■ ■ 棘のない薔薇  By-Toshimi.H      


「お呼びですか?ルーファウス様」
 その日の任務を終えジュノンへ帰還したツォンは、副社長に呼び出され、彼の個人オフィスへやって来た。
「お前に一つ、確かめたいことがあるんだが…」
「は……」
「今日社内で、お前の良くない噂を聞いてな…」
 ツォンより遥かに年下の副社長は、足と腕を組んでデスクの向こうで据わっている。
 日頃あまり表情を変えない彼、ルーファウスの眼光はいつもより鋭く見えた。
「……。私がウータイのスパイではないか、というお話ですか?」
「そうだ」
 戦争中故に、敵国のスパイがジュノンに多く侵入している。何人ガス室送りにしたか、数え切れない。
 ルーファウスは椅子から立ち上がる。
「確かに、私はウータイの出身ですが……。あなたにまで、そう思われていたとは、心外ですね」
 ツォンの言葉を聞き、こぶしをデスクに叩き付ける。
 その瞬間、書類の束が微かな音を立てた。
「現に、重要機密の流出も確認されている!どう説明するつもりだ。タークスでなければ入手出来……!」
「私が流してしいる、そうおっしゃるのですか!?」
 思わずルーファウスの言葉を遮る。
 確かに、神羅カンパニーに入社した当初の目的は、そうであった。だが、今は違う。
 タークスに配属され、ルーファウスと出会ってから、故郷とは縁を切っていた。
「では、俺の前で証明してみろ!そうすれば、信用してやる」
 ルーファウスは、暗い海を望むガラス窓に凭れかけ、腕を組み、ツォンを睨み付ける。
「……。分かりました」
 ツォンはルーファウスに近付くと、彼の顎を掴み上を向かせると、瞬間的に驚きの表情に変わったその唇を奪った。
 ツォンは舌を強引に絡ませる。
「ん……」
 ルーファウスはツォンの体を押し退けようとするが、その抵抗は無駄に終わった。
 唇を離された直後、羞恥で顔を赤らめながら、せめてもの抵抗を見せる。
「き…きさま…。どういうつもりだ」
「だから、証明しているのですよ。私が決してあなたを裏切らない、という証明をね」
 ツォンは薄く笑いながら答える。
「これが、証明だというのか?バカなことを言うな!」
「やれやれ、困った人だ…」
 そう言いながら、ツォンは楽しそうにルーファウスの首筋を唇でなぞる。
 ルーファウスの身体に戦慄が走り、全身を強ばらせる。
 ツォンは慣れた手付きで、ルーファウスの上着を脱がしていく。そして、黒いシャツの裾を引き出し、胸までまくり上げ、あらわになった白い肌を舌と指で愛撫する。
 胸の突起を指先でねじるように愛撫し、また舌で転がし吸い上げる。
「や…ツ…ォン…」
 ルーファウスは身体を硬直させ、必死に耐える。その目には、涙が滲み出す。
 ツォンは突如として愛撫を止め、自分の上着を脱ぎながら、ルーファウスのデスクへ向かい、その上の書類をさっと退ける。
 そして、上着とネクタイを傍らへ置き、ルーファウスへ振り返ると、ニコリと笑う。
「こちらへ来ていただけますか?ルーファウス様」
 ルーファウスの足は、怒りと羞恥、屈辱で震えていた。その目も怒りに満ちている。
 ツォンはそんなことはお構いなしに、再びルーファウスへ歩み寄り、抵抗をものともせず、その小さな体を抱えると、デスクの上に据わらせる。
 ルーファウスが怒るのは、よく分かる。この誇り高い人が、自分の部下に抱かれようというのである。
 しかし、それがツォンの征服欲をかき立てるのだ。特に戦争中の世の中では、破壊と征服が全てであった。
 ブーツを脱がせ、ルーファウスのズボンのベルトに手をかけ、巧みに外す。
「そんな顔をしないで下さい。私はそうやって怒っている顔も好きですが…」
 たまには違う表情(かお)も見てみたい…。そう、例えば……
「ば…ばか……。やめろ……。や…だ……」
