■ ■ 隷 属 by mitsuki.S      



タン タタタタタン
リズミカルな音が、シンプルな家具で統一された部屋に響く。
物自体が余り置かれていないためかひどく殺風景に見えている。
ツォンは持ち帰った仕事を処理するため、自宅でキーボードを叩いていた。
疲れてきたものか、首を回し肩を揉む。
そして、傍らに置いてある少し冷めてしまったコーヒーに手を伸ばそうとしたとき、来客を告げるベルが鳴った。
セキュリティのモニタを覗くと、そこには辺りを気にしつつ立つ黄金色の髪の青年が見える。
薄く笑うと、ツォンは誰何せずにドアを開けた。
「どうなさったんですか?こんな所までおいでになるとは。」
淀みなく出てくるセリフにはその言葉とは裏腹に、やって来た理由を確信しているような響きがあった。
それを受けるルーファウスの臆したような蒼い瞳は、真っ直ぐに見つめることをしない。
いつもの彼ならば、考えられないようなことだ。
そもそも、ツォンの自宅まで来るようなことが今まで無かったことだが。
おもむろに、後ろ手に持っていた濃い色の布を差し出す。
「これ。掛けていってくれたんだろう?返しに来た。」
それはツォンの制服の上着。
帰りがけに副社長室に寄ったとき、ルーファウスが書類の上に俯せて眠っていた為に背に掛けてきたものだ。
部下の部屋を訪ねてきたということを見られたくないのか、それとも別に理由があるのか、差し出しながらも辺りの気配を伺っている。
ごく普通の白いシャツとベージュのパンツを身につけただけの姿だが、見る者が見ればその正体は知れるであろう。
「とりあえず、中にお入り下さい。そんなに人目が気になるのならば。」
ハッとしたルーファウスは見透かされた思いで薄く頬を染めながら、ドアの内に入る。
バタン
ドアは閉じられた。


「どうぞ。」
ツォンはルーファウスのために紅茶を出す。
人を迎えるための家具など用意されていないその部屋では、先程まで携帯用端末を叩いていた場所が片付けられ、ルーファウスは座らされていた。
「邪魔をしたな。」
ポツリと呟く。
「いいえ。」
カップを手に取り、ツォンの様子伺いながら口を付ける。
そのまま、沈黙が続いていった。
ルーファウスは、当たり障りのない会話さえ出てこないほど緊張している自分に気付く。
こんな風に、何故部下の前で緊張して待っていなければならないのかが分からなかった。
(・・・・待って・・いる?)
自分の思考に驚いたように顔を上げると、ルーファウスはカップを置き立ち上がった。
「じゃあ、返したぞ。帰る。」
きびすを返して立ち去ろうとする腕が掴まれる。
「ツォン!?」
ルーファウスが咎めるようなきつい眼差しで振り返った。
「それだけじゃないでしょう?用事は。」
「何をっ。」
手を振り払おうとするがビクともしない。それどころか、さらに強い力が込められる。
「まだ、大事な用が済んでいませんよ。」
ツォンは自分の元にルーファウスの身体を引き寄せると、きつく抱きしめた。
「ツォン!!」
激しく抗うが、腕に込められた力は弛まることはない。
「欲しいのでしょう?確かな快楽が。」
耳元でそう言うと、そのまま耳朶を噛む。
ビクリと何かに貫かれたように震えたルーファウスは、首を反らして必死に避けようとする。
それを追うようにツォンは首筋を舐めた。
「ひゃっ」
思わず声をあげ、身体を竦ませたルーファウスを抱き上げ、そして、机の上に放り出した。
「痛っ・・・何をする気だっ!」
起き上がりながら、キッと睨み付ける。
強い瞳で睨むことがさらにツォンの征服欲を刺激することも知らずに。
「あなたはそのつもりのはずですよ、ルーファウス様。」
起き上がった身体を再び机に押しつけると、ツォンは口元に冷たい笑みを浮かべる。
「そうでなければ、どうしてやって来たんです?上着など、明日でもいいはずだ。」
右手の指が頬を撫で、唇をなぞる。
ゆるゆると首をもたげる乱暴な衝動を少しだけ抑えていると、見る見る間にそれはツォンの身体中を支配していった。
「そしてあなたは、私が招じ入れるまま部屋に入った。それは、こうする為でしょう?」
その衝動に従い、噛み付くように唇を奪った。
「・・・・んんっ・・・・・」
絶対に開くまいと固く閉じる唇を顎を押さえて無理矢理開かせた。
侵入したツォンの舌は絡まるものを求めてうごめく。
逃げる獲物を追いつめ、絡みついた。
(熱い・・・・)
ルーファウスは口腔内を犯されながら、感じていた。
己の内を思うままに貪る者が、火を付けて廻っている。
2人の唾液が混じり合って、ルーファウスの顎を伝っていった。


