IN MY DREAM EXTRA X 一年で一番我が家が似合っている時期が、一年の始まりと終わり言っても嘘じゃない。 武家屋敷なここは季節の移り変わりも綺麗だけど、なにより着物姿の女性が華やかなの。 「あけましておめでとう、パパ」 「おめでとう、今年もよろしくな」 「うん、今年こそママに完全勝利して、パパ占有権をこの手にしてみせるよ」 「……聞かなかった事にするぞ」 「えー、今年の目標なのに〜」 「それ毎年言ってるけど、そのとばっちりが俺に集中するのは何故だろう……」 「パパ、もてるからねー」 「まったく、とにかくアルトリアの前で言うんじゃないぞ」 「できもしない約束をしないのが、わたしの主義だよ」 「遠坂、あんまり変な事教えるなよ」 そう言ってパパの振り向いた先には、おじさまからお酌をして貰ってお屠蘇で酔っている 人生の師匠、凛さんは話を聞いていない。 そろそろいい年なんだし落ち着いた着物にすればいいのに……なんて口が裂けても言えない。 しかし、自分の事には敏感な凛さんは、きっとわたしの事を睨んできた。 「そこの弟子、ちょっと来なさい」 「お年玉ですか?」 「このわたしからお年玉を貰おうなんて、良い度胸ね」 「だって今日は元旦ですよ? 正真正銘のお正月ですよ?」 「だから?」 「……おじさま、凛さん懐具合が淋しいみたいですが?」 「ん、ああ……実は年末に株が暴落してな、私は止めておけと注意したのだが無理だった」 「こ、こらっ、余計な事言うなっ」 「事実だろ、凛」 「うっ、あ、あれはわたしの所為じゃないもん」 「と言うわけで凛からのお年玉は期待しても無駄だ」 「おじさま、わたしがお年玉上げた方がいい?」 「好意だけ受け取っておこう、貯金でもしたまえ」 「はーい」 まだぶつぶつ言っている凛さんは、お金に関してはちょっと意地汚い……控えめに言ってもね。 おじさまも苦労しているみたいだけど、小凛の学費ぐらいは取って置いて欲しいなぁ……。 ホントの所、お年玉は貰えればいいなぁぐらいなので、そこまで欲しくないよ。 わたしはいつもの場所に腰を下ろすと、着物が皺にならないように綺麗に座る。 そうそう、ちなみにパパとおじさまは紋付き袴なんだけど、微妙に似合ってないのはここだけの話。 とりあえずお茶を飲みつつ目の前のパパ特製おせち料理を眺めながら、ママの出番を待つ事にした。 「お待たせしました、シロウ……」 「うん、似合ってるよ」 「ありがとうございます、シロウ」 「あー、いいわね、アルトリアは……可愛い着物が似合っちゃってさ〜」 「凛、お屠蘇の飲み過ぎですよ?」 「いーじゃない、今日はお正月で無礼講の日なのよ〜」 「……いつでも無礼講だと思うのは、わたしの気のせいでしょうか?」 「うん、気のせい気のせい〜」 「遠坂はいいからさ、とにかく座ろう……今年はアルトリアもがんばったからな」 「は、はい、未熟ですがみんなの口に合えばいいのですが……」 「ママが試食したから折り紙付きだね」 「……何が言いたいのです?」 「事実を言ったんだけど、変な風に勘ぐらないで欲しいなぁ〜ママ♪」 「まあいいでしょう、お正月の朝ぐらい、静かに始めたいですし」 「だねー」 「ほらほら、みんな席についてくれよ」 パパの言葉に、衛宮ファミリーが勢揃いした居間は、冬の寒さを感じさせない熱気で溢れちゃってる。 寒いよりは良いけど、今年も一番熱いのは藤ねえなんだよねぇ。 「さあ、士郎。お姉ちゃんにお年玉をよこしなさいっ」 「あのさ、もういい加減上げる立場なんだからさ、大人になってくれよ藤ねえ……」 「やだ」 「藤ねえに上げるより、娘に上げる方が正しいって思うんだけどどうよ?」 「そんなの関係ないもん、士郎はお姉ちゃんにお年玉上げるのは義務なんだもん」 「……これだけは言いたくなかったんだがな……大河おばさん」 「あー、言っちゃダメー、士郎のばかーっ、うわ〜んっ」 パパの禁句は藤ねえの心を的確に貫いて、背けていた現実を見せて上げた。 哀れなり藤ねえ……泣きながら飛び出して言っちゃったけど、毎年の事なので誰も機にしない。 どっちにしろすぐに戻ってきて、おせち料理食べまくるんだからね。 