耳よりな話 (耳の疾患特集)

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目 次

    お断り:いずれの記事も12年以上経過したもので、内容に問題のあるものも少なからず
     含まれております。気づいた範囲で「註」を付けましたが、時代による疾患概念の変化や
     研究の成果による原因解明などにより、矛盾が生じている記載もあるかも知れません。


  しっかり治そう急性中耳炎(院内情報誌 創刊号、1993/07/01)

    この時期、なぜか気になる中耳炎。
   特に子どもに多く、治ってはいても海だプールだというと心配してしまうのが母親の心理です。
   そこで急性中耳炎について知り、注意して予防できるものならと、資料集めをしていたところ、
   NHK“きょうの健康”7月号に4ページほど取り上げられていたので、一部ご紹介します。
    どんな病気?:細菌が耳管(中耳と鼻腔をつなぐ管で、中耳圧の調節や中耳腔からの排液を行う)
   を伝わって中耳(鼓膜の内側の部分)に入り、炎症を起こすのがこの病気で、38~39℃台の熱と
   耳の奥の激しい痛み、さらには耳だれが出るといった症状があります。
    子どもに多い理由:細菌の通り道となる耳管が大人に比べて太くて短く、水平に近い角度であるため、
   細菌が入り込みやすいためです。さらには、細菌を集めて殺すための扁桃(リンパ組織)が耳管の入り口
   にあり、殺されなかった細菌が中耳に入ってしまうことも少なくありません。逆に治療する場合は、
   膿が出やすく、治りやすいとも言えます。
    治療:中耳炎の程度によって、(1) 飲み薬(抗生物質、鎮痛解熱薬など)だけで良い場合と、
   (2) 膿を出すための鼓膜切開や抗生物質の点耳を一緒に行わなければならない場合があります。
   (1)と(2)の割合は、ほぼ半々といわれています。
   いずれの場合も、炎症が完全に治る(細菌がほぼ消失する)には、大体1週間から10日間かかる
   と言われており、痛みが無くなったからといって治療をやめてはいけません。
   1週間ほど薬を飲み、痛みや耳だれなどの症状が消えてから1週間後には、完全に治ったかどうか
   医師に確認してもらって下さい。これは、慢性中耳炎に移行しないために非常に大切なことです。
@@@@@日常生活のアドバイス@@@@@
                     入浴 しない。痛みが増すことがある。耳だれがあれば禁。
                    食事 刺激物は避ける。刺激で病気を悪化させることがある。
                    睡眠 上半身を起こし気味にすると楽になることが多い。
                    痛み 耳の後ろに冷たいおしぼりを当てたりして、少し冷やすと楽になる。
@@予防するには@@
            一番なのは風邪を引かないこと。気になる水泳では、水を飲みこまない注意が必要。
                   どちらも細菌はのどから耳管―――中耳へと入り込むため。

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耳垢について (院内情報誌 第4号、1993/10/15)

[耳垢とは・・・]
 耳垢とは、外耳道の外側1/3の皮膚にある、耳垢腺からの分泌物と古くなった表皮および外から
外耳道に入った塵埃が混ざり合ったものです。基本的に、耳垢の分泌される部位には、細かい毛も
生えており、デリケートな外耳道の皮膚を保護していると考えられます。

[耳垢と遺伝]
 耳垢には、乾性型と湿性型の2種類があり、遺伝します。日本人では両者の割合が5:1で乾性型が
多いのに対し、欧米人では逆に1:9で圧倒的に湿性型が多くなっています。
両親の耳垢の型が遺伝するため、両親の耳垢の型が異なると兄弟でも乾性型と湿性型に分かれること
があります。
「家の子の耳垢が、柔らかくて臭いがあるのですが、異常でしょうか?」
と外来を受診される方もありますが、多くの場合心配はありません。
湿性型の場合、油性肌と同様に油分が多いのが特徴です。

