Go Go テッサ♪



Phase 2



「テレサ・テスタロッサです、皆さんよろしくお願いします」
「うぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」






流暢な日本語で挨拶をするテッサにクラスの男子達は、みな雄叫びを上げて狂喜乱舞していた。
ニコニコしているテッサとは反対に何故かぶす〜っとしているのは、クラスのアイドル(笑)千鳥かなめだった。
別に自分の人気が取られたとかそんなことはどうでも良かったのだが、よりにもよって神代高校の同じクラスに
なったことが気になっていた。

「どうした千鳥、顔が変だぞ?」
「えーそうね、どうせあたしの顔は変……ってソースケ! それを言うなら顔色でしょう?」
「すまん、言い間違えた……では改めて、体調でも悪いのか?」
「はーっ……別に」
「それならばいいのだが、もしそうなら早く医者に行った方がいいぞ」
「へ〜あたしの事心配してくれるんだ?」
「もちろんだ、君に元気がないと気になって仕方がない」
「ソ、ソースケ?」

いつものむっつり顔でへの字口なのだが、宗介に見つめられてついほっぺたを赤くしてしまうかなめだった。
何となく良いムードが漂い始めた二人とは無関係に教室はテッサの質問タイムに突入していた。
趣味とか好きな物とか音楽とかありきたりの質問にもちゃんと真面目に答えるテッサに、ますます男子たちの
ボルテージは上がっていった。

「それで今はどこにお住まいですか?」

聞いている方の男子もテッサの気品溢れる雰囲気に言葉使いが丁寧になっていたが、本心はなかなか隠せなかった。
もし近ければ一緒に帰ることがかなうかもしれない……もっとも反対方向でも一緒に帰りたいのも本音であったが。
テッサは頬を赤く染めてちらちらと宗介に視線を送ると、照れたように呟いた。

「今はその……サガラさんの所にお世話になっています」

その視線を追っていった男子全員がテッサと宗介を交互に見ると、皆一斉に大声を上げた。

「「「「「「な、なんだって〜!?」」」」」

踵を返して宗介の所に押し寄せたクラスの男子達は今にも殴りそうに拳を固めて、睨み殺そうとしていた。

「さ、相良一つ聞いて良いか?」
「なんだ?」
「テレサさんがおまえと一緒に住んでいるのは本当なのか?」
「肯定だ」
「な、なぜだ?」
「機密事項だ」
「それじゃおまえとテレサさんはどういう関係なんだ?」
「それは……」

一番気になることを聞き漏らさないと言わんばかりに宗介の周りを取り囲んでいた彼らの耳に、
後ろからその答えが返ってきた。

「サガラさんは……私のフィアンセです♪」

その爆弾発言に振り向いた彼らの前には、いつのまにか教壇からやって来たテッサが指先をモジモジしながら
顔を赤く染めて立っていた。

「なんですってーっ!?」

硬直した男子達をはね飛ばして髪の毛を逆立てたかなめが、宗介の襟元を掴んで睨んだ。

「今の事本当なの、どうなのよソースケ!?」
「その通りだ、千鳥」

宗介が迷わず答えた言葉にかなめの心は、何故かめらめらと怒りの炎が一気に燃えさかった。

「あんた何冷静に答えてるのよ!!」

がくがくと宗介の頭を揺するかなめのもの凄い迫力に、側で見ていた男子たちは思わず腰が引けて後ずさっていた。
しかしながら落ちついて考えればこれがテッサの考えた事だとわかりそうな物なのだが、拙いことにさっきの
良いムードを壊され尚かつテッサの発言にかなめは我を忘れてしまったらしい。

「カナちゃん……」
「何よ?」

親友の恭子の呼ぶ声に般若の顔したかなめが振り向いた。

「相良くん、気絶してるけど?」
「えっ?」

恭子の言葉を確かめるように宗介の顔をよく見ると、首を絞められおまけに頭を思い切り揺すられたため
宗介は白目を剥いて気絶していた。

「あ、あれ……?」
「サガラさん!」

瞳を潤ませてかなめの手から宗介を奪還したテッサは、気絶したままの宗介に心配そうに何回も声を掛けていた。






テッサはクラスの男子達にお願いをして宗介を保健室まで運んでもらい、ベッドに寝かせてその横に座っていた。
宗介の額に濡れタオルを乗せて心配そうに見つめ続けていた。

「私のせいで……ごめんなさい、サガラさん」

俯いて膝の上に置いた手の上に一粒二粒、滴が零れを落ちた。
自分が言いだした事で宗介がこんな目に遭ってしまったので、テッサは申し訳ない気持ちで一杯だった。
学校に行く前に朝食を食べながら困ったような顔をしていた宗介を、なんとかお願いしてそう言う事にして貰った
テッサだが、こんな事になるとは思っても見なかった。
下を向いて俯いているテッサの目の前に、迷彩ハンカチが突き出されてその手を辿っていくとベッドに寝ている
宗介の手だった。

