を掴むと、グッと上へ上げ、膝の裏にキスを落とす。片足が上がる事により、奥に隠れていた部分が露になる。双丘を摘む様に撫でていた右手は、左の膝裏に添えると、右脚と同様に持ち上げる。ちょうど、赤ちゃんがおむつを代える時みたいだ。
「なっ、ツォ…ン、やぁっああ」
その状態をキープしたまま、ツォンはルーファウスを一旦見ると、口の端を上げて妖しく微笑む。その顔を見ただけで、背中がゾクゾクする。ツォンは、内股に赤い印を何箇所か付けると、奥ばった所に舌を這わす。初めは、表面をただ舐めていただけの舌が、時折中に入ろうとするかの様に、突き刺さって来る。
「…うんっっくぁ…ああっぁぁ」
焦れったく狂わせる舌は、まだ一度もルーファウスの中心には触れていない。それなのに、蜜をしたたらして触れて来るのを待ち詫びている。
「…ツォ…ン。もっもう、だめっだぁっ…」
どうしようも無く辛い。ルーファウスは、上半身を少し持ち上げると、ツォンの髪を引っ張った。それにつられて、下を嬲っていた舌は、徐々に上へと上がって行き、蜜を滴らせているそれに触れる。
「ふぁぁぁっ、くぅっああっ」
ようやく触れて欲しい所に刺激を与えられ、体中が震える。そんなルーファウスを見て、満足気に微笑む。
「一度、イキましょうね」
そう言うと、口の奥まで銜え込んだ。銜え込んで、2、3回動かしただけで爆発する。
「ああっぁぁっ」
体を硬直させると、次第に力が抜けて行くのが判る。ツォンは体を起こし、ルーファウスを見る。大きく足を開いたままの格好で、大きく呼吸している。ゴクッと、ルーファウスが吐き出した物を飲み込むとキスをした。
「俯せになって下さい」
そう言って耳たぶを噛む。ルーファウスは、体を動かそうと力を入れるが、今までの長い愛撫と、やっとイケた事で動けない。ツォンを見ると、軽く首を振る。ツォンは、ルーファウスの体をそっと裏返すと、腰を持ち上げと足を開かせる。
「今度は私を受け入れて下さい」
そう言うと、グッと熱く太い楔を押し付けると、入り込んで来た。今まで舌だけでしか、解していなかったそこは、きつく侵入して来る物を拒む。
「やっぁあっ。いったぁっううっんぁぁっぁぁ」
「すみません。我慢して下さい」
薬の所為か、いつもの余裕がない。ツォンは、自分の中にある、熱い炎を消し去りたいかの様に、ルーファウスの腰を掴み、馴染んだのを確認すると、激しく動かした。
「んんっ…ああっぁぁっ」
「…はぁっくっ」
ルーファウスにも、やっと快感が訪れたのか、声が色付いて来た。もう、二人の声と結合部分から出る音だけが、部屋に響いている。
「いゃっ、ツォンっああっもう…ぁぁあああっ」
「ルーファウっス様、くっ」
ツォンの腰が奥に突き刺さるように、深く入ってから自分の腹の中に温かいものが広がるのを、ルーファウスは感じた。ツォンは、一旦自分を引き抜くと、ルーファウスの体を仰向けにし、両足を腰で挟む様に抱き抱える。
「まだです。ルーファウス様」
そう言うと、まだヒクヒクとヒク付き、充血しているそこに、まだ萎えていないツォン自身を押し付けると、今度は一気に突き刺して行く。
大きな快感に体中の力が抜けて、朦朧都していたルーファウスは、いとも簡単にツォンを飲み込んで行く。
「ひゃっぁぁ…あああんっ」
今度は、焦らずに腰の動きを回したり、小刻みに出し入れする。激しい快感ではなく、緩やかで優しい快感に、ギュッてシーツを握り締めていた手は、口元に持って行き、妖しく可愛らしい。ツォンは、目を細めて、ルーファウスの表情を楽しむ。
「ルーファウス様、気持ちいい?」
焦点が合っていない目を必死に凝らして、ツォンを見て小さく頷く。萎えていたルーファウス自身も、完全に立ち上がって来ている。