[耳垢と病気]
 耳の入り口から鼓膜まで(外耳道)の長さは約3.0~3.5cmです。先に書いた通り、
耳垢はその外側1/3程にたまるわけですから、本来は耳の入り口から1cm前後の範囲にしかないはずです。
ところが、何らかの原因でこれより奥に入り込むと、難聴や耳痛の原因となるのです。
 耳垢がたまり過ぎて、外耳道をほとんど閉塞した状態になったものを耳垢栓塞症といいます。
この状態が進行すると周囲の皮膚が圧迫により薄くなり、さらに進行するとその周囲の骨や鼓膜を破壊し、
真珠種と呼ばれる中耳を破壊する病気と区別がつかなくなることもあります。
 逆に耳垢を取り過ぎたり、奥に落ち込んだ耳垢を無理に取ろうとすると、外耳道に傷をつけたり、
耳だれの原因になってしまうこともあります。

[適切な耳掃除]
 耳の健康を守るのは、意外と難しいことです。
耳垢の性質や生活環境によって、1日にたまる耳垢の量はかなり変化します。
従って、「耳掃除はどの程度の間隔ですれば良いのか?」とよく質問されるのですが、
誰にでもそしていつでも当てはまる答えはありません。
また、小さい子どものいる家庭では、耳掃除中のトラブルも少なくありません。
「耳垢がたくさんたまっている」、「耳垢を取ろうとして奥に入ってしまった」という場合は、
無理をせず、早めに専門医にご相談下さい。

[市販の綿棒の功罪]
 今から十数年前、紙軸の綿棒が市販され始めました。従来の「耳かき」よりは、
一見清潔で安全そうに見えるのですが、初期の頃の製品は日本人の耳には太すぎて、
かえって外耳道のふちについた耳垢を押し込んでしまう程でした。
 現在は、乳幼児用とか極細タイプのものも市販されていますが、
これで大人の耳にちょうど良い太さだと思います
(ちなみに耳鼻咽喉科医が使っている手巻きまたは使い捨ての綿棒はこれよりも更に細めのものです)。
ただし、細い綿棒だと鼓膜まで直接入ってしまうこともありますから、小さい子どもが触らないように、
また耳掃除中に子どもがぶつかったりしないように細心の注意が必要です。

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「鯨と耳垢の話」 (院内情報誌 第7号、1994/01/17)

 3歳児検診に耳鼻科も参加するようになったのは、一昨年(平成4年)からのことですか。
これは、幼少児の難聴、特に滲出性中耳炎が多く見られるようになったからです。
が、検診に行ってみて驚いたことは、耳垢栓塞で鼓膜を見ることのできない子どもが多いことです。
お母さん方に「耳の掃除は?」と尋ねると、「嫌がるから」とか「痛がるから」といった答えが
返ってきます。
しかし、0歳児などは耳の中を優しく触ると泣き止むことが多かったり、
大人でも膝枕で耳掃除の図をよく見かけますが、奥を触ったり、
無理をしなければ気持ちの良いものの筈です。
 さて、耳垢の多い子どもに「クジラみたいになるよ」とか「クジラじゃあるまいし」と
言って行きましたが、今回記事にするとなると、いい加減なことでは済まされず、
一度確かめておかねばと県水産試験場を訪ねて、技官から話を聞きました。
  鯨の年齢を確かめるため、鯨の種類によっては年輪のようになった耳垢を調べたり、
卵巣の排卵の状態を調べるそうです。さらに、鯨に関する本を調べてみました。
鯨は長い間、水中生活に適応してきたため、耳介こそありませんがヒトと同じように、
鼓膜や耳小骨、蝸牛殻はあるそうです。
  ヒゲクジラの外耳道にはバウムクーヘンのような耳垢が詰まっており、
鼓膜はほとんどその役をなしていないようです。
洗髪時等に、耳に水が入ったときの感じを思い出してみて下さい。
外からの音は聞こえにくくなるのに、内からの音はやけに大きく響く、あの感じです。
鯨は水中の音を鼓膜からではなく、顎の骨から直接蝸牛殻に伝えるため、
蝸牛殻が大きく発達しているそうです。
「耳垢をためてプールに入っていると、クジラみたいになるよ」というのは、
あながちウソではないのです。
 以前は、春の学校検診のとき、夏の水泳に備えて、耳掃除をしておくようにいったものですが、
最近は室内プールがあちこちにできており、年中泳げる環境になってきています。
従って、冬でも耳垢をためないようにこまめに耳掃除をするように心がけ、
積極的に親子の対話の時間としても利用されることをお勧めします。

