「靴(ヒール)が身体に与える影響」
16期生 坂口 正拡
平成15年12月19日提出
序論(はじめに)
靴というのは人間の生活において必要不可欠なものになっている。したがって靴によって障害の予防や治療後のアフターケアを出来たらいいなと思っていた。その時、ハイヒールを履いて、アンバランスに歩いている女性をよくみかけた。最近、ヒールによる足のトラブルが叫ばれているなかで、なぜ女性はハイヒールを履くのをやめないのかという疑問がうかんできた。しかし、ヒールは女性に人気があるのは事実で、それならば、なにかハイヒールを履くことによってメリットがあるのかと考えた。これがヒールを題材にしようと思ったきっかけである。そして様々な文献を調べていくうちに、ヒールを治療や予防に使えるのではないだろうかとひらめき、この題に決定した。
ヒールについて述べるにあたり、足のことをまず理解する必要がある。
靴の歴史(ヒールの成立)
人間はなぜ靴を考案し、その形をかえて現在のような形になったのだろうか。
人間は他の動物に比べて知能の面で変化を遂げてきた動物である。そして、頭脳的変化を遂げたことにより、己の内的環境や気候などの外的環境に適応するために、様々な道具などを造りあげてきた。衣服や靴がその1つの例である。最初は外界の刺激から身を守る目的から開発されてきたが、時代の変化にともなって個性的な性格を発揮するようになってきた。それは、素材が入手しやすくなったことから始まり、様々な模様を描くようになり、そして人目を引き、自己顕示するものとなってきた。
靴の起源は、紀元前3,000年頃だと言われている。このころの靴は、寒さや障害物から身を守り、スムーズに歩くことが主な目的であった。しかし、古代エジプトにおいては、履物は、足の下に敷かれることから、敵を踏みつけ、支配する意味を持ち、権力の象徴として用いられていた。16世紀頃になると、身長を高く見せるために、ゾコリという厚底の靴みたいなものを履き、ロングスカートで脚部を被い、己を着飾り、美を競った。この頃から靴の美の追求が始まったのではないのだろうか。そして、19世紀にはドイツの婦人靴で、現在のハイヒールにそっくりな靴がでてきた。このように靴は身を守るものから、ファッション性や美を競うためのものに変貌をとげ、現在にいたる。美を強く追求したため機能性が無視されてきた傾向がみられる。そのために足に靴が合わなかったりで、外反母趾を代表とする足の障害がでてきたのだと推測できる。
足の構造と機能
足を構成しているのは、骨、筋肉、靭帯、血管、神経、それにこれらを被っている皮膚と皮下組織の脂肪である。これらの組織の合成によって人の足が形成され、運動、知覚、行動をしている。足には、全身で208個ある骨の約4分の1にあたる56個の骨が両足にあり、および腱、靭帯、筋肉により多くのかんせつをつくっている。
これらの組織により足は構成されており、この構造は大きく3つの部分に分けられる。即ち前足部(足指骨14個)、中足部(中足骨5個)、後足部(足根骨7個)である。
前足部は5本の足の趾の総称で、母趾は基節骨、末節骨の2つの骨からなり、第2〜5趾は基節骨、中節骨、末節骨の3つの骨から構成されている。さらに、母趾の中足骨骨頭部には内側、外側に種子骨がある。これは、短母趾屈筋の中間にあり、第1中足骨の底側面と関連している。足の趾の骨は、足の骨の中で最も運動性を有し物をつかむような動作に適しており、人は歩行するときに、この前足部で地面をつかむようにして、前進する。
中足部は第1〜5中足骨まで5本の趾に相当する細長い骨より構成されている。ある程度の伸縮性を保ち、各中足骨は、骨頭部にて靭帯で結合され、体重がかかるとアーチを多少減少させる弾力的な骨である。
後足部は足根骨から構成され、この足根骨は踵骨、距骨、舟状骨、第1〜3楔状骨、立方骨の7つの骨がある。後足部は非常に強い靭帯でがっちりと結合されていて、人間が直立した場合の安定感と制御を司る重要な部分である。
足の関節と靭帯
次に関節と靭帯を見ていく。足は全体重を支持する集合体である。足の関節には距腿関節、足根間関節(距骨下関節、踵立方関節、楔立方関節、距踵舟関節、楔舟関節)、足根中足関節、中足間関節、中足指節関節、趾節間関節がある。
距腿関節は、脛骨の下関節面と内果および腓骨外果を関節窩、距骨上面の滑車を関節頭とするらせん関節である。結び付けている靭帯として内側靭帯、前距腓靭帯、後距腓靭帯踵腓靭帯がある。距腿関節は、背屈・底屈が可能で運動の自由度は1度の関節である。距骨滑車の幅が後方より前方のほうが5mm広いために底屈位では関節の遊びがあり、わずかな内転、外転運動が、可能であるが、背屈位では関節窩が固く挟み込むため、内転、外転運動はできない。足では、踵から第2趾にぬけるラインを形態上の基準線として、この線に対して、距骨の長軸は前内側、距骨滑車の長軸は前外側に向いている。外果は内果よりも少し後方にあり、距腿関節の底屈や背屈の運動軸は完全な水平−前額軸とはならない。そのため背屈時には足底はやや外側に向き、底屈時には内側を向く。
