かおりんの恋は止まらない♪ 最終話(後編)
あたしは今日の事、絶対に忘れない……うん、これから先もずっとね。
放課後になり名雪は部活に行かなければならないのだが、駄々をこねて祐一に昇降口まで
一緒に来て貰っている。
まあそのぐらいだったら許してあげるわ。
「じゃあな名雪、部活がんばれよ!」
「うん、祐一の為にがんばるから〜♪」
「それって何か違うわよ、名雪?」
「問題ないよ〜、じゃあね祐一、香里」
あたしの言っている事をちっとも気にせず、名雪は靴を履き替えるとぱたぱたと元気良く走っていった。
「すまん香里、ちょっとトイレに行って来る」
「解ったわ、ここで待ってるから」
「おう」
しかしあれから三十分を過ぎたけど祐一は戻ってこない。
これは何かあったようね……嫌な予感みたいな物が頭の隅を過ぎった。
あたしは自分の感を信じて祐一が行った方に向かった。
そしてやっぱりあたしの感が正しいことが証明された、今目の前で起きてる事で……。
栞と川澄さんと倉田さんね。
ふ〜ん、栞と川澄さんで祐一の両手を二人で引っ張り合いしているわ。
「祐一さんは私と帰るんです!」
「祐一は私と遊ぶ」
「負けちゃダメですよ〜、舞♪」
「ふ、二人とも離してくれーっ、香里が待っているんだぁ〜」
あ〜あ、まったく何遊ばれているんだか……でもこのままって訳にもいかないわね。
ほっといたら祐一の手が抜けちゃうわ、しょうがないわねぇ……。
「あたしの祐一に何をしているのかしら?」
「お、お姉ちゃん!?」
「祐一と遊ぶから邪魔しないで……」
「あはは〜そう言うことなんです〜」
三人をゆっくりと見ながら、あたしは両腕を胸の前で組んで肯く。
「ふ〜んそう……」
ゆっくりと引っ張り合いしていた三人に近づき二人の手をそっと掴んで脇にどけると、あたしは祐一の手を
しっかりと握り自分の方に引き寄せる。
「ごめんなさい、祐一はあたしと帰るから……」
そこでニコッと微笑んで栞達を見つめる……あら、何かみんな静かになっちゃったけど?
「か、香里?」
「ん、どうしたの祐一?」
祐一にも微笑んだまま振り向く。
「いや・・・あの、何でもないです」
もう祐一までどうしちゃったの? そんなに汗かいて……。
「行きましょう、祐一♪」
もう一度三人に微笑んでから、あたしは祐一を引きずるように歩き出した。
後日、栞にあの時のあたしの笑顔が凄く怖かったって言われたけど自分じゃ良く解らないわ。
普通に微笑んだのに栞にそんな事言われるなんてちょっと傷ついちゃった。
「ねえ祐一……って何やってるの?」
学校を出てから二人で噴水のある公園に来ていたのだけど、横にいるはずの祐一に声を掛けたら地面に延びていた。
「香里……おまえなぁ〜俺をここまで引きずってきたくせにそんな事言うのか?」
「えっ、引きずったって……?」
よく見ると祐一の服は泥まみれで汚れていた……あ、あら?
「俺が石に躓いて転けたのに、そのまま俺の制止を無視してずんずん歩いたのは誰だよ?」
そ、そんな涙を溜めた目で見ないでよ祐一。
「ゆ、祐一、あそこに座りましょう♪」
ちょっとキツイ視線からあたしは顔を逸らすと、近くのベンチに座ろうと祐一を促した。
暫くぶつぶつ言っていた祐一に「ごめんね」と謝って頬にキスしてあげたら、すぐに機嫌を直してくれた。
ふふっ、こう言う単純なところは助かるわ。
肩を寄せ合って何もせずぼーっとしていて、ふと祐一の横顔を見つめる。
あたしは祐一のどこが好きなんだろう?