離れたツォンは自身の口元を拭った。
伏せたきりのルーファウスの顔は上気し、空気を求めて荒く息をついている。
黙ってその様を見下ろしていたツォンは、何かを思い付いたように先程の上着に手を伸ばす。
「この中にはね、こんな物も入っているんですよ。」
内ポケットを探ると簡易手錠を取り出し、目の前にちらつかせる。
そしてルーファウスの手首は、それによってきつく戒められた。
「お・・まえ・・・こんなことをして・・・・・後でどうなるか分かっているんだろうな。」
あまりの屈辱に呻くようにして言うルーファウスを見て、口の端を上げる。
「あなたは、何もなさいませんよ。何もできないと言った方が的確ですか。」
「なっ・・・・・あぅっ・・・・・」
言い返そうとする暇を与えず、ツォンの手は動き出した。
シャツの上から、薄くもないが、決して厚いとは言えない胸を撫で下ろす。
それだけで、既に身の内に熱いものを抱えているルーファウスは、抑えきれない声をあげた。
「ほら、ずいぶんと乗り気じゃないですか。でも、こんな物は無い方がいいでしょう?」
ツォンは机に腰掛けると、力任せにルーファウスのシャツを引き破った。
間からは白い胸が覗く。
ついで、下肢からも全てを剥ぎ取る。
ルーファウスの驚き、非難するような鋭い視線が、いっそ心地よかった。
覗いた胸の突起を無造作に摘む。
「・・・っ・・・・」
指の腹で丹念に転がされ、刺激を与え続けられる。
「イイんでしょう?声を出して下さい。もっと良い声が出るはずだ。」
「どういう・・・つもり・・だ・・・・こんな・・・・」
「この間も言ったでしょう。あなたを愛しているんですよ、私は。あなたに私というものを刻みつけたい。それだけです。」
肌を探る手が、ひどく冷たく感じられる。
ルーファウスはそれだけの刺激にも身をよじって悶えた。
「・・・っぁ・・・・・」
身体が自分のものではないようであった。
脇腹に触れる指、股を撫でる手のひら。
ひとつひとつに反応し、もっともっとと求めてしまう身体が呪わしい。
そんな思いを噛みしめながら、漏れ出る声に耐えているとツォンが声を立てて笑った。
「あなたの身体は、もう私無しではいられないんですよ。」
巧みな指と舌とで追い立てられるていくルーファウスの目尻には、透明な雫が溜まっていた。
しかしそれらは、ルーファウスの頂点をうまい具合にはぐらかす。
思うままには欲しいものを与えてくれなかった。
波のように強くうち寄せては引いてしまう。
この焦れったい愛撫で、彼自身は精を放つこともできず、身体中から集められた欲望が熱く脈打っていた。
余りの苦しさに気が狂ってしまいそうであっても、最後の矜持を捨てられないルーファウスは決して口にはしない。
「・・・・・我慢しますね。身体に良くないですよ?」
そっとツォンの長い指がそこに触れる。
ビクッ
ルーファウスは身体ごと跳ね上がった。
「フッ。そんなにここには触れられたくないんですか?それでは、触れるのはよしましょうか。」
意地の悪いそんな一言と共に、もう一度軽く触れた。
何も言い返すことなどできない。
それほどに身体が欲していた。
既に欲しいとも言えないくらいに。
溢れ出た涙が頬を濡らす。
ツォンはお構いなしに手を肌に這わせていく。
指で身体に触れるだけで、過剰なほどの反応を見せるルーファウスを楽しんで嬲り続けていた。
「・・・・やぁ・・・もう・・・・」
言葉にならない音が口から漏れ続けるルーファウスは、既に限界に達し、己の内で何かが頭をもたげるのさえ分からなかった。


不意に、ルーファウスは不自由にされた身体を起す。目元を赤らめ、息を吐くのさえ辛いと言った有様でツォンにもたれ掛かる。
そして、その欲情した瞳でツォンを見つめながら、ぺろりと赤い舌で自分の唇を舐めた。
「もう言葉も出ないんですか?」
その行動を懇願と受け取ったツォンは、再びルーファウスの下肢の間に息づくものに触れた。
「あっ・・・・ん・・・・」
身体を震わせながらも、ルーファウスは舌をツォンの首筋にたどたどしげに這わせる。
思考より先に本能が求めていた。身体中の細胞が理性に反乱を起こしている。
そしてそれが身体の主導権を握っていた。
舌なめずりするたびにぴちゃりと音をたてつつ、喉元までくる。
はだけたシャツの襟元から胸元を求めて顔を埋めようとしたとき、ゆったりと制止された。
玩具を取り上げられた子供のように非難を込めた眼差しで、ツォンの顔を仰ぐ。
「そこはもういいですよ。もっと、あなたが欲しい物があるでしょう?」
小首を傾げて見守っていたが、口元に媚びを含んだ笑みを浮かべると、ツォンの下腹部に顔を近づける。
ファスナーを口にくわえ、引き下げる。
さらにボタンを器用に外すと、下着の内から望むものを取り出した。
そして少し躊躇うように唇を押し当てる。
やめろと叫ぶ理性がそれ以上の行為に歯止めを掛けていた。
「どうするんですか?・・・・身体が辛いのでしょう?」
ルーファウスの頭を押さえ込むように金の髪に指を差し込む。
「早くなさい。あなたが苦しいだけですよ?」
ツォンの右手の指が顎の線をなぞった。
「ふ・・・」
鼻に掛かった甘い吐息が漏れると共に理性の叫びは掻き消され、快楽を求める本能だけがその身体を支配した。
おもむろに口を開くとそのものを含む。
「・・・んっ・・・・・」
口腔内に余るそれに舌を這わせ、なぞる。
それが中でどんどんと育ってゆくに連れて、ルーファウスは苦しそうに顔を歪めながらも舌をまとわらせ、吸い上げる。
それを冷たく見下ろすツォンの眉根が一瞬顰められた。
「・・グッ・・・・・ゲホッゲホッ・・・ッ・・・・」
放たれたものを思わず飲み下したルーファウスは咽せ、肩を震わせながら咳き込んでしまっていた。
ツォンは髪を掴んだまま、ルーファウスの顔を上げさせる。
口から一筋飲みきれなかったものが伝う。
「良かったですよ、ルーファウス様。それでは、約束通りにあなたも楽にさせてあげましょうか。」
咳き込みが収まったその身体は、やっと解放される喜びに震えている。
己の身を整えながら、ツォンはそんなルーファウスを見下ろしていた。