「サガラさん……」
「自分は大丈夫であります」
「で、でも……」
「大した事有りません、ですからその……」

照れくさいのかテッサの視線から目を反らして相変わらずのへの字口のままで、宗介はバンダナを突き出していた。
その気持ちに感謝しつつテッサは迷彩バンダナを受け取ると、涙を拭くことにした。

「あの、ちゃんと洗って返しますから……」
「いえ、捨ててもかまいません」

テッサは迷彩バンダナを見つめてちょっとだけ考える仕草をしたけど、すぐに宗介に伺うように声を掛けた。

「じゃ、じゃああの……これ貰ってもいいですか?」
「そんな物でよろしければどうぞ」
「ありがとう、サガラさん」

嬉しそうに宗介の迷彩バンダナを抱きしめると、漸くテッサの顔にも笑顔が戻ってきた。
なんとなく無言のまま時間が過ぎていったが不意にテッサが、手持ちぶたさに先ほど貰った迷彩バンダナを
手でいじりながら独り言の様に呟いた。

「くすっ、いつものように上手くいかないですね……」
「自分もその……上手くいかない時が在ります」
「私らしくも無くはしゃいでしまっているようです……」

テッサが少しだけ、でも確かに落ち込んだ様なそんな表情を見せたのを宗介は見逃さなかった。

「こんな風に、みんなの様に学校に行って見たかったです」
「今そうしているではありませんか」
「えっ?」
「ここは学校です、そして……テッサは今ここに来ています」

一瞬きょとんとしてしまうテッサだったがむっつり顔で真面目に言う宗介が自分を気使ってくれて居るんだと気が付き、
テッサは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべると宗介を潤んだ瞳で見つめた。

「優しいんですね、サガラさんって……」
「いえ、そんなことは……」
「本当に……優しいです」

そう言ってテッサは宗介の頬に顔を近づけると、軽く唇をくっつけた。

「私、戻りますね」

真っ赤な顔になって立ち上がったぱたぱたと足音をたてて行ってしまうと、残された宗介の顔は口がへの字のままだが
テッサに負けず劣らず真っ赤に染まって体は硬直していた。
もしかなめがこの場にいてこの場面を見ていたら、間違いなく宗介の死に場所は学校の保健室のベッドの上と言う
傭兵らしからぬ冴えない場所になるところだった。
本当の意味で今保健室は宗介にとって天国に一番近い場所なのは確かだった。
そのころ教室に戻ったテッサにかなめが宗介の様子を聞いていた。

「あの、ソースケ大丈夫だった?」
「えっ……あ、はい大丈夫でした」
「なんで顔が赤いのテッサ?」
「いえ……その、なんでもありません」
「そ、そう、ならいいんだけど……」

何か釈然としないものを感じて首を捻るかなめだったが、保健室でテッサが宗介にキスしたとはまでは考えもしなかった。
そこまでテッサが行動的だと思ってもいないので、かなめの考えはそこに至らなかった。
もっともそのおかげでテッサの行動は察知されないで、メリッサの助言通り着々と宗介に攻撃を決めていった。






昼休みになり漸く教室に戻ってきた宗介を出迎えたのは、男子達の嫉妬と殺意の混ざったぎらぎらした視線だった。
しかしそんな視線ごときで怯む宗介ではない。
何しろ小さい頃から戦場で育った宗介には、毎日が戦場で在ったので視線ぐらいではびくともしなかった。
ただ女の子……特にこのクラスの居る二人の美少女の視線だけはそうはいかなかった。

「もういいの、ソースケ?」
「うむ、至って健康だ」
「さっきはその……ごめん」
「いや、いつも迷惑掛けているのは俺のほうだから」
「そ、そう」

いつもの宗介の話し方に安心してほっとしたかなめは、弁当箱を掴むと元気良く御飯を食べ始めた。
そんな豪快に食べるかなめの姿を横目で見ながら、テッサはさっきの事を思い出したのか少し恥ずかしげに
宗介に話しかけた。

