Steady 2 〜来栖川綾香〜
「はぁ〜」
クラスの女の子達が私の方を見ている。
そりゃそうよね、授業中も窓の外見ながら頬杖ついてため息しかしてないんだものね〜。
でも、そんなに珍しいかしら。
私だって女の子なんだから恋してせつなくなったり……。
恋?
そうなのよね〜。
「はぁ〜」
私はまた大きいため息をつくと、その原因である大好きな男の子の顔を思い浮かべていた。
「はぁ〜」
昼休み。
今日は天気がいいからいつも通りにセリオを連れて、屋上でお弁当を食べていた。
その間もやっぱりため息を付いてしまう……。
「綾香様、どうかしましたか?」
「あ、ううん、何でもないのよセリオ、心配掛けてごめんね」
「いえそんな事ありません」
「ありがと、セリオ」
でも、しょうがないのよねぇ……だって今私の頭の中あいつの事で一杯だから。
浩之。
そう、藤田浩之。
ついこの間、その……私の恋人になった男の子。
浩之と知り合ったのは回りにいる女の子達の中で一番最後だったけど、今は浩之の一番になれた。
幼なじみよりも姉さんよりも好きになってくれた。
もちろん私の中でも浩之が一番になった。
だから浩之が今何しているのかな? なんていっつも考えちゃう……。
「ねえセリオ……浩之って今ごろ何していると思う?」
「……浩之さんでしたら学校の中庭で芹香様とお昼を食べていらっしゃるようです」
「そう姉さんと……ってセリオ!? 何でそんな事わかるの?」
「……それはサテライトサービスの衛星からの映像を受信してましたから」
「はあ? ちょっとそれっていつから……」
「一時間置きにですが」
「そう、でもどうしてセリオがそんな事している訳?」
……ぽっ。
「秘密です」
な、何顔赤らめて……それに秘密って何よ、セリオ!?
と、とにかくそれは後でじっくりと聞き出すとして、今は浩之の方ね!
「あいつ私が知らないと思って姉さんといちゃいちゃしてるのね?」
「…………」
「ん、セリオどうしたの?」
「……いえ、浩之さんがその……あっ!」
セリオが固まっている、ちょっと何やってんのよ浩之は?
「セリオ、いったいどうしたの? 浩之は何しているの?」
両肩を掴んで揺するとセリオが気が付いたように私の顔を見た。
「膝枕です」
「膝枕って……ええっ! もしかして姉さんの?」
「はい……その、二人ともとても幸せそうです」
ゴキリ。
えっ?
私が拳を握る前にセリオの手の中でお茶を入れてきた水筒が音を立てて潰れた。
「セ、セリオ?」
「綾香様、用事を思い出したので早退させて頂きます」
すくっと立ち上げると近くに有ったゴミ箱に屑鉄になった水筒を放り込んでそのまま行ってしまった。
呆気にとられて呆然としたけど私も直ぐに立ち上がると、セリオの後を追った。
多分、いや絶対にあそこに行ったと確信していた。
浩之の所だ。
しかしセリオがねぇ……。
これは手強いライバルになりそうだわ。
「悪いな〜先輩、こんな事して貰っちゃって」
ふるふる。
「…………」
「えっ、私も嬉しいって……そ、そう」
こくこく。
「う〜んそれならいいんだけどさぁ」
ぽっ。
「でもこんな所綾香が見らたらきっと……」
「浩之さん!」
「うわ……って、あ、あれ、セリオ?」
つかつかつかつか。
「よ、ようセリオ、どうしたんだこんな所に?」
「浩之さん、私、私……」
「おい大丈夫かセリオ? 顔が真っ赤だぞ!」
「私も……私も膝枕してみたいのですが、駄目でしょうか?」
「はい?」
「…………」
「え、先輩どうぞって……」
「ありがとうございます、芹香様」
こくこく。
「う〜ん、まあ俺は良いんだけどぉ……」
「それでは失礼します、浩之さん」
ぽて。
「これで良いのか、セリオ?」
「はい、これが膝枕なのですね……不思議です」
「何が?」
「何故か浩之さんの頭の重さが落ち着くのです」
こくこく。
「え? 先輩も同じだって……」
ぽっ×2。
(二人とも何か呆けているけど、まあ幸せそうだからいっか〜)
「何しているのかしら、浩之?」
「あ、綾香?」
ふ〜ん……鼻の下伸ばして随分気持ちよさそうに膝枕しているわね。
「お邪魔だったかしら?」
「な、何言ってんだよ、そんな事有るわけないだろ」
私は仁王立ちしながら見下ろすと、セリオに膝枕されたまま動けなくなった浩之を
睨み付ける。
ん?