距骨下関節は距骨の下面と踵骨上前面とのあいだの関節で、前、中、後距踵関節の3つの部分で出来ている顆状関節である。結合している靭帯は骨間距踵靭帯、内側距踵靭帯、外側距踵靭帯である。距骨下関節では外転運動と内転運動、外返し運動と内返し運動が可能である。外返しは回内−外転−背屈で、内返しは回外−内転−底屈の複合した運動である。
横足根関節は、外側の踵立方関節、内側の距舟関節の2つから成る。この関節は、ショパール関節とも言われていて、この関節を結合している靭帯は距舟靭帯、二分靭帯、踵立方靭帯、踵舟靭帯、長足底靭帯である。長足底靭帯は、踵骨隆起のすぐ前部から立方骨および第2〜5中足骨底に至る強い靭帯で、さらに表層にあって踵骨隆起から中節骨に至る厚い腱性の足底腱膜とともに足の縦方向のアーチを形成している。横足根関節の運動は距舟関節が主となって、底屈と背屈、内転と外転、外返しと内返しが可能となっているが、動きの範囲は小さい。
足根中足関節は、内側楔状骨と第1中足骨、中間楔状骨と第2中足骨、外側楔状骨と第3中足骨、立方骨と第4・5中足骨とのあいだにある関節の総称である。またこの関節はリスフラン関節とも言われている。この関節を結合している靭帯として背・底側・骨間足根中足靭帯がある。この関節は、すべり運動が主で、わずかな底屈と背屈、内転と外転が可能である。
中足間関節は中足骨相互の半関節で、背・底屈および骨間中足靭帯が補強する。足の横アーチが形成される部分である。
中足趾節関節は、中足骨と足趾基節骨のあいだの球関節で、内・外側側副靭帯、底側靭帯、深横中足靭帯で補強されている。
趾節間関節は、手と同様にPIP関節、DIP関節を持つ。この関節は内・外側側副靭帯により補強された蝶番関節で、屈曲と伸展が可能である。
足の筋
次にこの関節を動かす筋について述べる。足の筋は下腿に起始があるものを下腿筋、足部に起始があるものを足筋と言う。
さらに下腿筋を部位によって3つ、足筋は2つに分ける。
下腿筋
1 前面:前脛骨筋、長母趾伸筋、長趾伸筋、第3腓骨筋
2 側面:長腓骨筋、短腓骨筋
3 後面:浅層;腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋
深層;後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋
足筋
1 足背:短母趾伸筋、短趾伸筋
2 足底:母趾球筋(母趾外転筋、短母趾屈筋、母趾内転筋)
小趾球筋(小趾外転筋、短小趾屈筋、小趾対立筋)
中足筋(短趾屈筋、足底方形筋、虫様筋、底足骨間筋、背側骨間筋)
この下腿筋と足筋を表にまとめる。
下腿筋
筋名 |
起始 |
停止 |
神経 |
作用 |
前脛骨筋 |
脛骨上外側面
骨間膜、下腿筋膜
|
足背から内足楔状骨と第1中足骨底内側に |
深腓骨神経
L4〜S1
|
足の背屈
内返し
下腿の前傾
|
長母趾伸筋 |
下腿骨間膜
腓骨中央内側
|
母趾末節骨底
基節骨底
|
深腓骨神経
L4〜S1
|
足の背屈
母趾の伸展
下腿の前傾
|
長趾伸筋 |
脛骨外側顆
腓骨上部
下腿骨間膜
下腿筋膜
|
第2〜5趾趾背腱膜 |
深腓骨神経
L4〜S1
|
第2〜5趾伸展足の背屈・外返し
下腿の前傾
|
第3腓骨筋 |
腓骨前下面 |
第5中足骨底背側 |
深腓骨神経
L4〜S1
|
足の背屈・外転・外返し
|
長腓骨筋 |
腓骨頭、腓骨上外側 |
第1. 2中足骨底
内側楔状骨 |
浅腓骨神経
L4〜S1
|
足の底屈
外返し
|
短腓骨筋 |
腓骨外側 |
第5中足骨底 |
浅腓骨神経
L4〜S1
|
足の底屈
外返し
|
腓腹筋 |
内側頭:大腿骨内側上顆
外側頭:大腿骨外側上顆
|
ヒラメ筋との共同の腱(アキレス腱)となり踵骨隆起につく |
脛骨神経
L5〜S2
|
足の底屈
膝関節の屈曲
|
ヒラメ筋 |
脛骨ヒラメ筋線、内側縁、ヒラメ筋腱弓、腓骨頭
|
腓腹筋との共同腱(アキレス腱)となり踵骨隆起につく |
脛骨神経
L5〜S2
|
足の底屈 |
足底筋 |
大腿骨外側上顆
膝関節包
|
踵骨隆起
足関節包
|
脛骨神経
L4〜S2
|
足の底屈 |
長趾屈筋 |
脛骨後面 |
第2〜5趾末節骨底 |
脛骨神経
L5〜S2
|
第2〜5趾屈曲
足の底屈
内返し
|
長母趾屈筋 |
下腿骨間膜後下部
腓骨下3分の2
|
母趾末節骨底 |
脛骨神経
L5〜S2
|
母趾屈曲
足の底屈
内返し
|
足筋
筋名 |
起始 |
停止 |
神経 |
作用 |
短母趾伸筋 |
踵骨前部背側面 |
母趾背側で長母趾伸筋と合し趾背腱膜となる |
深腓骨神経
L4〜S1
|
母趾の伸展 |
短趾伸筋 |
踵骨前部背側面 |
第2〜5趾の趾背腱膜と長趾伸筋腱 |
深腓骨神経
L4〜S1
|
第2〜5趾伸展 |
母趾外転筋 |
踵骨隆起内側、
屈筋支帯
足底腱膜
舟状骨粗面
|
第1中足骨頭内側の種子骨
母趾基節骨底
|
内側足底神経
L4〜S1
|
母趾を内方へ引き、屈曲する |
