ちょっとブラックな短編集1

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害虫駆除

昔の人は

よくばりなしんちゃん

クローン(1〜4)

ジョニー

ふたりのおじいさん

臓器移植

ユイブツ君

ガイコツの国1999.10.7

おかしな動物

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害虫駆除

地球に一隻の宇宙船が向かっていた。乗っているのはふたりの宇宙人。
「なかなか住めるような星って、ないもんだな」
「そうですね。私たちみたいに空気と水が必要な生物にとって、理想的な星なんて、もうないのかもしれません」
「最後の頼みの綱はあの青い星か。うちの星も生物が増えて狭くなってしまったからなあ。どこかにいい星があれば移住したいのだが」

宇宙船は地球から大分離れたところに止まり、地球の調査を始めた。地球の科学力ではその宇宙船を捕らえることはできない距離だった。
「おお、これはすごい。空気も水も豊富にあるし、私たちが住むにはもってこいの環境ですよ」
「本当か。それは大発見だ!我々の苦労も実ったということか。それで、生物はいるか」
「いますよ、いろいろいます。四つ足で陸を歩くもの、翼で空を飛ぶもの、海の中を泳ぐもの。すごい種類がいますね」
「ほう、そうか。文明はありそうか?」
「2本足で歩いている生物がいます。あの中では一番知能が発達しているようで、社会を作っています」
「どの程度の文明だ?」
「大きな建物などもありますが、かなり幼稚なようですね。武器を持って殺しあっている種類もいます」
「それは危険な生物だな」
「そうですね。それにその生物が集まっている周りは空気も汚れているし、海も汚いです」
「そうか、不潔な生物なのだな」
「ええ、私たちと一緒には住めそうもないです。駆除してしまった方がいいと思います」
「わかった。じゃあ、その不潔で危険な生物だけ駆除しよう」

彼らは、すぐにその生物だけを駆除する薬を調合し、地球に向けて巨大なミサイルを発射した。

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昔の人は

「おかあさん、昔の人って牛や豚を食べてたんでしょ」
「まあ、そんなことどこから聞いてきたの?」
「学校でお友だちが言ってた」
「まあ、ずいぶん怖いお話をするのね。でも本当らしいわよ」
「なんで動物を食べなきゃならなかったの?」
「昔の人は牛や豚を食べ物だと思っていたらしいの」
「ゲーッ!なんで。おいしいわけないよね」
「そうね。動物を食べるなんて、考えただけでも気持ち悪いわ」
「昔の人って変だったんだ」
「それに、昔の人は、わざわざ肉を食べるために、牛や豚を飼って増やしていたんですって」
「ええっ!ほんと。なんでそんなかわいそうなことできたんだろう」
「さあね。ヒトが進化する間にはいろんなことがあったらしいわよ」

でも、おかあさんも、昔、人間同士が殺しあっていたことは知りませんでした。

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よくばりなしんちゃん

しんちゃんはとてもよくばりでした。ようちえんでは、おともだちのえほんや、つみきがほしいと、
「それ、ぼくのだ。ぼくがあそぶんだ」
といって、とってしまいます。でもおともだちはにこにこしながら、
「よくばりだなあ、しんちゃんは」
といって、わたしてくれました。おとうさんやおかあさんとかいものにいっても、ほしいものがあると、
「あれかって。ぼくほしいんだ」
といってねだります。すると、おとうさんとおかあさんはにこにこしながら
「よくばりだなあ、しんちゃんは」
といって、なんでもかってくれました。

