【 三十一の歌 】

「 朝ぼらけ 有明の月と みるまでに 吉野の里に ふれる白雪 」
朝ぼらけ・・・・・あさぼらけ
有明の月と・・・・ありあけのつきと
みるまでに・・・・みるまでに
吉野の里に・・・・・よしののさとに
ふれる白雪・・・・・ふれるしらゆき
作者: 坂上是則(さかのうえのこれのり)
平安時代初期の人。坂上田村麻呂の四代目の孫にあたるが
地方長官どまりで終わる。
歌人としては三十六歌仙のひとりにくわえられています。
< 歌の意味 >
・・・ある年の冬、是則は地方長官として大和の国(吉野)へ出掛けました。
ひと晩泊まって、明け方目をさましてみると・・・
○
ばかに明るいようだが・・・もう夜があけたのだろうか。
ーーー”ガラッ”ーーー
おお、有明けの月か、・・・
いや、ちがう・・・雪だ!
ああ、ここは吉野の里なのだ・・・・。
・「朝ぼらけ」・・・夜がほのぼのと明けはじめる時。
・「みるまでに」・・・思われるほどに
・「吉野」・・・大和国(奈良県)にある地名
・「ふれる白雪」・・・降っている白雪であることよ。
雪の名所の吉野の里での朝の眺望。
朝の淡い清らかな美をうたっています。
「吉野」といえば、「桜」しか浮かびませんが、
当時、吉野の里といえば、春は桜、冬は雪の名所として、理想郷と
されていたようです。
この歌は、「 〜〜 ふれる白雪
」と、体言止の形をとっています。
「体言止」とは、和歌の表現技法のひとつで、末尾を体言(名詞)で言い止める技法です。
文の述語を欠いた感じで、それがかえって余韻を感じさせる技法です。
これまでの歌では、2の歌「〜天の香具山」や、10の「〜逢坂の関」
11の「〜海人の釣舟」、29の「〜白菊の花」があります。