短母趾屈筋 |
内側(中間・外側)楔状骨長足底靭帯
|
第1中足骨頭内側の種子骨
母趾基節骨底
|
内側および外即足底神経
L4〜S1
|
母趾基節を屈曲 |
母趾内転筋 |
斜頭:立方骨、外側楔状骨、第2・3中足骨底、長足底靭帯
横頭:第3〜5中足骨頭中足趾節関節包 |
第1中足骨頭の外側種子骨と母趾基節骨底 |
外側足底神経
S1〜2 |
母趾基節を腓骨側に引き、屈曲する |
小趾外転筋 |
踵骨隆起
長足底靭帯外側 |
第5中足骨粗面
小趾基節骨底 |
外側足底神経S1〜2 |
小趾を腓骨側および足底方向に引く |
短小趾屈筋 |
長足底靭帯
第5中足骨底
|
小趾基節骨底 |
外側足底神経
S1〜S2 |
小趾基節屈曲 |
小趾対立筋 |
長足底靭帯
第5中足骨底
|
第5中足骨外側 |
外側足底神経
S1〜S2
|
小趾を母趾方向と足底方向に引く |
短趾屈筋 |
踵骨隆起下面 |
第2〜5趾中足骨底 |
内側足底神経
L4〜S1
|
第2〜5趾中節屈曲 |
足底方形筋 |
踵骨内側、下面 |
長趾屈筋腱 |
外側足底神経
S1〜2
|
長趾屈筋の働きを助け、趾の屈曲 |
虫様筋 |
4つあり、長趾屈筋の4腱から出る |
第2〜5趾基節母趾側の趾背腱膜 |
第1・2:
内側足底神経
L4〜S1
第3・4:
外側足底神経
S1〜2
|
第2〜5趾基節屈曲中節・末節伸展
|
底側骨間筋 |
3つあり、各第3〜5中足骨内側 |
第3〜5趾の各基節骨底、趾背腱膜 |
深腓骨神経と外側足底神経
S1〜2 |
第2趾を基準にして背側骨間筋はほかの趾をはなし、底側骨間筋は近づける。
同時に作用すれば基節を屈曲し、中節、末節を伸展する |
背側骨間筋 |
4つあり、各2頭持ち、第1〜5中足骨の相対する面 |
第1:第2趾内側
第2〜4:第2〜4趾外側、基節骨底と趾背腱膜
|
歩行の時まず足根骨で地面との圧力を感じ、次に足の外側部より中足骨骨頭部から内側に移行して、ここで初めて足を蹴ることにより歩行することが出来るのである。
歩行については後で述べるとして、ここまでが足の全体的の構造である。次から足の重要な構造と機能を述べていく。
足のアーチ
第1に足のアーチである。足のアーチは、足の形態を考える上で重要な構造をしている。アーチは地面に接する部分(第1中足骨骨頭、第5中足骨骨頭、踵骨隆起の内側および外側突起)を支点として、三角形のような形をしていて、圧力に対してスプリングのような働きをして、衝撃を緩和してくれる作用がある。またこの3点の支点は、人間が直立姿勢を保つのに無くてはならないものである。それは、この3つの支点が三脚の役割もしているからである。この三脚があるからこそ地球の引力を抗して、地面に安定して立っていられるのである。これは人間が直立していられるために極めて重要な構造であるといえるのではないだろうか。
そしてこの3つの支点を結ぶアーチには、内側縦アーチ、外側縦アーチ、横アーチがある。これからこの3つのアーチについてみてみよう。
まずは、内側縦アーチである。このアーチは土踏まずを形成していて、歩行運動と密接な関係がある。内側縦アーチは第1中足骨骨頭と踵骨隆起を結んでできているアーチで、この骨構造は踵骨、距骨、舟状骨、内側楔状骨、第1中足骨から成る。舟状骨は、このアーチの要石となっている。また、このアーチの地面との接地部位は、後方の踵骨隆起底足部と、前方の第1中足骨骨頭部の種子骨である。そしてこれらの骨をつないでいる靭帯は、底側踵舟靭帯・距踵靭帯・楔舟靭帯・足根中足靭帯などがある。このアーチに付着している筋は、後脛骨筋(舟状骨を引く)・前脛骨筋(第1中足骨底を引く)・長母趾屈筋および長趾屈筋(第1〜5趾を引くと同時に距骨と踵骨を安定させる)・母趾外転筋(第1中足骨と距骨を引く)がある。
次に外側縦アーチである。このアーチは足のバランスと密接な関係がある。外側縦アーチは踵骨・立方骨・第5中足骨から成っている。内側縦アーチに比べるとアーチの高さは低く、長さも短くて、皮膚を含めた軟部組織を通して、全長にわたって地面と接している。第5中足骨粗面は、人間が直立した場合、外側から見ると、第5中足骨粗面はしっかりと体重を支え、地面に密着している。このアーチの要となるのは踵立方関節部である。これらをつないでいる靭帯は、長足底靭帯と踵立方靭帯および足根中足靭帯である。またこのアーチに付着している筋には、長腓骨筋・短腓骨筋・小趾外転筋がある。長腓骨筋は踵骨を持ち上げ、短腓骨筋は同時に第5中足骨頭を引き、小趾外転筋は小趾を腓骨側および足底方向に引く。
そして、横アーチである。横アーチは内側縦アーチと外側縦アーチのあいだに出来るアーチで、部位によって構成要素が異なる。1つは第1中足骨骨頭の種子骨と第2・3・4・5中足骨骨頭からなる前部の横アーチと、もう1つは内側・中間・外側楔状骨および立方骨から成る後部の横アーチである。前部の横アーチの頂点は第2中足骨頭である。このアーチは深横中側靭帯で結ばれており、筋は母趾内転筋横頭がある。後部の横アーチは中間楔状骨が、頂点になる。このアーチは、楔間靭帯と楔立方靭帯で結ばれており、長腓骨筋が関与している。長腓骨は、アーチの緊張帯としての作用を持ち、長腓骨筋は足部の3つのアーチすべてに作用を及ぼす。
