「暑い……」 タンクトップにショートパンツ姿で大の字に寝転がっているわたしは乙女にある まじき姿と言われてもしょうがないと思う。 だって、暑いのものは暑いっ。 「いい加減起きなさい、夏休みだからと言ってだれすぎです」 竹刀でどんと床を叩いて構える凛々しい姿のママは、今日も朝から元気です。 でもやだよ、だって板の間は冷たいから、少しでもこうしていたい。 「はぁ……『心頭滅却すれば火もまた涼し』と言う言葉があります。そうやって だれている からいけないのです。さあ、気合いを入れなさい」 ママって日本人じゃないのに、どうしてそんなに言葉に詳しいのかなぁ……。 確か生粋の英国人のはずなのに、日本語もぺらぺらで全然外国人らしくない。 まあ、わたしも見かけママそっくりだけど、中身は日本人だしそう言う事も あるよね。 「さあ、いつまで寝ているのです。起きなければこちらからいきますよ」 「うわっ!?」 はやっ。 振り下ろされた竹刀を転がって避けると、立ち上がって竹刀を構える。 いきますよって確認じゃなくてそのままじゃないっ。 危うく顔面に竹刀が打ち込まれるところだった、娘にも手加減しないママの一撃 なんて顔で受けたら鏡が見られなくなっちゃうじゃない。 「ママ、乙女の顔になんてことするの?」 「声は掛けましたよ」 「だからって即攻撃は無いと思う」 「さあ、いきますよ」 「ママって絶対人の話を聞かなかったでしょ?」 「―――問答無用です」 「図星だぁーっ!」 どうやら大当たりだったようで、いつもより体中にアザが出来ました、いたたたっ。 こうママに稽古と称した嫉妬で怪我した時のパパの気持ちがよく解るのは、わたし だと自慢できるけどこんなのは嫌です。 「いたっ」 「ああ、ごめん……よし、これで終わりだ」 「ありがと、パパ♪」 いつもの朝食の時間になっても来ないわたしたちの様子を見に来たパパにお姫様抱っ こされて、居間で優しく手当をして貰った。 その間、ママの視線がパパじゃなくってわたしを睨んでいるのは困っちゃう。 娘にも嫉妬するママの思いは、ご近所でも評判だと本人は知らない。 「稽古も程々にな、包帯だらけなんて女の子らしくないぞ」 「それならママに言ってよ、わたしの言う事なんてこれっぽっちも聞いてくれないんだ もん」 「はぁ……アルトリア?」 「わ、私は悪くありませんっ。夏休みだと言うのにだれきっているその娘が悪い のです」 「だからってなぁ……」 「そうだよ、これじゃ遊びに行けないじゃない」 「うっ」 へへん、パパにメロメロなママはこれに限る。 パパに言われると朝の強さが嘘のように思えるから、もうママはパパに首ったけ過ぎ なの。 だから、このチャンスを生かさないと……ママの教え通りにね。 「じゃあパパ、今日は予定が潰れちゃったから、課題の自由研究に付き合って くれる?」 「うん? そうだなぁ……」 「ま、待ちなさいっ」 すかさず突っ込むママの行動は、予測したとおりだったから、わざとらしく包帯の 上を撫でる。 「いつっ……なにママ?」 「あ、う……」 よし、ここで更にパパにもがんばって貰っちゃおう。 「今日は凛さんの所でアーチャーさんの手作りケーキで、お茶会の予定だったんだけ ど……」 「まて」 「なにパパ?」 「ケーキが食べたいのなら、いくらでも作ってやるから、行くんじゃない」 「わーい、やったー♪」 やったね、パパが言ったんだからもう大丈夫。 物心着いた頃からなんだけど、昔っからパパは凛さんの所にいるアーチャーさんが 嫌いみたい。 以前、さりげなくアーチャーさんに聞いた事が有ったんだけど、『気にする事は ない、君の事は気に入ってるからいつでも遊びに来るがいい』って頭を撫でてくれる だけだった。 凛さんも凄い美人だけど、アーチャーさんも格好良くて素敵だとおもう。 なんとなくだけどパパとそっくりだって言ったら、パパもアーチャーさんも『それ だけはダメだ』と、もの凄いプレッシャーを掛けられた事があったっけ。 男の事情に首を突っ込まない方が良いわよと、凛さんはけらけら笑ってたなぁ……。 