「えーっと、いつもの事なので気を取り直して……今年もよろしく」 「貴様に宜しくされても嬉しくないがな……無いが、一応それなりに対応してやる」 凛さんと小凛に睨まれ勢いが無くなるどころか、言葉尻も訂正させられたおじさまが、 ちょっと可哀想だった。 「まったく、アーチャーの事は気にしなくて良いから先に進めなさい」 「解った、それでは……あけましておめでとう」 「「「「「「「「「おめでとう〜」」」」」」」」」 学校の校長みたいに長い話が無いので、それぞれおせち料理に手を着け始める。 パパのは文句なしに美味しいけど、今回はママの伊達巻きが良い味出しているのでびっくりした。 桜さんの煮染めも美味しいし、和食に関してはパパ以上と思う事もある。 うん、美味しいのは良い事だし、ママもご機嫌だからあまりからかうのは止めておこう。 だから、上品におせちを食べる小凛に話しかける。 「今年もよろしくね、小凛」 「こちらこそ、よろしくしてください」 「お屠蘇飲まないの?」 「ええ、お母様があれですから、一応……」 「んー、残念。小凛が酔うと頬が桜色になって綺麗なんだけどなぁ〜」 「姫ちゃんだって綺麗ですよ?」 「パパが嫌がるからね、それに酔っぱらいは藤ねえだけで大変だし」 「藤村先生、大丈夫でしょうか……」 「そろそろ戻ってくると思うけど、関わらない方が危険が無いよ」 「でも、新年の挨拶はしておきたいです」 「律儀ね、でもそこが小凛らしいと言うか……」 「後は綾ちゃんの所にも挨拶に行きたいと思っていますから」 「あー、今年も巫女さんなのよねぇ、あの娘って学校で隠し撮りされた写真が高値なの 知らないんでしょうねぇ」 「ふふっ、姫ちゃんが教えないようにしているんじゃありませんか?」 「当然」 「程々にしないと、綾ちゃんが泣いちゃいますからね」 「アイマム、肝に銘じます」 ううっ、にっこり笑う小凛の顔だけど、目だけが笑っていなかったのですぐに降参しちゃった。 だって小凛ってば本当に怒ると怖いんだよ〜、そこだけは凛さんの性格と似ているって思う。 中学生の時に一回だけ怒らせたんだけど、あれはやばいと心の底から思った事が、ちょっとトラウマになりかけたし。 あ、ちなみに綾ちゃんと言っているのは、美綴綾女と言ってパパの同級生だった美綴綾子先生の 娘さんで、めちゃめちゃ可愛くてちっちゃくって、でも胸はわたしより大きい女の子なの。 「でも、巫女服だとできませんね、あれが楽しみなのに……」 「……あのさ小凛、そこだけは凛さんに似ないで欲しかったなぁ〜、まあ楽しいのは解るけど」 「ですがお母様もアルトリアさんにしていたのを見ましたから、つい……」 「まあね、イリヤさんも調子に乗って参加するから、収拾がつかなくなっちゃうし」 「そうすると、巫女服から着物に着替えた時を狙って、ここへ招待した方がよろしいですね」 「小凛、あなた酔ってるでしょ?」 「そんなことありません」 「……酔って着物を着ている女性を独楽回しで脱がすなんて、そんな芸者遊びを覚えて欲しくなかったわ」 「お母様の言う事には、間違い有りません」 「完全に酔ってるじゃない」 「気のせいです」 「もう飲んでいたなんて、気づくのが遅かったか……」 うーん、ここに来ていきなり凛さんに飲まされていたのか。 わたしはおじさまを軽く睨むと、ばつが悪そうに目を反らしたので、間違いないとため息をついた。 でもまあ小凛の場合は凛さんと違ってほろ酔い的感じだし、暴れないから見逃せるかなぁ。 「こらこら、二人とも全然飲んで無いじゃな〜い」 「イリヤさんはかなり飲んでますね?」 「だって大人だも〜ん、警察だって捕まえられないも〜ん」 「……セラさん、どのくらい飲ませました?」 「お銚子で7本です」 「お屠蘇じゃなくて、いきなり熱燗ですか……」 「イリヤ、お猪口使わないで、ぐいのみ」 「……はぁ、もう無理ですね」 「諦めが肝心、一緒に飲めば、はっぴー」 「リーゼリット、そう言って貴女も飲むんじゃありません」 「セラけち、お年玉もルーブルだった、肉まんも買えない」 「うわぁ、相変わらず凄い攻撃だなぁ……でも、マウント深山商店街も国際的だから使えるかもしれないよ?」 