足のアーチは、出生時には低く未完成であるが、成長とともに活発な筋活動と体重増加に対する坑重力作用として、高さを増して完成する。アーチの形成によって、足底にかかる圧力は分散されて地面に伝達される。安静立位では、体重の50%ずつが両足の距骨にかかる。距骨はこれを踵骨に25%、母趾球と小趾球に25%の比率で分配する。
足にかかる重力
次に足にかかる重力線を見ていくことにする。人間の足を後ろから見ると、全体重、すなわち重力の線が脛骨の中心部を通り、足関節の部位で横に移動して、踵骨の中心部を通っている。踵骨と脛骨は同じ位置に連環されているのではなく、脛骨より外側、つまり腓骨側に位置している。このため脛骨に垂直にかかった体重は距骨部において、外側に移動し、踵骨の中央部を通って踵に抜けていくのである。もし、この線がまっすぐに通りぬけてそのまま地面に達するのであれば、支える基盤のない空間に突き当たってしまう。そのため基盤となる踵骨の方(外側)へ移動することにより、踵骨が体重を支えることになる。足の障害で回内位が多いのはこのことによるものだと思われる。しかし人間が体重を支える時と、歩行する時には、わずかに回内するのは、自然である。歩行に関しては後で考察するが、これは体重を支える時に、衝撃を吸収するためのアーチと踵の譲歩行為である。しかしこれが過度になりすぎると、回内足としての障害が出始め、脚部後側の筋肉の緊張、足関節や膝の痛み、アキレス腱の緊張、さらには足全体の慢性的な痛みや疲労のために、足に慢性的な苦痛を引き起こす。それは通常の歩行形態を変え、身体を容易に疲れさせる原因となる。
載距突起
次に重要なのは載距突起である。人間の足関節を構成している中で重要なのが、距骨下関節を構成している載距突起である。これは踵骨と距骨を結び付ける重要な部位であり、正常なアーチを持った載距突起は、足の長軸に対して直角の位置に安定している。そしてその上に、距骨がしっかり乗っている状態である。載距突起の面積は小さく、結合の具合も極めて特異であり、平面上にピッタリ固定されているのではなく、緩やかなカーブにうまく適合して乗っている状態である。この部位で人間の身体全体の圧力の大部分を支え、踵、前足部に力を配分し、そこで起立して歩いたり、駆けたり、跳んだり、蹴ったりする運動の原動力となっているのであり、この小さな部位にかかる圧力が、直立二足歩行の原点になっている。もし、足に障害があったり、アーチが落ちて異常に平らな足では、載距突起の角度は、90度より鋭角に減少することが多く、それにともないアーチを適切に支え、十分に足を機能させることができなくなるので、直立二足歩行に対して足を十分に機能させるには、載距突起を足の長軸に対して90度に保つことが必要条件になっていると思われる。
ストレスの配分
直立静止状態のとき、下肢を伝わってきた体重は足関節を通り、距骨滑車面のレベルで後足部にかかる。ここから力は弓蓋の3つの支持点方向に、分散される。
@:第1中足骨頭へは、距骨頚と内側アーチの前方支柱を通り伝わる。
A:第5中足骨頭へは、距骨頭・踵骨前方突起そして外側アーチの前方支柱を通り伝わ
る。
B:踵骨隆起へは、距骨体・距骨下関節・踵骨体を通り伝わる。
直立静止状態では、どのような変化が起こっているのか。直立静止状態のときは、足部のアーチは体重によって、平坦化して長くなる。各アーチに分けて見ていく。
内側縦アーチ
負荷の無い時、踵骨隆起は、地面から7〜10mm上にあるが、力が加わると1.5mm低下し、前方突起も4mm低下する。距骨は踵上を後方に動き、舟状骨は地面に近づくにつれて、距骨頭の上に乗りあがり、楔舟関節と楔中足関節が下方に開く。第1中足骨と地面のなす角度は減少し、踵は後退し、種子骨はわずかに前方へ移動する。
外側縦アーチ
内側縦アーチと同様な踵骨の垂直移動が生じる。立方骨は4mm低下し第5中足骨外側粗面は、3.5mm低下する。踵立方関節と立方中足関節は下方に開き踵は後退し、第5中足骨頭はわずかに前方へ移動する。
前部横アーチ
負荷がかかるとアーチは、平坦化し、第2中足骨を中心に両側に開く。第1と第2中足骨間は5mm増大し、第2と第3中足骨間は2mm、第3と第4中足骨間は4mm、第4と第5中足骨間は1.5mm、それぞれ増大する。そのため体重がかかった時、前足部は12.5mm広くなる。
横方向の湾曲は、楔状骨および舟状骨の両方のレベルでも、低下する。そしてこの2つの横アーチは、外側に傾き、この角度は内側アーチの平坦化の程度に比例する。さらに、距骨頭は、2〜6mm内側に動き、踵骨前方突起は2〜4mm内側に移動する。これが横足根関節での足の捻れを引き起こす。後足部の軸は内側へ動き、前側部の軸は外側へ移動する。後側部は内転−回内と軽度伸展を行い、前側部は相対的に屈曲−外転−回外運動を生じることになる。
