Go Go テッサ♪



Phase 4



日本独特の気候、それは四季。
それはとても素晴らしく、またいろんな催し物が季節ごとに行われる。
もちろん彼らもそれに習って楽しむことを忘れない。
折りしも今日は7月7日、そう七夕である。
一年に一度だけ離ればなれになった織姫と彦星が出会うと言うロマンチックなこの日、
宗介の家の近所でも毎年神社で七夕祭りが行われていた。






「七夕祭りですか?」
「はい、近くの神社で催されているのですが……その行ってみてはどうかと」
「は、はい! 是非行ってみたいです♪」

宗介に誘われたと在って舞い上がる気持ちを抑えきれないテッサは、笑顔全開で喜んでいる。

「解りました、それでは出かけましょう」
「えっ、もう行くんですか?」
「実は知り合いに頼まれまして、是非連れてきて欲しいと言われました」

その言葉を聞いてテッサの顔から笑顔が引くように消えて、ちょっとつまらなそうに呟いた。

「あの……カナメさんですか?」
「いえ、直接は違いますが……よろしくお願いします」

真剣な表情で頭まで下げた宗介に促されて、テッサはとある家まで宗介と一緒に向かった。
そこは昔ながらの家構えで、これぞ日本と言っても差し支えない見事なお屋敷である。
表札は……美樹原、その横にある大きな看板は『美樹原組』と達筆な文字で書かれていた。

「大きなお屋敷ですね」
「どうぞ、こちらです」

テッサは宗介に手を引かれて大きな門をくぐって中に入っていった。
ここで気になるのがなぜテッサは宗介に手を握られているのか?
彼女は運動神経があまり良くない……ハッキリ言って苦手である。
どのくらいかと言うと、歩いているだけで転ぶことが在るぐらいに運動神経が無かった。
その為ここに来るまでも不意に躓いて転びそうになったテッサを宗介が抱き留め、そのまま手をしっかりと
握りしめられてここまで来たのである。
本人はそれをかなり気にしているのだが、逆にその事がテッサの魅力をより高めていた。
頭が良く容姿も素晴らしく綺麗で可愛い、天は二物を与えずと言った事とは無縁の様に思えたが
体育の時間に跳び箱を跳べなくて上に乗って座ってしまうなどしてしまった。
それを見ていたクラスの男子も女子も思ってしまった、『可愛い、もの凄く可愛い!』と。
男子はファンクラブを作る程に、女子に至っては今まで話しかけた事の無い生徒までテッサに話しかけてきた。
今やクラス中で大事に可愛がられている、大切なクラスメイトの一員となっていた。






不意に出てきたちょっと人相が悪い男にびっくりしながらも、テッサは宗介と目的の部屋の前までやって来た。

「失礼します」

宗介がそう言って障子を開けると、中から一人の女性が会釈をして二人に笑いかけた。

「ご苦労様です、相良さん」
「いえ、こちらこそお言葉に甘えてしまいました」

陣代高校生徒会書記、美樹原連。
その容姿は今失われつつある大和撫子といった艶やかな黒髪と慎ましやかな雰囲気を醸し出していた。
生徒会長の林水が信頼する片腕の一人である。

「気にしないでください、こちらから無理を言いましたから……」
「解りました」
「あ、ごめんなさい……初めまして、美樹原連と申します」
「は、初めまして、テレサ・テスタロッサです」

お互いに自己紹介をしてちょっとだけ見つめ合う。

「本当に可愛いですね、相良さんの言った通りですね」
「えっ、あのサガラさん私のことなんて?」
「それでは後の事よろしくお願いします」

連の言葉を遮るようにいきなりお辞儀をした宗介は、足早に二人の前から去っていった。

「サガラさん?」
「ふふっ、どうやら照れてしまった様です……悪いことしてしまったわ」
「あの、それは?」
「あ、相良さんがあなたの事をなんて言ったかでしたね?」
「はい」
「一番大事な女の子だそうです」
「ええっ!?」

