「なんだここは?」
「よお、孝之」
「正樹さん?」
「良く来たな、まっていたぞ」
「なんですか、ここは?」
「いや、なんでも白銀が自由に使ってくれと、ほらお茶請けもあるぞ」
「はぁ……ずずっ!? これ合成品じゃない?」
「ああ、本物のお茶だ、しかも玉露だぞ」
「こんな貴重品をいったい……ま、まさか殿下からのっ!?」
「らしいな、まあ白銀が良いって言ったんだから気にせず飲もうぜ」
「遠慮しないんですね、正樹さん」
「白銀の影響かもしれないなぁ、だってあいつ変わり者すぎるだろ?」
「まあ、そうですけど」
「でも、感謝はしてるんだぜ。悩み事が減ったからな」
「でも、増えたんですよね?」
「お前なんかまだ二人だろ、俺なんか四人でしかも全員姉妹だぞ」
「ご愁傷様です」
「人事だと思っているようだが、足下すくわれても知らないぞ?」
「俺はそんなに女の子の知り合いはいま……」
「どうした?」
「な、なんだろう。もの凄く嫌な予感が……」
「がんばれ」
「な、なにを?」
「その予感は当たっているかもしれないぞ」
マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction
God knows... Episode Another 01 −2000.10 君達が望む永遠?−
2001年10月某日 13:05 日本 国連横浜基地 PX
武がアラスカに行った日から、ここ横浜基地の中は割と平穏であった。
まあ、それなりに一部の恋人たちは騒がしかったりする。
「孝之くん」
「孝之っ」
「いや、だからな」
ヴァルキリーズの突撃前衛長とCPを両手に花状態の孝之は、両腕から伝わる柔らかさと暖かさに困惑していた。
とある世界ではキング・オブ・ヘタレなどと言われてるかもしれないが、この世界では軍人と言う立場でもあるので
はっきり言うときはわきまえている。
「とにかく、午後の予定は茜ちゃんと付き合うことになってるからさ」
「聞いてないわよ、そんなのっ」
「まさか孝之くん、茜の事……」
「水月はともかく遙は誤解しないでくれよ」
「ちょっと孝之、どーゆー言う意味よそれはぁ」
「ぐぇぇっ」
「み、水月っ」
「この〜、恋人より他の女の子を優先するなんて信じられない!」
水月に首を絞められて落ちる寸前の孝之をなんとか助けようとする遙だが、嫉妬に頭を支配されている水月の力は
かなり強かった。
それでもなんとかふりほどいた孝之は、荒い息で水月を恨むように睨む。
「お前にとっても後輩になる茜ちゃんが真面目な話があるっていうのに、邪魔をしてどーすんだよ」
「うっ」
「そ、そうだよ水月、ちょっと残念だけど茜が先約だったししょうがないよ」
「遙ぁ…ああもう〜っ、せっかくの休日なのにぃ〜」
遙が苦笑いをして水月の叫びがPXに響き渡るが、痴話喧嘩に首を突っ込む暇人はいない。
そうして孝之が立ち上がって茜の所へ向かおうとした時、ゲートから呼び出しがかかる。
『鳴海中尉、至急…いえ、大至急ゲートまでお越し…って、ちょっ、こらっ…』
「な、なんだ?」
『…………』
「何今の?」
「孝之君を呼んでたみたいだけど…」
途中で放送が中断したが、マイクのスイッチが入ったままらしく、そのまま少し待っているとゲートの兵士とは違う声が
聞こえてきた。
『いーからじゃますんなっ、お前ら猫のウンコ踏めっ!』
「今のどこかで…」
「孝之?」
「お友達?」
素で呆ける遙はともかく、聞き覚えのある声とセリフに孝之は思い出そうと目を閉じる。
後少しで思い出そうとしていると、別の声が聞こえてきた。
『た、孝之さん、先輩が殿中です〜』
「今の玉野さんかっ、するとさっきのはやっぱり…ってぇ!?」
やっと思い出した孝之だったが、両脇を水月と遙に捕まれて、そのままゲートに向かって引きずられていく。
「行くわよ遙っ」
「う、うん」
「ちょ、待て二人ともっ」
「待てるかっ」
「う、うん、待てないよ〜」