「ホント?」 「たぶんだけど、ダメだったらわたしが奢っちゃうから」 「感謝感激、太いお腹のセラとは違う」 「リーゼリットっ!」 「セラ、怒るのは事実を言われたから」 「それを言うのなら、腹黒いでしょうっ」 「それは、みんな知ってる、残念」 「くっ」 お笑い系のコンテストに出れば、結構良い所行くと思うんだけど、今度こっそり応募しておこうかなぁ……。 それに何と言っても本物のメイドだし、コスプレとは全然違うから、それだけでもインパクトあるし。 しかし、彼女たちのご主人様は自分が放置プレイになっていると勘違いして、絡み出した。 「こらそこ〜、私を放置して盛り上がるんじゃないわよ〜」 「お嬢様、そろそろお止めになってください」 「……リズ」 「らじゃー」 「こ、こらっ、何をしているんですかっ!? 離しなさい、リーゼリットっ!」 「セラ、主人の命令よ。飲みなさい」 「お嬢様っ」 「あ〜、もううるさいっ。やっちゃえ〜、リズ♪」 「セラ、やっちゃう、なんかドキドキ」 「変な事言って……ごぼがぼごっくん」 「はいどんどん、はいどんどん」 「ちょ、やめっ……んぐっんぐっ……」 「はいどんどん、はいどんどん」 「ごぼがぼげぼ……」 「う〜ん、いいわよ〜、セラ。どんどんのめーっ!」 凄い、椀子そばじゃなくて、椀子熱燗なんて初めて見た。 小凛も驚いてじっと見ているけど、わたしはその熱燗の出所が気になって、キッチンに視線を動かしたらライダーさんが どんどんお酒を入れて熱燗を用意していた。 ライダーさんってあーゆーの好きだからなぁ……桜さんもパパにお酒勧めているから、止める気無いみたいだし。 あ、セラさんが落ちた……そこでVサインされてもどうコメントしていいものか解りませんって。 「よーし、これで邪魔者はいなくなったー。飲むぞーっ!」 「おー」 「もう好きにしてください、でも小凛には飲ませないでくださいね。出かけるかもしれませんから」 「おっけー、凛が怖いからね〜」 「激しく同意です、その分ママで遊んでください」 「任せなさい、アインツベルンの力を見せて上げるんだから〜」 「ファイト、イリヤ」 「胸がないアルトリアにまけるかーっ!」 「シロウ、おっぱい星人」 否定はしないよ、パパってたまに桜さんとかライダーさんとかの胸、よく見てるし。 でも、わたしの胸は見ようとしないんだけど、やっぱりまだまだ理性が勝っているんだね。 それにママの微乳も好きみたいだし、パパって広い意味でのおっぱい星人なのかもしれない。 うん、それならまだまだわたしにもチャンスはあるはずね。 「ああ、姫ちゃん。士郎さんがイリヤさんに捕まっていますよ」 「おー、ママも張り合ってパパに抱きついているなぁ……」 「士郎さんは、本当に人気者ですね」 「小凛のお父さんだって、商店街では奥様方に評判良いよ」 「それを聞いたお母様がお父様に何をしたか知りたいですか?」 「止めておく、胸焼けは絶対だし」 「賢明です」 「あ、パパが落ちた」 「結局、そう言う事になるんですね」 「そう言えば、藤ねえ戻ってこないけど、どうしたんだろう……」 「お家の方で新年会に参加しているのでは?」 「あ、それもあるか」 あれでも藤村組のお嬢様だからなぁ、組員の人たちにも人気有るし、雷画お爺さんにも孫だしね。 でもそうすると……ゆっくりおせち食べられるから良いかな? ママとぶつかると、ただの大食い選手権になっちゃうから、今回はこのままでいいや。 「しかしパパはお酒に弱すぎるなぁ……」 「強ければ良いという物では無いと思います」 「パパの数少ない弱点だけど、ママみたいに相手に飲ませようとしないし、迫ったりしないから人畜無害なのは 評価してあげるけどね」 「姫ちゃんはどうなのですか?」 「んー、なんて言うのかなぁ……ほら、ママから貰ったあれがあるでしょ? それのせいかもしれないけど、 あまり酔わないかなぁ」 「……つまり、もう飲んでいたんですね?」 「アタリ」 「まあ、人の事言えませんね」 「実際、酔ってないし」 「それでも飲んだ事には変わりません、姫ちゃんずるいです」 「えー」 「あとで綾ちゃんの代わりになってくれるのなら、許します」 「あ〜れ〜をしろと?」 