 腰を浮かせ、一気に脱がすと、強引に足を開かせ、自分の肩にかける。あらわになったルーファウスのものを、口に含むと入念に愛し始める。
 ルーファウスが決して逃れられぬよう、腰をしっかりと捕まえる。
 初めは抵抗していたルーファウスだが、その声はいつの間にか甘い喘ぎに変わっていた。
 恐る恐るツォンの頭を自らに押し付けるように抱く。
「あ……ん…ツォン……」
「ヨクなって来ましたか?まだ、これからですよ」
 ルーファウスが達する直前に、口から解放する。そして、内股を激しく吸い上げると、その跡が鬱血して赤くなった。
 ツォンはルーファウスの手を取り、デスクから立ち上がらせる。
 自分に素直に従う孤高の人を見るのは、心地よかった。
「ツォン……?」
 今度は、くるりと向きを変えさせ、上半身をデスクに俯せにして、両手を後ろ手に押さえ付ける。
 ルーファウスの後ろの秘部をしなやかな指先で探りながら、耳元で囁く。
「良いですか?しばらくは苦痛かもしれませんが…、すぐにヨクなりますから・」
 ルーファウスは、堅く目を閉じ唇を噛んで、ツォンの言葉を聞いている。
 返事が無いのも構わず、秘部を探りながら、ルーファウスの先走りの液体に気が付くと、それをすくい取り、後ろから犯し始める。初めは浅く、そして少しずつ奥へと侵入させる。
「あぁっ………ォ…ン…っ」
 ルーファウスは衝撃で跳ね起きようとするが、腕の自由を奪われているために、思うようにならない。
 ゆっくりと出し入れされるツォンの指が、ルーファウスの身体を翻弄する。
 卑猥な音が、ルーファウスの羞恥を甦らせ、身体を熱くさせる。
「力を抜いて下さい。辛いのはあなたですよ」
「……ん……あっ……あぁ……」
 更にツォンの指が増やされ、ルーファウスは悲鳴をあげる。
「あぁぁっっ……や…だ……」
 しかし、身体は本能の赴くままに弛緩し、ツォンの2本の指を受け入れる。
 それに気が付いたツォンは、ベルトを外し、ズボンの前を大きく開き、自らのものを取り出す。
 そしてルーファウスの腕を離し、腰を浮かせる。
 やっと腕が自由になったルーファウスは、起き上がろうと肘を付くが、その瞬間先程とは比べ物にならない程の衝撃と激痛が全身を貫く。
「ああぁぁっ……!」
 顎を仰け反らせ、悲鳴とも、嬌声ともつかない声をあげる。
 自分の内に他人のものを感じる。熱く鼓動を刻む大きな異物は、ゆっくりとその感覚に慣れさせるように奥へ、奥へと侵入する。
 ツォンの左腕がしっかりとルーファウスの身体を固定し、そして、右手で再びルーファウスのものを嬲り始める。
「ああぁ……はぁ…あっ……はぁ…はぁ……」
 自慰とは違う快感に次第に満たされてゆく。そして、ツォンの動きに合わせて、円を描くように腰を動かす。
 ツォンが自分を裏切ることなど、絶対にありえない。そんなことは、とうに判っていたのに…。何故、彼を信じてやることが出来なかったのだろう。
 戦争が熾烈を極める毎に、忙しくなる任務の為に、顔を合わせることもままならなかったツォンに、ただ、逢いたかっただけかもしれない。その任務が、この世で1番嫌っている父親の警護ともなれば、尚更だった。
 しかし、もう自分が何故こんな目に遭っているかということは、どうでもよくなっていた。ただ、ツォンに抱かれ、支配され、感じていたいだけだった。
「まだイかせはしませんよ」
 ツォンは、ルーファウスの中から、己を引き抜く。
「ツ…ォン…?」
 ルーファウスは少し残念そうな表情で、己の支配者を振り返る。
(そうそう、その表情ですよ・ 私が見たかったのは。でも、もっと淫らにして差し上げますよ・ルーファウス様)
 ツォンはルーファウスの腕を掴み、引き寄せる。そして、すっかり乱れた金髪を優しく手で梳く。
 ルーファウスはじっと目を閉じ、快感でマヒした身体をツォンに預けていた。
