IN MY DREAM EXTRA W 夏の夜と言えばいろいろイベント有るけれど、やっぱりこれは欠かせないと言う事で、 家族そろってお出かけです。 そう、今夜は柳洞寺で夏祭りなのです。 パパもママもわたしも浴衣で、からころと下駄をならしながらちょっと長い石段を登っていく。 提灯の明かりがぼんやりと辺りを照らして少し幻想的な雰囲気が気分を盛り上げてくれる。 後少しで門と言う所で、パパはママに呟く。 「懐かしいですね」 「ああ、そうだな」 「何が懐かしいの?」 「昔な、こうして夜にアルトリアと一緒にここを登ったんだ」 「ええ……」 パパとママは懐かしむようにたどり着いた門を見上げる。 それにしても夜に人気のないお寺に来て何をしていたんだろう……ってまさかっ!? 「パパもママも罰当たりだよね」 「なにがです?」 「だって、夜に二人っきりで人気のないお寺でだなんて……えっち♪」 「な、なななにを言ってるんですかーっ!」 わたしの言葉を理解したママは、夜目でも解るほど顔を真っ赤にしてライオンのように吠えた。 だってねぇ、夜にこんなとこ来て何するのかって考えると……あれしかないと思うんだけど? 両手をぶんぶんと振り回しているママを押さえながら、パパが変わりに話してくれる。 「こらこら、お前が思っている事は無かったぞ」 「そうなの?」 「ああ、ただな……夜明けまでここにいたけどな」 「ふーん」 「そ、そうです。あなたの考えは本当に凛に影響されすぎです!」 と、ぷんぷんと脹れているママの頭を撫でた後、パパがわたしの耳元に顔を寄せて、小さな声で囁いた。 「でな、ここの裏山で朝焼けの中で、アルトリアに告白されたんだ」 「ええーっ!?」 「な、なんですかっ」 「もうママってっ……意外にやるんだね」 「何をですかっ!? シロウ、何を娘に教えたのですかっ!」 「なにって、ここでアルトリアに告白されたって事だけど」 「うう〜っ」 「まあまあ、その告白をきちんと受け取って貰えたから、パパはママを追いかけて連れ戻したんでしょ?」 「そ、それは……」 ママが怒っているのか照れているのか嬉しいような笑顔で抗議しているけど、あえて流して追いついてきた イリヤさんご一行に振り返る。 「ふー、長い階段だった。エスカレーターぐらい付けて欲しいものだわ」 「イリヤさん、それは情緒が無くなっちゃいますよ」 「いいのよ、レディの足を太くするような物は認められないんだから」 「説得力有るような無いような……」 もの凄い美人なパパのお義姉さんは、ふふんと浴衣姿でくるっと一回りすると、容姿に似合わず片手を上げてガッツポーズ をして声を上げる。 「よーし、それじゃ今夜は食い倒すぞーっ!」 「お、お嬢様っ、はしたないですからお止めください」 「イリヤ、楽しそう」 「あははっ、まあまあ二人とも、今夜は無礼講と言う事でいいじゃないですか」 「良くありません、大体あなたの衛宮家では毎日がそうです」 「うん、シロウの家、毎日お祭り」 「リーズリット、最近のあなたはメイドの意識が欠けていますよ」 「セラ」 「な、なんですか」 「なんでもない、くすっ」 「はっきり言いなさい、リーズリットっ」 とか文句をいいつつも、セラさんもリズさんも浴衣を着ている。 それに笑顔なのを気づいてないセラさんをリズさんが楽しそうに見つめている。 「さあ、ここで話すよりもお祭りを楽しんだ方が宜しいと思います」 「そうだね、ベディさん」 「特にアルトリアさまが我慢出来ないようですから」 「何故そこで私を引き合いに出すのです、ベディヴィエールっ」 「いえ、深い意味は……まあ、ありません」 「なんですか、その間はっ」 ベディさんの物言いに、腹ぺこライオンと称されるママがまた吠えた。 