「はい」 「そんな笑顔で言われても、ハイそうですかとは肯けないよ」 「酷いです、姫ちゃんが騙すだなんて……ううっ」 「小凛、悪酔いになってない?」 「気のせいです、ううっ」 「それに涙流れてないんだけど?」 「気のせいです」 「……はぁ、解りました。夜で良ければお風呂に入る前にしていいです」 「約束ですよ」 「はいはい」 なんだかなぁ、綾女の代わりに独楽回しかぁ……まあ、される側は初めてだし、これも経験と割り切ろう。 それに見るのは小凛だけだろうし、それぐらいはへっちゃらだしね。 昔から小凛と一緒にお風呂入った事だってあるし、見られるぐらい何ともない。 ……そうだ、一度パパにやってもらおう、それ決めた。 問題はママだけど、桜さんやライダーさんに何とかして貰えれば勝機はあるね。 そう……ママだけして貰っているのをわたしは知っている。 なんだかんだ文句を言いつつも、ママってパパのお願いには弱いからなぁ……。 知らない振りってこれでも大変なんだよ〜、夜の夫婦生活とか長風呂でなかなか出てこないとか。 「あ、それをやるのはいいんだけど、着付けお願いね」 「もちろんです」 「そうじゃないとパパとできないし」 「わたしはされた事有りませんけど、お母様は毎年……」 「小凛っ!」 「あ……」 「ちっ、聞こえたか……地獄耳なのを忘れてた」 「そこの弟子っ、なんか言ったかーっ?」 「気のせいです、おじさまに甘えていてください」 「うむ、よろしい」 それだけ言うと、おじさまの膝の上でごろごろと猫のように甘えている。 つい、数日前にも忘年会で猫になっていたけど、ふざけておじさまが猫耳を着けて遊んでいたなぁ……。 「……お母様、出来上がっているようです」 「だね〜、猫になってるし」 「今夜はいろんな意味で、大変かもしれないなぁ……」 「先日、お母様がそろそろ弟か妹欲しくないとか聞かれましたが?」 「凛さん、産む気満々なの?」 「はい、わたしも嬉しいですが、できれば弟が欲しいです」 「なんで?」 「魅力的な女性はよく知っていますけど、男の子は知り合い少ないですから、それでできたら弟がいいかなって」 「うーん、確かに……」 「ですから、わたしはお母様に期待しています」 実は近い将来これが本当に現実になるなんて、想像する事自体ができるわけがなかった。 そして自分の身に降りかかる事件もあるんだけど、それはまた別の話なのでこっちでは内緒。 「でもさ、そうすると時計塔の方が五月蠅くない?」 「ええ、実は高校卒業したら無条件で迎え入れると連絡が在ったんですが……」 「凛さんはなんて?」 「わたしの好きにしなさいって」 「確かにそうね、自分の人生を知らない人に決められるのは愉快じゃない」 「はい、それにわたしはまだ『遠坂』ではありません」 「凛さん豪語しているもんね〜、『生涯現役』って」 「はい、でもそれはわたしの事も考えてくれているお母様の心遣いだと思います」 「そうかなぁ、現役にこだわるのは本音だと思うけど?」 「否定はしません、ですがそうじゃない部分も在ると信じていますから」 「まあね」 パパの影響か元々そうなのか、凛さんは口で言うほど魔術師な性格じゃないと思う。 おじさま曰く『凛はお人好しの部分があの馬鹿のせいで、更に酷くなったぞ』って言うけど、 それって自爆だよねと突っ込んだら、頭抱えてたなぁ……。 遠坂家の半分はお人好しでできているから、冷酷非情な魔術師になれないみたい。 でも、その甘さが好きなんだとおじさまが呟いたのを、しっかり聞いていたけど秘密にしてある。 「倫敦に行くかどうかの前に、するべき事はあるわね」 「はい、誰が綾ちゃんをお嫁さんにするかです」 「イリヤさんは強敵だからね……」 「でも、戦う前から諦めるのは、勿体ないです」 「綾女が観念すれば、問題も無くなるのになぁ……」 「そうですね、でもああ見えても綾ちゃんは頑固ですから」 「そこが信用できる部分の一つだね」 こんな会話をしている時に、巫女服姿でお手伝いをしている綾女が背筋が寒くなったと、後から聞かされた時には 小凛と二人で苦笑いをしてしまった。 