おとなになってかいしゃにはいっておきゅうりょうをもらうと、しんちゃんはしゃちょうに、
「ぼく、もっとおかねがほしいんだ」
といいました。すると、しゃちょうはにこにこしながら
「よくばりだなあ、しんちゃんは」
といって、おさつのたばをどさっとわたしてくれました。しんちゃんが
「ぼく、もっとほしいんだ」
というと、しゃちょうはもっとにこにこしながら、
「よくばりだなあ、しんちゃんは」
といって、しんちゃんがもちきれないほどのおさつのたばをくれました。しんちゃんは、しゃちょうに
「ぼく、しゃちょうになりたいんだ」
といいました。しゃちょうはもっともっとにこにこしながら、
「よくばりだなあ、しんちゃんは」
といっていすからたちあがり、しんちゃんをすわらせてくれました。しゃちょうになったしんちゃんは、ほかのかいしゃのしゃちょうにでんわして
「ぼく、あなたのかいしゃがほしいんだ」
といいました。ほかのかいしゃのしゃちょうは、わらいながら
「よくばりだなあ、しんちゃんは」
といってそのかいしゃをくれました。しばらくするとしんちゃんは、ぜーんぶのかいしゃのしゃちょうになっていました。こんどはしんちゃんは、
「ぼく、そうりだいじんになりたいんだ」
といいました。そうりだいじんは
「よくばりだなあ、しんちゃんは」
といってそうりだいじんにしてくれました。しんちゃんはほかのくにへいって
「ぼく、おうさまになりたいんだ」
といいました。おうさまは
「よくばりだなあ、しんちゃんは」
といっておうさまにしてくれました。しばらくするとしんちゃんは、ぜーんぶのくにのおうさまや、だいとうりょうや、しゅうちょうになっていました。
もう、ちきゅうはぜーんぶしんちゃんのものでした。しんちゃんは
「ぜーんぶ、ぼくのだ。わーい、わーい」
といって、よろこびました。

あるひ、1だいのろけっとがちきゅうにやってきました。しんちゃんがみにいくと、なかからうちゅうじんがでてきました。しんちゃんは
「このほしはぜーんぶぼくのだよ、いいでしょう」
といいました。すると、うちゅうじんはしんちゃんに
「ふうん、きみのほし、ちいさいね」
と、いいました。

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クローン1

「先生、仕事が忙しくって体がもちません。僕のクローンをつくってください。そしたら、半分ずつ仕事しようと思います。」
「はいはい、いいですよ。」

………数日後。
「はいはい、できましたよ、あなたのクローンです。」
「え?これですか。赤ん坊じゃないですか。」
「そうですよ。最初から大人のわけないでしょう。」
「僕が育てるんですか。」
「あなたが注文したんですよ。」

彼は、子育てでもっと忙しくなってしまいました。

クローン2

「先生、仕事が忙しくって体がもちません。僕のクローンをつくってください。そしたら、半分ずつ仕事しようと思います。」
「はいはい、いいですよ。」
「今度は、はじめから大人のクローンでお願いします。」
「そりゃ無理ですが、やってみましょう。」

………数日後。
「はいはい、できましたよ。」
「できるもんですね。」
「まあね。」
「はじめまして、僕のクローン君。よろしくね。」
「だああ、わああ、あああああ、うううう」
「先生、こいつバカじゃないんですか。」
「なんの教育もしていませんからね。学校にでもやってください。」

彼は、大人の子育てでもっと忙しくなってしまいました。

クローン3

「先生、仕事が忙しくって体がもちません。僕のクローンをつくってください。そしたら、半分ずつ仕事しようと思います。」
「はいはい、いいですよ。」
「今度は、はじめから教育のある大人のクローンでお願いします。」
「あなたも無茶言いますね。絶対無理ですが、やってみましょう。」

………数日後。
「はいはい、できましたよ。」
「できるもんですね。」
「まあね。」
「はじめまして、僕のクローン君。よろしくね。」
「誰だおまえは。なれなれしい奴だな。あっち行け。」
「先生、こいつ性格悪いんじゃないんですか。」
「それはしかたないでしょう。」

彼は、やっかいな人付き合いが増えてもっと忙しくなってしまいました。

クローン4

「先生、仕事が忙しくって体がもちません。僕のクローンをつくってください。そしたら、半分ずつ仕事しようと思います。」
「はいはい、いいですよ。」
「今度は、はじめから教育があって性格のいい、大人のクローンでお願いします。」
「あなたも、むっちゃくちゃ言いますね。ぜーったい無理ですが、やってみましょう。」