うん、ママってからかい甲斐があるよね、そう思ったわたしにベディさんは同意するように 目配せをしてきた。 みんなに愛されているのが自慢の一つだと、ママ本人だけが気づいていないのは、本当に楽しい。 「もういいですっ、行きますよシロウっ」 「大丈夫だって、屋台は逃げないから」 「シロウっ」 「よーし、みんなついてこーい、今夜はアインツベルンのおごりだー!」 「お嬢様っ」 「流石イリヤ太っ腹、腹黒のセラとは違う」 「リーズリットっ」 何となくほっとしているパパの顔から、お財布の中身を心配していたんだろうなって解っちゃった。 とにかく食いしん王、なぜ坊じゃなくて王なのか、パパもアーチャーのおじさまも教えてくれない。 凛さんだけは『ライオンだからね〜』なんて笑って言ってたけど、他にも何かあるんじゃないかと思ってしまう。 かくして、夏祭りに参戦したわたしたちを待っていたのは、パパいわく宿敵でわたしいわく師匠な遠坂家ご一行でした。 「こんばんは小凛、浴衣も似合ってるわね」 「こんばんは、ありがとうございます」 凛さんの一人娘、母親そっくりな彼女は遠坂小凛(こりん)は、浴衣姿もばっちり決まっていた。 でもそっくりなのは性格以外なので、純情可憐な乙女である……凛さん腹黒いからね。 「こらそこ、変な事考えているんじゃないわよ」 「いやだなぁ凛さん、そんな事思うわけ無いじゃないですか」 「……まあいいわ、お祭りだから見逃して上げるわ」 「ありがとうございます、師匠♪ 浴衣姿も素晴らしいです」 「ん、そう」 「お母様ったら、本当は喜んでいるんですよ」 「解ってる、凛さん純情で照れ屋だから」 「はい」 「小凛っ」 と、和気藹々なわたしたちの横で、パパとおじさまが睨み合っていた。 もう、いい加減に大人にならないのかなぁ……。 「ふん」 「なんだよ」 「なんでもない」 「そうかよ」 「…………」 「…………」 「あのね衛宮くん、不毛な会話は止めなさい」 「そうですアーチャー、今夜はお祭りなのですから、諍いは無しにしてください」 「「むぐぅ」」 凛さんとママにそれぞれ怒られて、何も言えなくなるのは尻に敷かれているって証明している。 しょうばないねと隣の小凛に話しかける、困ったような笑顔だけど頷いていた。 もっとも、ママと凛さんも諦めっぽい空気が零れていたから、最悪は実力行使に出るのは予想範囲なのはパパもおじさまも よっく解っている。 「ほーんと、いつまでも立っても子供なんだから困っちゃうよね」 「でもそこがパパらしいと言うか」 「お父様はいつも少年のような心を持っていますから」 「……物は言い様ね、そう言う事にしておくわ」 「「ぬぐぅ」」 イリヤさんの駄目押しにパパとアーチャーさんは、唸ってからおとなしくなった。 やっとこれでお祭りが楽しめると、みんなで歩き出した。 ん? そう言えば誰かいないような……あ、そうだ。 「ねえ凛さん、桜さんとライダーさんは?」 「くっ……」 「えっと、そこでなんでわたしの胸を睨むんですか?」 「……市販の浴衣じゃサイズが合わなかったのよ、それで手直ししてから来るって」 「はー、なるほど」 「なんだ、言ってくれればセラ用の物で用意したのに」 「ええーい、どいつもこいつもっ」 うむ、凛さんの宿敵……もとい胸敵は自分より大きい人全部だしなぁ。 先日行った海で、桜さんとライダーさんが二人で水着姿で海岸を歩いた時、男の人の視線は釘付けで帰るまで周りが 騒がしかった事を思い出した。 でも、忘れちゃダメですよ、凛さんにだって同士はいます。 「ママ、セラさん、いつまでも凛さんの味方でいてくださいね」 「まちなさいっ、どう言う意味か理解してないと思っていますかっ!」 