かおりんの恋は止まらない♪ 8
こんなにも祐一が好きだと改めて思った……だからこそ心が苦しかった、悲しかった。
「香里……」
あたしは祐一に見られても涙が止まらなかった。
こんなに近くに居るのに、今は凄く遠くに離れている感じがした。
ベッドの上で体を起こすと祐一の方を向いてしゃべり出した。
「なぜ……」
「えっ?」
「何故あたしなの? 他にも可愛い女の子いるじゃない……」
「他にもって……」
名雪、栞、真琴ちゃん、あゆちゃん、倉田さん、川澄さん。
私より綺麗で可愛い女の子ばかり……。
「俺は……」
「あたしの……あたしのどこが好きなの?」
「どこって……」
「直ぐに怒るし素直じゃないし……」
「そんなこと……」
「今だって全然祐一のことも信用しなかったし……」
「香里……」
「いつも皮肉しか言えない……」
「止めろ」
止まらなかった。
堰を切ったように私の口から言葉が溢れ出した。
「たった一人の妹の事からも目を反らしてしまう様な私のどこがいいのよっ!?」
「…………」
はぁはぁはぁ……。
祐一の前であたしは心の中に在った物をすべて吐き出した。
これがあたし。
表面では取り繕っても中身はこんな物よ……。
祐一が好きになるような女の子じゃない。
それが解ってしまう……ううんそうじゃない、認めたくなかっただけ。
怖かった。
こんな女の子だと祐一に知られるのが怖かった。
嫌いだった。
何よりも自分自身が……。
だけどもういい、全て祐一の前でさらけ出した。
きっと呆れているでしょう、あたしの本性を聞いたしね……。
これで嫌われたと思う……でも、それも仕方がないわ。
こんな女の子じゃ誰だって嫌よね、ふふっ。
悲しいよりも可笑しかった、滑稽だった。
親友のずっと好きだった祐一。
妹が初めて好きになった祐一。
他にもっともっと祐一だけを好きな女の子が回りに一杯いる。
それだけ一途な想いの彼女達を差し置いて私が祐一の一番になれる訳がない。
馬鹿……本当にお馬鹿さんよ。
キスされたぐらいで調子にのって……。
「ふふっ……」
泣きながら笑うなんて馬鹿もいいところ、救いようのない馬鹿よ。
ふぅ。
言うだけ言ったら少しだけ心が軽くなった気がした。
さっ、ここにいる理由も無くなったから家に帰ろう。
祐一にも迷惑だから……。
そう思って顔を上げた瞬間、祐一があたしを抱きしめてキスをしてきた。
「んんっ……はぁ……」
前のキスとは違う・・・力一杯私を抱きしめる。
「あっ……むぅ……」
祐一はなかなか止めようとしない、それどころかもっと貪るようにキスをしてくる。
抱きしめる力が緩まないので抵抗するだけ無駄だと解った。
それに、あたしの意志とは関係なく口が舌が祐一を求めてしまう。
「はぁ……あ……んっ」
息継ぎもさせないぐらい祐一のキスは止まらない。
抱きしめられたままベッドに押し倒されていく……。
このままその先にいってしまうのかと何となく思った。
祐一がそうしたいならそれでも構わない。
でも、祐一がゆっくりと唇を離していく……二人の唇の間に細い糸がひく。
顔を起こした祐一があたしの顔を温かい眼差しで見つめている。
「なあ香里……」
あたしの額に掛かった乱れた髪の毛をそっと整えてくれる。
「人を好きになるってなんだと思う?」
優しく髪の毛を撫でながら聞いてくる、あくまでも微笑んだまま……。
「理由なんか必要か? まして資格なんているのか?」
あたしはじっと祐一の瞳を見つめている。
「そうじゃないだろう、香里」
涙で濡れた私の頬を、寝間着の袖でごしごしとちょっと乱暴に拭う。
ゆっくりと深呼吸した祐一は私の頬に手を当ててはっきりと真剣な表情で言葉を言った。
「他の誰でもない、俺は香里が好きだ。いつも一緒にいたいしこうして抱きしめてキスしていたいと思う」
「祐一……」
「香里はどうなんだ? 遠慮しないで言いたい事言ってみろよ」
祐一の言葉があたしの心を震わせると同時に温かい気持ちに一杯になって溢れてくる。
「あたしは……あたしは祐一が好き、ずっと一緒にいたいし抱きしめてキスをして欲しい」
また瞳が熱くなって涙が溢れてくる。
「言えるじゃないか、それでいいんだと思うぜ俺は」
指で私の涙を拭いながら、またキスをする。
でもさっきよりも優しく唇が触れるだけの子供のようなキスだった。
ベッドの中で祐一はいろんな事を話してくれた。
好きな物、嫌いな物、音楽は何を聴くとか……。
今まで知らなかった祐一の事を一つ一つ教えてくれた。
その中でも……。
「えっ、一目惚れだったの?」
「まあな、この街に来て初めてあったあの日からかな?」
「そうだったの……」
「でも、あの時の香里は誰も近寄って欲しくない空気が在ったからな」
「ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ、香里の事情も解ったから」
「うん」
祐一の首筋に自分の顔を猫のように擦り付けて甘える。
素直に応える私をちゃかしたりしない、優しく髪の毛を撫でながら抱きしめる。
祐一の思いが伝わってくる。
「じゃあさ、香里は俺の事どう思っていた?」
「初めて会った時は名雪が好きな人ってぐらいにしか思ってなかったわ」
「ぐっ、はっきり言うなぁ〜」
「ごめんなさい、でも嘘は付きたくないから……」
「解ってるって」
「でもね昨日夢を見たのよ、祐一にあたしが告白して……その、キ、キスをしてくる夢をね」
「ふ〜ん……あっ、それで朝会ったときいきなり殴ったのか?」
「だ、だって夢と同じ様に祐一の顔が近づいてきたらつい意識しちゃって……」
「いや〜あれは痛かったぞ、おまけに名雪に嘘つき呼ばわりされるし」
「ほ、本当にごめんなさい」
「いいってもう過ぎた事だしな……」
「ありがとう、祐一」
あたしはお詫びとばかりに祐一に自分の体を押しつける。
「お、おい香里、そんなに体押しつけるなよ?」
「どうして?」
「体の一部が変になるから……かな?」
一部って……☆!?