………数日後。
「はいはい、できましたよ。」
「できるもんですね。」
「まあね。」
「はじめまして、僕のクローン君。よろしくね。」
「よろしく。僕は君のクローンです。」
「先生、すばらしい。大成功です。」
「よかったですね。」
「じゃ、クローン君、僕の代わりに会社に行ってください。」
「はいはい。」

………数日後。
「先生、もうクローンは要りません。」
「要らないと言われてもつくっちゃったもんしょうがないでしょう。なにか問題があったんですか。」
「僕のクローンはよく働いて会社では評判がいいし、うちの妻や子供たちにもなくてはならない人になっています。」
「いいじゃないですか。」
「ちっともよくありません。僕がいらなくなっちゃったんです。はっきり言って彼は僕より優秀です。」
「まあ、そういうこともあるでしょう。」
「のんきなこと言わないでください。僕はどうなっちゃうんですか。」
「クローンが病気になったら、内臓でもあげたらどうですか。」

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ジョニー

「なあジョニー、ロボットは人間を超えられると思うか。」
「そうですね、博士。人工知能にあらゆる情報をインプットすれば、人間を超えたロボットも作れるのではないでしょうか。」
「しかし、人間のインプットできる情報は人間のわかっていることだけだ。記憶容量や計算能力は人間を超えたとしても、ただ知識が豊富で便利なロボットができるだけだろう。」
「人工知能は学習能力もあります。ロボットが自分で動いて経験したことを蓄積し、あらゆる事態に対応できるだけの知性を備えられるようになります。」
「しかし、いくら知識と経験を増やしたところでそこに感情は生まれないだろう。ロボットに人の気持ちがわかるか。愛することができるか。」
「…………」
「ジョニー、君は有能な助手だ。君のおかげで私の研究も数々の成功を収めてきた。とても感謝している。」
「お役にたてて光栄です。」
「しかし、ジョニー。私は君の本音が知りたい。君の思っていることを素直に私に言ってくれないか。」
「博士、私は私のできる限りのことをお伝えしています。」
「それはわかっている。しかし、私は君自身の考えていることを聞きたいのだ。悩んでいることはないのか。好きな人はいないのか。」
「…………」
「ジョニー、黙っていてはわからない。話してくれ。」
「…………」
「ジョニー!」
「…………」
「…………!」
博士は机の引き出しから拳銃を取り出すと、ジョニーの額に銃口を向け、引き金を引いた。ジョニーは仰向けに倒れ、動かなくなった。弾は頭を貫通し、後ろの壁にめり込んでいた。しかし、ジョニーの額から血は流れていなかった。近くには小さなビスや細かな金属の部品がたくさん散らばっているだけだった。

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ふたりのおじいさん

ある日、あるところのおじいさんが死にました。

おじいさんは、気がつくと野原の真ん中に立っていました。まわりにはたくさんの牛や豚やにわとりがいました。牛は草を食べたり、モグモグと口を動かしてすわっていました。豚のおかあさんは何匹もの赤ちゃんにおっぱいを飲ませていました。にわとりは追いかけっこをしていました。近くには田んぼや畑があって、稲や、麦や、キャベツや大根やジャガイモなどが植わっていました。リンゴやミカンの木には、たくさんの果物がなっていました。遠くには海も見えました。きっとたくさんの魚たちが泳いでいるのでしょう。おじいさんはつぶやきました。
「はて、わしはどこに来てしまったんだろう。」
すると、どこからともなく声が聞こえてきました。
「ここにいる動物たち、植物たちは、全部あなたに食べられたものたちなのですよ。」
おじいさんはびっくりしました。
「えっ、わしは一生にこんなにもたくさんの生き物を食べたのか。ここにいる動物や植物はわしを生かすために犠牲になってくれたのか。」
おじいさんは、感謝の気持ちでいっぱいになりました。しょぼしょぼのおじいさんの目からたくさんの涙があふれました。