わたしや小凛と違って本当に普通の女の子のはずなのに、もしかして朱に交われば赤くなる言葉もあるし、 なんか影響されちゃったのかしら。 うーん、今度調べてみましょう……時間を掛けてじっくりと体中の隅々までね。 「と、本人のいない所で言っても進展がないし面白くもないのから、この話は後にしましょ」 「そうですね、それよりもそろそろお母様が暴れ出しそうですが?」 「うわー、去年と同じかぁ……見てないふりはもうダメか」 「仕方在りません、お母様もここなら気を抜けると言ってましたから」 「まあね、ここに攻め込む馬鹿はそうそういないし」 「陣地としては遠坂の屋敷なのですが、その前線基地はここだと……」 「そっちの意味なのね、凛さんらしいけど否定できないのもまた事実か」 「それだけ頼りにしていると、お母様は思っていると思います」 「おじさまとしては面白くないでしょうね」 「ええ……ですがお母様の意見は間違っていないと認めているのも、お父様です」 「そうね、求める結果を導くには、好き嫌いは言ってられないけど」 「お母様は本当に勝ち方という事について理解しているから、その選択も正しいと言えます」 「うん、凛さんの考えは弟子として認めるよ。だからこそ『遠坂』と胸を張っているんだね」 「お陰でわたしは、普通の自由を楽しめます」 生まれた時から魔術師としての力を感じさせた小凛は、出生の事実を知れば魔術に関わる者に取ってまたとない サンプルとして興味は尽きないでしょう。 だが、手を出させないのが『遠坂凛』と言う、彼女の母親であり第二魔法まで再現させた実力者の力だった。 それに大師父のゼルおじいちゃんは、小凛を偉く気に入って自分のひ孫扱いだったしなぁ……。 さらについ最近、もう一人の魔法使いの青子さんまで現れて小凛と拳を交えた後、ちょっと無理っぽい妹扱いして 喜んでいたし。 この三人を相手に小凛を手に入れようとする馬鹿がいたら、見てみたいけどたぶん目にする事はない。 反対にこれのお陰で小凛が高校卒業後、無条件に時計塔へ修学出来るように話が来ているって訳なのよ。 でもね、本人の夢は可愛いお嫁さんなので、そう簡単には倫敦に行く気はないみたい。 「あ、そう言えば冬休み前にかなり交際申し込まれていたけど、誰かいい人いた?」 「皆さん良い方だと思うのですが、惹き付けられる人はいませんでした」 「うーん、軽い気持ちで家に招待したら生きて帰れないでしょうね」 「姫ちゃん、それは笑えませんから……ふぅ」 「ああ、年末のあれね。知らないとは言えよくもまあおじさまの前でナンパして、しかもホテルに連れ込もうなんて 自殺行為よねぇ〜」 「お母様は笑っていましたが、お父様は本気でしたから困りました」 「親馬鹿だもん」 「はい」 「ウチはその辺、微妙に放任っぽい所があるからなぁ……特にママはそれが態度で出てるし」 「そうでしたね」 「パパは止めようとしたのに、ママってば実力で排除しなさいって、母親の言う言葉じゃ無い気がする」 「姫ちゃんを信じているからですよ」 「いや、あれは違う……そのままナンパされてパパから離れなさいって、大きな目が言ってたもん」 「ふふっ」 「笑い事じゃないよ、本気と書いてマジって顔にも書いてあったし」 「アルトリアさんらしいですね、いつでも本気になれるって素晴らしいと思います」 「小凛、綺麗に纏めようとしたって無駄よ。わたしとママの戦いはそれぐらいで終わったりしないんだから」 「お互いに歩み寄る努力はするべきだと思います」 「パパに関しては無理ね」 ファザコンと言われようが、パパ以上の魅力を持った人が現れない限り、わたしの一番はパパのままだよ。 二番目はおじさまだけど、凛さん相手に戦いを挑む無謀な勇気はありません。 そして珍しく邪魔されずに小凛と話していたら、おじさまと凛さんにパパとママの姿も居間から消えていた。 まあ、何をしているのか解っているけど、敢えて言わないのが乙女心よね。 で、残っているのは桜さんは……ライダーさん、部屋の隅に転がして座布団被せるのはどうかと思うよ。 