【 三十七の歌 】

「 しらつゆに 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ
玉ぞ散りける 」
しらつゆに・・・・しらつゆに
風の吹きしく・・・かぜのふきしく
秋の野は・・・・・あきののは
つらぬきとめぬ・・・つらぬきとめぬ
玉ぞ散りける・・・・たまぞちりける
作者: 文屋朝康(ふんやのあさやす)
22の歌(吹くからに〜〜〜)の作者、文屋康秀の子。
くわしい生涯は不明。このしらつゆの歌で、歌人として
名を残す。
< 歌の意味 >
−−−ある秋の朝、朝康は庭の草むらの秋草をながめていました。
○ やあ!きれいだ。秋草に白い露がいっぱいおりている。
まるで水晶の玉のようだ。
○ あ、あ、風で玉が散る・・・。
まるで糸を通してつなぎとめていない水晶の玉が、きらめきながらこぼれ散っているようだ。
・・・そうだ!この様子を歌に詠んでみよう。
「しらつゆに −−−−−−」
・「しらつゆ」・・・秋の草葉の上の露が白く光るのを強調。
・「ふきしく」・・・しきりに吹く。
・「つらぬきとめぬ玉」・・ひもを通してつなぎ止めていない玉。
清らかな歌です。
秋風によって飛び散る露を、玉が散り乱れるさまに「見立て」た趣向が印象的です。
この、露を玉に見立てる趣向は、他にも多く見られます。
例えば、同じ朝康の歌で
「 秋の野に おく白露は 玉なれや
つらぬきかくる 蜘蛛の糸すぢ 」
(さきの歌が動きのある露に対し、これは静止した露を描いています)
ほかにも
「 秋の野の 草は糸とも 見えなくに 置く白露を
玉とぬくらむ 」(紀貫之)
「 蓮葉(はちすば)の にごりにしまぬ 心もて なにかは露を
玉とあざむく 」(僧正遍昭)
「 あさみどり 糸よりかけて 白露を 玉にも置ける
春の柳か 」 (僧正遍昭)