「む、胸なんて飾りなのですっ、それにわたしはお嬢様の味方ですっ」 「よく言った不肖の弟子よ……その胸よこしなさいっ」 「お、お母様っ」 「小凛っ、あなたの胸でも問題ないわ」 「その……お母様の気持ちは解るのですが、取って差し上げるのは無理です」 「くっ」 そうなのよねぇ、小凛ってトランジスタグラマーと言うのかな、脱いだら凄いんですみたいに実は胸は凛さん超えてるし。 それに可憐だから胸が無くても魅力的だし、本人もこれ以上大きくならなくてもいいと、たまに呟いていた。 でも、こんな時はパパやおじさまの出番です。 「ほらアルトリア、リンゴ飴買ってきたぞ」 「凛、綿飴を食べさせて上げるから口を開けろ」 「シロウ、あの……」 「アーむぐぅ……」 「さあいこうアルトリア、まだまだ沢山あるからな〜」 「凛、射的でぬいぐるみを取ってやろう」 さっきとは立場が逆転して、強引にお店が並んでいる中を歩いていく。 ママも凛さんも抗議はしているけど、その顔は赤いけど笑顔なので満更でもないらしい。 「さあ、わたしたちも負けてらんないわよ、目指せ露店コンプリート!」 「お嬢様、ですからそれははしたないと……」 「イリヤ、わたし焼きトウモロコシと大阪焼き」 「リーズリットっ」 「セラにはあんず飴と綿菓子」 「はいはーい、任せなさい」 「ああもうっ……」 アインツベルンご一行はイリヤさんに引きずられるように、パパたちの後を追っていった。 残されたわたしと小凛とベディさんは顔を見合わせて笑い出しながら、ゆっくりと歩き出した。 そうそう、お祭りは始まったばかりなのだ。 「んぐっ、シロウ、美味しいです」 「まったアルトリア、顔向けて」 「はい……あ、ありがとうシロウ」 「綺麗な顔にソース付けたままはよくないぞ」 「は、はい」 「ほら、ご注文のイカ焼き3人前だ、足りなかったら言ってくれ」 「シ、シロウっ、そのような大きな声で……恥ずかしいです」 「大丈夫だ、去年も来たしお店の人も解っていたぞ」 「ううっ」 と、パパとママはいつも通り食べ物天国状態なこの場所で、いかんなくらぶらぶ固有結界を作り出し。 「アーチャー、次はあれね」 「凛、少々食べ過ぎではないのかね?」 「だって……アーチャーの相手をするには、体力無いと困るのよ」 「り、凛っ、こんな場所で言う事ではっ」 「ん? んん〜? 何を想像したのかなぁ、アーチャー?」 「何もしてないぞ」 「ふふっ、もう可愛いんだからアーチャーはぁ♪」 「凛、からかったな」 「さーてね、それよりも行きましょう」 かたや小凛も両親の仲睦まじい姿に、幸せそうな顔して見つめていたり。 もうどっちが保護者なんだか、正直微妙かもしれない。 そして一番はしゃいでいるのは、もちろんイリヤさんだった。 「おじさん、すくう奴あるだけ頂戴」 「今年も来たな、でもそれだけは他のお客さんもいるから勘弁な」 「しょうがないなぁー、じゃあとりあえず10個ね」 「毎度ありっ」 「さあ、セラ、リズ、あなた達も手を貸して頂戴」 「お嬢様の名とあらば致し方有りません。店主、お店を貸し切り……」 「セラ、やりすぎ、腹黒すぎ」 「お待ちなさいリーズリット、今のは冗談です」 「ウソ、去年も同じ事やった」 「はいはい、馬鹿な事考えてないで、ちゃんとこれですくうのよ」 「わかりました、では……あっ」 「セラ下手、だめだめ」 「もう、こうしてすくうのよ。ほらっ」 「イリヤ上手、わたしもやる」 「リーズリットに出来るぐらいなら、わたしに出来ないはず有りません」 「できた、わーい」 「うっ」 「セラ、ほしい?」 「いるかーっ!」 あれも毎年なのよねぇ……金魚すくいのおじさんも苦笑いをしている。 