「せんせ〜、やっぱり似合わないと思いま〜す」
「よね〜」
「うん? 二人とも何の話してるんだ?」
「だってタケルちゃんですよ?」
「白銀なのよねぇ〜」
「だから何の話を…」
「「シリアスは論外だって事(だ)よ」」
「ひでぇっ!?」
「だってヘタレじゃなきゃタケルちゃんじゃないもん」
「ループした記憶のお陰でちょっとは賢くなったみたいだけど、馬鹿じゃない白銀なんてらしくないって事よ」
「うぐっ」
「でも、ちょっとカッコよかったけどさ」
「そうね」
「落としておいてその持ち上げ方かよ…」
「そんな些細な事はどーでもいいけど、こっちにも来たわよ」
「米国からですか?」
「ええ、そっちと同時に…でもこれが傑作なのよ〜」
「なにが?」
「ちゃ〜んと菓子の折り詰め持ってきてね〜、お願いしますって」
「先生の事だから素直にうんって言ってないでしょ?」
「もっちろん、『アタシの靴をお舐めっ』って言ってやったわ」
「ホントか純夏?」
「うん」
「さすがに躊躇してたから一昨日来なさいって言っちゃったわ♪」
「言っちゃったじゃないでしょ、はぁ〜」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... 113 −2000.10 Tragicomedy−




2000年 10月22日 09:23 アラスカ州ユーコン陸軍基地 テストサイト18

更に数日が進み、水月や武との教導で各国の試験小隊はXM3の扱いに関して良い所まで習得していた。
中でも統一中華戦線の暴風試験小隊のツインテールさんは、水月との初戦が発憤材料となったのか意気込みは人一倍だった。
特に水月に対してのリターンマッチ率はダントツであり、今日も朝から弾けていた。

「今日こそは墜とす!」
「ははん、甘いわね。その程度の知ったかぶりじゃまだまだよ」
「せいっ!」

あくまでもF−22Aで砲撃戦中心のスタイルを崩さない水月に対して、殲撃10型の近接能力強化試験機で仕掛ける亦菲は善戦とも
言える戦いを見せていた。
だからついつい水月も近接戦闘に引きずられそうになるが、そこはXM3を教える立場としてなんとか堪えていた。
もっともそれがいいハンデになっているらしく、一回の戦闘時間は少しずつ長くなっていた。
そんな様子をハンガー内に設置されたスクリーンで見ていたタリサは鼻を鳴らしてどう猛な笑みを浮かべる。

「くー、早く終わらねーかなぁ〜」
「どっちとやりたいんだ?」
「決まってるだろ、両方だぜ」

ぱしんと拳を手のひらに打ち付けてやる気を見せるタリサに、ヴァレリオとステラはやれやれと笑い合う。
やはり強い者と戦ってみたいのかグルカ民族の血が騒ぐらしいが、それを後押ししているのは背後で出撃を待っている新しい相棒の
所為だった。
急遽送られてきた不知火弐型の試作二号機の主機は、アイドリング状態でいつでも発進可能であったりする。
そして隣に並び立つ一号機の専任パイロットのユウヤはと言うと、クリスカとイーニァに挟まれて唯依と話していた。

「今回、二号機の搬入に合わせてボーニング社のMSIP強化モジュールへと換装されて索敵及び目標補足能力を強化している。これと
並行して肩部装甲ブロックにはスラスターノズルが追加、脚部の延長と大型化による運動性と機動性の向上もされている」
「それでフェイズ2と言う事か…」
「従って現時点において帝国軍やヴァルキリーズの使用している機体を超えるスペックが与えられた事にもなる」
「つまり、後は俺が成果を出せばいいって事だろ?」
「そうだ」

そんな唯依の言葉に不適な笑顔で応えるユウヤを見ていた二人は、仲良しとまではいかないがそれなりにいい雰囲気だと感じていた。
切っ掛けは武との模擬戦からだったが、一緒に新造機を完成させようと思う仲間意識が強くなった結果でもある。
『いっぽぜんしん』と心の中でガッツポーズをしながら、目の前の二人を少し複雑そうな気持ちで見ているクリスカを見つめてから
話しかける。

「ねえユウヤ、約束おぼえてる?」
「約束って…」
「むぅ、忘れたらはりせんぼんだよー」
「あ、ああっ、あれかっ」
「思い出したならいいけど、それじゃおねがい」
「えっ?」
「ほらはやくっ、クリスカもまってるから」
「イ、イーニァ?」
「ここでかよっ」
「や く そ く〜」

一応、武とのシミュレーション戦に勝利したのだから、約束は守らないとダメだとイーニァの視線にたじろぐユウヤは、隣にいる
クリスカに視線を向ける。
そこでお互いの目が合った瞬間、クリスカの顔はみるみる真っ赤に染まり、何かを期待するような目でユウヤを見つめ返す。
純夏に影響されたイーニァから女の子らしい感情を教えられ成長したクリスカは、目に見える様に気持ちの変化を表すようになって
いた。
なんとなくそのまま見つめ合う二人にここで何か言ったら武の思うつぼだと確信して無視しようとした唯依だったが、それを黙って
見逃すイーニァじゃなかった。