イリヤさんも一升瓶抱えて寝ているし、セラさんはとっくに落ちてるし、リズさんがもきゅもきゅとおせち料理を 堪能していた。 「お二人とも十分に味わえましたか?」 「ライダーさん、あれは酷くない?」 「……鏡餅か門松と思えば気になりません」 「後で怒られても知りませんからね」 「大丈夫です、記憶が残らない程、飲んでいましたから」 「あれ、でも桜さんって弱かったっけ?」 「……はい」 「その間が気になるんだけど?」 「気にしないでください、それよりもおせち料理の中でどれが美味しかったでしょうか?」 「そうだね、パパとママが作った物は外すとして、一番は煮染めだったけどこの黒豆は綺麗に仕上がっていて 甘みも良い感じだったよ」 「ええ、去年とは違った美味しさがありました」 「そうですか、ほっ……」 「あ、もしかしてこれ作ったのライダーさん?」 「は、はい。サクラの鬼監督の元、毎日毎日料理修行した成果が出たようで、ほっとしました」 「でも何で料理を?」 「はい、今は仮のマスターでもあるサクラから、敬愛する心のマスターの士郎の元へ帰る為に、日夜努力を……」 「そうなんだ、あ……」 「ふーん、そんなこと『まだ』考えていたんだ、ライダー」 そう……ライダーさんの背後には、いつの間にかくすくす笑っている桜さんが立っていました。 正直、怖いです……もう動いたら桜さんの足下で動いている影に吸い込まれそうなぐらい怖いです。 「……ああ、いけません。お酒が切れていたので買ってきますね」 「待ちなさい、ライダーっ!」 「待てと言われて待つ英霊はいません」 「今はメイドでしょうっ!」 「ええ、ですから足りない物を買いに商店街まで行って来ます」 「行かなくて良いですっ、それよりもさっきの話をもう一度最初から言いなさいっ!」 「はっ、子供達が呼んでいます。何者かが公園で暴れているようです」 「訳のわからない事を言って誤魔化そうとしても無駄ですっ!」 「変身!」 「ラ、ライダーっ!?」 いきなり叫んで変身ポーズを取って、メイド姿から戦闘服姿になると、庭に止めてあったビー○チェイサー(レプリカ) に飛び乗ると、そのまま塀を飛び越えて行ってしまった。 あれ、パパが作ったんだけど、良く出来ているからライダーさんのお気に入りになってるし。 「ごめんなさい二人とも、後の事はお任せしますね」 「どうぞ気にしないで行ってください」 「まったくもう……今日こそとっちめてやるんだからっ」 「気を付けて〜」 ライダーさんに続いて桜さんも外に行ってしまったけど、真っ黒なオーラが気になるけど、余計な詮索は身を滅ぼすからしない。 近頃、町中でよくヒーローショーをやっているって聞いたけど、それもかなりリアルな戦いが評判で、 マウント深山商店街でも、特設ステージ組んでるしなぁ……。 「……結局、ライダーさんVS桜さんなのでしょうね」 「小凛、後片づけに行く可能性がありそうね」 「お正月ですから、ライダーさんも張り切るでしょう」 「小凛も何かこう変身して参加するとか?」 「え、それはちょっと恥ずかしいです」 だけど実際この話をしている時、遠くない未来に小凛が魔法少女になってしまうとは、世の中不思議で満ちている。 そしてそれは凛さんの隠された恥ずかしい過去の話が暴露されてしまう、笑うに笑えない事態にわたしは必死になって 口元を隠すのも遠くない未来の出来事だった。 「ごめんくださ〜い」 「おーい衛宮、おめでとう」 「あ、来たみたいね」 「そうですね、やっと本番ができそうです」 「綾子さんもいるし、きっと邪魔されないから、思いっきりやっちゃえば」 「くすくすっ、楽しみです」 「綾女……なむー」 こうして新しい生け贄、もといおもちゃ、違ったお客さんを出迎えに、わたしと小凛は玄関へ出迎えに行った。 そして哀れな子羊となった綾女は、帯を解かれて独楽回しの果てに、待望のバニーガール姿を披露する事になった。 「ひっくひっく……どうしてお正月からこんな目に〜」 親友の望みが叶えられておまけのウサギさん姿を見られて、わたし満足そうに笑っていた。 今年も楽しい一年になる事を予感せずにいられなかった。 Fin