次に歩行を行う時に起こる変化である。
歩行する際、足底部における圧力は移動する。まず踵の部分で地面に接し、踵にかかった圧力は足の小趾側を縦軸に移動し、第5中足骨頭部から、母趾側に移動して、母趾の中足趾節関節で蹴り、身体を移動させていく。この時の足部においてどのような変化が起こっているのかを見ていく。
歩行は大きく分けると、遊脚相と立脚相に分けられる。足に負荷がかかるのは立脚相である。この時足のアーチは圧迫と伸張の力を受け、この時アーチの弾力的な緩衝器としての機能を発揮する。立脚相をさらに4つの相(接地の完成期、最大接地期、能動的推進第1期、能動的推進第2期)に分ける。そして、この時の動的変化を見ていく。
接地の完成期
下肢を前方に振り出して接地しようとする時、足関節は屈筋の作用で、中間位もしくは軽度屈曲位になっている。足部は、足部は足底弓蓋の後方支持点である踵によって接地し、その直後、下腿に押されることで、足関節は他動的に伸展し足部全体が接地する。
最大接地期
足底は荷重面全体で接地する。そして、他側肢によって推進力を得た体幹は、支持脚の直上を通過して、前方へと進む。この時、足関節は伸展位から屈曲位へと他動的に変化し、全体重が足底弓蓋にかかり、弓蓋の平坦化が起こる。この弓蓋の平坦化は足底筋の緊張帯作用で、同時に制限を受ける。これがショック吸収の第1段階である。平坦化することで弓蓋の長さがわずかにのびる。この運動の初期には前方支持点がわずかに前方へのび、最終段階では前方支持点が体重で強く地面に固定されるために、後方支持点である踵が後方へのびる。下腿が足部の垂直上方にきた時、足底の接地面積が最大になる。
能動的推進第1期
この時、体重は支持前足部にかかり、足関節伸筋、とくに下腿三頭筋の収縮によって踵が上がる。足関節が能動的に伸展している間に、足底弓蓋は前方支持点を軸として、回転する。体幹は上昇して、前方へ移動する。これが推進の第1期で、強力な筋の作用に依存していることが重要で、このとき、足底弓蓋は、前部で接地し、後部に筋が作用して、中間に体重がかかっているが、もし足底の緊張帯がなければ弓蓋は、平坦化してしまう。これがショック吸収の第2段階で、このとき、下腿三頭筋筋力の一部が推進運動の最終段階で一気に発揮できるように蓄えられている。さらにこのときは体重が前足部にかかるため、前部アーチは平坦化し、前足部は地面に固定されている。
能動的推進第2期
下腿三頭筋による推進力に続いて、足趾屈筋の収縮による第2の推進力が生じる。これは主に短母趾屈筋、母趾外転筋と内転筋、長母趾屈筋の作用でおこる。ここで足部は再度前方へ持ちあがり、その時は前部足根骨では支持されておらず、第1〜3趾、なかでもとくに母趾によって支持されている。これが支持の最終段階になっている。推進運動の第2期で、足底弓蓋は足底の緊張帯、なかでも足趾屈筋の作用によって平坦化に対抗し、この段階で緊張帯に蓄えられたエネルギーが、一気に放出される。その後、足部は地面を離れ、反対足に立脚相が始まる。このように両足は非常に短い期間だけ一緒に接地している。この期間を両足支持期という。そして次の段階の反対側による支持期では、足底弓蓋は地面を離れ、遊脚相に入り次の立脚相に入るまでの間に、元の状態に戻る。この繰り返しによって歩行を行っている。
データ検証
足の機能と構造はだいたいこのようになっている。これを念頭におき、友人などの協力によって得られたデータを検証していこうと思う。
まず、私がとったアンケートとその集計である。このアンケートは、複数回答ありになっている。<>は回答数である。
アンケート
靴と身体の関係を調査するアンケートです。おそれいりますがアンケートにご協力下さい。
女性 59人 男性 24人
1. 足(靴)のサイズはいくつですか?( )
2. 足の幅は広い方、細い方どちらですか?( )
3. 仕事内容は、何ですか?
a.立ち仕事 b.デスクワーク c.外歩き d.主婦 e.その他
<63> <13> <0> <3> <8>
4.よく履く靴は、何ですか?仕事用と分けている方は2つ書いてください。
a.スニーカー b.スポーツシューズ c.ローファー d.ブーツ
<44> <6> <11> <5>
e.ヒール靴 f.パンプス g.その他( )
<23> <24> <19>
5.よく履く靴のヒールの高さは、何cmですか?
a.ヒールなし b.1〜2cm c.2〜3cm d.3〜4cm e.4〜5cm
<30> <12> <13> <16> <10>
f.5cm以上 g.その他( )
<9>
6.靴を選ぶ基準は何ですか?
a.デザイン、ファッション性 b.機能性 c.ジャストサイズ
<50> <12> <9>
d.履き心地 e.オーダー f.その他( )
<41> <1> <1>
7.1日の靴を履いている時間は、何時間くらいですか?
a.4時間以内 b.4〜6時間 c.6〜8時間 d.8〜10時間
<8> <8> <17> <19>
e.10時間以上
<29>
8.靴底の減り方は、どうですか?
