■ ■ ■ ■ ■ ■ E-den By-Toshimi.H ■ ■ ■ ■ ■ ■
ルーファウスが兵器開発部門統括のスカーレットに命じて、作らせたシスター・レイが完成した。
美貌の開発責任者は、もう2ヶ月もこの日を待っていた。それは、ルーファウスも同じだったが、彼はこの機に父親の失脚を狙っている。
スカーレットの試射の知らせを受けてルーファウスは、オフィスへ向かっていた。
いつもはミッドガルでプレジデント付として任務をこなしているツォンが、珍しくSPとして付いている。
エルジュノンとアルジュノンを繋ぐ通路には、見物をしようと野次馬の兵士を含め、ジュノンの住人でごった返していた。
その人込みを掻き分けるように、数人の赤い制服の兵士を先頭にルーファウスが行く。
実質的なジュノンの責任者である副社長の姿を見ようと、飛び出してくる輩を、赤い制服の兵士が叱咤し、時には手にしたライフルで殴り付ける。
ルーファウスは周りの様子など気に止める様子もなく、いつもの冷たい表情で進んでいく。その後にはツォンがピタリと付添い、野次馬の群れに目を光らせる。
そのツォンに背後から近付く者がいた。
背後から殺気を感じたツォンが振り返る。素早くルーファウスを背後に庇う。
「裏切り者め…!!」
サバイバルナイフを手にした男が、ツォンの心臓をめがけ一突きする。
が、それは敢え無く空を切る。しかし、男は再びツォンに向き直ると、ナイフを突き立てる。
群集がパニックを起こし始める。兵士が暴漢を取り押さえようと、銃を構えるが、それはルーファウスによって止められた。
男とツォンが通路に転がる。
「ツォンッ!!」
鮮血が飛び散る。
心臓への一突きは免れたが、左の二の腕から大量の血が流れ、制服を濡らしてしていた。
「医者だ!医者を呼べっ!!」
ルーファウスが叫ぶ。
いつもクールな副社長が、ここまで感情をあらわにすることはない。だが、それに気付く者などただの一人としていない。
ツォンの上に馬乗りになった男は、ナイフを心臓めがけて振り下ろす。
しかし、それより速く懐から銃を取り出したツォンは、何の躊躇もなく、かつての同志に向かって引金を引いた。
野次馬の中のあちこちで、悲鳴があがる。
銃声とともに、男は後に吹っ飛ぶ。その衝撃は群集の一人の男をも倒した。
男は自分の上に乗っている暴漢を見ると、情けない悲鳴をあげながら押し退け、どこかへ行ってしまった。しばらく身悶えていた暴漢は、やがて息絶えた。
制服についたホコリを叩くツォンにルーファウスが駆け寄る。
「ツォンッ!大丈夫か!?」
そこで、初めて自分が負傷しているのに気が付いたようだ。
「あぁ、どうやら、やられたようですね」
腕を伝い、ポタポタと足下に落ちる大量の血を見ても、他人事のように言う。
群集を掻き分け救急隊が到着し、手早くツォンの応急処置をする。そして、少し遅れて青い制服の一般兵士が到着し、始末された男の死体を片付ける。
群集のパニックも落ち着いたようだった。
「今日の試射は中止だ!他にもネズミが紛れ込んでいるはずだ。そいつらを一人残らず捜し出せ!」
赤い制服の兵隊は、敬礼し足早に立ち去って行った。
ツォンが麻酔から覚めた、という知らせを受けたルーファウスは、彼の私室へ見舞いに訪れていた。
部屋に入ると、ツォンはソファに据わり、自ら傷の消毒をしていた。相変わらず、生活に最低限必要なものしか揃っていない、殺風景な部屋だ。
ルーファウスの顔を見ると、彼は微笑んで金髪の美貌の人を迎える。その髪はしっとりと濡れ、漆黒の髪が、余計に黒く光っている。
「なんだ、もう良いのか?――シャワーなんか浴びて」
上半身が裸のツォンを正視出来ず、なるべく視線を合わせないようにする。
「良くはないでしょうけど、寝汗をかいたので……」
ツォンに勧められるがままに、彼の隣に据わる。
「無茶をするヤツだな。お前はもう少し、自分のことを考えた方が良いぞ」
そして、「貸せ」と言ってツォンの手から消毒液を取り上げる。
縫合直後の傷跡が痛々しい。
消毒液のアルコールの匂いが鼻を突く。
「……。申し訳ありません。私の落ち度です」
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはツォンだった。
「何言っているんだ。今回狙われたのはお前なんだぞ」
少し間を置いて、ふと頭に浮かんだ疑念を口にする。
「……。初めてではないだろう。狙われたのは」
「あなたが心配するほどのことではありませんよ」
つい、嘘を口にする。
故郷を裏切ってから、昼夜問わず命を狙われ続けている。これが、裏切り者へ科せられた罰なのだ。
「よし、終わったぞ。薬箱は元の所で良いんだな」