根が素直な分、リズさんの方が金魚をどんどん手にした容器に入れていく反面、セラさんは 一匹もすくえずその顔はいつもクールさはなくなり、ちょっと怖い。 そして満足したのか、イリヤさんは三匹だけ袋の中に入れて貰うと、満足そうにそこを他のお客さんに 譲った。 「今年も凄かったですね、イリヤさん」 「いいわよねーあれ、すくう事に意義があるなんて、シロウみたいだし」 「そうですね、でもいつも返しちゃうけどいいんですか?」 「これだけで十分よ、雷画の飼っている錦鯉もいるしねー」 袋の中で泳いでいる金魚を見つめながら、子供のように笑うイリヤさんは子供っぽくて好きだなぁ。 もちろんそんなのだから周りにいる人たちでイリヤさんに声を掛けようとする男がいるんだけど、 ベディさんやメイドの二人がそれとなくガードして近寄らせない。 もっとも、こっちに小凛目当てで人が寄ってくるけど、わたしと話をして聞こえないふりをする。 うーん、美人で可愛いし浴衣ってアイテムが更に効果をアップさせているから、吸い寄せられるように来るのは 鬱陶しい。 「ねえねえ彼女たち、俺たちと一緒しない?」 「ちょうど二人だしさ、こっちも二人でペア組めるじゃん」 絵に描いたようなのが来たけど、小凛は無視してわたしに話しかけていたが、しびれを切らしたのか 一人が小凛の手を強引に握ってきた。 「なあ、無視する事無いじゃん」 「そうそう、せっかく楽しいことしようって言ってるのに」 こういう時の対処法はいろいろあるけれど、やっぱりアレよね……だから小凛を見て頷く。 「最初が大事だから、きつめにお仕置きしちゃいなさい」 「そうですね……他の皆様に迷惑ですから、静かにして貰いましょう」 「へ?」 すーっと優雅に小凛の伸ばした指先が男の喉に深々と突き刺さり、続いて隣りにいた男の喉にも同じように突き刺した。 刺したと言っても血は出ていない、だって点穴を付いただけだし、あまりの早さに周りにいる人たちが気づいていない。 その直後、男たちは口をパクパクさせるだけで声が出なくてパニックになっている。 「暫くしたら声が出るようになります、これに懲りておとなしくしてください」 にっこりと微笑む小凛を見て、男たちは声もなく人混みの中に消えていった。 うーん、冴えてるわね……相変わらず凄いわ。 こう見えても八極拳の使い手で、点穴も知ってるからなかなかに手強い乙女でもある。 「見事ね、はい、ご褒美にべっこう飴上げるわ」 「ありがとうございます、イリヤさん」 「うーん、武芸百般っぽいのはおじさま似なのかなぁ」 「それがお父様はあまり教えてくれません」 「そうなの?」 「はい、女の子はお淑やかな方が心象がいいぞって……」 「小凛は十分乙女だから安心しなさい」 「そうね、凛より立派なレディだわ、このわたしが保証して上げるから自慢なさい」 「は、はい、ありがとうございます、イリヤさん」 おおー、珍しく小凛が照れているわ。 イリヤさんって物の言い方が良くも悪くもストレートだから、そこには嘘がない。 なので、小凛も意味を理解しているから本当に照れてしまったみたいね。 「あれ、ところでパパたちの姿が見あたらないんだけど……まあ、痕跡をたどればいいか」 「食べ物屋を見ていけばすぐに解るけど、あれで良く太らないわね」 「ママは結婚してから成長したのはわたしがお腹にいる時だけだったそうですよ」 「……シロウってやっぱりロリコンだったのかしら? ならわたしでも良かったのになー」 「お嬢様、アルトリアさまの貴い犠牲を無駄にしてはいけません」 「シロウ、だからわたしに誘惑されない?」 「リーズリットっ、あなたは何を考えているんですかっ!?」 「どうでも良くないけど、人の父親を悪し様に言わないでください」 「ううん、これでも好評なんだけど?」 