口臭について


口 臭は、もともと誰にでも多少はあります。しかし、食事をしてそのまま歯をみがかないでいると、歯垢や食べカスが歯や歯茎に残り、それが温度(体温)や湿度(唾液)で腐って発酵し、あの嫌な臭いになってしまうのです。誰にでもある軽度の口臭は、朝の起きぬけや食後2〜3時間後に発生します。それは、よく歯をみがいていても起こるもので、他人にそれほど迷惑がかかるものではありません。うがいで簡単に消える程度の臭いです。

問題なのは、病気や不潔にしているために起こる病的な口臭です。その代表的なものに、虫歯や歯槽膿漏があります。大きな穴があいて、食べカスがつまった虫歯とか、歯槽膿漏のために歯肉が腫れて歯茎から膿が出ているものなどは、腐敗臭や卵が腐ったような嫌な臭いを出して当たり前です。この両方とも、食べたあとに歯をみがかないでいると残ってしまう歯茎の歯垢が直接的な原因になっています。

その他、口の中には義歯や金冠、ブリッジなどがあり、そこに歯垢がつくと猛烈な悪臭を発します。また、何よりも口の中で大きな場所を占め、大事な働きをしている舌にも苔状のものがつく、舌苔(ぜったい)という症状があり、これも歯垢と同じ悪臭を放つのです。

ここまでの説明で、口臭には生理的なものと病的なものがあることがおわかりいただけたと思いますが、特に気をつけなければいけないのは病的な口臭です。この病的口臭の原因には、歯科の2大疾患である虫歯と歯槽膿漏があり、これに義歯垢と舌苔が加わって、口臭の4大原因といわれています。しかし、口臭は治すことができるのです。歯科や口腔外科で診察を受けましょう。病的な口臭を発するようになるまでの経過を説明できるよう、診察前によく整理しておいて下さい。
治療は、上部消化管の消化障害や糖尿病、肝腎疾患などの検査をして異常がなければ、口臭のもととなる原因が口の中にあることを歯垢染色テストや口臭チェッカーで本人に確認させることから始まります。そのうえで、徹底的に歯垢がなくなるようなブラッシングを指導します。食べたら必ずブラッシングをして、それが癖になるほど続けられたら、歯垢はなくなり、歯肉も健康になって、口の中は見違えるほど清潔になります。同時に、舌苔も毎日タオルでこすり取って下さい。

口臭は、吐く息を自分で嗅いでみてもわからないので、他人から指摘されて初めて気づくことが多いのです。会話する距離が近い学生時代には、他人の口臭に気がつく機会が多いのと同時に、友達にいわれて自分の口臭を知ることも多いようです。思春期の傷つきやすい心は、そこでショックを受け、生徒によっては、登校拒否や対人恐怖に発展してしまうこともあります。このような状態が何度か重なると、口臭のとりこになり、口臭に悩み続けるようになってしまうのです。

潔好きでエチケットを大事にする人ほど、口臭に対する他人の反応を人一倍敏感に受け止める傾向にあります。このような人に対して、口臭自己臭症(自臭症)という病態名がつけられています。このタイプの人は、潔癖症であるために、本当は口臭を発していなくても、相手が何かの調子にちょっと顔をしかめただけで、すぐにそれを口臭のためと受け止めてしまいます。そういう場合には、心身医学的療法も必要になってくるでしょう。                   


東京医科大学教授・口腔外科・内田 安信(笑顔ヘルスアンサーから)

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