「クリスカの次はユイだよ、そして最後はわたしも一緒に抱きしめて」
「なっ!?」
「はあっ!?」
「それっ」
「ちょ、うおっ…」
「「きゃあっ」」

声と共にクリスカの手を握ってそのままユウヤの背中を押しながら狙いすましたように唯依の方に倒れ込むイーニァに、不意を
突かれた三人はそのまま床に寝っ転がってしまう。
その音に振り向いたタリサは、唯依とクリスカの上に覆い被さり更に背中にイーニァを背負っているユウヤに向かって叫び声を上げる。

「ユ、ユウヤっ、なにやってんだよっ!?」
「おいおい、大胆だな〜」
「三人同時はともかく、みんなの前でなんて大胆ね」
「ちがっ、これはイーニァがっ…」
「女の子の所為にするなんてダメだなぁ〜」
「そうね、男の子らしく自分で押し倒したって言わないと」
「ユウヤ、せきにんとってね。ちゅ」
「うっ!?」
「ああーっ!! てっ、てめーっ!!」
「べーだ」

顔を上げて振り向いていたユウヤの唇を奪ったイーニァは、みんなに自分たちがユウヤのお嫁さんだと宣伝する様に微笑む。
ついでに舌を出してタリサを威嚇するイーニァをどこか遠い目で見つめていた武達は、すっかり第三者の立場を守りながら心の中で
お馬鹿な幼なじみを思い浮かべ呟く。

「純夏、お前ってやっぱすげーなぁ…」
「そこが関心するところなの?」
「まあ、鑑だからな」

武の言葉に意見を言うまりもと月詠だが、自分達の問題じゃないとあっさり話を終わらせる。
実に微笑ましくがんばれとサムズアップしてエールを送る武に気づいたユウヤは、後で覚えていろと恨みがましい視線で睨み返して
いたが当然スルーされた。
そんな騒ぎも周りに居た連中は笑うだけで助けたり止める者はいないから、衆人環視の中で唯依とクリスカは赤い顔で硬直したままで
あった。
やがてイーニァがユウヤに頬ずりしたり、引き剥がそうとしたタリサの声で一段と騒がしくなった時、ハンガーに立ち入ってきた数人
の中で一人の男が声を上げる。

「なんだこの騒ぎは…って、ユ、ユウヤっ!?」
「ん? レオン、レオンか?」
「お、お前っ」
「誤解すんじゃ…」
「なんて羨ましいっ…ぐあっ!?」

いきなりユウヤを指さし叫ぼうとしたかつての相棒レオン・久瀬は、続きを言わせて貰えず昏倒した。
その後ろにいたのは笑顔なんだけど、拳を掲げたままどこか怖い雰囲気をまとっていた女性だった。

「久しぶりね、ユウヤ」
「シャロン…」
「結構積極的になったのね、良かったわ」
「お前、解って言っているだろ」
「私の時もそれぐらい情熱的だったら良かったのに…ね?」
「「「「っ!?」」」」

先ほどとは一転してくすっと挑発するようにイーニァ達に笑顔を向けるシャロンに、驚くような反応を見せる四人の少女だったが、
真っ先に我に返った唯依は何で自分まで驚かないといけないのか葛藤していた。
また、唯依以上に衝撃を受けていたクリスカは、ただ掴んでいたユウヤの腕をきつく握りしめて離さないようにしていた。
そんな中、口を開いたタリサとイーニァは同時に叫んだ。

「まさかユウヤのっ!?」
「ユウヤはわたさないっ!」

ちっちゃい二人に睨み返されてつい吹き出しそうになるシャロンだったが、押し倒されている唯依を見つめると少し嬉しそうに表情を
変える。

「ユウヤ、日本人嫌いは治ったみたいね」
「え、あっ、ちがっ」
「わ、わたしはっ…」
「…………」
「おいユウヤっ、この女誰だっ!? 説明しろっ」
「ユウヤっ」
「むぐっ!?」
「あ、こらテメェ、またキスしやがったなーっ!」
「あっちいけちょび、べー」
「ブ、ブリッジス少尉っ、とにかくどいて…」
「…………」
「だー、お前らし静かにしろーっ!!」

状況を理解しつつからかう様に挑発するシャロン、チワワの様に吠えるタリサ、自分の大好きさをアピールするイーニァ、あたふた
して言葉が上手く言葉が出ない唯依、そしてユウヤの腕を握りしめは離さないクリスカとショータイムみたいに盛り上がっていた。
さっさと起き上がって普通に話せばいいのになぁ〜と、どこかで見た様な記憶に重ねて眺めていた武はぼそっと呟く。