a.内側が減っている b.外側が減っている c.全体が満遍なく減っている
<9> <48> <23>
9.現在どのような症状がありますか?複数回答あり
足部
a.靴擦れ b.タコ、まめ、魚の目 c.足裏の痛み d.甲の痛み
<9> <20> <26> <4>
e.くるぶしの痛み f.小指の付け根側面の痛み g.爪の変形・変色・痛み
<1> <5> <14>
h.親指の付け根側面の痛み i.親指先端の痛み j.足の指全体の痛み
<6> <4> <2>
k.足の指の変形 l.水虫 m.足の指の重なり n.足の皮膚のかさつき
<12> <4> <2> <16>
o.その他( ) 無症状
<2> <19>
脚部
a.ふくらはぎの痛み・疲労感 b.すねの痛み c.下肢全体の痛み・疲労感
<32> <3> <11>
d.膝の痛み e.膝の変形(X脚・O脚など)f.大腿の痛み・疲労感
<7> <17> <5>
g.アキレス腱の痛み h.足がつる i.かかとの痛み j.その他
<3> <7> <3> <2>
無症状
<21>
全身
a.腰痛 b.肩こり c.頭痛 d.集中力の低下 e.イライラ f.冷え症
<46> <40> <17> <17> <12> <15>
g.身体全体がだるい h・食欲不振 i.便秘 j.下痢気味 k.背中の痛み
<21> <5> <13> <3> <11>
l.臀部の痛み m.生理不順・生理痛 n.皮膚の乾燥 o.その他 無症状
<1> <7> <13> <3> <6>
10.最後にあなたの靴の満足度を教えてください。
a.大変満足 b.満足 c.まあまあ d.不満 e.大変不満
<2> <20> <45> <13> <1>
アンケートの結果はこのようになってはいるが、これらの症状がすべて靴によるものとはいえず、その他の要因もあると思われるが、今回はこれらの症状が靴によるものだと仮定して、進めていく。そして、このアンケート結果より、症状を中心に気になったところをピックアップして、述べていきたいと思う。
つま先の形状
まず、データをとるにあたって、足を見せてもらっていると、つま先の形が違うのに気がつく。当然といえば当然のことであるが、見落としてはならない部分だと思われる。それは靴による足の異常と関係しているからである。
つま先の形状は、母趾が最も長いエジプト型、第2趾が最も長いギリシャ型、第1〜第3趾までほぼ同じ長さの四角型とその他のタイプという分類の仕方がある。この分類を用いた出現頻度はエジプト型あるいはその他のタイプ、ギリシャ型、四角型の順になるという。今回のデータでもほぼ同じ結果になった。
このように、つま先の形状は人によって違うのだということを認識しなければならない。スニーカーなどの靴は、どのタイプの足でも履けるようになっているが、ハイヒールのような婦人靴はそうはいかない。先の尖ったように細くなっているものもあれば、先が四角くなっている靴もある。もし、四角型のつま先をした人が、先の細くなっている靴を履いたとすれば、窮屈に感じるであろうし、履き続けたならば、指の変形などなんらかの異常が現れると想像することができる。
歩幅の変化
実際に自分でハイヒールを履いて試して見た。ハイヒールを履いて歩いて見ると、歩幅が短くなった。これは、ハイヒールを履くことにより強く蹴り出すことが出来ずに、すり足気味になるからではないだろうか。また歩いていて、膝が伸びきる前に、踵が接地するため、不安定でとても歩きにくかった。
足部の痛みの部位
まず、気になったのは痛みの部位である。足の疲れる位置はアンケートに抜けていたので直接聞いてみたところ、過半数以上の人が内踝の少し下あたりと答えた。特にハイヒールを履く人に多くみられる。この部位は前述した載距突起の部位である。なぜこの部位に疲れがでるのかというと、ヒールのある靴を履いて、踵を上げることによって距骨下関節に無理な力がかかり、距骨下関節を構成している3つの関節、即ち距踵関節・距舟関節・踵立方関節の靭帯が過度に伸展させられ、この3関節に関節裂隙が生じる。したがって、ハイヒールを履くことによって、距骨下関節を構成している靭帯が伸びきって疲労や、3関節などに炎症をおこしたためと考えられる。
その他にも足の外側という答えも多かった。これは、裸足の場合しっかりと体重を支え、地面に密着しているはずの第5中足骨粗面が、ヒールのある靴を履くことにより、地面に密着することができずに体重を支えることが出来なくなっているのである。即ち、平面上での足の骨格、立方骨と第5中足骨の関節は普通閉じているが、ヒールのある靴を履くことにより、立方骨と第5中足骨の関節と立方骨と距骨の関節は開かれ、その部位に関係する靭帯が過伸展し、慢性的な靭帯の緊張が起こり疲労や疼痛が起こる。そして、ヒールを高くすればするほど、距骨下関節への靭帯の過伸展を強調することになる。
また、ハイヒールにはすべり現象がおこる。これは、足が靴の中で傾斜にそって前方にすべり落ちる現象である。この現象が起こることにより、趾の付け根にあたる中足骨の部分に必要以上の圧がかかり、横アーチが潰され足趾は広がろうとする。しかし、靴による圧迫をうけ、力の逃げ場がなく跳ね返ってくる。そのため、母趾の内側や小趾の外側が圧迫され、その部分の痛みや変形を起す原因となる。
脚部への影響
ヒールの高さが高くなるほど、下肢、特にふくらはぎに痛みや疲労を感じる割合が増加している。これは筋活動の変化によるものである。ヒールをはいた状態での起立時に影響を受ける筋肉は、母趾外転筋、小趾外転筋、腓腹筋、長腓骨筋、内側ハムストリングであり、歩行時では母趾外転筋、短趾屈筋、小趾外転筋、腓骨筋、長腓骨筋、前脛骨筋、大腿直筋がヒールに影響を受ける。ヒールを履くと母趾外転筋、小趾外転筋、腓腹筋、長腓骨筋、内側ハムストリングは起立時と歩行時常に活動している状態にある。そのため休むひまが無く疲労しやすい状況にあることが解る。また、ヒールの高さが高くなるにつれて影響する筋肉も増え、筋活動も強くなる。
全身への影響
腰痛と肩こりについては、ヒールを履いている人と履いていない人の差は今回のアンケートのデータではあまりはっきりとはでなかった。しかし、ヒールを履いている人と履いていない人とでは、ヒールを履いている人のほうが、腰椎の前がきつい傾向を示した。