「どうせすぐ使いますから、そのままで結構ですよ」
「そうか?」
せめて、テーブルの上に置こうと、立ち上がったルーファウスの腕を掴み、引き寄せ抱き締める。
「ツォンッ」
ルーファウスは絨毯に膝を付く形になり、ツォンの身体にすっぽりと納まる。
シャワーを浴びたばかりのツォンの身体から、石鹸の匂いがする。そして、心臓の鼓動が伝わってくる。
「――…かった…。あなたじゃなくて、本当に良かった」
ツォンの身体が微かに震えている。
神羅カンパニーの裏の仕事の全てを担い、死をものともせず、危険と戦っている男の身体が震えていた。
ルーファウスはツォンの意外な一面を見た気がして、しばらく動けないでいた。
「あなたにもしものことがあれば…私は生きて行けません」
ツォンの腕に力がこもる。
ルーファウスは息苦しさを覚え、ツォンの腕から逃れようとする。
「腕を緩めてくれ…。苦しい…」
「すっすみませんっ。……ついっ」
ツォンは慌てて腕からルーファウスを解放する。
そこで、お互いの視線が合った。
ルーファウスは顔を朱に染めて、慌てて視線を逸らす。しかし、ツォンはいつもの表情に戻ると、改めてルーファウスを抱き寄せ、顔を上に向かせる。
視線を合せようとせず、怯えた表情の恋人を愛しく思う。
「目を閉じて下さい。……少し、口を開いて…。…そう」
ツォンの優しく、穏やかな声に、ルーファウスは言われるがままに、素直に従う。
熱い吐息が間近に感じられ、唇が塞がれた。柔らかい舌が口腔内をまさぐり、ルーファウスの舌を絡め取る。
「…ん……」
魂まで吸い付くされそうな激しく、それでいて優しい口付け。
ルーファウスは腕をツォンの背中に廻し、存在を確かめるようにまさぐる。
離した唇を唾液が繋ぎ止める。ツォンは指でその鎖を拭って舌で舐める。
ツォンを見つめるルーファウスの瞳が揺れる。魔晄を浴びた者とは違う、グリーンがかった碧い瞳。
「…ルーファウス様。愛しています」
ツォンはルーファウスを胸に引き寄せる。
その透き通るような金髪も肌も、吸い込まれそうな瞳も、満たされていない心も全て愛している。
初めて出会った時は、只の我がままのお坊っちゃまだと思っていた。だが、その我がままも破壊欲も、寂しさ故のものからだと知った時、一生側に居ることを誓った。
――この方には、私が必要だ…。
最もたちが悪いのは、それをルーファウス自身が気付いていないことだった。
愛情の注ぎ方も、受け方も知らない。
「――…れは…俺は……分からない…。お前と一緒に居たいと思うし、こうして触れていたいと思う。…だけどそれが…お前を愛しているということなのか……分からない…」
「それで良いんですよ。少しずつ理解して行けば良いんです」
ルーファウスの身体を軽々と持ち上げ、膝の上に据わらせる。
「……ツォン?俺はもう、子供じゃない…」
幼い頃、わがままを言ってはこうして、本を読んで貰っていたことを思い出す。
ツォンの唇が耳の後ろから首筋を伝う。それが、もう子供ではないことをルーファウスに教える。
左腕で負傷しているとは思えない力で、ルーファウスの腰を捕まえる。その左腕にルーファウスの手が添えられる。
右腕をツォンの頭に廻し、回り込んで来たツォンの唇にキスを促す。
初めは軽く触れ、そして深く口付ける。
ルーファウスの白いスーツのボタンが次々と外されていく。全て外し終わると、黒いシャツの上からその、決して筋肉質でない細い身体を愛撫し始める。
「……っ、あ…んっ…」
ビクリと反応し、唇を離す。
「お嫌ですか?」
そう言いながらも愛撫する手を止めない。
「……けが人のすることじゃ…ないだろう」
「これくらいで、あなたを抱けなくなる程、私はヤワではありませんよ」
下腹部に伸ばされた右手が、器用にベルトを外し、ズボンの前を開ける。続いて、下着の中に侵入して半ば変化しかかったものを捕らえる。
瞬間、ルーファウスの身体に緊張が走り、身を堅くする。
「そんなに緊張しないで…。大丈夫です。今日は痛くないようにしますから…」
決して嫌ではない。
ミッドガルのスラム街に出入りしていた頃、そこの人間に触れられるのは、断固として拒否していた。言い寄ってくる者は数多くいたが、下賤の者に触れられるのは男女問わず、拒絶していた。
ツォンに触れられるのは、心地よかった。
決して自分を傷つけない手。自分を守る為にある手。
その手が、激しく自分を翻弄する。
ツォンは自分のことを愛していると言う。そして、欲しいとも…
――人ヲ愛スル、トイウコトハ…
そもそもタークスを手に入れる為に、ツォンを主任に任命した。彼が自分を裏切ることなどあり得ない。
それよりも…
――ソレヨリモ、何ダッタノダロウ…