水月はいつも通りだが、遙は戸惑いながらも腕に力を込めて引きずる様子に、孝之は言いしれぬ恐怖を感じていた。
そんな二人にゲートまで連れてこられた孝之は、兵士相手に小さい姿の女の子ががーっと吠えているのを見て項垂れた。
「…なにやってんだ、大空寺?」
「漸くお出ましと思ったら両手に花状態か、このボケっ!」
「久しぶりだね玉野さん、無事で良かったよ」
「孝之さんもお元気で何よりです」
「うがぁっ、あたしを無視すんなっ」
「それに崎山さんまで、いったい…」
「久しぶりだね鳴海くん、いきなり訪問して済まないと思うが、事情がありまして…」
「はぁ…」
崎山の後ろにも何人かいるのを見て、孝之は複雑な事があるんだと理解した。
とにかく、BETAの帝都襲撃から連絡の取れなかった人達に会えて再会を喜ぶ孝之だったが、無視されていたあゆは我慢の限界を
突破して孝之に飛びつく。
「無視すんなっていってるだろ、糞虫がっ」
「誰が糞虫だっ、冷凍庫に放り込むぞ?」
「だったらこっちを見やがっ…」
ぐぎゅるるるるるぅぅぅ〜。
「…………」
「大空寺…」
「い、言うなっ」
真っ赤になった顔で叫んだ後俯くあゆに、孝之は笑いをこらえながら崎山達を見つめる。
「とりあえず立ち話もなんですから、PXまで案内します」
「宜しいのですか?」
「ええ、これぐらいならまあ…」
「ありがとうございます」
「そんなっ、お礼なんて良いですよ。世話になったのは俺の方なんですから」
「そうですか…」
ゲートの兵士にあとはこちらで引き受けると言って崎山達をPXへ案内する孝之だったが、その間もあゆは横にいて文句を
言い続けている。
「ねえ遙…」
「うん、焦っちゃだめだよ、水月…」
そしてすぐ後ろを歩く水月と遙は、孝之とあゆの間が普通じゃないと感じて、じっとその背中を見つめていた。
この二人似の間には絶対に何かある…そう確信した乙女二人であった。
「はいおまちっ、竜田揚げ定食出来たよっ。大盛りにしといたよ」
「すみません、京塚曹長」
「いいってことよ、あんなに美味しそうに食べるなんて、作った甲斐があるってもんだ」
まずあゆ達がPXに着いてしたことは、数日の間は水だけだたっと恥ずかしそうに話す崎山の言葉に、先に食事という事になった。
「せ、先輩〜、美味しいです〜」
「んぐんぐっ、まあまあだわさっ…もぐもぐっ…」
「百年の恋も冷める食いっぷりだなぁ…」
「あんですと〜」
「良いから食えって、ほらっ」
「ふ、ふんっ」
追加の料理をテーブルの上に置きながら、あゆの向かいに腰を下ろすと落ち着くまで待つ事にした。
この時がチャンスと、二人の事を気にしていた水月が話しかける。
「ねえ孝之、この娘と知り合いなの?」
「大空寺と玉野さんは元同僚、で崎山さんはその上司で…他の人は知らないけど」
「ふーん…」
「あ、あの孝之くん、同僚って?」
「ああ、まだ予備役の時にアルバイトした事があってさ、その時に一緒に働いていたんだ」
「そうなんだ」
「その店もBETA襲撃で壊されちゃって連絡も取れなかったから心配はしてたんだけど良かったよ」
少し残念そうな顔で話していた孝之だが、少なくてもあゆたちが生きていた事に安堵していた。
それから食後のお茶を飲んで一息ついたところで、崎山が事情を説明し始める。
自分たちはあゆの実家、大空寺財閥の出資での帝国軍と合同でとある新兵器開発任務に着いていた。
そして先の佐渡島からのBEAT襲撃の際、未完成ながらの兵器を無断で運用して壊してしまった。
後、とある事情により大空寺財閥の方に頼る事も出来ず、また戦闘中に行方不明になったあゆの兄を捜しているらしい。
「大まかな事は解りましたけど、それって拙くないですか?」
「まあ、行ってしまえば脱走扱いになってもおかしくありませんね」
「はぁ…なあ大空寺」
「あにさ?」
「元同僚として言うんだけど、原隊に復帰した方がよくないか?」
「基地も部隊も壊滅してどうしろって言うのさっ、それだったら兄さんを捜した方が万倍もいいだわさっ」
「そっか、兄思いなんだな」
