「奇跡の価値は…」






 う〜ん…なんかいい匂いがするぞ…。

 「……くー」

 なんだ名雪か……全くどこでもすぐに寝る……て、おい!?

 「名雪! おまえどこに寝てんだよ?」

 半分目を開けて俺をジッと見る。

 「うにゃ? けろぴーおはよう……」
 「誰がけろぴーだ! いいから起きろ!」

 「……くー」

 また寝やがった…何で俺のベッドで寝てるんだ、こいつは?
 こんなところを秋子さんに見られたらどうすんだよ!?
 とにかく俺は名雪を起こすために起きあがろうとしたが、なぜか動けなかった。

 「ん? なんで…」

 名雪と反対側に顔を向けるとそこにこれまた俺にしがみついてぴろを頭に載せて気持ちよさそうに
 寝ている真琴がいた。

 「何だ真琴か……て、おい真琴! また来たのか?」
 「あぅ〜……うるさい……」

 それでも俺の腕をぎゅっと握って放さない。

 「全く、帰ってきたと思ったら前よりもっと俺にくっついてくるし……」
 「にゃぁ〜」
 「お、ぴろ起きたか?」
 「うにゃ」

 「……ねこ〜ねこ〜」
 ま、まずい……。

 振り返ると寝ぼけながらも猫の鳴き声に反応し、涙をぽろぽろこぼしながらぴろを見つめる名雪がいた。

 「ねこ〜ねこ〜」
 「ぴろ、ちょっと向こうに行くんだ!」
 「にゃん」

 俺の言葉が解るのか真琴の頭の上から降りてドアの方に歩いて行く、賢い奴。

 「ねこ〜ねこ〜」
 「こら名雪! おまえは駄目だ!」
 「う〜、はなしてよ〜、ねこ〜」

 じたばたもがく名雪を俺は片腕で何とか押さえつけていたが、これってまずくないかい?

 ばぁ〜ん!

 「祐一くん! 朝ご飯だよ〜♪」

 ドアを開けてあゆが入ってきた、朝からテンション高い奴だなこいつ。

 「こらあゆ! 部屋にはいるときはノックをしろ!」
 「うぐぅ、ごめんよ〜って祐一くん! 何やってんだよ!?」
 「何って見てわからんか?」
 「うぐぅ、祐一くんがベッドに女の子を連れ込んで……その……」

 赤くなって俯くあゆはかわいいな〜、だからからかいたくなっちゃう。

 「ほらほら、その続きは?」
 「うぐぅ、祐一くんの意地悪〜」
 「うぐぅ、あゆあゆのH」
 「ボク、あゆあゆじゃないもん!」

 涙目になって俺を見つめてる姿はやっぱり可愛い奴。

 「わかった……ほらこいあゆ!」

 そう言って器用に足で布団をめくってあゆを誘う。

 「こいって……祐一くんのH!!」
 「なんだ、人がせっかく誘っているのに……」
 「そ、そんなの出来るわけないだろ〜!」
 「人の好意を無にする奴は後で必ず後悔するぞ」

 「そんな好意いらないもん!」

 とうとう拗ねてしまった、それでもやっぱり可愛い奴だ。

 「あらあら、朝から賑やかだけど朝ご飯が冷めちゃいますよ」

 うわ! 来ちゃったよ秋子さん、ど、どうしよう?

 「あ、あの秋子さん! こ、これはその……」
 「了承」
 「へ?」
 「早く下に降りてきて下さいね」

 いつものようにニコッとして、そのままあゆを連れて部屋から出ていってしまった。

 「それってどういう意味?」
 「くー……ねこ〜」
 「あぅ〜っ」

 秋子さん……何が了承なんだ〜!?






 おれは寝ている二人(?)をほったらして洗面所で顔を洗ってダイニングにきた。

 「おはようございます」
 「おはようございます〜」
 「……おはよう」
 「おはよう…」

 はあ?
 そこには栞、佐祐理さん、舞、おまけに香里が仲良く朝食を食べていた。

 「みんな何してんの、ここで?」
 「もちろん、朝ご飯を食べているんです」

 栞、それは見れば解る。

 「いや、そうじゃなくて…」
 「祐一さん、秋子さんのお料理が冷めてしまいますわ」

 佐祐理さん、朝から御飯山盛りですか?