浩之の奴、急に顔赤くしちゃってどうしたんだろう……。
「…………」
「え、姉さん今なんて言った……」
「綾香」
「何よ?」
声を掛けたくせに、浩之は照れたような嬉しいような表情で目線が動いていた。
「その……丸見えなんだけど……」
「だから何が?」
って、浩之の視線を追っていくとそこは私のスカートの中だった。
「…………」
「…………」
「浩之」
「ふ、不可抗力だっ」
私はニコリと笑って告げた。
「もっと……サービスして上げましょうかっ!?」
そう言ってスカートを気にせずに自分の足を振り上げると、
浩之の頭目指して踵を落とした。
がしっ。
浩之に上げようとした制裁の一撃を、今まで黙って膝枕させていたセリオが受け止めた。
「ちょっとセリオ、何で邪魔したのよ?」
「今の一撃では浩之さんが怪我をしてしまいます、ですから受け止めました」
「余計なことしないでくれる、セリオ」
「拒否します」
「セリオ!」
「イヤです」
どうして? セリオのマスターは私なのに何でそうなるの?
「なあ……」
「何よ?」
「いつまでそのポーズのままなんだ? 俺は構わないんだけど……」
「えっ……ひゃあっ!!」
さっきから浩之の目の前で全開じゃない!?
こ、これじゃサービスしすぎよ!
慌てて足を下ろそうとしたけど、セリオが放してくれない。
「いい加減放してくれない、セリオ?」
「浩之さんを蹴りませんか?」
「そんな事い〜から放しなさい!」
「蹴りませんか?」
「あ〜んもうっ! 解ったから放して!」
「約束ですよ、綾香様」
私に念を押してからセリオはようやく足を放してくれた。
どうしてこうなっちゃうのよ?
すん。
「綾香」
ぎゅっ。
背を向けて落ち込んでる私の背中を浩之が声を掛けて抱きしめる。
「やっ、放してよ!」
私の言葉を無視して浩之は更に力強く抱きしめる。
「綾香」
「……すん」
体の力を抜いて浩之に寄りかかると、私の腰を持って自分の方に向かせた。
「ごめん綾香、俺が悪かった」
「……すん」
私も浩之に背中に手を回してその胸に顔を埋める。
「…………」
「もう、この卑怯者」
浩之、あなたそう言って誤魔化してない?
でも、私の耳元で浩之が囁いた言葉に心が温かくなっていった。
「愛してるぜ、綾香」
「え〜っ、今なんて言ったのセリオ!?」
「ですからあれは冗談ですと……」
こくこく。
ね、姉さんもぐるだったなんて……。
「ま、俺は気持ちよかったから良いんだけど」
くっ。
何よ、結局上手く騙された私って……とほほ〜。
「で、でもセリオってば顔赤くしてたじゃない?」
「えっ、そうですか? 私解りません」
……ってどこ向いて言ってるのよ、セリオ?
あれは絶対にマジだわ、そうに違いない!
油断できないわね。
「…………」
「これからもみんなで仲良くしましょう……って姉さん?」
ぽっ。
こ、こっちもマジだわ……駄目よ!
私は二人から浩之を背中に隠すように遮るとはっきりと言いきった。
「二人とも! 浩之は私の物なんだから〜!」
「冗談です(クス)」
「こくこく(クス)」
おわり