Double Wedding







 明日……。

 私の娘は嫁いでいく。

 でも、この家から居なくなる訳ではありません。

 名字が変わるだけ……そう『水瀬』から『相沢』に。

 あの娘が待ち望んでいた結婚式。

 私の時には着られなかったこの目の前にある真っ白なウェディングドレスを

 身に纏って……。

 そのドレスを見つめながら、ふと昔の事を思い出す。

 周囲には反対されて私達は結婚式も出来なかった。

 あの人はごめんと謝っていたけど、私はそんなには気にしていなかった、

 一番大切なの一緒にいる事だと知っていたから……。

 ベールもドレスもブーケもいらなかった。

 私の横にはいつも笑顔でいたあの人がいればそれが幸せだった。






 「ふふっ」

 貴方が私と名雪の前から居なくなってから随分経ちました。

 寂しくないと言えば嘘になりますが、充分幸せです。

 そうそう、あの娘は綺麗になりました。

 なぜって……私にとっての貴方がいるからです。

 祐一さん。

 悲しい別れをしてからずっと待っていたあの娘の気持ちに、応えてくれました。

 それから名雪は日に日に綺麗に、そして大人になりました。

 愛する人が側にいる。

 この何者にも代え難い物があの娘を輝かせています。

 母として嬉しいです。

 でも、今ふと思います。

 やっぱりあなたにこの白いドレスを着た私を見て欲しかったと……。

 わがままですね。

 ちょっとだけ羨ましいのかも知れません。

 大人げないですね……クスッ。






 「あ、秋子さん」

 「はい、何ですか祐一さん?」

 「いえ……そのずっとそれを見ていたんですか?」

 「ええ、私は着られなかったものですから……」

 私の横に並んだ祐一さんと一緒に名雪のウェディングドレス見つめる。

 「着てみませんか?」

 「えっ?」

 その言葉に振り向くと、祐一さんが笑っている。

 「秋子さんならきっと凄く綺麗だろうなぁ〜」

 「でも、相手がいないですから……」

 「いるじゃないですか」

 「?」

 「見せてあげましょうよ、あの空からいつも秋子さんを見ていてくれる人に」

 「祐一さん……」

 「俺が名雪を見たいようにきっとその人も見たいと思うから」

 「…………」

 「駄目ですか?」

 祐一さんがいたずらっ子のような目で私の顔を覗き込む。

 ふふっ、困りましたわ。

 でもそうですね、あなたが喜んでくれるならそうしても良いと思ってしまいました。

 だから私は祐一さんに微笑み返して……。

 「了承」

 いつもの返事に祐一さんは満足そうに肯いていました。






 「おかあさん綺麗〜!」

 「そんな事無いわ、名雪の方がもっと綺麗よ」

 私と名雪は控え室で向き合って座っている。

 名雪と同じ白いウェディングドレスを身に纏って……。

 どうやら祐一さんの思いつきのだけでは無いようです。

 でなければ前日に話しただけでこれほど準備は無理です。

 「名雪、本当にこれでいいの?」

 「もちろんだよ、おとうさんにも見せてあげようよ!」

 凄く、凄く温かい眼差しで名雪は微笑みました。

 自然に涙が私の目からこぼれました。

 「お、おかあさん?」

 「ありがとう……名雪」

 名雪がハンカチを取り出して私の涙をそっと拭ってくれます。

 「泣いたら駄目だよ、お化粧が落ちちゃうよ〜」

 「そうね」

 「うん」

 あなた、私達の娘はこんなに良い娘に成長しました。

 見ていてくれますか?

 私は幸せです。






 『綺麗だよ、秋子』






 聞こえるはずのないあなたの声が、その時私には確かに聞こえました。






 『ありがとう、あなた』






 おわり