まさか宗介がそんな風に自分の事を紹介していたとは夢にも思わなかったので、テッサは顔を真っ赤に染めて
視線は辺りを見回しておろおろしてしまった。

「ふふっ、相良さんが大切にする気持ちが解ります」
「そ、そうですか?」

誰が見てもテッサの様子は頭から湯気が出ているんじゃないかと見間違うほど照れまくっていた。

「さあ、こちらに用意してありますのでどうぞ……」
「あ……はい」

まだちょっとぼーっとしているテッサを促して、蓮は微笑みながら隣の部屋に連れて行った。






神社の境内には大勢の人が集まっているところから、七夕祭りが盛況だと証明されている。
その人混みのなかを一人の美少女、しかも外人で浴衣を着ていれば嫌でも目を引いてしまうのも仕方がない。

「サガラさん、何処にいるのかしら……」

白地に薄紫のあさがおの花が描かれており、いつもの三つ編みを解いて頭の上で結って普段あまり見せない
テッサのうなじが、夜だというのに白く浮かんでいた。
誰もが振り返るほど可愛く、何人かの若者が声を掛けたが困った表情で英語で返事をされるとすごすごと引き下がる
光景が何回も見られた。
なかなか見つからないテッサは歩き疲れたのか、境内の隅に在ったベンチに腰掛けるとぼんやりと祭りを眺めていた。
そして大好きな人に会えず寂しくてちょっと気持ちが落ち込んだテッサの前に、いつの間にか数人の男たちが煙草を
ふかしてニヤニヤしながら彼女を見つめていた。
そこにいて見下ろしている男たちのにやけた笑いが、寂しかったテッサに恐怖心を起こさせてしまう。

「彼女〜、一人で何してんの?」
「ば〜か、よく見ろよ……この娘外人なんだから日本語が通じる訳無いじゃん」
「一人なら俺たちが遊んでやるぜ、へへっ」
「結構いけてるじゃん、この娘!」
「ん〜、別に取って食おうなんてしないから付き合ってくれよ〜なぁ?」
「そうそう、俺たちと楽しいことしようぜ〜♪」

数人の下品な男に囲まれて、更にさっきの不安な気持ちも相まって、テッサは体が恐怖に固まって声も出せなかった。
いやっ!
怖い!
サガラさん、助けて!!

「サガラさん!」

何とか絞り出した小さな叫びに答えるがごとく、何かが破裂するような音が聞こえた。

ドカン!

「ぐえっ!?」

目をぎゅっと閉じて顔を背けたテッサに男の一人が手を伸ばした瞬間、そいつは林の向こうに変な格好で飛んでいった。

じゃきん!

仲間の一人が消えていった方向を呆然と見ていると、何か金属がこすれる音が聞こえたのでそっちの方に顔を向けると
そこには小さな帽子を被って大きな目をぎらぎらと輝かせ、異様な迫力を全身から発していた犬のようなぬいぐるみが
立っていた。

「ふもっふ!(動くな!)」

姿も異様、言葉もやっぱり異様なその犬のようなぬいぐるみは腰だめに構えたショットガンを男たちの方向に向けて
微動だにしなかった。

「なんだこいつは〜?」

ドカン!

「ほげっ〜!?」

じゃきん!

ショットガンから放たれたゴム弾喰らって、また一人最初に消えていった仲間の方向にはじき飛ばされて消えた。

「ふもふもっふ!(動くなと言った!)」

どう考えても異様な光景なのだが、本能で危険を察知したのか残った奴らは全員両手を高々と上げて降参の
ポーズをその犬のようなぬいぐるみに見せて自分の身の安全を懇願した。