でもすぐに止める、だってそれが無意味だと気が付いたから。
そう……理由なんて無い、好きなものは好きとしか言いようがない。
「香里、そんなに見つめられると穴が空きそうだ」
「そうね、これ以上変な顔になったら困るから止めておくわ」
「身も蓋もない言い方だな、それって……」
「本当のこと言っただけじゃない」
「うぐぅ」
「祐一が言っても可愛くないわよ」
「悪かったな……」
まずいわね……またふてくされちゃう前にあたしは素早く祐一の頬にキスをする。
「ごめんなさい」
ちゅ。
「おい……その技は反則だ、香里」
「嫌だった?」
「うんにゃ」
がばっ。
「んっ・・・」
お返しと言わんばかりに祐一があたしを抱き寄せて唇を奪う。
まったくキスが好きな奴なんだから……ん? そうね、あたしも嫌じゃないけどね。
応えるようにあたしも腕を祐一の体に腕を回して抱きしめる。
夕日が空をオレンジ色に染める頃、公園を出ようとしたあたしと祐一の前に名雪達が現れた
「祐一」
名雪が祐一をじっと見つめる。
ほかのみんなも皆同じように瞳を潤ませて祐一を見つめている。
「私、七年前からずっとずっと祐一の事待っていたのに……」
「うぐぅ、ボクだって祐一くんを待っていたんだよ」
「私は初めて会った時から祐一さんが好きでした」
「祐一……あそぼ」
「佐祐理も舞と一緒に祐一さんと遊びたいです」
「逃がさないわよ、祐一!」
「真琴を見捨てるんですか、相沢さん?」
みんなの言葉に祐一が困った表情を浮かべている。
祐一を横目で見ながら困った顔も可愛いと思ったけど、それは後回しね。
「みんなちょっと良いかしら?」
あたしの言葉に一斉にこちらを睨む名雪達の視線はなかなかのものだった。
みんなにしてみれば、鳶に油揚げを取られたようなものだからそれは仕方がないかな。
でもね。
「あたしは祐一が好き、祐一もあたしが好き……これがすべてよ」
名雪達はその言葉に唇を噛みしめて俯いてしまった、でもちゃんと言わないと彼女達の為にならない。
「ごめんな、みんな……」
祐一はみんなに向かって頭を深々と下げる、そしてすぐに頭を上げる。
「自分の心に嘘は付きたくないんだ」
そう言いながら横にいるあたしの手をぎゅっと握ると言葉を続ける。
「俺が好きなのはここにいる美坂香里って言う女の子なんだ」
はっきりと大きな声で名雪達に告げる祐一の顔をみんなはじっと見つめて動かない。
「行こう香里、家まで送るよ」
「そうね、帰りましょう祐一」
名雪達をその場に残して歩き出した祐一の腕に、あたしも抱きついて歩き出す。
それから家に向かう祐一は一言も話さずただ前を見つめて歩いていたが、その横顔はなんだか泣いている様に
見えたのはあたしの見間違いじゃないと思った。
「大丈夫よ、今すぐにって訳にはいかないと思うけどきっと解ってくれると思うわ」
「そうだな、でも……」
「でも?」
「これからも今までの様に話したいと思うけど無理だろうな……ははっ、勝手な言いぐさだな」
腕を解いて祐一の前に回ると、あたしは見つめながら抱きついて体をぎゅっと抱きしめる。
「そんな事無いわよ、あたしもそう出来たらいいなって思っていたから……」
「香里……」
「でもね、あたしは祐一を好きだって思いは譲れないの」
「ああ、それは俺も同じだ、たとえ名雪に嫌われたとしてもな……」
「うん……まあ栞に嫌われちゃうかもしれないけどね」
間近で見つめ合う私と祐一の瞳の中にお互いの顔が映っているの。
「でもね……あたしはずっとあなたの側にいるわ、祐一」
「香里」
あたしと祐一の顔が自然に近づいていく、そして瞼が降りてくる。
月明かりの下、あたしたちは心の中に在る思いを唇を通して伝え合う事で温かく幸せな気持ちになった。
それから何日かしてあたしと祐一は名雪達に公園まで呼び出されていた。
あたしたちの目の前にはあの時会った女の子たち全員が揃っている。
みんな真剣な顔で私たちを見ている……その瞳に何かを決めた輝きが見えた。
名雪が小さく肯いて最初に口を開く。
「香里、私諦めないからっ!」
「えっ?」
続いてほかの女の子達も話し出す。
「ボクだってあきらめないもん!」
「祐一は私の!」
「あはは〜まだまだ諦めませんから〜!」
「あうー、祐一は真琴の物なのー!」
「相沢さん、責任はとってください!」
「お姉ちゃん! 私祐一さんの事諦めないからっ!」
「栞……」
みんなの言い分は良く解ったわ、その思いの強さもね。
ふ〜っ。
軽く深呼吸してあたしは彼女たちと一人一人視線を合わせてから、にこっと笑う。
「OK! 受けて立つわ」
「か、香里!?」
あたしのセリフに驚いている祐一に大丈夫よと言う様に微笑むと名雪達に視線を戻す。
「あたしも遠慮なんてしないからっ♪」
そしてみんなの前で見せつける様に祐一の首に腕を回して抱きつくと、
取って置きの笑顔と大好きって気持ちを込めてキスをする。
「「「「「「「ああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」」」」」」」
名雪達は私たちのキスシーンを目の前で見せつけられて固まってしまう。
あたしはその隙に祐一の腕を取って走り出した。
「行くわよ、祐一!」
「お、おい、香里?」
「ま、待ってよ〜香里、祐一!」
「うぐぅ!」
「ぐしゅぐしゅ……」
「泣いてちゃダメですよ、舞!」
「あうーっ!」
「逃げないでください、相沢さん!」
「そんな事するお姉ちゃんなんてだいっ嫌いですぅ!」
後ろの方で名雪達が何か叫んでいるけど、あたしは走るスピードを落とさない。
突然、あたしに手を引かれていた祐一が横に並ぶと私の肩を抱き寄せる。
「香里、愛してるぜ!」
「あたしも愛してるわ、祐一!」
祐一の言葉にあたしもすぐに応える。
走りながら笑い合ってまたキスを交わす、嬉しくって楽しくて仕方がない。
そう、まだ始まったばかりだから……あたしと祐一の物語はね。
だから……。
あたしの恋は止まらない♪
NEXT STORY かおりんの愛は止まらない♪