【 三十二の歌 】
「 山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ
紅葉なりけり 」
山川に・・・・・・・やまがは(わ)に
風のかけたる・・・・かぜのかけたる
しがらみは・・・・・しがらみは
流れもあへぬ・・・・・ながれもあへ(え)ぬ
紅葉なりけり・・・・・もみぢ(じ)なりけり
作者: 春道列樹(はるみちのつらき)
あまり名のある歌人ではなく、古今集などに5首ほど残って いるだけですが、その一首が百人一首に入れられたため、
その名を残した幸運の人。
くわしい生涯も不明。
< 歌の意味 >
・・・ある年の秋、列樹は比叡山のふもとの近江にぬける山道を通っていました。
○ 見ろ!
谷川に紅葉がいっぱいたまっている。
紅葉のしがらみだ。
●
いったい誰がこんな美しいしがらみを・・・。
そこで、列樹は、この歌をつくりました。
・「山川」・・・山中の谷川の意味で、「やまがわ」と読む。
やまかわ、と読むと山と川の意味になる。
・「流れもあへぬ」・・・流れきれずにいる。
・「しがらみ」・・・漢字で「柵」と書きます。
田に水の流れを引くときとか、土木工事の時に水の流れをせきとめるために、杭を打って横に木や竹を結びつけたものです。
風がその柵をかけたとする、あたかも人間の行為のように述べた擬人法による表現です。
水しぶきの白さに映えて折り重なる紅葉の紅や黄が目に鮮やかに伝わって、ゆく秋を惜しむ心がにじんでいます。
この歌は、なぞなぞの形をとっているようにも見えます。
上の句が「問い」、下の句が「こたえ」です。
・山あいを流れる谷川に、風がかけたしがらみとはなんでしょう。
・それは、流れきらずにたまっている、紅葉のことです・・・。