「YZF−R」シリーズを生み出したヤマハが、
スクーターに「スポーツ性能」を追求した。

 

既存のスクーターのイメージは、「快適だけど、走りはイマイチ」…。
そんなイメージを拭払しようと、YZF−Rシリーズに続いてヤマハが放ったマシン。
「オートマチック・スーパースポーツ」というコンセプトで産まれたマシンは
「TMAX」と名づけられた。

基本スペック

全長×全幅×全高
シート高
軸間距離
乾燥重量
原動機種類
気筒数配列
総排気量
内径×行程
最高出力
最大トルク
始動方式
燃料タンク容量
燃料供給方式
タイヤサイズ(前/後)
2,235mm×775mm×1,235mm
795mm
1,575mm
193kg
水冷・4サイクル・DOHC・4バルブ
並列2気筒
499cm3
66.0×73.0mm
38PS /7,500rpm
4.6kgf・m/4,500rpm
セル式
14L
FI
120/70-14/150/60-15

 

■生い立ち
 国内でもブームとなっている、大排気量スクーター。今では250ccから650ccまで多彩なラインナップを見せますが
1990年頃に振り返ると、原付2種以上のスクーターと言えばホンダ「フリーウェイ」「フュージョン」のみでした。当時の
大型スクーターと言えば「おっさん臭い」「ビジネス」「無骨」というイメージばかり。実際、30〜40歳のサラリーマンの
通勤仕様バイクになっていました。
 1990年後半になり、ホンダの独壇場となっていたこのクラスに他社メーカーが参入し始めます。その中でヤマハが
リリースした250ccスクーター「マジェスティ」が、徐々にシェアを伸ばし始めます。無骨なスタイルだった「フリーウェイ」
よりもスタイリッシュで、大柄な「フュージョン」よりもコンパクト。車検が無い事も手伝い、サラリーマンはもとより若い
人にも支持されて、ホンダの独壇場だったこのクラスをヤマハが突き崩します。勿論ホンダも黙っておらず、1997年
にはスタイリッシュな「フォーサイト」をデビューさせ、スズキも「スカイウェイブ」をデビューさせて争いがヒートアップ。
1998年になるとスズキから「スカイウェイブ400」がデビュー。250ccよりもパワーがあり、余裕のクルージング機能
で人気を博しました。当然ホンダとヤマハも見過ごすわけは無く、各社250ccオーバーのスクーターの開発を始めます。
 こうした中、250ccスクーターの牽引役を果たしたヤマハは、体格の大きい欧州の市場を調査。顧客のニーズを
集約し、既存のスクーターに欠如していた「スポーツ性能」に着眼します。エンジンパワーだけでなく、シャシーや
ハンドリングを徹底的に吟味。快適装備を必要最低限に留め、スクーターの枠から外れないスポーツバイクを開発します。
 こうして2000年秋、それまでにないスポーツ性を強調させた大型スクーター「TMAX」がデビューします。

 
写真は左が2001年モデルの初期型、右が2003年にデビューしたII型。
スタイリッシュなスタイルはマジェスティのイメージを残しつつ、スポーティさを強調。
II型はインジェクション化され、足回りを中心にパフォーマンスアップ。

 

ディテール チェック


  既存のスクーターとは違う、オーラを発する
 フロントビュー。…と言えば言い過ぎかもしれ
 ないが、2001年デビュー時、他にはなかった
 アグレッシブな顔つき。同社の「マジェスティ」
 に若干似ているが、デザイナー曰く「R1の
 イメージにしたかった」という事で、二眼式の
 ヘッドライトとヤマハらしいディテールで個性を
 演出。
  スクリーンはショートタイプだが、これは04
 モデル国内仕様専用アイテムで、海外モデル
 はワイズギア扱いのオプションとなる。更には
 ボディ同色のフロントパネルも国内仕様の専用
 アイテムとなり、精悍さをアピールしている。
 (ヤマハの音叉マーク部分がソレ)
  こうして正面から見ると、かなり空力特性を
 意識したデザインであることが判る。
  巷でよく言われる「足つき性の悪さ」だが、
 シート高自体は795mmと一般的にも関わらず
 シート形状が丸く幅広なため、どうしても足が
 開脚してしまう。なんしぃが跨いだところ、R1と
 ほぼ同等の足つき性だったので、820mm
 前後のシート高をもつバイクに乗れる人であれ
 ば何とかなるのでは。ただし車重があって
 取り回しは厳しいので、購入を検討していて
 心配な人は実車に触れる事をお勧め。


  一見、一般のスクーターと同じに見えるサイド
 ビューも、よく見るとかなり個性的。スポーツ
 バイクのフレームのように見えるサイドカバーが
 特徴的で、2003モデルから黒塗り。ちなみに
 輸出仕様はガンメタ塗装で、個人的にはそちらが
 好み。
  また一般スクーターと違い、リアサスペンション
 が駆動ユニットに直付けされていないのも特徴。
 サスペンションユニットはボディ下部のエンジンと
 スイングアームに寝かされて装着されている。

  このアングルから見ると、シートの高さがお判り
 いただけると思う。初期型は排気量を表す「500」
 という文字があったが、今は車名のみ。
  タンデムシートの横にはウィング形状のグラブ
 バーが装備されているが、II型からはスチール製
 のボディ同色パーツとなった。
 (初期型は樹脂製のシルバー塗装)
  タンデムステップは一般のスポーツバイクのよう
 に格納式であるが、位置がやや後ろ寄りに感じる
 のは私だけだろうか?