その時です。あたり一面は見渡す限りのきれいなお花畑に変わりました。明るい光といいにおいに包まれて、おじいさんはとても幸せな気持ちになりました。おじいさんの体はふわっと浮きあがり、天に昇っていきました。

ある日、あるところのとなりのおじいさんが死にました。

おじいさんは、気がつくと野原の真ん中に立っていました。まわりにはたくさんの牛や豚やにわとりがいました。近くには田んぼや畑があって、稲や、麦や、キャベツや大根やジャガイモなどが植わっていました。おじいさんはつぶやきました。
「はて、わしはどこに来てしまったんだろう。」
すると、どこからともなく声が聞こえてきました。
「ここにいる動物たち、植物たちは、全部あなたに食べられたものたちなのですよ。」
おじいさんはびっくりしました。
「えっ、わしは一生にこんなにもたくさん食べたのか。そういえば、食べ物ってみんな生きものだったんだな。ふん、でもこいつらみんなわしに食われてよかったな。ありがたく思え、畜生ども!」

その時です。まわりにいた動物、植物たちはみるみる生気を失っていきました。そして土のかたまりのようになったと思ったら、いっせいにぐずぐずっとくずれ、どろどろになりました。と、同時にあたりはものすごくくさいにおいに包まれました。そうです、生き物たちはみなウンコになったのです。見渡す限りのウンコの海はものすごいにおいを出しながら波打っていました。おじいさんはウンコの中でもがいていましたが、やがて波は大きなうずを作りはじめました。おじいさんはうずと一緒に何回かまわった後、ウンコの海の中に吸い込まれていきました。

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臓器移植

ひとりの男が病院のベッドに横たわっていた。傍らでは彼の妻と主治医が話している。
「奥さん、これからご主人の臓器移植の手術をはじめます。いいドナーが見つかってよかったですね。」
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。」
男は手術室に運ばれ、続いてドナーのベッドも運ばれた。

数時間後、妻は手術を終えた夫に再会するため、主治医から病室に呼ばれた。
「奥さん、手術は成功しました。今は眠っておられますが、1時間もすれば目覚めるでしょう。」
「ありがとうございました。主人もさぞ喜ぶと思います。」
妻はベッドに近づき、顔をのぞき込んだ。
「先生、この人、主人じゃありません。」
「いや、そんなことないですよ。ちゃんと移植しましたよ。」
「でも、顔が違います。人違いです。」
「ああ、ご主人はね、頭はしっかりしてましたが、内臓はあちこちイカれてたんですよ。でもドナーの人は脳死状態だったけど、体は全部しっかりしてた。だからご主人の脳味噌をドナーの体に移植したんです。」
「すると、この人が私の主人になるんでしょうか。」
「そうですね。はじめてのことなのでよくわかりませんが、この人の目が覚めたら、誰なのか聞いてみたらどうですか。」

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ユイブツ君

あるところに双子の兄弟がおりました。名前をユイブツ、ユイシンといいました。ふたりの顔はそっくりで、とても仲のよい兄弟でした。性格はといいますと、これがまたそっくり。実はふたりとも、ものすごいめんどくさがり屋だったのです。
「ユイブツ君、ごはん食べるのめんどくさいね。」
「めんどくさいね。一日3回もだもんね。」
「ウンチするのもめんどくさいね、ユイシン君。」
「うん、くさい、くさい。」
「おふろもやだね〜」
「やだね〜。カラダなんかよごれなければいいのにね。」

ふたりは幼稚園に通っていましたが、晴れた日でも、めんどくさいので外で遊ぶのは嫌いでした。動くのもめんどくさいのです。ふたりが部屋の中で仲良く絵本を読んでいる時、先生が言いました。
「ユイブツ君、ユイシン君、いいお天気なんだから、外で遊びなさい。」
ふたりは顔を見合わせて困った顔をしましたが、しぶしぶ外に出ていきました。あとで先生が外を見ると、ふたりはお日さまの下で仲良く絵本を読んでいました。