「イリヤさん、明日の朝食から納豆尽くしでいいですか?」 「さあ、シロウたちを見つけましょうー」 イリヤさんの弱点はあのねばねばした納豆だったりする、健康と美容にいいんだけどあの匂いと糸がダメらしい。 ライダーさんなんて薬味を入れたりしていろんな食べ方を研究しているけど、大人になった今でも朝食に納豆が出ていると 無言でパパに突き返していた。 先に行ったイリヤさんの後を追いながら途中の屋台でたこ焼きを買って小凛と食べながら、たどり着いた先には人だかりと 大きなステージがあって、その脇にパパとおじさまの頭が見えた。 「いたわよ小凛」 「あ、お父様も一緒ですね」 「あれ、一緒にいるのは一正さんかな?」 「そうみたいですね」 この場所、柳洞寺の跡取りでパパと同じ高校で生徒会長をしていたのが、一成さんだった。 そしてなんと、英語教師の美綴綾子先生の旦那さんでも有るのは、学校ではあまり知られていなかったりする。 だから、綾子先生と一成さんとの家族ぐるみでお付き合いは長いのである。 「パパっ」 と、呼んだらパパが振り返るより、ママと凛さんが走り寄ってきた。 そしてそれぞれ肩をがしっと掴まれ真剣な表情で見つめられたけど、ママが男前に見たのは内緒にしよう。 「待ってましたよ、あなたが参加するのです!」 「小凛、誰が美少女か証明してきなさい!」 「話が見えないんだけど、ママ?」 「落ち着いて説明をしてください、お母様」 「「とにかくステージに行きなさいっ!」 訳もわからず背中を押されそこにあったステージに上がらされると、周りの人たちから歓声が上がった。 なんなのか辺りを見回してステージの上に掲げられていた看板を見て納得した。 【第一回 ミス・深山町コンテスト】 ……思うんだけど、これ絶対に一成さんの企画じゃないと思う。 だって、去年までこんなの無かったし、生徒会長時代から堅物だって凛さんが言ってたから間違いない。 その疑問に答えてくれそうな人が視界の隅で、にやにや笑っているのが見えた……って綾子先生、あんたですかっ! 「いやー、衛宮と遠坂の娘は学校でも町でも評判だからな、盛り上がってくれるぞ」 「美綴、お前なぁ……」 「わたしの娘も出したんだから、綾子の娘も出しなさいよっ」 「え、ああ、あの娘は人見知りが激しいから出せない、悪いね」 「あんたねぇ……」 「まあいいではないか凛、小凛は自慢出来る娘なのは事実だ」 「それは認めるけど……」 「しかたないだろう、ミスコンに既婚者が出るのはルール違反だろう」 「私とて不本意なのです、優勝商品の米一俵あればどれだけ生活に欠かせないか……」 「食いしん王は黙ってなさい」 「ぐっ」 なるほど、最初はママたちが出ようとしたけれど、基本的に独身な方のみで行われるらしい。 って事はもしかしなくてもと考えたら、何故か先に歩いていたはずのイリヤさんたちが後から来て、パパと話した後 リズさんとセラさんを連れて舞台に上がってきて、更に歓声が大きくなった。 「ふふん、シロウの姉としては出ないわけにはいかないわね」 「お、お嬢様、なぜわたしが……」 「セラ、ここは胸関係ないから、なんとかなる」 「リ、リリリーズリットっ!?」 「まー、そーゆー訳で、優勝はわたしが貰ったわ」 「がんばって小凛、純情可憐なあなたしかイリヤさんには太刀打ち出来ないわ」 「え、ええっ!?」 しかし、伏兵とは気づかれないようにその身を隠している。 そう……ステージの反対側から、二人の浴衣美人がゆっくりと歓声の中、こちらに歩いてきた。 しまった、この二人を忘れてたっ!? 「どうやら間に合ったようですね、サクラ」 「ええ、浴衣をきちんと直してきて正解でした、ライダー」 「……えっとライダーさん、失格」 「なぜですかっ!?」 