「平和だな〜」
「そうね」
「そうですね」

うんうんと頷くまりもと月詠と共に傍観者に徹している武に気がついたユウヤは、ここぞとばかりに大声で叫んだ。

「そこの女ったらしのハーレム野郎っ!! 黙って見てるんじゃねーっ!!」

ずこっと音を立ててひっくり返った武はすぐに立ち上がると、足音立ててユウヤの所へ駆け寄っていく。
振り落とされたタリサが何か言っているが、気にせず向かい合う。

「言うに事欠いて誰が女たらしのハーレム野郎だっ!」
「そんなのタケルしかいねーだろっ」
「そっちこそハーレム状態だろっ」
「この野郎っ、思い当たる事がねえとは言わせないぞっ」
「俺が言ったんじゃねーっ」
「いいから少佐だったら逃げないで責任取りやがれっ」
「痴話喧嘩の仲裁は俺の仕事じゃないっ」
「「ぬぐぐぐっ…」」

そんな事を言い合いし、お互いの頭をぐりぐり怒突き合いながら睨み合う二人を見ていたイーニァは何かを考えた仕草をした後、
閃いたという感じで声を上げる。

「タケルとユウヤ、にたものどうしだね♪」
「「はあっ!?」」
「「「「「あっ、確かに」」」」」
「「どこがっ!?」」

心外だと言わんばかりに周りへ同意を求めた二人だったが、ハンガーにいた人達すべての心はここに一つになって首を縦に振っていた。
これに納得できる訳がないユウヤはタケルへ向かって再度叫ぶ。

「くそっ、タケルの所為で俺まで変な目で見られただろっ」
「少し前のラブコメ状態を忘れるなよ、ユウヤっ」
「ほら、そっくり」
「「似てないっ!!」」
「うん、いきぴったり」

ニコニコとしながら嬉しそうにするイーニァに何を言って無駄だと悟った二人は仲良く項垂れるが同時に顔を上げて、今度は周りに
釈明を始めるが聞く耳持つ者はほとんど居なかった。
ユウヤに取っては初めての事なのでかなり動揺していたが、横浜基地に居た武に取っては日常茶飯事だったから立ち直りは早く、
気絶から復活して話しかけるのを待っていたレオン達と向かい合う。

「待たせて悪かったな」
「いえ、改めまして我々…」
「それでわざわざ合衆国陸軍第65戦闘教導団『インフィニティーズ』が何の用でここへ?」

わざと言葉を被せて知っている本題を求めた武へ対して、レオンの表情が一瞬だけ険しくなるが冷静に話を続ける。

「現在、日本や国連軍で運用が始まっている新OS『XM3』を我がアメリカ合衆国でも使用を希望しています。それで検証の為に
ここへ来ました」
「なるほど、しかしずいぶん直接的じゃないか?」
「白銀少佐の立場が一軍人では無い事も理解しています、なので直接伺ったわけです」
「ふーん…って事言ってるけどどうしましょうか、速瀬中尉?」

そこに一戦交えて戻ってきた水月の声が聞こえたので、振り向かず言葉を投げた武に返ってきたのは空のカップだった。

「そんなの振るんじゃないわよ。アタシは忙しいのよ、誰かさんの所為でね?」
「同じ機体に乗ってるし、確かめて貰うにはちょうど良いかなと思ったんだけど…じゃあ、まりもちゃん?」
「これから機体の再調整なんだけど?」
「えー、じゃあ月詠さ…」
「武様、私の仕事をお忘れですか?」
「はい、そうでしたー」

女性達に袖にされ若干いじけモードに入りそうな武を黙って見ているレオンだったが、それは自分たちが間接的に相手をされて
いないと理解した。
つまり馬鹿にされている事実にかっとして語気を強めに話し出す。

「白銀少佐っ、我々は真剣に話をしに来ているんです」
「真剣か…篁中尉っ」
「は、はい?」

レオンに応えずいきなり名前を呼ばれて返事をした唯依に向いて、今までと違って気を引き締めた表情で武は口を開く。

「予定変更で悪い。彼らの相手をしてくれ、ブリッジス少尉と二機連携でだ」
「えっ…」
「タケ…少佐?」
「ブリッジス少尉の装備は自由、それと篁中尉の装備は長刀のみとする。これは命令だ、返事は?」
「は、はいっ」
「了解」

戸惑いながらも敬礼で返す二人を見た後、再び視線をレオン達へ戻すと武は口を開く。

「この二人に勝ったら無条件でXM3を提供してやる、負けたらH26攻略戦に参加して俺たちの露払いをして貰う、どうだ?」
「それは…」
「これでもハンデを付けたつもりなんだがな」
「なっ!?」
「そっちは全員でくればいいし、こちらの一機は近接戦闘用装備だぞ。OSの差は有っても条件ではそちらが有利にしたつもりだ」

武の言い出したこの条件は記憶にある一つの戦いを、スペックで劣る不知火でF−22Aを撃墜した沙霧尚哉の戦いを思い出した
所にある。
しかし、その『事実』を知らない彼らには確かに有利な条件だと言えた。

「宜しいんですか、そんな条件で…」
「オレが、白銀武が言ってるんだ。不服か?」
「いえ…」

聞き返してくるレオンに向かって、更に武は挑発する笑顔と言葉で焚き付ける。

「オレに見せてみろよ、自分たちが正義と信じている力をな…ただし、そんなモノで勝てるほど甘くはないぜ」

そう言いきる武の心中を理解していた者は僅かだったが、らしくないほど不適に笑う顔は少年では無く男の顔になっていた。



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