パパとママは、こんなふたりをとてもかわいがりました。ふたりはめんどくさがり屋だったけれども、やることはやる子たちだったので、学校に行ってもちゃんと勉強したし、お友だちもたくさんできました。

何から何までよく似ていたふたりでしたが、実はひとつだけ違うところがありました。それはユイブツ君が人間は死んだら何にもなくなる、と思っていたのに対し、ユイシン君は死んだらあの世に行って暮らすと思っていたことです。
「ユイブツ君、人間は死んだらあの世に行くと思わない?」
「なーに言ってんの、ユイシン君。あの世なんてあーるわけないじゃーん。死んだら何にもなくなっちゃうんだよ。」
「そうかなあ。僕は、あの世はあると思うんだけどなあ。」

やがてふたりは大人になりました。ふたりとも会社に入って仕事をするようになりました。小さい頃からパパに聞いていた通り、学校の勉強も大変でしたが、やっぱり仕事は大変でした。ふたりとも真面目に一生懸命仕事はしましたが、いつも「めんどくさいなあ」と思っていました。

そうこうしているうちに月日がたち、なんと、あんなにふたりをかわいがってくれたパパとママが死んでしまいました。ある時、ユイブツ君がユイシン君に言いました。
「ねえ、ユイシン君。パパとママも死んじゃったし、僕、もう仕事するのめんどくさい。どうせ僕もそのうち死ぬんだから、今のうちに死んじゃおうかな」
「ええっ、ユイブツ君、だめだよ、死んじゃあ。」
「だって生きてるの、めんどくさいんだもん。」
「でも、死ぬのこわくないの?」
「うーん、そうだなあ。やっぱり死ぬのはこわいなあ。」
「でしょ、やめときなよ」
ユイブツ君は暫く考えていましたが、やがて思いついたように言いました。
「そうだ、僕さ、脳味噌センターに入るよ。あそこならカラダがなくなるから、生きてるのめんどくさくないじゃーん。死ぬこともないし。」

脳味噌センターというのは、脳味噌だけを管理しているところです。生きている人間を脳味噌だけにして生理食塩水の入ったシリンダーに入れ、博士が管理しているのでした。そこに入るほとんどの人はユイブツ君のようなめんどくさがり屋ではなく、人間は死んだら消えてなくなると思っている人たちが、体に悪いところができた時、死ぬよりはいいと思って入っているのでした。
「やめときなよ、ユイブツ君。死んだらあの世に行けるかもしれないんだから」
「ユイシン君、まーだそんなこと言ってんの?あの世なんてあーるわけないじゃーん」
ユイブツ君の意志は固く、とうとう脳味噌だけになる日が来ました。
「ユイブツ君、元気でね。時々会いに来るよ。」
「うん、待ってるね。ああ、めんどくさいことから解放される。うれし〜い!」
ユイブツ君の脳味噌はシリンダーの中に入れられました。

「ここはどこだろう。暗いな。あ、そうか、僕は脳味噌だけになったんだった。目がないんだもんな、暗いはずだよな。……すごく静かだな。あ、そうか、耳もないんだもんな。うるさくなくていいや。」
ユイブツ君は脳味噌だけで考えていました。寝ているのか起きているのか自分でもよくわかりませんでしたが、カラダがないことはめんどくさくなくて結構気に入っていました。どのくらい時間がたっているのかも全然わかりませんでしたが、ただただ、ずっと考えていました。
「そういえばユイシン君、会いに来るとか言ってたけど、ちっとも来てくれないなあ。どうしちゃったんだろう。」