「(小声で)だってライダーさんって女神じゃないですか、勝てる人いませんよ?」 「(小声で)しかし、この日本では漫画などでは恐怖扱いされているから、そんなことありません」 「(小声で)それにもしサクラさんに勝っちゃったらどうするんですか?」 「(小声で)長い人生、下克上もあったりしても不思議じゃありません」 ライダーさんは桜さん付きのメイドである、正体はこっそり凛さんから教えて貰ったからしているんだけど、 本物の女神が出たら誰も勝てないでしょう。 浴衣の上からでも解る抜群のプロポーションと眼鏡を掛けた知的美人が同居しているから、男の視線は外さない。 しかし、そんなライダーさんに拮抗するのが、凛さんの妹とは思えない妖艶さを振りまく桜さんである。 「ライダー……受けて立ちますよ」 「サクラ、あなたの気持ち、受け取りました」 「「ふふふ……」」 「いや、あの、二人とも、その笑顔怖いんですけど?」 そして今、ステージ上にはわたしたち5人だけしかいなくて、他にもいると思ったけどなにやら綾子先生の周りに 人が集まって何かを話し合っているみたいだった。 それで何となく解った、他の参加者がいなくなってしまった事を……でもまあこのメンツじゃねぇ。 どうやら企画運営者の中で結論が出たのか、マイクを持って綾子先生がステージに上がってきた。 「えー、お待ちの皆様〜、参加者が少ないという事で一部ルールを変更して既婚者の方でも宜しいでしょうか?」 会場の皆さんにOKが取れて、ミス深山町コンテストの開催され、司会は続けて綾子先生がノリノリで始めた。 「エントリーナンバー一番、皆さんご存じの深山町の食いしん王、衛宮アルトリアさん」 「な、なんですか、そのナレーションはっ!?」 「エントリーナンバー二番、その一人娘は穂群原学園ヒーロー、衛宮(ピー)さんってあれ、マイクの調子悪いなぁ……」 「まあまあ先勧めましょう」 「じゃあ、エントリーナンバー三番、深山町のお屋敷に住むバカップル代表、遠坂凛さん」 「綾子っ、バカップルってなによっ!」 「続きましてエントリーナンバー四番、その一人娘は母と同じく学園のヒロイン、遠坂小凛さん」 「よ、よろしく」 「エントリーナンバー五番、高校の頃から姉のスタイルを凌駕してきた妹、遠坂桜さん」 「み、美綴先輩、変な紹介しないでくださいっ」 「はいはい、エントリーナンバー六番、その美貌とスタイルで下克上を目論む遠坂家メイド、ライダーさん」 「これも運命ですね」 「余裕ですねー、エントリーナンバー七番、町の治安を守る藤村組の外国からきた食客、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンさん」 「よろしくねー」 「続いてエントリーナンバー八番、その意志はメイドオブメイドの代名詞、セラさん」 「メイドオブメイドってなんですかっ!」 「そして最後はエントリーナンバー九番、天然ながらもそのメイド根性は世界一、リーズリットさん」 「ぶい」 「以上の九名で行われますー、それではアピールタイムの時間です♪」 いったん後ろに下がり、まずはママから始まるんだけど、どう見ても大人に見えないママだから歓声の中に ちゃん付けで呼んでいる人もいる。 「あ、あの、これでも主婦ですから、ちゃん付けは止めてください」 それは無理だって、その証拠にますますアルトリアちゃんコールが巻き起こり、ママは首まで真っ赤に染まっていた。 続いてわたしだけど、あっさり挨拶しておこう。 「えーっと、今の少女っぽい母親の娘です。間違っても姉でもないのでよろしくね」 元の場所に戻るとママがぶつぶつ行ってきたけど、歓声で聞こえないふりをした。 次は凛さんね。 