【 四十七の歌 】 
 
  「 八重むぐら しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり 」
    


          八重むぐら・・・・・やへ(え)むぐら
            しげれる宿の・・・・しげれるやどの
              さびしきに・・・・・・さびしきに
                人こそ見えね・・・・・ひとこそみえね
                 秋は来にけり・・・・・・あきはきにけり
  


          作者: 恵慶法師(えぎょうほうし)。
      
    平安時代中ごろの人。
    播磨国(兵庫県)の国分寺の僧。仏典の講師(こうじ)で、
    当時は有名な歌人だったらしい。すぐれた自然の歌をたくさん
    作っている。
     
 
     


   <歌の背景、意味>

   ・・・この歌の舞台は、あの河原左大臣(源融:14の歌の作者)が建てられた河原院です。
      松島湾の海岸風景を模して作った豪華な邸宅です。
      しかし源融の死後、幽霊や物の怪の奇怪な噂で荒れに荒れ、その後安法法師という坊さんが住んでいました。

   
  (恵慶) すいぶん荒れ果ててしまいましたなあ・・・。

  (安法法師)こんなさびしいところによくたずねて来てくれました。
        どうぞどうぞ。

  (恵慶) もう秋ですねえ。さびしさがつのります。


    荒れ果てて八重むぐらの生い茂る邸というだけでもさびしいのに、そのうえ秋が到来したために、
    いっそうさびしさが加わったという単純で平凡な歌です。
          


  「八重むぐら」・・・八重は、幾重にもの意。「むぐら」は、つる草。
  「しげれる宿」・・・しげれるは生い繁る。宿は家のことで旅館ではない。


   河原院は、「源氏物語」の「夕顔」の巻で、夕顔が物の怪におそわれて急死した舞台とされています。
   (文中では「なにがしの院」としてある)