「うがーっ、頭撫でるなっ」
わしわしと孝之に頭を撫でられて抗議するあゆだが、その頬は赤く染まり言葉とは違ってどこか雰囲気が柔らかかった。
それを見て水月と遙は更に何かを確信するが、考え込むように孝之を見つめる。
「ところでどうしてここに俺がここにいるって解ったんですか?」
「実はですねー、孝之さんが載っている雑誌を偶然見たんです」
「雑誌って?」
「ほら、伊隅ヴァルキリーズっていろいろお仕事してますよね? それで写真の中に孝之さんを見つけまして、水だけでは限界だったので
藁にもすがる思いで会いに来た訳ですよ」
まゆの言葉に苦笑いを浮かべた後、孝之はあゆをまじまじと見つめてため息をつく。
「大空寺…」
「な、なにさっ」
「兄さんの事が心配なのは解るが、みんなの事も考えてやれよ」
「うっ…」
「仲間なんだろ? だったら少しは気遣えよ」
「解ってるわさっ」
「そっか、とにかく事情は理解したから香月副司令に相談…」
「いいわよ」
「えっ?」
いつの間にか孝之たちの背後に腕を組んでいつもの白衣姿で立っていた夕呼が、なにやら上機嫌であゆたちを見つめていた。
「香月副司令、いつのまに?」
「細かい事はどーでもいいのよ、それよりも要は匿って欲しいんでしょう?」
「でもそれは…」
「なんなら帝国軍と話を付けてあげるわ」
「ただという訳ではありませんね?」
「そうね、それぞれやって貰う事があるから、ギブアンドテイクって所かしら」
崎山の問いに夕呼が笑顔付きで答えると、少し考えた後口を開く。
「よろしいです、その条件でお願いします」
「物わかりが良くて助かるわ、それじゃ話を詰めましょうか」
そして夕呼達がいろいろ話し合っている間、まゆはあゆの手を取り衣食住の確保に喜んだ。
「先輩、これで暖かい布団で寝られるしお風呂にも入れますね」
「あたしの言ったとおりだわさ、まゆまゆ」
「はい」
「お前なぁ、行き当たりばったり過ぎるぞ」
「あんですと〜」
「俺たちが任務でいなかったらどーするつもりだったんだよ?」
「う、うっさい、ボケっ」
「まあまあ、積もる話はあとでゆっくりと…こう言ってる先輩ですが、孝之さんの事をずっと心配してたんですよ」
「な、なに言ってんだわさっ、まゆまゆっ」
「大空寺だぞ、それはあり得ないって」
「こ、このっ、お前なんか猫のウンコ踏めっ!!」
なんて三人で盛り上がっている様子に、水月と遙の疑念は水面下でどんどん脹らんでいく。
後で孝之を問いつめる事は決まっているけれど、今は三人の会話を聞き逃さず情報収集に耳を傾ける。
孝之への疑惑に関して、ヴァルキリーズの突撃前衛とCPの戦いは、もう始まっていた。
「と言う訳で今日からしばらくの間、貴様らの教官となる崎山軍曹だ。わたしがいないからと気を抜くなよ」
「崎山です、微力ながらみなさんの力になれるように指導したいと思います」
真面目な言葉とは違ってどこか浮かれている仕草を見せるまりもに、訓練小隊のみんなは武絡みだと納得してしまう。
「なんか懐かしいですね、先輩」
「前向きなのはまゆまゆらしいさ」
「二人とも、それが終わったら休憩して構わないよ」
「まだまだ大丈夫です」
「これぐらい、なんともないだわさ」
「元気があっていいね〜、それに引き替え…ほらほら、ぐずぐずしないでそれを片付けるんだよ」
「す、少し休ませてくださ〜い」
「だらしないね、あんたそれでも男なのかいっ」
「ひ〜」
PXでは京塚のおばちゃんの下であゆとまゆが調理補助をして、おまけで根性だけで着いてきた純が雑用にこき使われていた。
そして地下深く、横浜基地の魔女は一人笑っていた。
「ふふふっ…これで暫く退屈しないわね。白銀が帰ってくるまでの間、楽しませて貰うわ」
目の前にあるモニターにはオルタネイティヴ計画の詳細ではなく、恋愛原子核論の詳細が表示されている辺り、夕呼が暇なんだと
言う事を証明していた。
NEXT Episode Another 02 −2000.11 君たちがいた季節?−