「はぁ〜…………なんか疲れたぞ、特に今日は」

 湯船に使ってぼけーっとしている恭也は、誰にも邪魔されないこの場所で気を抜いていた。

 だが、それが迂闊だと気づいた時には後の祭りであった。

 「恭也くん?」

 「あ、はい、なんですか?」

 「お背中流しますね♪」

 「は?」

 ガラガラ〜。

 その言葉を理解しようとしている恭也の返事を待たずしてフィリスは風呂場に入ってきた。

 「フィ、フィリス!?」

 「失礼しますね」

 バスタオル一枚体に巻いて現れたフィリスは臆することなく、湯船に近づいた。

 「で、で、出って行ってください」

 「リスティが言ってました、裸のお付き合いは大切だって」

 「い、いや、それは……」

 「違うんですか?」

 切なげな瞳で恭也を見つめるフィリスに先手を取られた恭也は考えが纏まらなかった。

 「いいですよね? それに恭也くんの監視も含めてですから♪」

 「ぐっ」

 それを言われるとフィリスの意見を却下できなくなってしまう恭也であった。



 
とらいあんぐるハート3 Short Story



 フィリスMAX!−Vol.2−




 「ふふふっ、恭也くんの背中って広いですね♪」

 「そ、そうですか」

 結局フィリスに背中をタオルで擦られながら肩を落としていた。

 「それに引き締まった体……健康的です」

 「は、はぁ……」

 「これでもう少し私の言葉を聞いてくれると本当に健康になるんですけど」

 「返す言葉もありません」

 ザーッ。

 「はい、次は前ですね」

 「うっ、そっちは自分で洗いますからっ」

 「今更遠慮する事は無いでしょう……私の体だって見たくせに」

 「ぐっ」

 ガラガラーっ!