[参考図書]
 ◇「鯨の話」 小川鼎三 著、中央公論社 発行
 ◇「クジラはどんな恋をするのか」 大隈清治 監修、世界文化社 発行
                                   (文責:長崎和夫)

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老人性難聴(院内情報誌 第7号、1994/01/17)

老人性難聴とは・・・・ 年齢とともに、誰でもある程度は耳が遠くなるものですが、
何歳位から、どの程度遠くなるのかは、個人差が大きいようです。
一般的には、60歳頃から全身的な老化現象の一つとして現れてくる、
高い音や言葉が聞き取りにくくなる状態を「老人性難聴」と呼んでいます。
 老人性難聴の特徴としては、

    1.感音性の難聴である。
2.左右の耳が同じ程度に進行する。
3.高音域の障害が多い。
4.音は聞こえるが、言葉が聞き取りにくい。
5.会議や講演など大勢の人の中での会話が困難になる
6.早口が判りにくい。                              などが挙げられます。

老人性難聴の原因は・・・・
 主に、内耳にある蝸牛という音を感知する感覚器官の老化だとされています。 個人差が大きいのも、騒音下での作業の有無や、 全身的な血管の老化(硬化)に個人差があるためだと言われています。

難聴に気付いたら・・・・
 老人性難聴は、老化が原因だけに残念ながら治療することはできません。 しかし、難聴のまま放置すると、次第に家族や社会の中で会話には入れなくなり、 孤立してしまいます。 高齢化社会を迎えて、中高年者の社会活動への参加や、障害者(脳血管障害などによる) の回復訓練に対する関心は、今後ますます高まっていくことと思います。 老人性難聴では、一般的に中等度~比較的軽度の難聴が多く、 人工内耳よりも補聴器の適応となる人が多いと考えられます。 補聴器を十分活用して、積極的に社会活動に、また家族との会話に参加されることを望みます。

       註:老人性難聴でも他の原因による難聴と合併した高度難聴では、
         人工内耳の適応になる例もあると思われますので、専門医にご相談下さい。


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滲出性中耳炎にかかっているとき水泳教室に通ってもよいのか (新・院内情報誌 第6号、1996/09/02)

  1.過去の調査結果から

       ある地域の水泳教室に通っている児童群と通っていない児童群を調査したところ、
   滲出性中耳炎にかかっている割合に大きな差がなかったとする報告がある一方、
   滲出性中耳炎にかかっている児童の61%が水泳教室に通っていたという報告もあります。
   どうやら、誰でも水泳教室に通うと滲出性中耳炎にかかると言うわけではなく、
   プールで年中泳ぐことで、滲出性中耳炎になりやすくなる子ども達がいるようです。

  2.なぜ、水泳が悪いのか 滲出性中耳炎の原因として、鼻咽頭の炎症があり、
     鼻や咽頭の炎症が治ると、中耳炎も治りやすくなることが知られています。
  学校で行われている夏季の水泳では、鼻や咽頭の慢性炎症はそれほど悪化せず、
   滲出性中耳炎の危険因子も少なくなる傾向を示すようです。
   ところが、冬季の水泳となると危険因子が増えて、
   今まで落ち着いていた鼻や咽頭の炎症も悪化するらしいのです。
   これには季節と関係なく鼻から喉頭に至る上気道粘膜の生まれつきの免疫力や抵抗力の低下が
   深く関わっているようです。
     さらに、プール水に含まれる消毒用の塩素が鼻や咽頭の粘膜を刺激して、
   慢性炎症の治りを悪くしているようなのです。
    次に泳ぐときの呼吸動作との関係はどうなのでしょうか。
   息継ぎのとき、アデノイド(上咽頭にあるリンパ組織)が大きかったり、
   鼻の粘膜が腫れて鼻がつまっていると、吸い込んだ空気を鼻から出すことができず、
   後鼻腔に入った空気は行き場がなく、耳管に負担をかけてしまいます。
   このために、中耳にたまった滲出液が排出されにくくなったり、
   中耳への換気ができなくなるらしいのです。
     鼻の通りが良い場合は、水泳の息継ぎをしても何の問題もありません。
    滲出性中耳炎は決して中耳だけの病気ではなく、鼻や咽頭、
   耳管機能と深く結びついているために、一年中頻回にプール水による刺激を与えることで
   悪化する可能性が高いのです。