 「わかっていますけど……」
 「……美味しい」

 これまたがつがつと食べているな、舞。

 ぽかっ。

 「なぜチョップ?」
 「……………」

 俺を睨んだ後、再び御飯を食べ始める。

 「はぁ〜」
 「朝からため息か、香里」
 「……そうよ、何であたしまでがここにいるのよ」

 自分で来たくせに勝手なことを言うな、香里。

 「何か言った?」

 ぶんぶん。

 「いや、何も」

 文句を言いつつもたくさん食べる奴。
 大きく口を開けてぱくぱく食べる香里を見て、俺は思わず笑ってしまう。

 「何、相沢くん?」
 「いや、香里が可愛いな〜って思ったからつい……」
 「なっ!?」

 おーみるみる内に耳まで真っ赤になりやがった、以外に可愛いところがあるな。

 ぽかっ。

 「なぜチョップなんだ、舞?」
 「…………」

 うう、その魔物を見るような目つきはやめてくれ。

 「あ、祐一くんこれ朝ご飯だよ!」

 あゆがキッチンから持ってきた皿を俺に差し出す。

 「早く食べて食べて♪」

 「なんだこれ?」
 「何ってハンバーグだよ! わかんない?」

 びしっ!

 俺はすべてを理解した上であゆのおでこに一発かました。

 「うぐぅ、何ででこぴんするんだよ〜……」
 「やかましい! どう見たって真っ黒な分厚い草履じゃねえか!」
 「うぐぅ、ハンバーグだもん!」
 「ほー……それほどまでに言うなら食ってみろ?」
 「ええっ、ボクお腹一杯だから……」
 「いいから食え! 残さず全部」

 逃げようとしたあゆの首を掴むと、俺はそのハンバーグと言った物を無理矢理口の中に
 突っ込んで強引に口を動かさせた。

 「どうだ、おいしいか?」
 「えっぐ、えっぐ……」

 やっぱり不味いのかすでに涙をぼろぼろ流してるあゆ。

 「どうしたあゆ? 美味しくて言葉も出ないか?」
 「うぐぅ、祐一くんの意地悪……」

 すでに本格的に泣き出しそうだな……やりすぎちゃった?
 しょうがない。

 ぎゅっ。

 「祐、祐一くん!?」
 「ごめんなあゆ……あゆがあんまり可愛いからつい苛めたくなっちゃうんだ」

 抱きしめながら頭を優しく撫でる。

 「……うん、でもあんまり意地悪しないで」
 「わかった、善処する」
 「うん」

 あゆも俺の背中に手を回す…うん、いい雰囲気になったぞ。

 ぽかっ。

 「だからなぜチョップをするんだ舞?」
 「あらあら、やきもちを妬いているんですね舞?」

 ぽかぽかぽかぽか。

 佐祐理の額に連続チョップをしているがその顔は真っ赤だった。

 ぽいっ。

 「うぐぅ!?」

 あゆを放り投げると後ろから舞を抱きしめる。
 一瞬体がびくっとしたが、別に暴れようとはしない。

 「酷いよ! 祐一くん!!」

 「どうした舞? 何怒っているんだ?」
 「……な、なんでもない」
 「そうか」

 「うぐぅ、ボクを無視しないでよ!」

 五月蠅いあゆを無視して俺は暫く舞を抱きしめていた。

 「……御飯」
 「おっ、悪かったな遠慮無く食べてくれ」
 「……うん」

 少し嬉しそうな感じで静かに席に座ると食事を再開した。

 「うぐぅ……祐一くんのばか〜、うぐぅ」






 いろいろあったが気にせず俺も席に座って朝ご飯を食べる。

 「うぐぅ、少しは気にしてよ〜」
 「わかったからあゆも食べろ」

 もぐもぐ。

 「秋子さんおかわり〜」
 「はいはい沢山ありますから、遠慮しないでね」

 飯を食っておとなしくなるんだからまだまだ子供だな。

 「おはよ〜」

 いつもの猫印のどてらを着て名雪が降りてきた。

 「はい名雪、トースト焼けたわよ」
 「ありがと〜おかあさん〜」

 そして秋子さん特製のイチゴジャムを山盛りに付けて美味しそうに食べ始めた。

 「おいしいよ〜」

 でもその目はまだちゃんと開いてはいない……。
 ちゃぁ〜んす♪
 俺は素早く例のオレンジ色のジャムとすり替える。
 まだ寝ぼけている名雪はそれに気ずかづそのままたっぷりと付けてかぶりついた。