「ああっぁぁぁ…ふぅん…ぁぁっ」
気持ち良さそうに目を瞑り、ツォンが奏でる腰の動きに任せていたルーファウスは、ベッドサイドのテーブルの上に置かれている時計をチラッと見る。何とか時刻を確認すると、ツォンに両手を差し出し抱き寄せる。繋がったままグッと前に押し倒したため、より一層深く繋がり、ビクビクッと体が震える。
「ぁぁっ…ツォンっっ……ぁぁっああっ」
ツォンの顔を両手に挟んで、チュッとキスを送る。
ルーファウスの行動に、一瞬動きを止めたが、がばっと抱き締める。
「…ルーファウス様」
抱き締めたまま動こうとしないツォンに、イキたくて秘部に埋め込まれているツォン自身を締め上げ、動く様に急かす。
そんなルーファウスの頬にキスをすると、抱き締めたまま上体を起こし、向かい合う様に座らせると、ルーファウスの腕を首に回させる。
「一緒にイキましょう」
快楽で目が潤んでいるルーファウスの腰を持つと、ゆっくり動き出し、だんだを早い動きに変わって行く。
「ああっぁぁん…はっっ」
自分の体とツォンの体に挟まれたルーファウス自身は、もう爆発寸前にまで腫れ上がっている。突き上げられる動きに合わせて、腰を回したりして頂点に向かって、一気に二人で駆けのぼる。
「ツっォンっ…ぁぁっもうダメだぁぁっああっ」
「ルーファウス様っ…愛してますっ」
「…あああっっ」
「…くうっっ」
しっかりと抱き合ったまま、しばらく居ると、ツォンはゆっくりとルーファウスの体をベッドに降ろす。そして、そっと抜き取るとキスを送る。
「湯を張って来ます」
そう言うと、ルーファウスの体にシーツを掛ける。朦朧としているルーファウスの手の甲と唇にもう一度キスを送り、バスルームへと消えて行った。
やっと体の熱い火照りが冷めかけた時、ツォンはルーファウスをシーツごと抱き抱えると、バスルームへと連れて行く。
体に力が入らないルーファウスを丁寧に洗い、自分もさっとシャワー浴びる。ルーファウスを湯槽にそっと浸からせると、ツォンはバスルームから出て行った。温かいお湯は眠りを誘う。朦朧としているところにツォンが戻って来た。湯槽からあげると、バスタオルで包み、ベッドルームへと連れて行く。ベッドには、真新しいシーツが敷いてあった。
そっと降ろされ二人並んで横たわると、ツォンの腕にルーファウスは頭を乗せる。
髪を撫でる手に、気持ち良く目を瞑っていると、ツォンが遠慮がちに聞いて来た。
「ルーファウス様、どうして今日はこの様な事を?」
「……お前の誕生日だからな。俺しか出来ない事をしてやりたかったんだ」
ルーファウスは、朝のレノとイリーナの会話を思い出す。
「プレゼントはどうだったか?」
驚いているツォンを見て聞く。
「はい、素晴らしかったです。最高のプレゼントでした。ありがとうございます」
満足気に微笑むルーファウスを抱き締める。
「でも、もし薬が切れなかったらどうなさるおつもりでしたか?」
「大丈夫だ。今日は俺もお前も休みだ。だから、一日中俺を独占出来る訳だ」
驚いていた顔は、嬉しそうに微笑む。ルーファウスだけが見る事の出来る笑顔。そして、ルーファウスだけが作る事の出来る笑顔。
「幸せです」
自分だけが出来て、それを喜んでくれると、とっても嬉しい。
そして、自分だけが出来る事が有るというのも、とっても嬉しい。
あなたの幸せの手伝いが出来た様で……。
生まれて来てくれて、ありがとう。
自分だけが作れる、唯一のプレゼントを持って、幸せになろう。
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