「アイツより美味しい物を作ってやるから、なんでもリクエストしてくれ」 「んーっと、じゃあチーズケーキにガトーショコラ♪」 「解った、腕によりを掛けて作るからなっ」 「ありがとー、パパ大好き♪……ちゅっ」 「こ、こらっ」 「へへぇ」 とどめに『ほっぺにちゅっ』は最強だよね、パパも満更でもなさそうだし、今日は 良い日になりそう。 「ううっ、シ、シロウぅ……」 「どうしたのママ?」 「くっ」 だからママ、怖いってばその目は……。 睨んだってどうにもならないから、潔く負けを認めればいいのになぁ。 でも、そんなママもパパはちゃんと見ている。 ぽんぽんとママの頭を軽く叩くと、極上の笑顔でママをノックアウトする。 「ちゃんと、アルトリアにも作るからさ」 「え、えっと、あの……はい、ありがとうございます」 「だからそんな顔しちゃダメだぞ」 「は、はい」 ほーら、もうママったら照れ照れで、だらしのない笑顔になってる。 あーゆーのはちょっと妬けるかなぁ……でも、わたしもパパの娘だからきっちり 甘えてみせる。 それが娘の醍醐味なんだからね。 これでやっと機嫌が直ったママとパパと朝食を食べ始める。 「そう言えば、今日は誰も来ないね?」 「もぐもぐ……」 「ああ、まあ来ても大丈夫だからな。おかずもご飯もすぐになんとかできるし、 なければ勝手に作る連中だし」 「そうだね、そう言えば凛さんの中華って凄いよね。あれは本格的だしいつも 美味しい」 「んぐんぐ……」 「ああ、悔しいが一歩及ばずだな。もっとも、遠坂のは師匠が良かったのか悪かっ たのか」 「えーっと、麻婆神父さんだったっけ?」 「はぐはぐ……」 「上手いんだがな、普通は食べられないぞ」 「そうだね、麻婆豆腐だけはちょっと辛すぎかなぁ」 「シロウ、お代わりをお願いします」 「ほい」 「ママってホント、野生動物だよね」 「……んぐっ、何か言いましたか?」 「な〜んにも」 ごらんの通り、ママは食事中あまり会話をしないと言うか出来なかったりする。 それはパパの作ってくれた愛情たっぷりのご飯を堪能する為で、一心不乱で箸を 動かす。 だから誰も来なかったりしたこの時間は、わたしだけの楽しみ。 そう、ならばわたしはチャンスをまた活かす。 「……いたっ」 「どうした?」 「う、ううん、ちょっと手がしびれただけ」 「箸使えないか?」 「う〜ん……」 丁寧に手の甲まで巻かれた包帯が邪魔をして、更につらそうな笑顔でパパに答える。 力押ししかしないママに勝つには、力よりも戦略と戦術が勝利の鍵。 ありがとう凛さん、あなたはやっぱり人生の師匠です。 「魚、ほぐしてくれると嬉しいなぁ」 「解った」 「ありがと、パパ」 「気にするなって」 「うん」 パパとわたしの間で甘い会話が交わされているけど、ママは目の前のご飯に目が 固定されている。 何事にも猪突猛進なママは一途で格好いい部分もあるけど、どつぼにはまる事が 多いのも事実。 「ほらっ」 「あ……」 「だめか?」 「う、うん……」 さりげなく、あくまでもさりげなく魚の身を落とし、そしてすまなそうにパパを 上目遣いで見つめる。 そんなわたしを見つめ返すパパは、嫌な顔せず自分の箸で摘んで、わたしに差し出す。 そこでお茶碗を差しだそうとしたママが、やっと気づいたけどもう遅い。 「ほら」 「あ〜ん」 「なあっ!?」 「んぐっ……美味しい、ありがとうパパ」 「シ、シロウっ!!」 「どうしたアルトリア?」 「な、な、なにをしているのです!?」 「なにって……この状態じゃ箸も満足に使えないからさ、食べさせているんだけど」 「くっ」 「そう睨まないでよママ、大体こうなったのは誰の所為ですか?」 「うっ、そ、それはあなたがっ……」 「確かにわたしがママの攻撃を避けられなかったのが悪いかもしれない、けどこれ だけ全身アザだらけでしかも手なんかまだ腫れているんだよ?」 「あうっ……」 ふっふっふっ、ひるんだママに畳み掛けるのは今しかない。 師匠、わたしは勝ちます! 