 瞬間体が硬直した後、パンをくわえたまま気絶してしまったが、俺以外誰も気が付かなかった。

 『やっぱり危険だな……あのジャム』

 よし! これで猫が来ても大丈夫だな……多分。

 「こら〜祐一! 何であたしを置いていくのよ〜!!」
 「五月蠅いぞ真琴、食事中だ」
 「あぅ〜っ」
 「可哀想ですよ、相沢さん」
 「あれ、何で天野がここに?」
 「私が誘いました」

 キッチンから秋子さんの声が聞こえてきた。
 誰でも誘わないで下さいよ、秋子さん。
 しかし、いつのまに……。

 「元気?」
 「あぅ〜っ、元気♪」
 「そう、よかったわね」

 全く天野には素直なんだから……真琴の奴。

 「まあ、立っているのも何だから適当に座ってくれ」
 「はい」
 「あぅ〜っ、あたしの席がない……」

 そりゃそうだろう……いったい何人いると思っているんだ?

 「ほら真琴、こっち来い」

 俺は真琴の手を引いて自分の膝の上に座らせる。

 「ちょっと! 何すんのよ!」
 「いいから黙って食え!」

 なぜかテーブルの上にあった肉まんを掴むと、騒いでいる真琴の大きな口にそれを突っ込んだ。

 「もがががぁ〜も〜ががぁ!」
 「何言ってんのかわかんないからおとなしく食ってしまえ!」
 「もぐぅ〜っ」

 どうやら肉まんが偉く美味しかったらしく、真琴も黙って食い始めたので俺も残りを食べた。
 流石秋子さん♪ どれ俺も一つ食べてみるか。

 ぱくっ。

 「あ〜っ、食べた〜!!」
 「いいじゃないか一つくらい……」
 「あぅ〜っ……」

 あれは真琴の頭を軽く叩くと食いかけを半分にして真琴の口に入れた。

 もぐもぐ。

 「それで勘弁してくれ」
 「あぅ〜っ」






 「「「「「「「「「「ごちそうさまでした♪」」」」」」」」」」
 「はい、おそまつさまでした」

 全然豪華でしたよ、秋子さん。
 いつの間にか名雪も目を覚ましている、あのパンは見あたらないが食べたのだろうか?
 さて、腹も膨れたしどうするかな……。

 くいくい。

 「ん、なんだあゆ?」
 「祐一くん、ひま?」
 「いや、用事がある」
 「用事って?」
 「うむ、これから昼寝の時間だ、わかったか?」
 「どこが用事なんだよ!?」
 「昼寝が用事!」
 「うぐぅ」

 あ〜あ、またいじめちゃったよ……まずいな。
 俺は両手をあげて降参した。

 「わかった! 今日一日はあゆに付き合ってやる!」
 「ほんと!?」
 「ああ、男に二言はない!」
 「やったー! じゃあ遊園地に行こう〜!」

 なぬ? 遊園地だと、ふっふっふっ……。

 「よし、それじゃ行くか?」
 「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」
 「はぁ?」
 「それじゃ急いでお弁当を作らないといけないわね♪」

 あ、あの秋子さん?

 「まあ遊園地ですって、よかったわね舞♪」
 「……うん」

 佐祐理さん、舞ちょっと……。

 「遊園地なんて一年ぶりです♪」
 「こうなったら最後まで付き合うわよ!」

 栞はともかく香里が切れてる……大丈夫か?

 「遊園地って美味しい?」
 「楽しいです」

 真琴、食えるもんなら食って見ろ! 天野もちゃんと教えてやれ!

 「わ〜い♪ 遊園地たら遊園地〜♪」

 あゆより子供になってどうするんだ名雪!

 「にゃぁ〜♪」

 ぴろ……おまえもか…。






 「うぐぅ」
 「どうしたあゆ?」






 「せっかく祐一君とデートが出来ると思ったのに〜!!」






 「え? デートだったのか?」
 「うぐぅ」






 終わり