 「「「「どう言うことなの、恭ちゃん、恭也、おししょー、師匠!?」」」」

 「な、何しているんだお前たち?」

 「きゃっ」

 フィリスは慌てて恭也の背中に隠れるとその陰で、してやったりと満足そうに微笑んでいた。

 「「「「じーぃ」」」」

 「とにかく早く出て……ってどこ見ている?」

 「「「「ぼっ」」」」

 「は、早く出ていけーっ!!」

 しかし乱入した四人は恭也の有る部分に視線を集中したまま、真っ赤になった顔を押さえながら固まっていた。

 そして別の離れた場所から……。

 「もう恭也ったら……すんごいのね(ぽっ)」

 「きょ、恭也さん……ぽっ」

 涎を拭きながら双眼鏡で風呂場を覗いているお嬢様とそれに並んで耳まで真っ赤なメイドの少女は、

 四人の女の子と同じように屋根の上から動かなかった。






 風呂から出た恭也は自室でぐったりしていた。

 いくら御神の剣士として精神的にタフだと言ってもまだまだ健康的な男の子、恋する乙女の攻撃に耐性のない

 恭也では殲滅されそうなのは致し方ないと言える。

 「大丈夫ですか、恭也くん?」

 「……何とか生きています」

 「え、えーっと、とにかくファイトです」

 「誰が原因か解っているとは思いますけど……」

 「あ、あの……」

 「今夜は人生で一番恥ずかしかったです」

 「ご、ごめんなさい」

 さすがに低い声でしか話さない恭也に、フィリスもやりすぎたかなとほんの少しだけ反省した。

 「……………もう、寝ます」

 「も、もう寝るんですか?」

 鏡の前でブラシで髪を梳かしていたフィリスは、ばたばたと片づけると恭也の横に入り込んだ。

 「フィリス……自分の布団は向こうですよ?」

 「…………いじわる」

 「ええ、今夜はなぜか意地悪したい気分です」

 そう言いつつ自分を体の下に組み敷く恭也の素早さに、フィリスの背中に旋律が奔った。

 「あ、あの、恭也くん……」

 「フィリス、覚悟は良いですか?」

 「あ、あの、その……」

 ゆっくりと迫る恭也に、獲物を狙う獰猛な肉食獣の前にいる気分になったフィリスは動けなかった。

 「今夜は徹底的に、遠慮無く、夜が明けるまで、そして……」

 「そ、そして?」

 「俺の体力が続く限り相手をして貰います」

 「はうっ」

 「いただきます」

 「はうう〜っ」

 恭也の宣言通り、朝日が昇る頃フィリスは漸く眠ることができたらしい。

 余談だが恭也は目を真っ赤にして美由希の朝練に付き合っていたが、その顔はどこかすっきりしていた。






 「おはようございまふ〜」

 お昼過ぎに寝間着姿のまま、目を擦りながらリビングに来たフィリスを出迎えたのは、高町家の乙女たちだった。

 ちなみになのはは巻き添えを貰いたくないのか、早々と自分の部屋に戻っていた。

 「おはようフィリス」

 「「「「おはよう、フィリス(さん)」」」」

 「ふに〜、恭也くん……皆さんの顔怖いです〜」

 ((((むかっ))))

 「コーヒー用意しますからここに座ってください」

 「は〜い」

 「……フィリス、どこに座っているんですか?」

 「ここ〜」

 ((((むかむかっ))))

 寝惚けているのか椅子ではなく、恭也の膝の上に乗ると猫のようにそのまま胸に顔を擦りつける。

 「このままじゃ動けないのでそっちに座ってくれませんか?」

 「や〜、このままぁ……すぅー」

 「ね、寝るなフィリス」

 「んー、恭也くんがぁキスしてくれたら起きますぅ……」

 「えっ」

 「んー……恭也く〜ん」

 「フィ、フィリスっ」

 「むー……もうっ、夕べはあんなにしたくせにぃ……」

 バキッ!

 その異様な音に目の前のフィリスから視線をそちらに向けた恭也が見た物は、箸をへし折っている

 妹の美由希であった。

 「恭ちゃん……」

 「な、なんだ美由希?」

 「昨日の夜、フィリス先生と何をしてたの?」

 「何って……それは言えん」

 「私も知りたいな……恭也?」

 「おししょーはなにしてはったんですか?」

 「し、師匠!」

 怖い笑顔を浮かべながら詰め寄る四人の乙女たちに、恭也は本能で命の火が消えそうなのを悟った。

 「何で俺が責められなければならないんだ?」

 「それは恭也がいけないからだよ♪」

 「月村?」

 「こ、こんにちは、恭也さん」

 「那美さん?」

 いきなり庭から現れた二人は恭也と目が合った瞬間、なぜか真っ赤な顔でしかも視線はやや下の方に向いていた。

 「二人とも顔が赤いぞ?」

 「「な、な、なんでもないよ(です)」」

 「そうか、それでどうして俺がいけないんだ?」

 「だって自宅に彼女連れ込んでいちゃいちゃしてるんだもん!」

 「そうですよ、誰だってそれを見たら機嫌が悪くなります!」

 「むうっ」

 まともなことを言っているようだが、その実かなり理不尽な事を言われていると思う恭也だが

 目の前に増えた怖い笑顔の彼女たちに何も言えなかった。

 「「「「「「さあ、何をしていたの?」」」」」」

 「うっ……」

 そしてそこに爆弾を投げ込むのはもちろん……彼女である。

 顔を上げて恭也の顔を両手で挟むと、じーっと見つめてからおもむろにキスをした。

 「うふっ、恭也くぅん……んっ」

 ちゅっ。

 「んんっ!?」

 「「「「「「ああぁ〜っ!?」」」」」」

 大きな口を開けた彼女たちの前で、フィリスは遠慮することなく暫く恭也の唇を離さないでいた。

 「…………はぁ、おはようのキスです、恭也くん♪」

 満足したのかまだ寝惚けているのか、そのまま恭也の膝の上でごろごろと喉を鳴らすフィリスの行動に、

 恋する乙女たちは固まっていたので恭也はフィリスを抱えて部屋に逃げ込んだ。



 「なんで朝からこんなに疲れるんだ……」



 しかし、恭也の呟きを聞いていると思われたフィリスは、幸せそうに微笑みを浮かべて寝ていた。






 つづく。