「ふもっ!(行け!)」

突き付けたショットガンの銃口で向こうに行けと促すと、我先にと男たちは悲鳴を上げて逃げ出していった。
そう……彼らは知らなかったのだ、関東極道会においてそのぬいぐるみ在りと言われた事を……。
もちろん某遊園地のマスコットでも在ったので子供たちは知ってはいたが、大人(極道)の世界では
恐怖の代名詞と言われ恐れられていた。
子供たちのアイドル、大人(極道)たちの死神……ボン太くん。
しかしその中身はミスリルきってのスペシャリスト、コールサイン”ウルズ7”を持つ相良宗介その人なのである。
男たちが居なくなったのを確認したぼん太くん(宗介)は未だ目を閉じて震えているテッサの側に近づいていった。

「ふも〜ふもっふ?(大丈夫か、テッサ?)」

声を掛けながら何となくテッサの頭の上にボン太くんのふわふわした手を置いたら、漸く俯いていた顔を上げて
目の前のぬいぐるみを見て、ちょっとだけ唖然とした表情で見つめ返した。

「ふもっ?(テッサ?)」
「……もしかして、サガラさん……ですか?」
「ふもっふ(はい)」

変な声と大きな頭でこっくりと頷いて答えると、テッサの大きな目から涙がぽろぽろとこぼれ始めてきた。

「ううっ……ひっく……う〜……」
「ふもっ?(テッサ?)」

しっかりとボン太くんに抱きついたテッサはそのふかふかな胸に顔を埋めて泣き出してしまった。

「怖かったです……一人きりで怖かったです……うっく……すん……」
「ふもっふ↓(すいません)」

テッサが泣きやむまでボン太くん(宗介)はおずおずと背中に手を回して、しっかりと抱きしめて硬直していた。






人混みのなかをちょっと……いやかなり変わったカップルが歩いていた。
浴衣を着ている外人の美少女はともかく、その彼女がしっかりと抱きしめている腕の持ち主は変なぬいぐるみだった。
すれ違う人たちが怪訝な表情でこのカップルを見るが本人たちは全然気にしないで、このお祭りを楽しんでいる
ように見えた。

「そう言うわけだったんですね、その格好は……」
「ふもっ(はい)」
「ふふっ、でも結構似合っています」
「ふも、ふもっふ(ありがとう、テッサ)」
「ふふっ、なんかいつものサガラさんと違って可愛いです」
「ふも?(そうですか?)」
「はい、とっても♪」

テッサが見せた心から楽しそうな笑顔を見て、宗介はやっと一息つけた気がしていた。
さて、何故宗介がボン太くんの姿をしているかと言うと蓮からお祭りの警備を頼まれたからであった。
お祭りと言えば良くも悪くも人が大勢集まる場所である、その為けんかなどのトラブルが少なからずも
起きているので、他の方が迷惑をしないようにと巡回警備員に宗介を抜擢した。
無論、連意外にも美樹原組の組員たちも先生と尊敬している宗介が警備員をしてくれるならば、安心して
お祭りの出店に集中出来るので反対する者などいなかった。
そこまで信頼を受けている宗介も悪い気がする事ではないので、自分からも胸を張って警備員を引き受けた。

「あ、そうそうテッサさんも一緒に連れてきてくださいね? 日本のお祭りを楽しんで貰いたいし……」

と、連に言われて宗介も一人で部屋に残して行くのも忍びなかったので、テッサを連れてきたのであった。

「ふもっふもっふ〜(先ほどはすいませんでした、俺の注意不足です)」
「いえ、そんなこと無いです……だってサガラさん私が呼んだら来てくれました」
「ふもっ(は、はぁ)」
「ありがとう、サガラさん」

頬を赤く染めて自分を見つめて微笑むテッサに、ボン太くんの中の宗介の頬も少しだけ赤くなっていた。
どうやら先ほどのことで怒っていないし、テッサに嫌われていないと確信できた宗介はどことなく気分が良くなった。
そんな会話をしながら歩いていた二人は、いつの間にか社がある広い境内まで来ていた。