  フロントフォークはこのII型から38mm→41mm
 に拡大。更にブレーキもダブルディスクに強化さ
 れている。そして国内仕様専用装備として、オリ
 ジナルの5本スポークホイールを採用している。

  リアタイヤはII型から14→15インチにサイズ
 アップ。ホイールデザインもフロンとタイヤ同様に
 国内専用デザインとされている。
  ブレーキもディスク式となっているのも、スポー
 ツ性能を追求した結果。ヤマハらしいハンドリン
 グを助長する役目を担う。

  メーターデザインは従来型から一新。スポーティ
 な二眼式となり、大型の液晶ディスプレイに燃料
 計を装備。メーターはホワイトパネルで、目盛と
 指針は赤。スピードメーター内には液晶ディスプ
 レイ操作用のボタン、タコメータ内にはハイビーム
 警告灯とエンジン警告灯、イモビライザー警告灯
 をそれぞれ備えている。このメーターデザインは
 先刻デビューした「グランドマジェスティ」と同じも
 のだが、配色などが異なる。

  国内モデル専用装備の「ボディ同色フロント
 パネル」。ちなみにカラーラインナップは赤の
 他に青と黒がある。
  ヘッドライトはYZF−R1をイメージした二灯式
 だが、ロービームで左側、ハイビームで左右が
 点灯する。ヘッドライト自体のの明るさは普通
 で、特別明るくはない。

  これまた国内仕様専用装備の「ショートスクリ
 ーン」。カスタムされる確率が非常に高い部位
 なので、国内仕様は標準で装備されている。
 ただしこのフューチャー自体は2003年モデル
 から継承されているもので、2004年モデルの
 特長にはならないかも。ロングタイプスクリーン
 が欲しい場合は純正品を装着するのも手だが、
 社外品も多数出ているので要チェック!
 
 

 

■ライディングインプレッション
 コイツはスクーターではない。
 のっけから結論じみているが、誰もがこう結論を出すはず。いや、出さざるを得ない。一般的に「スポーティ」と言えば
ハイパワーなエンジンにゴツゴツした味付けのサスペンションが奢られているだけと早合点するが、TMAXにおいては
こと「走り」に関しては「スクーター」の域を超えている。エンジンパワーは38psで、250ccスクーターと比べると20ps
近く高いが、一般的な同クラスのギア付き(非スクーター)バイクと比べても取り立てて凄い数値ではない。250ccの
レプリカでも40psを誇るのだから、単純にエンジンパワーだけで見ると「スポーティ」さは伝わらない。
 しかし、TMAXが「凄い!」と言われる最大のポイントは、ヤマハらしいフットワークとシャシーバランスにある。これは
一度でも既存の250ccスクーターに乗った事のある人が、TMAXに跨いでコーナリングを体験したら感じる事が出来る。
とにかくサスペンションがしなやか、かつシットリと路面を追従する。また車体の一体感があるので、右から左といった
ブラインドコーナーでは一般スクーターとは別次元。二つ目のコーナーに侵入する際に車体を切り返す必要があるが、
その時のフロントタイヤの接地感が抜群で、とにかく今までの(特に大型)スクーターでは考えられないような身のこなし
と乗りやすさを実感できる。それでいてスクーターの持つ「快適性能」への影響は最小限に留められ、一般バイクより
気軽に乗れ、一般バイク並みに走る事を楽しめるマシンになっている。
 ただし、いくら「スポーティ」と言えども、スクーターの域から脱却していない。これはTMAXがスクーターである限り、
越える事が出来ない壁。そもそもTMAXは、「スクーターでスポーツ性能を追求」した結果なのだ。確かにスーパー
スポーツより気楽に乗れるが、これを超えるスポーツ性能を求めるには「スクーター」から逸脱しなければならないだろう。
 「友達のスポーツバイクをチギる性能を持った楽ちんなバイク」を求めてTMAXを買うと、必ず後悔する。 「普通のスク
ーターよりも走りが楽しめるスクーター」と解釈して買えば、これほど楽しいマシンはないと断言できる。
事実、「高速道路二人乗り解禁」でTMAXの真価が証明され、シェアを伸ばしているのだから。

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