「今度は、天国へ連れて行って差し上げますよ」
 ツォンはルーファウスが身に付けている最後の一枚を脱がすと、再びデスクに持ち主の上半身を横たえる。
 そして自分も全裸になると、ルーファウスの上にのしかかった。
 ツォンの身体はルーファウスの両足の間に割り込んだ為、彼の足はあられもなく開かれている。
「……ツォン……」
 ルーファウスの両腕がツォンの首に廻され、唇を求める。その要求に答える為、ツォンはその上に己の唇を重ねた。
 ルーファウスの方からためらいがちに舌を絡ませ、ツォンを求めるが、あっという間に形勢は逆転する。
 ツォンは、ルーファウスの意外な行動に内心、驚きながらも喜びの方が勝る。
 何度も何度も角度を変え、舌を絡みつかせ、お互いを貪る。
「……んっ……ん…」
 呼吸もままならない程の濃厚な口付け。
 ルーファウスの足が、ツォンの腰に廻される。
「どうも、イきたがっていますね…。わかりました。抜け駆けは許しませんよ」
 不安と、期待とが入り交じった目で見つめられるのも、悪くない。
 ルーファウスの両足を外し、彼の身体を二つ折り状態にし自由を奪う。ルーファウスの顔が淫らな格好に、さっと紅潮する。
 左手をルーファウスの右手に重ね、そっと握る。微かに震え、ツォンの支配を待ちわびるルーファウスを愛し気に見つめる。そして、先程犯していた部分へ、再び自らを勢いよく貫いた。
「あ…んんーっっ!!」
 ツォンの右手で口を塞がれ、絶叫がくぐもった声にしかならない。
 誰も来ないのは分かっている。だが、それでも鼻が触れる程、顔を近付け、意地悪く言う。
「ん……、ルーファウス様…。大声を出されては、人が来ますよ。こんな姿を曝すおつもりですか?」
 ツォンはあくまで敬語を使い続ける。それが、ルーファウスにとって屈辱的なことで、誇りも自尊心も傷つけているということも、分かっている。
「はあぁぁっっ……!ば…か……。ゆ…っくり……や…れ…。んっ…あっあっ……」 
 ルーファウスの爪がデスクの表面を引っ掻き、嫌な音がする。
「はっ、はっ、ルー…ファウス…様…。その表情も…声もイイですよ」
 呼吸を荒気ながら、言葉でもルーファウスを犯す。腕の中の小さな身体は、更に熱を帯びる。
 締め付けが強くなると、ツォンは突き上げを一層激しくする。
「い…痛っ…。や…やだぁ……。ゆっ…くり…ゆっくり……はぁ…シテくれ…」
 ルーファウスがあまりに痛がる為、「仕方ないですね」と薄く笑い要求通りに、次第に突き上げを緩め、今度は腰を回し始める。
 涙で濡れた目を優しく拭う。
 ルーファウスの中のツォンが、より一層感じられる。もっと、彼を感じたかった。
 自由な方の腕をツォンの背中に回し、本能的にツォンの動きに合わせて、自らも淫らにうごめき出す。
「あ…あぁ…んっ。もっと……ツォン…」
 苦痛で歪んだ顔から、恍惚感に支配された表情に変わる。
 ツォンの舌がルーファウスの白い胸を這い、突起物へ辿り着くと、すっかり堅く立ち上がったものを丹念に転がす。
「あ……んっ」
 強めに歯を立てられて、ビクリと波打つ。
 それから、2人は再び濃厚な口付けを交わし、ツォンはルーファウスの身体を攻め立て、ルーファウスはそれを受け止めた。
 ルーファウスが我慢しきれず、極まって、甘く切ない声と共に、快楽の密を放つ。そこで、ルーファウスの意識は途切れた。
 まだ、達していないツォンは、大いに不満だったが、己を抜き去り、髪を掻き上げる。
「抜け駆けは許さない約束でしたが……、初めてということで、許してあげましょう」
 ルーファウスの傍らに据わり、意識のない白く細い身体を抱き上げる。
 すっかり汗で濡れ、乱れた前髪を掻き上げ、現れた額にキスをする。
「愛していますよ…ルーファウス」


あとがき