「あのサガラさん、もういいのですか?」
「はっ……あの、大丈夫です」

御飯粒をほっぺたにくっつけたままそこでかなめは気が付いた、見つめ合った二人の頬が少し赤い事に。

「ちょっと……何で二人して顔赤くしているの?」
「そんなことはないぞ」
「そ、そんなことないです」

言葉とは反対に二人の顔はもっと赤くなり、かなめの目もますます細く疑わしい視線で睨んでいた。

「怪しい……ソースケ」
「なんだ千鳥?」
「保健室でテッサに何かした?」

もしかしてもしくは万が一という言葉が頭の中に浮かんでいるかなめの視線は、ソースケの顔に穴が開きそうな
強烈な光をぎらぎらと放っていた。

「いや、俺は何もしてないぞ」
「本当、テッサ?」
「はい、サガラさんはベッドに寝ていただけです」

うろ〜んとした目で二人を睨んでいるかなめは、この間の宗介の部屋で在った事を思い出していた。
(確かにあの時はあたしと張り合ってたから宗介の膝の上に乗ったりしたけど……)
考えて黙り込んでしまったかなめを放っておいて、テッサは鞄の中から大きなお弁当箱を取りだして
机の上にいそいそと広げ始めた。

「あのサガラさん、お弁当作ってきました……どうぞ」
「あ、ありがとう……テッサ」

少しぎこちない動きで自分の席に座ると差し出された箸を受け取り、綺麗に並べられたお弁当に手を着けた。
ちなみにここでもメリッサの助言が大活躍していた。

『いい、そんなに気張らなくてもいいのよ』
『って言うと?』
『確かに豪華なお弁当も良いでしょう、けどやっぱり毎日食べるとなるとそうはいかないわ』
『じゃあどうすればいいの、メリッサ?』
『そうね……ここはやっぱりおふくろの味ってやつかな♪』

と、メリッサ指導のに従って母親が作るお総菜を伝授して貰ったテッサは、存分にその力を発揮して今回の
お弁当を制作したのである。
そんな影の苦労が報われもぐもぐと良く噛んで食べている宗介を、テッサは両手を組んで期待を込めてじっと見つめていた。

「ど、どうでしょうかサガラさん?」
「はい、美味しかったです」
「本当ですか?」
「本当です」
「よかった……」

テッサがふわっと花が咲くように微笑み、心から喜んでいる表情が顔一杯に広がった。
そんな二人のあつあつぶりを見ていたクラスの男子たちは、大声で叫びながら涙を流しながら教室から
飛び出していく者が後を絶たなかった。

「ねえカナちゃん……」
「な〜に恭子?」
「いえ、何でもありません」
「そう……」

もの凄い顔して二人を睨みながら囓った箸が段々短くなっていくのを止めようとした恭子だったが、
かなめの一睨みですごすごと引き下がってしまった。

「テッサ……やるわね」

二人の仲睦まじい姿を見せつけられ、ここに至って自分がかなり出遅れていると認識させられたかなめは、どうしたら
宗介に必殺の一撃をお見舞いできるか考えていた。

「このまま先を越されていたら、千鳥かなめの女がすたるわ!」

拳を高々と掲げて宣言するかなめを見て恭子はふ〜とため息を付いて、ぼそっと呟いた。

「もっと早くそうすれば良かったのに……」

至極もっともな恭子の言葉が聞こえていないのかかなめは、ふたりを睨みながら不気味に笑っていた。






「どうやらお弁当も美味くできたようね♪」
「あ〜あ、テッサもあんなに喜んで……」
「ん〜これはかなりポイント高いわね」
「それに比べてかなめのあの顔は……修羅場だな」
「そこが良いんじゃない♪」
「やっぱり姉さんってテッサをだしに楽しんでいるだけじゃないのか?」
「や〜ね〜そんなことあるわけないでしょ?」
「笑っていっても説得力無いって……」

相変わらずテッサの護衛に付いている二人組はなんだかんだ言ってこの状況を楽しんでいた。
もちろん二人の事に気が付いていないテッサは、明日もがんばって宗介の為にお弁当を作ろうと思っていた。

「私もっとがんばりますね、宗介さん♪」

心の中の呟きではきっちりと宗介の名前を呼んでいるテッサだった。






つづく。