「あ、相良さんちょうど良かったです、こちらの方にテッサさんと一緒に来てくれませんか?」
「えっ、宗介?」

舞台の上から司会をしている蓮からマイクで呼ばれたボン太くん(宗介)とテッサは人混みをかき分けて舞台に上がった。
そこには何組かのカップルがいて、その中にはっぴ姿が似合っているかなめと浴衣姿の恭子もいた。

「こんばんは、カナメさんキョウコさん」
「こ、こんばんは……って宗介、あんたなんて格好しているのよ?」
「ふもっふ、ふもっ(これは仕事だ、千鳥)」
「あのね……まあ言ってる事は解るんだけどね」
「ふもっ(そうか)」
「さすがカナちゃん、そんな言葉でも会話しちゃうんだから……」

ちなみにテッサは宗介に手渡された小さいインカムみたいな物を耳に付けていたので、ボン太くんと会話が出来ていた。
しかしボン太くんと付き合いが長いかなめは、日常会話ぐらいはこなせるようにレベルアップしていたが、
ふだんの生活にはまるで役立たずな能力だった。
宗介とかなめが会話している時、ふと舞台の上に掛けてある幕に目をやったテッサはこの集まりがなんなのか
解った瞬間顔を真っ赤にしてほっぺたを押さえた。

『第○×回七夕祭りベストカップル大賞』

これってっ!?
赤くなって俯いてしまったテッサを横目で見ながら司会をしている連は、微笑みながら進行を再開した。

「さあ皆さんお待たせしました、これより今日のお祭りで見つけた一番のカップルの発表をしたいと思います」

だらららららら〜っじゃん!

「今日の七夕祭りで一番お似合いな二人は……このお二人です!」

ぱかん。

そして割れたくす玉の下にいたのは……。






「ペアの温泉旅の宿泊券ですか?」
「はい、そのようです」

家に帰る途中に連から貰った封筒を開けて中身を確認した宗介は、横にいるテッサにそう言った。

「ペアって事は二人だけですね……」
「そうです」

テッサは顔を赤くしながらもその輝いた大きな目に期待の込めて宗介の顔をじ〜っと見つめ続ける。

「あの……それでどうしますか、それ?」

宗介はテッサが何を言って欲しいのか、その態度から予測する事はさして難しくなかったがなかなか言い出しにくかった。

「はい、その……もし宜しかったら……」
「は、はい! わ、私行きます!」

両手を握りしめて力一杯答えるテッサに、宗介は何故か顔が赤くなるのを自分で感じることができた。
そして暫く二人は星空の下見つめ合ったまま動かなかった。






「ねぇカナちゃん……」
「なぁに?」
「やっぱり今日は浴衣の方が良かったんじゃないかなぁ〜」
「…………」
「確かにお祭りが好きなのは解るんだけどね……」
「…………」
「まあカナちゃんは確かにはっぴ姿もいいけど、やっぱり女の子は浴衣の方が似合うと思うよ
「・・・・・・」

返事がないのを怪訝に思った恭子は横にいるかなめを見た瞬間、膝ががくがくと震えだし止まらなかった。
そこにいたのは髪の毛を逆立てて歯をむき出しにして怒りの化身と化した自分の親友……千鳥かなめだった。

「今に見てなさいよ……テッサ」

どすどすと地面が凹むぐらい体重をかけて一歩一歩家に向かって帰るかなめの横で、恭子は同情の眼差しで
見守るぐらいしか想い浮かばなかった。






「うほほ〜今日もばっちりナイスなテッサが撮れたぜ〜しかも大量だぜ♪」
「あんたねぇ……ところで一体いくら儲けたのかしら、クルツ?」
「な、何の事かなぁ……」
「マデューカスの言っちゃっても良いのかなぁ〜?」
「ぐっ……解った、一割は渡そう」
「せこいわね〜まあ良いでしょう、酒代ぐらいにはなるだろうしね……」
「姐さん、一体誰の味方なんだ?」
「もちろん決まってるじゃない!」
「テッサなんて言わないよな……姐さん?」
「お酒の味方よ!」
「やっぱり……」






つづく。