  3.滲出性中耳炎の危険因子
     最後に、東京医科大学耳鼻咽喉科の平出文久先生のあげられた
   滲出性中耳炎の危険因子を箇条書きにしてみました。
     これらのうち、当てはまるものがある場合は、
   とりあえず水泳教室に通うことは控えた方が良いと思われます。

   ①急性中耳炎を反復する場合。
   ②鼻や咽頭の慢性炎症(アデノイド増殖症、慢性副鼻腔炎なそ)がある場合。
   ③いびき、鼻づまり、口呼吸が著明な場合。
  ④プール水の塩素濃度が高い場合。
  ⑤冬になると、①~③が高度になる場合。
  ⑥家庭に喫煙者がいる場合(受動喫煙の危険性がある)。

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滲出性中耳炎とは?(新・院内情報誌 第12号、1997/05/20)

  滲出性中耳炎は別に新しい病気ではなく、ヨーロッパでは16世紀には既に
 その存在が知られていたと言います(日本なら毛利元就や豊臣秀吉の時代でしょうか)。
 「最近、子どもが呼んでも気付かない」、「聞き返しが多い」といった場合、
 この病気の可能性が高いと考えて下さい。激しい痛みや発熱を伴う急性中耳炎と違い、
 子どもからの訴えがほとんど無く、「テレビやゲームに熱中しているからだろう」
 などと見過ごされることもあり、発見が遅れがちになります。

  1.滲出性中耳炎とは……
   滲出性中耳炎の発症は、最近20年間に、わが国を含め先進国に共通して増加傾向にある
  といわれています。疫学的には小児、特に4~8歳に多く、以後減少し10歳以降では急減します。
  上気道炎(風邪)に引き続いて起こることが多い点では急性中耳炎との共通点があり、
  小児の滲出性中耳炎では、急性中耳炎の罹患歴が多いことも広く知られています。
  急性中耳炎の既往が大きな危険因子となっているのです。
    原因から見ると、両者は区別しにくく、今日滲出性中耳炎は
  「鼓膜に穿孔がなく、中耳腔に貯留液をもたらし、難聴の原因となるが、
  耳痛や発熱といった急性感染症状のない中耳炎」と考えられています。
  鼓膜には色の変化(淡赤色、褐色、青黒色など)、陥凹がみられ、
  鼓膜を透して貯留液が気泡や水気鏡面によってわかることもあります。
  難聴の程度は軽度から中等度で、聴力検査では平均20~30dB程度
  (学校検診では概ね35dB以上の難聴をチェックしています)ですから、
  なかなか発見されないこともあります。
   貯留液の中には、細菌、白血球等の炎症細胞、化学伝達物質や酵素などの
  生体内物質が多様に含まれています。

  2.原因
   原因に付いては、以前は耳管機能障害が最も重要なものとされ、耳管に狭窄・閉塞が生じ、
  鼓室内が陰圧となり、血液成分が漏出して貯留液となるとされていました。
  しかし、血清と中耳貯留液の成分とでは化学的に大きな差があること、
  貯留液中から細菌や菌体成分が検出されるようになったことから、
  感染が関与することが明らかとなり、今日では原因として感染・炎症説が多くの指示を得ています。
   同じ感染でありながら、急性(化膿性)中耳炎と滲出性中耳炎に分かれる理由は、
  免疫や抵抗力に個人差があること、感染した細菌の病毒性や繁殖力の差、
  さらには抗生物質使用の時期と期間によるものと考えられています。

  3.予後
   小児滲出性中耳炎には自然治癒するものもあり、そのほとんどが10歳頃までに治癒する
  といわれています。
   予後に影響する因子としては、年齢、先天性障害(ダウン症候群や口蓋裂等)の有無、
  副鼻腔炎・アデノイド増殖症等の周辺臓器の病変、乳突蜂巣(中耳腔周辺の側頭骨内に
  広がる蜂の巣状の含気腔)の発育抑制の程度などがあげられます。
   急性中耳炎のように耳痛・発熱等の激しい症状や、耳ダレのように目に見える症状がなく、
  軽度の難聴・耳のつまり感(小児ではゆっくり進行するためか、ほとんど訴えがありません)
  等の症状しかないため、発見が遅れがちになる病気ですのでご注意を!!

