■  恋 風  By-Toshimi.H      


  “プレジデント神羅が殺された”との知らせを聞いて、その息子ルーファウスは、ジュノンから急遽帰還した。
 父親の不様な遺体を見る為に。
 ジェノバ(セフィロス?)に殺された社員達の大量の血の匂いで、部屋は充満している。
 広い部屋に置かれたデスクにうつ伏せに倒れている父親の姿は、やけに小さく見えた。
 到着した途端、クラウドと対決し、ダークネイションは殺され、自らは腕に負傷した。その傷の手当てを受けてからの再来訪だった。
 神羅カンパニーが誇るソルジャーの一人、かつての英雄に殺されたのは、その凶器を見れば一目瞭然だった。
 生前のプレジデントは、この英雄セフィロスにただならぬ執着を見せていた。
『ソルジャーの用途は戦闘だけではない。セフィロス…彼奴はいい』
 何かの時に聞いた言葉だった。その時は何を意味するのか、判らなかった。 
 しばらく経ってから、タークスが連れて来た、又はソルジャー試験を受験しに来た少年達の何人かを、プレジデントが奉仕させているという話を耳にした。そして特にセフィロスを気に入っている、ということだった。
 薄暗く、だだっ広い社長室で、父親の遺体を目の前にした、ルーファウスは妖しく微笑む。
「どんな気分だった? “お気に入り”のセフィロスに殺される気分は、どんなだった? 親父」
 それにしても、散々少年達を相手にしながら、よくぞ俺という息子が出来たものだ、と内心感心する。
 《神羅の社長》という肩書きがある限り、娼婦だろうがどこぞの社長婦人だろうが、そして少年達も皆、ヤツの前で足を開いたということか。
 ぞっとした。
 自分が“息子”でなかったら、恐怖の対象でなかったら、同じことをさせられていたかと思うと、全身に鳥肌が立った。
 だが、最早そいつはただの肉の塊でしかない。
 ルーファウスは、その碧い瞳でかつての父親を一瞥する。
「……ふんっ」
 立ち去ろうと踵を返す。
 物音がして、振り返るとそこには幹部の一人、パルマーがいた。
(まだ、居たのか…)
 腰を抜かして、動けなかったのか、それとも辺りを物色していたのか。
「ちょうど良い。お前に最初の命令を与える。社長室及び、下の秘書室を綺麗にしておけ。親父の匂いを残しておくことは、絶対に許さない」
「ひょえっ」
 聞いているのか、いないのか判らない声を上げて、それは去って行った。
「……」
 ルーファウスはその後ろ姿を、軽蔑した眼差しで刺し貫いた。
 ヘリポートに出ると、ツォンが待っていた。
 ヘリコプターに凭れ掛かり、何か思案しいている様だった。ルーファウスの姿に気が付くと、顔を上げてゆっくりと微笑む。
「もう、よろしいのですか?」
「あぁ」
 絶妙のタイミングで扉を開けると、ルーファウスはそのまま乗り込んだ。
 風を切るようにプロペラが回転し、ゆっくりと離陸すると、壱番街のルーファウスの自宅へと向かった。