ルーファウスの髪を掴んでいた手を離すと身体を俯せにし、膝を立てさせる。
秘部が晒され、手をつけないために頬が机に押しつけられていた。
「いい格好ですね。皆が知ったらどう思うんでしょう?ククッ。大丈夫ですよ、そんなに怯えた顔をしなくても。これは私とあなたの秘密ですから。」
そして、はち切れんほどに満ち満ちた欲望に手を添える。
「こんなになって・・・・・苦しいですか?」
ツォンが笑みを含んだ表情で顔を覗き込んで聞けば、こんな白々しい問いにさえ、ルーファウスはこくりと素直に頷く。
この権力者の意に逆らわないように。一刻も早くこの苦しさから解放してもらえるように。
今のルーファウスの中には、ルーファウス神羅という名も神羅カンパニーの副社長という肩書きも無かった。
ただ、己の本能が求めるものを与えてもらうために従順に従う─────
「・・・・私の奴隷。それが今のあなたの姿。誰も知らない、ね。」
クスクスと笑い続ける。
そして指を秘部に差し込んだ。
「ひぁっ・・・・っ・・・」
ひきつれたような悲鳴が上がった。
指先が内壁を抉る。
一度抜いてまた勢いよく差し入れる。
そうする度に違った響きを伴った声に変わってゆく。
湿った音が耳を打つ。
それに頬を染めながらも既にこれ以上の刺激を知った身体には、身を炒られるような半端な苛みとしか感じられなかった。
「・・・や・・・もっ・・と・・・欲し・・・・」
鼻に掛かった甘い声でさらなる刺激をねだる。
「いつの間にそんな風に淫らなことを覚えたんですか。これでは物足りないようですね?」
彼を床の上へと降ろすと自分も座りこむ。
再び欲望に滾っている己のものを取り出すと、ルーファウスの身体を向かい合わせに抱え込んだ。
そして身体の上に座らせると腕を戒めていたものを解いた。
「さあ、自分で何とかなさい。ほら、腰を浮かせて。」
自身のものを握らせて促す。
「いや・・・だ・・・・」
「そんなこと、言えるんですか?欲しいんでしょう?」
ルーファウスの瞳に雫が盛り上がる。
苦しさと僅かに残る自制心のせめぎ合い。
思うがままに身体を支配する本能と、ふとした折りに甦る理性との間で翻弄されていた。
焦れたツォンは上に乗る腰を持ち上げて、己の杭を一気に最奥まで打ち込む。
「!・・・ぁああっ!」
それが最後の刺激となった。
撓りに撓った枝が放たれる。
ルーファウスの腹に向けて放たれた精は、二人が繋がるところへと向かってどろりと流れ落ちていった。
力の抜けた身体が前のめりに倒れ込もうとする。
だが、中にあるものがさらに彼を突き上げた。
「・・・ぁっ!」
声にならない悲鳴が漏れた。
まるで物足りないとでも言うように欲望に火が付く。
「これで終わりでは、無いですよ。」
ツォンの手が前に伸び、扱きはじめる。
それはまた、地獄の底を這うような理性と本能のせめぎ合いの始まり。
「さあ、あなたの望むようになさい。快楽を求める、ただの獣となって。」
ルーファウスの頬に一筋の涙が伝った。
ツォンの身体に腕を絡めると、恐る恐る腰を動かし始める。
自分の動きに喘ぎながら縋り付くルーファウスを抱きかかえ、耳元で囁く。
「愛していますよ。ルーファウス様。あなたを壊したいくらいに・・・・」


次の日もルーファウスの側にはツォンが立っている。
無二の腹心として。頼りになるSPとして。
明くる日も、また次の日も。


そしてまた、ツォンの部屋の前には辺りを見回す影が立つ。


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