「パパ、次はご飯がいいなぁ」 「ほら」 「あ〜んっ、はむっ……今日は一段と美味しいよ〜」 「なにっ言ってんだ、ほら」 「あ〜ん」 「シ、シロウぅ……」 わたしがあ〜んをする度にママの悲しい遠吠えが聞こえるけど、気にせずパパから 食べさせて貰う。 常日頃から敗者に掛ける情けは無いと、道場でぼろぼろのわたしを見下ろしながら 言ってたのはママなんだから、自業自得だよ。 こうして稽古では酷い目に遭ったけど、棚からぼた餅みたいな朝食は、わたしの 圧倒的勝利によってごちそうさまとなりました。 「なるほど、それでアルトリアはああなのね」 「はい」 「すっきりした笑顔は見てて気持ちいいけど、アレなんとかしなさいよ」 「わたしがですか?」 「弟子は師匠の言う事に従うべし」 「はーい」 今日はミイラ女状態なので行けないと電話をしたところ、午後になってアーチャー さんを連れて凛さんが家までやって来た。 そして出迎えたわたしを指さして大笑いした事は、絶対に忘れませんよ。 「ねえママ」 「…………ふっ」 「ママ、夏の日差しで明るい午後に、黄昏ないでよ」 「どうせ私は敗者です、しかも自分の娘に負けたなどと……配下の騎士たちにどう 詫びれば……」 「はい?」 「しかもあの魔術師に知れたら絶対に笑われるに決まっている、そうですマーリン はそう言う人です」 「ママ?」 なんか錯乱しているっぽいんですけど? 騎士とか魔術師とか訳が分かんない事口走っている所をみると、相当きてると思う。 暑いしちょっとやりすぎたかも……。 ぶつぶつ呟くママはやだなぁと思いつつも、おそるおそる声を掛ける。 「ママ」 「……なんですか?」 「そんなママなら、わたしがパパを貰っちゃうよ?」 「な、なにを馬鹿な事をっ!?」 「うーん、禁断の愛ってドキドキしちゃうなぁ」 「待ちなさいっ!」 纏っていた重い空気を振り払うように立ち上がったママは、わたしに向かって 食べていた江戸前屋のどら焼きを突き出して言った。 「シロウは私の全てです。奪おうとするのなら例え娘でも容赦しません」 「容赦しないのはいつもじゃない」 「黙りなさい、そして約束しなさい。二度とシロウに近づかないと」 「ママ、横暴だよ」 「シロウからあーんしてもらうのは、この世界で私だけです」 「ママ、暴走だよ」 とにかく復活したのかわたしを押しのけて、テーブルの上にあったどら焼きは 全部ママのお腹の中に消えていった。 娘をどうにかするよりどら焼きを優先するママが可愛くって、わたしはとっても 大好きです。 どっちが子供か解らないなんて思っていても口にしないのがレディの慎みよと、 イリヤさんも言われた。 確かにそうだと思う、うん。 「ほらそこっ、つまんない事考えてないで座りなさい」 「はーい」 「で、どこが解らないの?」 「ここの英文なんだけど……」 「ふむ……」 凛さんは遊びに来ただけじゃなくって、用意していた夏休みの宿題にも付き合っ てくれる。 どら焼きでお腹が満たされたママは縁側で簾の日陰でお昼寝に突入し始めていた。 わたしも先に片づけちゃって、残りを目一杯楽しみたいからがんばるんだけど、 包帯姿を見るたびに笑う凛さんがちょっとだけ恨めしい。 「もう笑わないでくださいよ」 「あー、ごめん」 「いいですけど、実際ミイラ女だし……」 「大丈夫よ、顔は綺麗だから」 「あ、あの、凛さん、頬をすり寄せるの止めませんか?」 「なんで、すべすべして気持ちいいのに」 「宿題ができません」 「あら残念♪」 すっと離れてくれたけど、肩と二の腕はぴたりとくっついたまま。 前から思っていたんだけど、凛さんってそっちの気があるんじゃないかなぁ? 二人っきりになるとかならず側に近づいて、肩を触れさせたり手を絡めたりするし。 わたしはノーマルなので、ちょっと遠慮したいと思う。 でも、アーチャーさんがいるから違うんだと思うけど、でもなぁ……。 そのアーチャーさんはと言うと、キッチンでパパとにらみ合っている、飽きもせず 毎回こうなんだから。 