そんなある時、声が聞こえました。
「ユイブツ君、ユイブツ君。」
「僕を呼ぶのは誰?…あ、その声はユイシン君!とうとう来てくれたんだね。」
「僕はよく来てたんだよ。知らなかった?」
「そうか、来てくれてても、僕にはわからなかったんだ。見えないし、聞こえないからね。…でも…今日はどうして僕と話せるの?」
「僕はね、もう年とって死んじゃったんだよ。だからユイブツ君の心に呼びかけているの」
「ええっ、ユイシン君死んじゃったのお?でもそれで何で生きてるの?」
「もうカラダは生きてはいないよ。僕は心だけになったんだ。」
「ええっ、心だけ?カラダがなくても生きてるのお?」
「そうだよ。僕は心だけの世界でちゃんと生きてるよ。こっちの世界はとても明るくて、いい音楽もいっぱい聞こえるんだ。」
「ええっ、心だけでそんなことがわかるの?いいなあ、こっちは真っ暗で、しーんとしてて何にも聞こえないよ。死んだらなんにもなくなるって嘘だったんだね。」
「だから僕はそう言ったじゃなーい。それにね、もっとびっくりすること教えてあげようか。パパとママも一緒なんだよ。」
「ええっ!いいなあ、パパとママもいるの?会いたいなあ。」
「でしょ、ユイブツ君もそんなとこにいないで早くこっちへおいでよ。」
「うんうん、行く行く。でもどうやって行けばいいんだろう。」
「そんな脳味噌から出ちゃえばいいんだよ。もういいですって博士に言って出してもらいなよ。」
「そうだね、そうだね。ユイシン君ってあったまいいなあ。」

「……ユイシン君、困った。」
「どうしたの?」
「僕、口もないんだった」

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ガイコツの国

ガイコツの国がありました。住んでる人はみーんなガイコツ。みんなカタカタ歩いていました。
「おはよう(カタカタ)」
「いい天気だね(カタカタ)」
みんなほとんどおんなじ顔をしていました。顔の半分から上に大きな穴がふたつ、まんなかへんに小さな穴が二つ空いています。頭とあごが別れていて、その両方が合わさるところには、歯が上下合わせて30本くらい並んでいました。体も大きい小さいは少しはありましたが、ほとんど同じ。いろんな形の骨が組み合わさって、同じような体をつくり、ぶらぶらしていました。
「調子はどうですか(カタカタ)」
「元気でやっていますよ(カタカタ)」
みんな、とても平和に、のんびり暮らしていました。

ある日、そこへいたずら好きの神様がやってきました。神様はガイコツたちを暫く見ていましたが、やがて言いました。
「なあんだ、こいつら。みんなおんなじような顔して、面白くないなあ。ようし、僕が肉をくっつけてやろう」
神様は一人のガイコツに肉をつけ始めました。ペタペタペタ、ペタペタペタ。
「わあい、こりゃ面白い。骨だけのガイコツより、よっぽどいいや。」
ペタペタペタ、ペタペタペタ。肉をつけられたガイコツは、はじめは驚いていましたが、そのうち自分の顔や体をパンパンたたいて喜び始めました。
「うわあ(パンパン)、楽しい!(パンパン)」
ガイコツは嬉しそうに、自分の体をパンパンたたいて踊りました。他のガイコツたちも集まってきました。そして肉のついたガイコツを見て驚き、喜び、自分たちも肉をつけてほしいと思いました。神様もとても喜びました。
「ははは、こりゃ、いいや。ようし、どんどん肉をつけちゃうぞ」
神様はガイコツたちに片っ端から肉をつけ始めました。ペタペタペタ、ペタペタペタ。神様はたくさんのガイコツに肉をつけました。
「ははは、ははは。こりゃ面白い。ようし、今度はいろんな顔や体を作ろう。」
神様はいろいろ工夫して、たくさん肉をつけたり、少しにしたり、いろんな顔や体を作りました。肉をつけられたガイコツたちは自分の体をたたいたり、人の体にさわったり、くっついてみたり、とても喜んで踊りました。全部のガイコツに肉をつけ終わった神様は言いました。
「ああ、面白かった。これだけいろいろできれば、みんな楽しく暮らせるだろう。」
神様は、満足して、喜んでいるガイコツたちを後に、他の面白いところを探しに去っていきました。