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「耳垢取り器具」による健康被害について(新・院内情報誌 第15号、1997/11/11)

    「耳垢取り器具」とは、イヤ・ケア・グッズ(商品名はイヤー・キャンドル、オトサン、
   オッタマゲーションなど)の名称で販売されている健康商品です。
     紙に蜜ろうを塗って円錐形の筒状に固めたもので、細くなった方の先を耳の穴に入れ、
   太い方の先に点火すると、耳垢が取れたり、精神的にリラックスできるとの触れ込みで、
   今年(平成9年)の5月頃から雑誌や新聞で取り上げられ、6~9月頃には富山県内でも
   かなり売れていたようです。
     新聞の社会面に、「驚く程耳垢が取れ、中耳圧の補正までする、医者いらずのスグレモノ」
   といった記事が載ったこともありました。ところが……
 
    11月5日に北日本放送および富山テレビで報道されたように、
   これらの商品が非常に危険な器具であることが明らかになってきました。
     当初は、原理的な面白さもあって、自分の耳で試してみようと思い、
  イタリア製の商品を約2,000円で購入してきました。
  これを耳に当てて点火したところ、約3秒後に「ボッ」という音がしたため、
  慌ててはずして見たところ、筒の下側(耳に差し込んでいた方)から白煙がいたのでビックリしました。
  幸い、ロウがたれ落ちるまで我慢しなかったおかげで、
  耳鼻科医自らが被害者にならずに済んだのですが……。
    当院では、9月中旬から11月初旬までの約2ヵ月間に10名余りの患者さんが受診されました。
  鼓膜に穴があいたり、重症の火傷の方はいませんでしたが、
  鼓膜のすぐ近くまでロウがべったりと付いたり、皮膚が赤くなって痛みやかゆみを訴えて
  受診されました。
  他にも、症状が軽いために受診されなかった人もいるかもしれません。
   心当たりのある方は、一度是非受診されることをお勧めします。

   1. 問題点:器具を使用された方に商品名を尋ねてみても、ほとんどの方はご存知ありません。
     輸入品は特に詳しいマニュアルがついておらず、正しい使用方法がわからないまま使われて
     しまったようです。
     いわゆる医薬品ではないので、販売や使用に特別な法的規制はありませんし、
     JIS規格でお馴染みの通産省も「安全性の検査中」というだけで、
     実験データの公開を行っていません。危険な玩具の規制ほども行われていない
     野放しの状態になっているのです。

   2. 対策:まずは使用を控えて、これ以上被害がひろがらないようにするしかありません。
     もう既に使用してしまって、症状のある方はできるだけ早く耳鼻科医の診察を受けるように
     して下さい。
     また、「実際に耳垢がたくさん取れた」という方もあるようですが、
     ご自分の耳にそれほどたくさんの耳垢があるのを確認されたのですか?
     また普段、耳かきなどで取っていた耳垢と同じようなものでしたか?
     少なくとも、正しい使用法と安全性が確認されるまでは、他人に勧めることは控えてください。
 
   3. 終わりに:耳垢の性質は、乾燥したものと油分の多い柔らかめなものに大別され、
     体質(遺伝)によって決まるので、急に変化することはなく、ほとんどの人は一生涯変わりません。
     また乾性耳垢と湿性(油性)耳垢の割合は、日本人で約5:1、欧米人や東南アジア人(台湾を含む)
     で逆に約1:10と、民族によって大きく異なります。
     従って、耳掃除の仕方にも民族性があり、輸入品をそのまま使うこと自体、
     無理があったのかもしれません。

      耳の健康と清潔を維持するのも、なかなか大変なことなのです。

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 機能性難聴(心因性難聴)(新・院内情報誌 第20号、1998/10/20)

  1. 機能性難聴とは?