「なんだ衛宮士郎、その紅茶の煎れ方は? まったく基本がなってない奴はこれ だから……」 「五月蠅いぞアーチャー、黙って座っていろ」 「その程度で満足しているとは、やはり衛宮士郎だな」 「フルネームで呼ぶな、いちいちムカつくんだんよ」 「正確に言って何が悪い」 「お前のは悪意が詰め込まれすぎだ、便利屋」 「ふん、言ってくれるな」 「言ったがどうした?」 「貴様……」 「そこの二人、これ以上待たせるなら、踊らせるわよ?」 「「はい、すぐに」」 相変わらずというか何というか、凛さんの一言にシンクロしたような動きで、 てきぱきと紅茶とケーキを用意する二人はまるでそっくりさん。 かくかくぎくしゃくと、ロボットの用に素早く紅茶を煎れると、テーブルの上は パパとアーチャーさんが用意したケーキで埋まった。 まるで打ち合わせをしたように、同じケーキが並んでいた。 「さあ食べるがいい。どこぞの出来損ないと違って、私のは味を落とさずカロリー も控えめだ」 「ふん、お前こそ引っ込んでいろってんだ。俺のは最高の隠し味が入っているんだ」 「言ってくれるな」 「言ったがどうした」 突然、言い争う二人の間に凛さんがいきなりフォークを投げて、それが柱に突き 刺さった。 「良いから黙って食え」 「「はい」」 凛さんは普段は大人の女性で名前の通り凛としているんだけど、怒ると今みたいに 実力行使で相手を黙らせるから結構怖いと思う。 ここは大人しくケーキを味わった方が、正しい選択ね。 まずはリクエストに応えてくれたパパのケーキをぱくっと食べる。 「う〜ん、おいしっ♪」 「よっしゃ」 「ふん、浮かれおって……」 「ちゃちゃいれんなよ」 「まだまだガキだな、貴様」 「うるせぇ、お前にはやらないからな、娘近づくな」 「ほざくな」 お互い未だに火花を散らしているけど、巻き添えは嫌なのでアーチャーさんの ケーキを一口。 「うん、こっちも美味しいよ♪」 「当然だな」 「偉そうに……」 「黙れ」 「進歩がないお前なんか、とっくに追い越しているさ」 「ほほう、その割にはチーズの扱いも不十分なようだし、チョコレートの湯煎も 全然繊細じゃなにと、カカオの風味が飛んでいるではないか」 「その分、愛情が入ってるのさ」 まだ、パパとアーチャーさんは目の前で小突き合いと小声で言い合いしている。 しょうがないなぁと、わたしはどっちも美味しいのでお行儀が悪いけど、交互に 食べたりして楽しんでいた。 そんなわたしの横で食べていた凛さんの手にsたフォークが、震えていたのかかちゃ かちゃとお皿を叩いていた。 よく見たら体全体が震えていた、これはきっと良くない事が起きると、ママゆずりの 直感がわたしに教えてくれた。 「……口でも言って解らないお馬鹿さんに一番効果的に反省を教え込む方法は なんだと思う?」 「え、えーっと」 「それはね……こうするのよ」 そして―――赤いあくま(パパ&アーチャーさん命名)が家の居間に降臨しました。 凛さんの指先から光の玉みたいな物が、パパとアーチャーさんの全身にぶつかって いった。 光と爆発音?が消えた後、そこには二人とも畳の上で伸びていた。 「「…………」」 「まったく、ケーキは楽しく美味しく食べるのよ」 「ははは……」 「そこのへっぽこ組、聞いてるの?」 「「……は、はい」」 「次は容赦しないわ」 「「……したことないくせに」」 「何か言った?」 「「別に」」 「ふん」 正直、何をしたのか良く分かんなかったけど、たぶんこれが魔術なんだと思う。 そして凛さんが本当に魔術師なんだと、この時やっと理解できた。 初めて見せてくれた魔術に驚いているわたしに、凛さんがにこっと微笑んだ。 「勉強になったかしら?」 「は、はいっ」 「良かったわ、でもこの事は他の人には内緒だからね」 「い、言いません、言いません」 「よろしい」 この日から、わたしは自分を取り巻く何かを知っていく事になった。 パパやママの事、凛さんやアーチャーさんの事、イリヤさんや桜さんの事とか……。 そして自分自身の事とか、世界は不思議で満ちているんだなぁと感心した夏の日の 午後でした。 