いたずら好きの神様はあちこちでいろんなことをして遊びました。どのくらい時間がたったでしょう。神様は、ふとガイコツたちのことを思いだしました。
「そういえば、僕が肉をつけてやったガイコツたち、どうしてるかな。ちょっと見に行ってみようか。」
神様は久しぶりにガイコツの国へやってきました。肉をつけたガイコツたちは相変わらずたくさんいました。神様は暫く様子を見ることにして、ガイコツたちが話すのを聞いてみました。
「ああ、君はなんて美しいんだ。僕は君といると幸せだよ。」
「まあ、うれしい。わたしもあなたといると、とても幸せよ。」
神様は嬉しくなりました。ガイコツが骨だけの時にはこんなセリフは聞いたことがありませんでした。肉をつけてやってよかったと思いました。
「僕は君がいなければ生きていけない。ずっと一緒にいてほしいんだ。」
「わたしもあなたと離れたくない。ずっとそばにいさせてね。」
二人はベッタリくっついて、とても幸せそうでした。いたずら好きの神様も、うっとりして見ていました。

その時です。耳をつんざくような声が聞こえました。
「あーーーなたーーーーーっ!」
二人のガイコツはびーっくりして飛び上がりました。神様も飛び上がりました。
「あ、あ、あなた、あたしというものがありながら!なーにやってんですかーーーーっ!」
「こ、こ、これにはわけが…」
「く、くやしーーーっ!理由なんて聞きたくありませーーーーーんっ!」
もう、大騒ぎ。三人のガイコツは入り乱れてパンパンたたくわ、ひっかくわ。泣くわ、わめくはめっちゃくちゃ。神様はあきれて逃げ出しました。

いたずら好きの神様はそれからあちこちのガイコツの様子を見てまわりましたが、みな似たようなものでした。幸せそうな二人も暫く見ているとけんかを始めたり、ひとりが近づいても相手にされなくて泣いたり、二人で一人を取り合ったり。なあんかどろどろしたへんな感情が渦巻いているだけで、みんな幸せそうではありませんでした。神様は考えました。
「せっかく肉をつけてやったのに、みんな楽しそうじゃないなあ。こんなのは失敗だ。もうやめよう。」
神様は一瞬のうちにガイコツたちの肉を取り去りました。言い合っていたガイコツも、とっくみあいしていたガイコツも、泣いていたガイコツも一瞬のうちに元の骨だけのガイコツに戻りました。

ガイコツの国にまた平和が戻りました。今日もみんな同じような顔をしてカタカタ歩いています。
「おはよう(カタカタ)」
「いい天気だね(カタカタ)」

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おかしな動物

「お母さん、僕ね、おもしろい星見つけたんだよ。うすーくガスのようなもので包まれていて、そのためか、その星にはいろんな生き物がいるの。ある時、二本足で歩く動物が生まれてさ、初めのうちは他の動物と変わらなかったんだけど、そのうち道具を作って、火を使いだしたの。体に何か付け始めたら毛も薄くなってね。少し知能があるみたいなんだよ。でも、その二本足が面白いのは仲間同士で殺し合うことなの。初めは食べるのかなと思ったんだけど、殺すだけなんだよね。不思議でしょう。二本足はいろんなものを作るから、結構頭いいのかなと思って見てたんだけど、いつまで経っても殺し合いをするのね。一度なんかすごい爆弾を作って自分たちの仲間や、せっかくつくった建物から何からみんな吹っ飛ばしちゃった。でっかい雲ができてたよ。びっくりした。そんなことがあってもまだ二本足は時々殺し合いをしてるんだ。おかしな動物だよね。」

「へえ、そうなの。小さい頃からよく望遠鏡で何か見てるなと思ってたけど、そんな星の観察をしていたのね。広い宇宙にはいろんな生き物がいるものね。さ、そんなことよりパーティの準備を始めましょう。今日はあなたの四百万歳の誕生日なんだから。」

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