   学問的には、「器質的な異常が無いのに、難聴を呈する状態」と定義されています。
  これでは、難しいので、もう少し簡単に言うと、大体次のようになります。
   耳垢がつまっていたり、中耳炎や鼓膜に穴のあいた状態では、音が(聴)神経まで伝わりにくく、
  伝音難聴になります。内耳から脳(聴神経)に外傷や病気(先天性異常など)があれば、
  感音難聴になります。これらの異常が特に見られないのに、何となく聞こえが悪い、
  または聴力検査で異常がある状態、これを機能性難聴と呼んでいます。
   昔から、「自分に都合の悪いことは聞こえない」とか「耳に心地よい誉め言葉だけが聞こえる」
  人のことをよて○○○(耳鼻科医はこれを都合性難聴と言ったりします)などと言いますが、
  冗談はさておき、本当の機能性難聴の場合は、深刻な問題です。
  特に診療に当たる側にとってみると、原因を明らかにして、
  根本的に解決しないと治らない場合があり(自然に治る場合もあるのですが)、
  しかもその原因は多くの場合、心理的なものであるため、
  十分な問診が必要(時には生活についてのかなり立ち入ったことも聞き取りが必要)です。
  さらに、例え原因が判明してもその解決には、薬物や処置ではなくカウンセリングなどにより
  心因性の背景を除去または軽減する必要があり、多くの場合相当の長期間を要すると考えられます。
  このため、日常診療の中で比較的多い(特に、中耳炎や鼻炎などの疾患を除くと
  疾患にかかりにくい年齢層に多い)疾患である割には、一定の治療法が確立されていない
  (原因が多様である)のが実情です。
   今年の、日本聴覚医学会でも、単独の疾患としてはトップクラスの多くの演題が出ていましたが、
  これも耳鼻科医の関心が高いことの表れとも言えます。

  2. 特徴と原因

   この疾患は10歳(小学校4年生)前後の女子に多いといわれています。
  聴力検査を行うと、中等度から高度(多くの場合は40~60dB)の感音難聴を示します。
   ヒトの感覚の閾値(感じることのできる最も弱い刺激の強さ)には、
  検知閾値と認知閾値の2つがあります。聴覚の場合でいうと、
  「何か音がしている」と感じる最小の音圧が検知閾値で、
  その音の「大体の高さ(周波数)が聞き取れる」最小の音圧を認知閾値と呼んでいます。
   学校の検査で難聴を指摘されたり、
  先生から「○○君、最近話が聞こえていないのではないですか?」と言われたことがきっかけで、
  自分の聴力に自信が無くなった場合などは、聴力検査を何回行っても、
  この認知閾値(40~60dB)付近の聴力を一定して示すことが多いようです。
   もっとも、原因としてはもっと複雑なもの、例えば家庭および学校などの社会生活上の問題、
  中耳炎などで実際に難聴になった経験なども関連すると言われており、
  聴力検査のたびに測定聴力が変化するものやさらに高度の難聴を示すものなどもあるようです。

  3. 社会的背景因子と呼ばれるもの

   今年の聴覚医学会での発表でも、機能性難聴の背景(原因)の変遷について検討している施設が
  いくつかあります。
   主に小児について検討したものですが、家庭生活(両親の離婚、両親が共稼ぎで
  特に母親の帰宅が遅いなどの問題)によると考えられるものが増加傾向にあり、
  学校生活(いじめ、教師との関係、聴力検査で難聴を指摘されたことなど)によると
  考えられるものは若干減少傾向にあるといわれています。
  ただし、現在両者はほぼ同数程度の症例とする報告が多く、また単独の原因ではなく、
  両者が関与している症例もあると考えられることから、
  原因を全て解決することは容易ではありません。

  4. 治療(対処法)