Epilog 「シロウ、お姉ちゃんそんな風に育てた覚えはないわよ!」 と、おやつに読んで貰えなかった虎ねえががおーっと雄叫びを上げ。 「シロウ、わたしを除け者にするなんて偉くなったのね〜?」 と、イリヤさんはニヤニヤと意地の悪い笑顔でねちねちと嫌みを言って。 「先輩のケーキ……姉さんには食べさせたのに……わたしにはそうですか…… クスクス」 「桜、わたしは無関係よ」 と、なにやら上目遣いでパパを睨む桜さんは、くすくすと笑っている笑顔が 怖すぎだし。 そして一番の問題が―――。 「あ、あのな、アルトリア」 「…………」 「決して無視した訳じゃなくて、気持ちよく寝てるのに起こしたら悪いなぁと」 「…………」 「だからほらっ、デザートはアルトリアだけの為に作ったし」 「…………」 無言のまま、ひたすらケーキを頬張るママは、パパを無視してもきゅもきゅと 食べ続けるだけで言い訳すら聞いていないみたい。 うーん、ああなるともう暫く機嫌が直らないんだよね、ママって。 パパの情けない姿が可哀相なので、しょうがないから助けて上げるね。 「パパ、一緒にお風呂入ろう♪」 「お、おいっ!?」 ぴくっとママのあほ毛(ママごめん、いつも凛さんがそう言ってるのでつい)が 揺れた。 「いいじゃない、ママはケーキ食べてるんだし」 「お前幾つになったんだ?」 「あのね、娘と入りたい父親はたっくさんいるんだよ?」 「だけどなぁ……」 ぴくぴくっと揺れが激しくなっている、よしよし。 ここでみんなにも協力して貰いましょう、その為にパパを落とさないとね。 「それともパパはわたしの事嫌いなの?」 「そ、そんな事あるもんかっ、大好きだぞ」 「わたしも大好きだよ」 「お、おうっ」 「……ふぅ、娘に欲情するとはな、この変態め」 「だ、黙れ若白髪」 「じゃあわたしも入るー!」 「せ、先輩、裸のお付き合いって大切ですよね」 「しーろーうー、そんなところまで切嗣さんを真似するなーっ!!」 うんうん、みんなもノリが良くって助かっちゃう。 みんなに囲まれているパパを見て一人納得していたら、凛さんが側に寄ってきて 耳元で囁いた。 「良い性格してるわね」 「はい、師匠ゆずりですから」 「ほほーう、それはわたしが性格悪いと言ってるのかしら?」 「あ、自覚有ったんですね」 「弟子よ、あなたは今言ってはいけない事を口にした」 「えっ?」 やばっ、地雷踏んじゃった、わたし? その通りらしく、凛さんの腕がわたしの腕を絡めて離さない。 「士郎の代わりにわたしが一緒にお風呂に入って上げるわ」 「お、襲われるぅ!?」 「人聞きの悪い事言うなっ、弟子の成長を確かめるのは当然よ」 「あの、それでどうしてわたしの胸ばっかり見つめているんですか?」 「……あんた、また成長してない?」 「えーっと……さあ?」 「来い」 「ええーっ!?」 凛さんに引きずられそうになっている後ろでは、ママが仁王立ちしていた。 ほーら、ママがやっと口をきいてくれそうになったんだから、後はパパ次第だよ。 夫婦の危機を救うなんてわたしってば親孝行だよね、自分を誉めて上げたい。 けど、それよりも一番危険なのは、今の自分自身みたいだし。 「今の話は本当なのですか、シロウ?」 「誤解だっ、こらっ、逃げるんじゃないっ」 「凛さんに言ってよ〜」 「わたしが一緒に入ってくるから、士郎はアルトリアとじっくり話していなさい」 「と、遠坂っ」 「シロウ、やっぱり凛とも入りたいと思っているのですね、ふふふっ……」 「ひいぃっ!?」 そんなパパの悲鳴を背中にして、わたしは凛さんに風呂場へ連れ込まれた。 お風呂場で凛さんの目が怖くて、お風呂上がりに凛さんがぶつぶつ言ってるのが もっと怖かったです。 そして居間に戻ってきたわたしが目にしたのは、説得に成功したからパパもママも 寝室に行ってしまったと言う事実だけ、残っていた人たちはお酒を飲み出していた。 今頃、パパとママが何をしているのか……わたしは乙女だから解りません。 Fin