Xmas企画 2004

 目の前に広がるヴァチカンの広場は、一面綺麗な雪景色だった。一切汚された所の無い、真っ白な。
「ガブ…遅いなぁ」
 ヴァチカン教会入口のこの階段で、腰を下ろして彼を待ち続けて、かれこれ二時間にはなるだろうか。辺りは既に暗くなりかけていたし、厚着をして来たにも拘わらず、お尻はかなり冷たくなっていた。
『ひと月後には帰る』
 銃に銀弾が装填されているのを確認して、ヴァン・ヘルシングはそれを腰のホルスターに納めた。
 それを聞いたカールは、銀弾の弾倉を手渡しながら顔を輝かせた。
『じゃあ、クリスマスはここで過ごせるんですね!』
『多分な』
 そう言っていたのに。
 ぷぅと頬を膨らませて、抱える膝に顎を乗せる。
『約束して!』
 そう言ったら、優しくキスしてくれたのに。
 カールはもう何度目か判らない溜め息を吐く。
 教会の正面階段脇の、勝手口の木戸が開き、ランタンを提げた僧がヴァチカン市国を囲む、壁へと登る石段を上がって行く。そして、壁上の外灯に一つ一つ灯を入れて行く。灯が点される度に、広場が明るく照らされる。
 全ての外灯に火が入れられる頃には、すっかり陽は落ちて、西の空が僅かに赤く色付いているだけになっていた。
 陽が陰った事で、余計に寒さが身に凍みる。
 カールは思わず身震いをした。
「…さむっ」
 やはり今日という日を彼と共に過ごすのは無理だったのだろうか。
 寒さに耐え兼ねて、恋人の出迎えを諦め教会内へ入ろうと腰を石段から上げようとした時。
 大きな何かが頭をすっぽりと覆い、視界を塞がれた。
「うわっ!」
 それを退けて、降って来た方向へ振り仰ぐと、腕組みをした長身で黒ずくめの男が、ニヤニヤと笑って立っていた。
「いつかのお返しだ」
「ガブ! いつ帰って来たんです!?」
 カールは嬉しくて、降って来たヴァン・ヘルシングのロングコートを下に放り投げると、彼の首に飛び付いた。
「ははは…、今さっきだよ」
「…え? だって…」
 ストンと地に降ろされながら、カールは外灯の明かりで橙色に染まった白銀の広場に目をやった。
 誰も通った形跡など無いのに。
 カールの言わんとした事を察したヴァン・ヘルシングは、ニヤリと笑った。
「俺はガブリエル(大天使)だぜ?」
 カールは丸い目を更に丸くして、キョトンとする。
 ややあって、カールはニッコリと笑い返す。
 彼はヴァチカンの秘密組織・聖騎士団の最強モンスター・ハンター。数々の奇跡を起こして来た男だ。
「あぁ、そうでしたね」
 この笑みを見て、ヴァン・ヘルシングはこの世間知らずのフライヤーに、真相は黙っている事にした。本当は雪の降る前の早朝に戻って来て、今迄私室で眠っていたのだ。
 ヴァン・ヘルシングは建物の中に恋人をエスコートする為に、彼の肩に手を伸ばす。
「あ!」
 しかしカールは何かに気が付いて、身を屈めた為、その手は虚しく空を切る。
 ガックリと肩を落とすヴァン・ヘルシングに、カールは先程放った彼のロングコートを差し出した。
「はい」
「あ…ぁ」
 それを受け取り、袖を通す。
「――それでは中へ」
 改めて恋人の肩に手を回す。
「へへ…、暖かいですよ」
 カールは照れ笑いをしながら、ヴァン・ヘルシングを見上げる。
「――あ、雪だ」
 背伸びをして、ヴァン・ヘルシングの黒髪やコートに落ちている雪を手で払う。
 二人で空を見上げると、雪はどんどん舞い降りて来ていた。
「カール」
 ヴァン・ヘルシングはコートを広げ、その雪から守る様に、カールの身体を包み込む。
「あなたは本当に、天使なのかもしれないですね」
「それはどうかな。悪魔かもしれないぞ」
 カールの顔を覗き込む様に屈むと、冷たい唇を奪った。
「…っもう! こんなところを誰かに見られたら」
 膨れっ面をしているが、本心では無い事は明白だった。
「誰も居やしないよ(それに皆知ってるしな)」
 その自信は何処から来るのだろうか、と思いながら、カールは促されるままに歩を進める。
 教会の聖堂では、夜のミサが始まっており、キリストの誕生を祝う歌が聞こえて来る。
 例え記憶が戻り、ヴァン・ヘルシングの正体が悪魔でも良い。長い修道院生活で、自分が神以外の人を愛する事を教えてくれたのは、紛れも無い目の前の男なのだから。
《ガブは僕の天使だよ》
 そう呟いたラテン語の秘密の言葉は、賛美歌の声にかき消された。

祝! DVD化!!
一昨日(12/20)、予約してある店から電話がありました。
「今日、入って来たんですけど、お客さま2枚組の方でしたよね? 申し訳有りません、間違えて通常版で発注掛けてしまいまして、今から注文するんですけど、発売日に間に合わないかもしれません」
ですってよ(-_-;)


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