 ツォンがルーファウスの部屋へ入ると、主はバルコニーで夜景を眺めていた。
「中へお入り下さい。風邪をひきますよ」
「ん……」
 ツォンの脇を通り、中へ入る。
 扉を閉めながら、ツォンは尋ねた。
「何か、お考え中でしたか?」
「いや、暫く見ないうちにミッドガルも変わったな、と」
「あなたのものですよ。ここもジュノンも、そしてこの星も…。――恐いですか?」
 ルーファウスの怪我をしていない左腕を掴み、引き寄せ抱き締める。
 未だに“抱き締められる”“触れられる”という行為に、即座に対応出来ないルーファウスの身体に緊張が走る。
 ツォンの心臓の鼓動と、呼吸を間近で感じながら、徐々に身体を預ける。
「……かもしれない…」
「私が付いておりますから」
 そう言うと、ルーファウスの顎を上に向かせ、唇を塞ぐ。一瞬、躊躇する反応も、変わらなかった。
 しかし、ツォンの口付けは、いつも巧みだった。優しく触れるだけの時も、激しく執拗な時も、触れてしまえば、ルーファウスを捕らえて離さない。
「う…ん」
 歯列を割って、舌を絡ませると、ルーファウスも辿々しく答える。
 背中に廻された腕で、抱き竦められ、そして身体をまさぐられる。徐々に下がって来た手が、尻から前の部分へと伸ばされる。
「や……っ。ここじゃ、嫌だ」
「それでは、場所を変えましょうか」
 そう耳元で囁き、ルーファウスの身体を抱きかかえる。
 しがみついてくるこの小さい身体には、神羅カンパニーの社長という重責と星の命運が、ズシリとのしかかっている。どんな運命が待っていようとも、それに立ち向かって行かねばならない。
 それを考えると、何と重みのある身体だろう。もし、立ちはだかるものがあれば、全て排除してみせよう。
 ルーファウスの身体を、一人では広すぎるベッドに横たえる。
 首に廻された腕に力が込められ、鼻が触れ合う程に顔を近付け、見つめ合う。
 僅かに開いた唇に、軽く己の唇を重ねる。
「お父上が亡くなったというのに、不謹慎ですね…」
 ルーファウスの金の髪を優しく梳きながら、愛おし気に見つめる。
「構うもんか…」
 今度はキスをせがまれ、深く口付ける。
 唇を離すと、ベッドサイドに置いてあるリモコンに手を伸ばし、部屋の明かりをダウンライトに変える。
「この方が良いでしょう?」
 ルーファウスの顔が、さっと紅潮し、照れ隠しにツォンを強引に引き寄せて、その肩に顔を埋める。
 好都合とばかりに、ツォンは耳の後ろから首筋へと舌を這わせ、手で腕の中の身体をまさぐる。ルーファウスの両足に、大腿部を割り込ませ、中心部分を押さえ付ける。
「…っ、あ…ん…」
 顎を仰け反らせ、甘い呻きをあげながら、ルーファウスは衣服を剥ぎ取る動きに合せて身を捩り、自らベルトに手をかけた。
 その手に制止をかけられ、下肢からも全てを取り去られる。
 ダウンライトの下で、ぼんやりと浮かぶルーファウスの白い肢体は、ツォンを欲情させるには、充分すぎる程艶かしかった。
 上着を脱ぎ、ネクタイを外す。それらを放り投げ、シャツのボタンを二、三外して、ルーファウスの上にのしかかった。
 ルーファウスの身体が、緊張で堅く強ばる。
 その緊張を解す様に、唇と指で愛撫を施して行く。
 やがて強ばりが消え、呼吸が次第に荒くなる。
 上下する胸の突起を口に含み、舌で転がす。指で探り当てた、もう片方の突起も同じように、摘み、転がす。
「あっ…ん…っ」
 抑え切れずに声をあげ、恐る恐る両腕でツォンの頭を抱く。
 堅くなったそれに、歯を立てられ身体が波打つ。
「はぁ…あぁ…ん」
 そのまましつこいくらいに、念入りに舌で愛撫され、身を捩り嬌声をあげる。
 次第に愛撫の波は、吸い上げられ跡を残しながら、下へ下へと降りて行き、先程触れられるのを拒否した場所へと到達する。
 それを握られ、弄ばれる。
 ツォンの手の中で育って行くものから、液体が漏れ始めた。
「あぁ…んっ……っ」
 その液体で、充分に指を濡らす。
 ルーファウスのしなやかな足が、シーツを蹴るようにして開かれる。
 目を閉じ、必死にツォンの愛撫を享受しているルーファウスを見て、微笑む。
 まるで、一つ一つの行為、全てを感受するかのようだ。
 濡れた指を後ろの部分に挿入させる。
 痛みで声を上げ腰を引くが、ツォンの指は、更に奥へと押し込まれる。
 幾度も指を往復され、その快感に腰をくねらせ、股間の印を前に突き出す。
 それをツォンは口に銜える。先端から徐々に深く銜えて行き、丹念に舌を這わせる。
 口腔内の生暖かい感触が、快楽を与える舌の動きが、ルーファウスをどんどん追い上げる。もっと、と強請るように足も開かれる。
「……あっん…、…ォ…ン」
 前と後ろを同時に翻弄され、細い腰が淫らにうごめく。
 一旦、指を抜かれ、両足を双肩にかけられると、思わず上体を起こす。腰をしっかりとツォンに掴まれ、思うように動けない。