腰痛には、筋肉の捻転による挫傷や姿勢による腰痛や肩こりなど様々な原因が存在するが、ヒールも原因の1つになる。ヒールによる腰痛なども、どちらかといえば姿勢に影響を与える。
ヒールを履くことによって、身体は直立を保つために、まず膝と腰が屈曲する。ヒールの高さによって骨盤は前方に傾斜し、腰仙角を増加させる。そのために、腹部が前方に突出し、腰椎の前弯が強調される。そして、膝の曲がりも強調される。さらに、ハイヒールを履くことにより脊椎前部でその変化を調整しようとして、脊椎全体を前方に傾け、バランスを保とうとしている。
このように、ヒールを上げることにより起こる下肢、骨盤、さらには脊椎の変化はとても複雑で、なおかつ影響が大きいのである。したがって、これらの因子が腰痛を誘発すると想像できる。また腰痛だけにとどまらず肩こりや様々な不定愁訴につながるのではないだろうか。
足と脳・神経との関係
足に起こる異常変化から中枢神経や脳内の疾患を疑うことが出来ることから、足と中枢神経や脳とが関係しているということができる。例えば、患者の足底部を踵骨の側から前足部に向かって擦り母趾が背屈するバビンスキー徴候、足のくるぶしの外側を後方に擦ると母趾が背屈するチャドック徴候などのテストがある。これらの現象がみられたなら、脳の病変を疑うことがまず必要である。
また、人間が性的に極度に興奮した場合に母趾が反るという現象がある。これは、頭部で感じた性的刺激に対する反応が足に投影し、母趾を無意識のうちに背屈させるのである。これらの事実に照らし合わせると、足と脳との因果関係がどれだけ緊密に関係しあっているのかが解ると思う。
それ以外に、足に感じたすべての衝撃は、骨・筋肉・靭帯・神経を伝わって、脊髄の錐体路をとって脳に伝わる。この刺激は脊髄に直結する脳幹部、即ち中脳・橋・延髄に至り、さらにその上部にある前脳基底部・ホルモン中枢・自律神経中枢・視床下部などの部位に達し、これらの部位に足からくる衝撃によって刺激されるとによって、自律神経・ホルモン系の内臓とつながっている関係から頭痛、頭重、集中力の低下、食欲不振、消化不良などの全身障害の原因になるといわれている。
脳には大脳辺縁系といわれる部位があり、これは情動や自律神経系、ホルモンなどの分泌を調整する重要なもので、その中でも太陽神経叢(腹腔神経叢)とも呼ばれている神経叢は、内臓の神経節となり、内臓の運動を支配している。したがってこの部位を適度に刺激すると、動きが活発になるといわれている。大脳辺縁系を含む脳神経は、140億あり、脳神経の神経と神経をつないでいるのがシナプスである。
このシナプスは様々な情報を伝達する神経伝達物質により、神経のつなぎ部分に働き種々の情報を司る。脳内では部位によってシナプスを活動させる神経伝達物質が異なっている。その1つに快感物質と称するベータ・エンドルフィンと副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)がある。これは蛋白質から分解された小型の物質で、共に神経伝達物質である。さらに、もう1つ脳で働く物質にアセチルコリンがある。これらの物質が複雑に絡み合って脳の機能を営み、足からまたは他の部位からの刺激の良し悪しに応じて、これらの物質の分泌が変わってくるのである。
足からバランスの良い脳の神経伝達物質を快く刺激するような衝撃が加わると、ベータ・エンドルフィンやACTHなどの分泌が旺盛となり、心のストレスを解消し、脳の活性化を高めるホルモンの分泌も盛んになって、均衡のとれた健康な身体と豊かな感性を備えることができるのではないだろうか。
ヒールを履く人から、目がショボショボする、目が痛くなるなどの意見を頂いた。
これらの症状も様々な原因があるがヒールも関係していると思われる。これは足と脳の関係のところで述べたことと、足のツボや反射区で説明が出来ると思われる。(図1参照)
最近足ツボやゾーンセラピーといったものがあり、これは足には全身の機関の反射区が足にあり身体の異常が足裏の各臓器の反射区に反応がでる。そして反応が出ている反射区に刺激を与えることで、各臓器に繁栄して、身体を正常に近い状態もどすというものである。
ということは、普段の直立姿勢時や歩行時における足裏への刺激が重要になるのではないだろうか。普段裸足の時は、足底にまんべんなく圧がかかるが、ヒールを履くと圧がかかる部位が前足部に集中する。またヒールによる滑り現象によって中足骨頭に必要以上の強い圧が加わる。そのため足底にある反射区(この時は主に目・耳など頭部にある器官)に過剰な刺激が与えられる。そうなることにより、脳下垂体のホルモン分泌が亢進して、目がショボショボしたり、痛くなることがあり、そのほかにも頭痛、肩こり、生理痛や生理不順、便秘を引き起こすことになるという。
またそればかりではなく、一般に市販されているハイヒールはヒール部分が細めに出来ているものが多く、このようなヒールを履いている女性をよくみかける。そういう女性の歩き方をみるとあまりにも不自然で、地面に足が接地したときのバランスが悪く、ヒール部分がぐらついている様に見える。これはヒール部分が細いために、身体を支える面積が小さくなるので安定性が低下して、バランスが保ちにくくなり、歩く時の安定性失われてくるのである。それだけでなく、ヒールを履くことにより足の距腿関節の構造において不安定な位置になる。距腿関節の距骨滑車面の幅は、後方のほうが前方より短くなっている。そのため屈曲位ではしっかりと挟まれ固定されているが、伸展位では関節に遊びの部分ができる。ヒールを履くと強制的に伸展位にされるので、距腿関節部の安定性が低下するのである。
しかし、身体は常にバランスを保とうとするため、全身の筋肉も常に収縮と弛緩を細かいレベルで繰り返している。そのため、足は疲れやすく、筋肉も疲労する。また、自律神経も常に緊張している。その結果、イライラや自律神経失調などをもたらし、ホルモン分泌の異常を引き起こし、ついには精神不安定や前述した様々な障害にいたると思われる。