   耳鼻科医を職業としている私でも、我が子がテレビやビデオに夢中になって返事をしない時など、
  「お前、耳が悪いのか?」とつい叱ってしまうことがありますが、この一言が病気の一因になるすると、
  「うかつなことは言えない」と考えてしまいます。
   実際の治療に当たって、耳鼻科医単独では対応に苦慮しているのが実情で、
  病院であれば心療内科や精神科のカウンセリングを行ったりして、
  とにかく原因の究明と問題の解決に向けた努力が必要となります。
   耳鼻科としては、病気の早期発見と問題の解決に至らないまでも、
  聴力に関する不安感の軽減に努めていくしかないようです。
  その際も、家庭や学校のバックアップが必要な場合が多いので、
  関係者の方々のご協力を是非お願いします。

   やや難しい内容になりましたが、このような病気があるのだということ、
  また主に小児について書きましたが、成人でも同じような症状になることがあるのだということを
  頭の片隅に覚えておいて下さい。

    註:現代のストレス社会では、幼稚園児から高齢者に至るまで、あらゆる年齢層で「うつ」の
     状態になる危険性を孕んでおり、「機能性難聴」の出現がその初期症状である場合も十分に
     考えられます。耳鼻科医にもコンサルタント的能力が求められているとも言えます。


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 「中耳炎にまつわるエ・ト・セトラ」(新・院内情報誌 第25号、1999/07/28)

 一口に「中耳炎」といっても、急性化膿性中耳炎、慢性化膿性中耳炎、滲出性中耳炎等、
いろいろなタイプの中耳炎があります。カゼから起こってくる中耳炎が冬に多いのは当然として、
これから水に接する季節になると、また中耳炎が多くなってきます。

A. 急性(化膿性)中耳炎:
  カゼ(上気道炎)が原因となることがほとんどですが、カゼ気味のままプールで泳いだりすること  
 で、夏場にも意外に多いものです。鼻炎などのある場合もできれば水泳や潜水は控えて下さい。
B. 滲出性中耳炎:
  最近は、スイミングスクールなどで年中泳いでいる方も多いと思いますが、プールの水に使用する
 消毒液には粘膜刺激性があるため、鼻に入ると鼻づまりや鼻汁過多の原因になり、間接的に滲出性中 
 耳炎が悪化することもあります。プールに入る前後には鼻を十分かみ、耳鼻科での治療を続けながら 
 プールに入るようにして下さい。
C. 慢性中耳炎:
  昔から、「川で泳いでから、耳だれが出るようになった」という話を聞かれたことがあると思いま 
 す。これは、実は逆で慢性中耳炎で鼓膜に穴の開いている場合に、外耳道からの感染が起こったため 
 に耳だれが出た(慢性中耳炎の急性増悪)ということです。防水型の耳栓を使用するなどの予防策が 
 必要です。
D. 航空性中耳炎:
  「早い乗り物で山に登った」、「列車に乗ってトンネルに入った」といった場合も同様のことが起こ 
 りますが、外気圧と中耳圧に急激な差が生じた場合に、本来中耳圧の調節をしている耳管(鼻の奥と
 中耳をつないでいる管)が開かなくなって、場合によっては中耳に液が貯留したり、中耳粘膜が炎症
 を起こして、滲出性中耳炎や急性中耳炎などになってしまうこともあります。
  夏場に旅行を考えておられる方も多いと思いますので、予防法について少し書いておきましょう。
 上昇時に耳閉塞感(耳がつまった感じ)を生ずることがありますが、これはあまり問題ありません。
 外気圧が下がるために中耳は比較的に高圧状態ですから、水平飛行に移ってから出されるお茶などの
 飲み物を飲んだり、飴をなめて出てくる唾液を飲み込むことで徐々に中耳圧が下がりますから、慌て
 る必要はありません。むしろ、降下時が問題です。外気圧が上昇してきますので、中耳は陰圧状態に
 なり、そのままにしておくと滲出性中耳炎の初期と同じ状態になります。したがって、飛行機が降下
 し始めて、耳閉塞感が生じてきたら、唾液を飲みこむとかあくびをするなど、耳管を開くような動作
 を繰り返し行って下さい。睡眠中はつばを飲みこむ動作が少ないため、降下中の居眠りは禁物です。

 以上の、注意を守って、夏場のレジャーや帰省を含めた旅行を楽しんで下さい。

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