「その、知り合いに頼まれちゃって仕方なくだから、でもがんばりますね」 おおっ、腹黒さを全く隠しておじさまと仲睦まじい夫婦をしているときの顔で颯爽と終えた。 うーん、がんばれ小凛。 「あの……こう言うの初めてで、母共々宜しくお願いします」 優等生らしい受け答えだけど、帰って初々しさが受けたのか会場からはため息が漏れていた。 そして桜さんが一歩前に出るたびに、男の人の視線がその胸に集中する。 「よろしく……」 その妖艶な微笑みと体の動きから生まれた色っぽさに、男の人の何人かが前屈みになっていた……確信犯だなぁ。 次は本命と名高いライダーさんだ。 「こう言うのは初めてですが、応援宜しくお願いします」 長い髪が綺麗になびいてまさしく女神の名に相応しい立ち居振る舞いだった、もちろん前屈みな男の数は桜さん以上だったかも。 そしてそれとは違った空気を纏うのは、気品高く足音もさせずにマイクの前に立ったイリヤさんだった。 「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです、この様な催しものに参加出来て嬉しく思います」 完璧だ、完璧ですよイリヤさん、誰も毎朝虎と戦っている姿を想像出来ませんから。 次はもの凄く嫌な顔しているセラさんでした。 「イリヤお嬢様付きメイドのセラです」 んー、自分では素っ気なくしたつもりなんだろうけど、逆に今の日本じゃそれ受けるんだよね……えっと、たしかツンデレだっけ? なんて考えていたら、リズさんがマイクの前に立っていた。 「セラ、腹黒だけど、ツンデレ」 全然自己アピールじゃないんだけど、片手でピースサインしてたのがそうなのかもしれない。 こうして簡単な自己紹介は終わり、審査と一般評受付の時間に突入した。 まあ、いきなり企画だからほとんど第一印象で決まっているんじゃないかなぁと思う。 そして十数分後、結果発表の時間になって綾子先生が、笑顔でステージに戻ってきた。 「さてお待たせしました、結果発表です。厳選なる審査に皆さんの投票を合わせた結果、栄えある第一回ミス深山町は―――」 「ちょっとまったーっ!!」 どかーんと何故か爆発と共にステージの紅白幕をぶち破って現れたのは、なぜかアフロヘアの藤ねえだった。 「なーんでこのわたしを差し置いて、こんなの決めちゃってるのよーっ!!」 「こらタイガー、なにやってるんだっ」 「わたしを虎と呼ぶなーっ!!」 がおーっと竹刀を振り回して叫ぶ藤ねえを取り押さえようとパパとおじさまがステージに上がってきたが、 なんか止めるの嫌だなぁって顔で、なかなか止めない。 「あちゃー、間に合わなかったか」 「ネコさん?」 「こんばんは、ネコさん」 パパが今でもたまにお手伝いしているコペンハーゲンのネコさんだった、藤ねえの親友でわたしたちの学校のOBでもある。 「いや、今夜誰もいないってウチに飲みに来てたんだけど、エミヤんは家族でお祭り行っているよって口滑らせたら ああなっちゃって、悪かったね」 「いえいえ、だって藤ねえだし」 「藤村だしね」 「藤村先生ですから」 もうどうでも良いやって感じではなしていたら、ステージの上はミスコンじゃなくて正義のヒーローショーになっていて、 パパと藤ねえの一騎打ちになっていた……もちろんパパが正義の味方だよ。 そしてこの年以降、夏祭りではミスコンは開かれずヒーローショーが定番になった。 ついでに言えば、藤ねえは毎年招待されて悪の親玉として子供たちに大人気だったけど、ますます婚期が遅れたのは 関係ないと思いたい。 え? 誰が優勝したかって? それは言わぬが華って事にしておきましょう♪                                 Fin