 わざと音を立て、愛し始めたツォンの行為に、羞恥で顔を赤らめ、涙が滲んで来る。
 身体中がカッと熱を帯びる。
 後ろを犯す指が増やされた。付け根まで差し込むと、その指を捻る。そして、全て引き抜かれる前に、再び捻り乍ら奥へと侵入する。
 熱い内壁をまるで指先の腹で、撫でているようだ。
 体内でうごめく異物感が、どんどん高みに追い上げて行く。
「や…ツォン…」
 下半身から広がる快感で、身体がどうかなってしまいそうだった。
 必死で自分のものから、ツォンの頭を離そうとするが、腰を掴む手に更に力が加えられる。
「ダ…メだ…、俺…」
 出してしまう…。と、までは言えずに、ツォンの行為が終わるまで、耐え抜こうとする。
 ツォンの咽がゴクリと鳴った。
 その音が引金となって、ルーファウスは白密を放ってしまった。それをツォンは躊躇わずに飲み下す。
 ルーファウスを解放して、口元を拭う。乱れた息を整えようと、大きく息をするルーファウスを、服を脱ぎながら見つめ、薄く笑う。
 身体を二つ折りにされ、秘部が曝されたことで、ルーファウスの身体に消え掛かっていた羞恥が甦る。淫らな格好は、彼を一層高ぶらせる刺激にもなった。
 限界まで左右に開かれた足を押さえ付けられ、次の行為を察知し、身を堅くする。
 その白い肢体をかき抱き、ツォンは懇願するように囁く。
「そんなに緊張しないで下さい」
「お前は、いつもいきなりだから……」
 自分を覆う身体にぎゅっと抱きつく。
 触れられることに慣れない身体に、この激しい行為は重荷なのかもしれない、とツォンはここまで引きずり込んでしまった事を、後悔をする。
 それでも、この人は自分のものになろうと、恐る恐るでも全身で求めてくれている。
「優しくしますから…ね?」
 潤んだ瞳でこくりと頷く仕種が可愛らしい。
 先程、指を入れていた部分に、中心部分を押しあてる。それは、ルーファウスの身体の強ばりが消える毎に、奥へと飲み込まれて行く。
 内側から与えられる快感に、人さし指を噛み締めて、声が上がりそうになるのに耐える。閉じられた目尻には、涙が溢れていた。
「ルーファウス様…」
 唇で涙を吸い取る。
「声…出して下さい」
 噛み締めている手を取り、それにも口付ける。
「や…だ…。恥ずかしい…」
「恥ずかしがることはありませんよ。あなたと私だけですから」
 ぐいっと、腰を動かし、繋がりを深くする。
 締め付けがきつくなり、背中に爪を立てられる。
「ああぁ…ん…」
 激痛は快感へと変わり、大きく仰け反り声をあげる。
 ゆっくりと動かされる腰の動きは、ルーファウスを快楽の波に飲み込んで行く。
 ツォンの動きに合せて腰を動かす。ツォンのそれが、体内で育って行くのが判る。突かれる度に、その質量で身体中が軋んだ。
 二人の繋がった箇所から、卑猥な音がし始め、ベッドのスプリングの音と共に、部屋中に広がる。
 腕の中のルーファウスは、甘く切ない声を上げ、盛んにキスを強請った。
(儀式のようだ…)
 ツォンはぼんやりと考える。
 この人のものになる為の、そしてこの人を自分だけのものにする為の。
 二人の行為は、お互いを所有しあう意味を持つ。
 恋人という間柄以上に、お互いがお互いに必要な存在になっていた。それぞれが生きて行く為の存在意義。
 今日の行為は、そういった意味では、まさに儀式に近かった。
 そして、改めて交わされる忠誠の儀式。
(プレジデント亡き今、この身は公私共々、この人のものだ。そして、この人も…)
「――っ、あ…っあぁ…!」
 ルーファウスの一際高くあげた声で、我に返る。
 見ると、脱力した身体を投げ出し、荒く呼吸をしている。そして、腹から胸には極まって吐き出された欲望が、飛散していた。
 ルーファウスの中から、己のものを取り出す。
 軽い呻きがあがり、身体がビクリと反応する。
 その身体に、向かってツォンも欲望を吐き出した。
 薄らと目を開き、こちらに顔を向けるルーファウスの額に、唇を押し当てる。
 ルーファウスの腕が、ツォンを抱き締める。
「…お前は、俺のものだ…。もう、誰にも渡さない…」
 そう囁き、幸せそうに微笑んだ。
 彼は、初めて微笑んでみせた。



 カーテンの隙間から漏れる、朝の光で目が覚めた。
 時計を見ると、いつも目覚める時間だった。しかし、今朝はまだ時間に余裕がある。
 腕の中の金髪の恋人は、規則正しい安らかな寝息を立てて、まだ深く眠っていた。
 顔を寄せると、あの後に浴びたシャワーの石鹸の香りが、ふわりとした。
 今日からこの人には、神羅カンパニーの社長としての重責が科せられる。 
 せめて、この寝顔だけはいつまでもこのままでいて欲しいと、願わずにはいられなかった。

強く抱きしめてあげる
恋の風が優しくなる
あなただけのものになる
ウソのない寝顔と 手をつなぐ瞬間…


あとがき