初めて唇を塞がれた時、驚きはしたものの、不快感はなかった。そして、ツォンが乗るミッドガル行きのヘリコプターを見送った時、胸の奥から溢れる初めての感情に肩を震わせた。
自分が仕組んだ事とはいえ、タークスの主任であるツォンを、父親の元へ帰すのは嫌だった。
そして、先頃の情事。自分で蒔いた種ではあったが、彼に抱かれ一つとなった時、心の奥の方では不思議とホッとしていた。
「……っ。ツォ…ン…」
ルーファウスの身体から次第に緊張が解け、ツォンに全てを預ける。
脱がしやすいように、身をよじる。身体がツォンを求めていた。
「クスクスッ。今日はヤケに積極的なんですね」
ブーツにズボン、上着と次々と剥ぎ取られて行く。
「う…るさいっ」
ルーファウスは顔を赤らめ、吐き捨てるように言う。
素直じゃないところは、未だに変わらない、とツォンは苦笑する。
腰を支えるツォンの腕に更に力が加えられ、据わる位置を支え易い位置へ変えられる。負傷した腕に激痛が走り、ツォンは思わず顔をしかめた。
ツォンに足を開くように促され、ためらいがちに膝が開かれる。膝の裏から腕を通され、立ちあがったものを掴まれ、刺激を加えられる。
「う…んっ……あぁっ」
愛撫に耐え切れなくなったものから、液体が漏れ始め、ツォンの手を濡らす。
充分濡れたところで、その手が後ろに廻され、秘部を浅く犯し始める。
ルーファウスの身体がビクリと反応する。。
「怖がらないで…。力を抜いて……。――そう…、ゆっくりで良いですよ」
ツォンの呼吸に合わせるように、大きく息を吸い、少しずつ力を抜いていく。
その度にツォンの長い指が、奥へ奥へと侵入する。そこの部分だけ激しく息づいているかのようだ。
付け根まで侵入したところで、その指を捻る。
「んっ…ああっ!」
思わずあげた甘い絶叫に、ルーファウスは口を押さえる。
「今日は声をあげて貰って構いませんよ。私が全て受け止めて差し上げます」
ルーファウスは僅かに頷いたようだった。
ゆっくりと指が出し入れされる度に、秘奥のつぼみは柔らかくほころぶ。そして、指の動きに合わせて腰を動かす。
更に指が増やされ、卑猥な音とともに、その動作は幾度となく繰り返される。
「あ…んっ。ツ…ォン…俺…」
――イッてしまいそうだ……。
息があがり、身体中が汗ばむ。
喘ぎ声をあげながら、頭(かぶり)を振るルーファウスの頬を、一筋の涙が伝う。
充分に慣れさせたと判断したツォンは、自分のものを取り出し、支配を待ちわびるつぼみに押し当てる。
「痛かったらおっしゃって下さい」
「ん……大…丈夫だ…」
そう言って、ルーファウスはツォンの手を握る。こうするだけで、安心出来る気がした。
ルーファウスの中にツォンが侵入し始める。
その形までもがはっきりと、感じ取れる。
「あ…あぁっ…」
欲していたものを与えられた充足感。動きが激しくなるごとに、それは大きくなっていく。
五感の全てを使い、ツォンを感じたい。
――モシ、つぉんガイナクナッタラ…?
そんなことは、考えたくはなかった。しかし、タークスという仕事上、任務中に命を落とさないとは言い切れない。そんな歴代のタークスのメンバーを何人か知っている。それに、ウータイの暗殺者にも狙われている。
――離レタクナイ…
これが人を好きになる、ということなのかは分からない。ただ、本能で身体が快楽を求めているだけなのかも知れない。
少なくとも、ツォンの行為に自分の欲望を満たす為だけの、遊びの気持ちは無いのは確信できた。
ツォンを離したくない。いや、離れたくない…。
自分の中の全てが崩れて行く。ツォンと一つになることで、身分も価値観も、固定観念も、自分を縛り付けているもの全てから解放される。
ルーファウスの中で、感情という名のパズルのピースが、全て組み合わさった気がした。
「ツォン…愛している……」
そう言った途端に、ルーファウスの身体の力が抜け、ツォンの腕の中に倒れ込む。
ツォンは、ルーファウスの口にした言葉に、耳を疑う。
この人は「愛している」と、確かに言った。
いつも無表情で、誰も寄せつけず、高い壁を作る事によって自己防衛をし続けて来た人。その高い壁を取り壊し、自我の全てを曝け出した人。その壁を壊すきっかけを与えたのは自分だ。
自分の感情に自信が持てず、自らの身体を投げ出すことでしか、示すことの出来ない不器用な愛情。
愛おしいと思う。いつまでも慈しみ、守って行きたい。
意識のないルーファウスの身体から己を引き抜くと、どちらのものとも分からぬ液体が、ポタポタと絨毯に落ちる。
ツォンはしまったな、と思いながら取り敢えず自分の身支度を整える。そして、ルーファウスを抱きかかえ、ベッドルームへと運ぶ。
腕は痛むが、そんなことはどうでも良かった。
身も心も“ルーファウスの全て”が自分のものになったのだから。