靴は、人間の生活において欠かすことの出来ないものである。靴は本来足を保護し、足の機能を高めるものである。しかし、現在では足を保護し、機能を高めるものではなくなり、デザインやファッション性を重視したものになっている。それは靴にいろんな意味をもたせたことに始まり、しだいに格好よく見せたい、綺麗にみられたいなど美を追求するようになり、そして美を追求することに固執し過ぎた結果、保護や機能といったものを重視しなくなり、デザインやファション性重視の靴になってきた。
その典型的な例がハイヒールである。ハイヒールは身長を高くみせたり、足を小さくみせるなどの効果がある。しかし、ハイヒールは特有の形をしているため、足底の体重のかかる部位が小さくなって、バランスがとりにくくなっている。また靴の中での滑りが起こりやすくなっているために、足趾に余計な圧力がかかるために、変形などの障害がでる。足だけにとどまらず、主に全体の姿勢に影響し、膝、股関節、骨盤、脊柱、さらには脳にまで影響を与える。そのため腰痛や膝痛など痛みなどの各部位の痛みやイライラのような精神的なもの、ホルモン分泌の異常など、様々な障害の原因になる要素をもっている。この要素があるためにヒールは身体に毒だと言われている。
ヒールの治療への応用
ここまでは、ヒールが起こす障害について述べてきた。たしかにヒールは身体に毒かもしれない。しかし、毒も使い方によっては薬になるのではないだろうか。そこで、これまで述べてきたことを少し考え方を変えてみて頂きたい。
ヒールを履くことにより、体重が踵よりも足趾にかかり、直立位では膝が屈曲し、骨盤が前方に傾斜し、腰椎の前弯が強調される。またヒールを履いた時の歩幅が短くなると述べたことを思い出して欲しい。この原理は治療に利用することが出来るのではないだろうか。
距骨周辺に痛みのある人に履かせることにより踵にかかる圧力を減らす。
膝に屈曲制限や硬直が起こっている人にヒールを履かせることにより、膝を屈曲させる。
股関節に痛みのある人に履かせることにより股関節への圧力を減らす。
このようにヒールの高さを調節することによって、踵の部分、膝関節、股関節への負担を避けるのに有効である。これらは実際に治療として使われている。その例を簡単に述べる。
股関節の緩圧
股関節を緩圧させる要因は、歩幅の短縮である。歩行の時の歩幅を短くすることで、股関節への圧力を軽減させる。股関節だけではなく膝関節にも同様のことがいえる。そのためにヒールを上げる。ヒールを上げることにより必然的に歩幅は短縮される。また、腓腹筋、半腱半膜様筋などの弛緩によって股関節を緩圧させる。
硬直した膝関節、膝の屈曲力を高める
屈曲に不自由を訴えるような時はヒールを上げる。また、膝の外傷や手術後の障害により、膝関節に運動制限や硬直を起こしている時には、健足と患足を比較して健足の下肢の長さを2cmほど低くすることによって、膝関節の硬直化を軽減させる。
踵骨への緩圧
踵骨棘やアキレス健周囲炎などの痛みなど、踵骨への緩圧を必要とする時にヒールを上げる。
これらのように下肢の部分的な治療にはヒールが使われる例はある。しかし、脊柱など上半身に対して、使われている例は少ない。
しかし、脊柱などにも使えるのではないだろうか。
1つ例をあげると、腰椎の前弯が減少している人である。腰椎の前弯が減少していると、重力や運動などの負荷によって、腰椎の椎間板に影響して、椎間板や椎間関節などに損傷を与えやすく、ヘルニアなどの障害が起こりやすいと言われている。そういう人達にヒールを履かせ前弯をつけさせるというのは、どうであろうか。
そこで前弯の減少している友人に靴の中に入れるタイプの物を使用して実験してみた。しかし、今回の論文では結果を出すことが出来なかった。実際このような治療は長期間かけて行うもので、短期間で結果が出るものではないと思われる。それは、日本ではアメリカなどと違い、靴というのは外にいる時に履いて、家などでは靴を脱いで生活をする文化であることにも関係しているのではないだろうか。
まとめ
ヒールは足の関節、膝関節、股関節、脊柱さらには脳にまで影響を与える。
実際に治療に使われているが、その効果としては、一般にヒールのマイナス面と考えられているものを利用してプラス面にもってきている。さすがにハイヒールやピンヒールなどのヒールは治療には使えないが、ようは考え方の違いである。一般に市販されているヒールは機能面よりもデザインやファッション面を重視し、治療用のヒールはデザインやファッション面よりも機能面を重視している。
実際治療に使われているが、ただ単にヒールの形や高さの調節だけでは、ヒールによる悪影響も伴う。そのためヒールだけではなく悪影響を少なくするために靴の形やインソールも併用して使われている。
そして、ヒールに限らず、靴は姿勢に影響を及ぼすので、靴をコントロールすることで、身体の姿勢をコントロールでき、さらには痛みや症状をコントロールすることが、可能なのではないだろうか。
最後に
靴による治療はただ単にヒールの高さの調節だけではなく、履く人の足の形、機能、姿勢そして靴の形、素材、機能、さらにはインソールの知識を組み合わせて、患者1人1人に合わせてしなければならない。
今回の論文をとおして、足のおくの深さ、靴が身体に与える影響などを知り、希望がわいてきた。これらの知識を深めていけば整体治療のアフターケアにかなり役立つからである。
しかし今の私の知識では、まだまだ足りないことも思い知らされた。ゆえに、靴やインソールのこと、身体のことの理解も、もっとふかめていかないと、いけないことを実感した。
謝礼
今回卒業論文を書くにあたって、アンケートやデータ取りに協力してくださった皆様、アドバイスして下った講師の皆様に感謝いたします。
参考文献
「新しい靴と足の医学」
城南病院院長 石塚忠雄(著)
金原出版株式会社
「足の事典」
山崎信寿(編)
鈴木隆雄 河内まき子 楠本彩乃 西澤哲 山崎信寿(著)
朝倉書店
「フットケアのすべて」
須山順子(著)
フレグランスジャーナル社
「カパンディ 関節の生理学」U下肢 原著第5版
I.A.KAPANDJI
荻島秀男 監督 嶋田智明 訳
「基礎運動学」第5版
中村隆一 斎藤宏 長崎浩(著)
医歯薬出版株式会社
「中国式足もみ健康法」
鈴木祐一郎(著)
大泉書店
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