ぼんっ。
あ、そ、そう言うことね。
「香里、顔真っ赤だぞ……えっち」
「な、なによ祐一こそスケベなくせに!」
「おう、俺はスケベだぞ! だからそんなにって……おい?」
「何よ」
からかわれたお返しにもっと祐一の体にすり寄ってニコニコして上げる。
「マジにやばいって香里、結構我慢してるんだから……」
「……いいわよ」
「えっ?」
私は目を閉じて少し震えた声で祐一に呟く。
「いいわよ、祐一がしたいって言うなら・・・」
「香里・・・」
言った後にぎゅっと祐一の首に抱きついたまま時間が過ぎていく。
「香里」
祐一があたしの名前を耳元で囁く。
首に回っていた腕をゆっくりと外して私を仰向けに寝かせる。
私は目蓋を閉じて祐一のされるままになっていた。
祐一の指があたしのパジャマのボタンに手を掛ける。
一つ目のボタンが外れる。
でも、そこで祐一の手が止まる。
「止めた」
そう言ってパジャマから祐一の手が離れていく。
おそるおそる目蓋を開けていくと祐一が苦笑いしている。
「祐一?」
「今日はもう寝よう、朝まで時間もないし……それに」
「それに?」
祐一の目線が、ボタンが外され少し着崩れているパジャマから見えている胸元にいった。
「それを見たらちょっとな……」
それだけいって口元を押さえながら顔を反らした。
「それって…!?」
自分の胸を見るとそこには名雪から借りたイチゴ模様の下着が見えていた。
「くくっ、あんまりにも香里のイメージとは違うから……」
祐一ったら方をヒクヒクさせて笑いを堪えている。
「しょ、しょうがないでしょ! これしか無かったんだから……」
「あははっ〜」
「な、なによもう、祐一なんか嫌い! 馬鹿〜!」
あたしは拗ねてそっぽを向いて祐一に背中を向けて寝る。
人がせっかく勇気を出して言ったのに……祐一の馬鹿。
「香里♪」
「ふん」
「なあ香里……」
「あたし寝る、お休み祐一」
「悪かった香里」
「く〜く〜」
「許してくれ香里〜」
「あ〜んもうしつこいわね!」
怒って振り返ったあたしの唇に待ちかまえていた祐一が覆い被さってキスをする。
今度のは大人のキス……なかなか祐一はあたしの唇を離さない。
「……んんっ……はぁ……ん」
そのまま祐一の顔をぼんやりと見つめるとニヤッと笑って言った。
「そんなに香里がしたいんなら俺も応えないと男じゃないよな?」
「えっ?」
「では頂きます、香里さん♪」
「ちょ、ちょっと待って祐一、朝まで後少ししか無いわよ?」
「問題ない、それに香里が勇気を出して言った事を無視するなんてやっぱり俺には出来ないし……」
あのね祐一、顔が笑ってたら言っても説得力無いわよ!
「あ、そ、それは、その……あの……」
「俺が止めてくれって言ったのに香里が挑発するからもう我慢できなくなった」
「あ〜!? まさかそれって?」
「いや〜がんばって我慢した甲斐が在ったよなぁ〜♪」
ま、またしても謀られた〜!!
「そんなに求めてきた香里を満足させる為に、漢”相沢祐一”は思う存分がんばります♪」
「が、がんばら無くてもいいわよ〜!!」
そして長い夜の夜明けまでの短い時間を、あたしと祐一は熱く過ごしていった。
つづく。